さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.832016/10/26UP
フェザン店・長江おすすめ!
謎の独立国家
ソマリランド
そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア 高野秀行/本の雑誌社アフリカ東北部のソマリア共和国は、「崩壊国家」と呼ばれている。内戦により無政府状態が続き、国内は無数の武装勢力に埋め尽くされ戦国時代の様相を呈しているという。しかしその一角に、「ソマリランド」という奇跡のような地域がある。無政府状態の中で平和な独立国家を長年保っているだけでも凄いのだが、独自に内戦を終結させ、複数政党制による民主化に移行し、普通選挙により大統領選挙を行った民主主義国家だというのだ。
ホントにそんな場所があるのだろうか?
誰もやったことがないことに惹かれる著者は、ほとんどその存在が知られていない「ソマリランド」に乗り込むことに決める。
そこで高野秀行は、ソマリア文化を決定づける「氏族」という概念を、恐らく世界中の誰よりも完璧に理解し、その上でソマリアの謎に迫っていく。高野秀行らしさが爆発しながら、学術的にも相当価値が高いだろうと思われる、驚異のノンフィクションである。 -
no.822016/10/26UP
フェザン店・長江おすすめ!
理性の限界
不可能性・不確定性・不完全性 高橋昌一郎/講談社現代新書本書は、『理性』というキーワードで、政治・経済・数学・物理・哲学・宗教などありとあらゆる分野について書かれた作品だ。メインで描かれるのが、「アロウの不可能性定理」「ハイゼンベルグの不確定性定理」「ゲーデルの不完全性定理」の三つで、これだけ聞くと、それだけで拒絶したくなる、という人もいるだろう。
しかし本書は、一風変わった形式が取られた作品だ。それが本書を、圧倒的に読みやすくしている。
本書は、『論理学者』『科学主義者』『数理経済学者』『会社員』『学生A』と言ったような様々な人々が集う架空のシンポジウムという設定で、会話だけで構成されている。専門的な話も会話なら読みやすく、また『会社員』や『学生A』といった素人が素朴な疑問を出してくれるので、難しい話のはずなのにすいすい読めてしまう。書店で手に取ってどこでもいいから数ページ読んでもらえば、本書の魅力が伝わるはずだ。 -
no.812016/10/26UP
本店・総務部Aおすすめ!
人ノ町 詠坂雄二/新潮社
時代背景も場所も何の説明もなく始まるが、かつての繁栄が滅びた後の世界だという事は判る。主人公の旅人、名前は語られない。「風ノ町」「犬ノ町」「日ノ町」「石ノ町」「王ノ町」の5編から成り、全体で「人ノ町」という物語になっている。そこに描かれているのはシンプルな自然の摂理を背景に、いつの時代も変わらない人間そのものの姿だと思う。独特な雰囲気を漂わせながら語られるストーリーは、時に哲学的で思想的だ。人間の本質的な「業」に起因する進化も滅びも再生も、もしかするともっと大きな自然の、或いは宇宙の過程の一部分なのかもしれない。漫画『火の鳥』や映画『博士の異常な愛情』をちょっと思い出した。
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no.802016/10/26UP
フェザン店・松本おすすめ!
最後の秘境
東京藝大 二宮敦人/新潮社21世紀―。
世の秘境は世界の隅々まで探検しつくされたと言われている。しかし!
最後の秘境は東京・上野に存在していたっ!!本書の著者・二宮敦人は「!」という人をくったようなタイトルでデビューした小説家だ。
だがある時、身近に輪をかけて強烈なキャラクターがいることに彼は気づく。
……奥さんだ。NINOMIYA’s wifeは、なんとあの「最後の秘境」と巷間に流布されるTOKYO GEI DAIの住人だったのである!妻を人格にしてしまった秘境へ、旦那である二宮敦人は潜入を試みる。そこには秘境と呼ぶには生ぬるい、想像を絶する魔窟のような世界が広がっていた!
※本書はノンフィクションです。
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no.792016/10/18UP
フェザン店・長江おすすめ!
紋切型社会
言葉で固まる現代を解きほぐす 武田砂鉄/朝日出版社『本書全体に通底するテーマでもあるけれど、どこまでも自由であるべき言葉を紋切型で拘束する害毒は、正しい・正しくないを越えて駆除すべきだと思っている。つまり、あらゆる“こうでなければならない”から、言葉は颯爽と逃れていかなければならないと思う』
本書では、「全米が泣いた」「なるほど。わかりやすいです」「うちの会社としては」「誤解を恐れずに言えば」「逆にこちらが励まされました」など、ある場面で必ず登場する「紋切型の言葉」を様々に取り上げながら、その背後に見える人間性、社会構造、時代背景などを鋭くあぶり出し、批評していく。舌鋒は恐ろしいほど鋭く、頭を使わずに放たれた言説や、世の中をコントロールするために放たれた頭の良い人たちによる言説を、マグロの解体ショーでも見るかのように著者の冴え渡った言葉で解体していく。何気ない言葉から、ここまで社会を切り取ることが出来るのかと、衝撃を受けた一冊だ。 -
no.782016/10/18UP
フェザン店・長江おすすめ!
新幹線をつくった男伝説のエンジニア・島秀雄物語 高橋団吉/PHP文庫
戦勝国においてさえ「高速鉄道列車」という発想がない、そんな敗戦直後という時代に、『日本の車両技術は、島と松平によって、鉄道先進各国に大きく水をあけたのである』と著者が評す程とんでもない化け物のようなシステムだった新幹線を、その卓越した先見性と完璧なまでの合理性によって創り上げた伝説的なエンジニア・島秀雄についての評伝だ。
『もし島秀雄が、国鉄にカムバックしなかったら…。今日の日本の鉄道は、大きく様変わりしていたにちがいない。』
島秀雄は、そう言わしめるほどの圧倒的な存在だった。
本書では、技術者として島秀雄がどんな歩みを辿ったのか、国鉄がどういう歩みの中で新幹線という途方もない計画を進行させたのか、島秀雄はどうして国鉄を去り、そしてまた戻ってきたのか、新幹線に至る技術的な歴史はどういう流れなのか、というような、島秀雄という男を中心軸に据えて、新幹線開発に至るまでの流れを追っていく。(平成28年10月現在出版社品切れ中) -
no.772016/10/18UP
本店・総務部Aおすすめ!
九十歳。何がめでたい 佐藤愛子/小学館
年齢がどうであれエッセイとして素晴らしく、ユーモアに溢れていて面白い。世の中に蔓延する身勝手な「正論」の応酬に、著者ならではの視点からツッコミを入れ、そのツッコミが鮮やかに短く本質を衝いているので痛快だ。時に乱暴な物言いだったりするが、歯切れのいい内容に大きく頷けるし、丁寧な言葉で下品な正論を吐く人間よりもよほど品の良さを感じさせる。長い時代を生き抜いてきた人生観から出る、問題を俯瞰で見るような答えには理屈ではない重みと説得力がある。今の時代に合おうが合うまいが、現代に対する著者の素朴な疑問にじっくりと耳を傾けておいて損はない。紹介するまでもなく売れている本だが、より広く読まれてもいいと思うので敢えておすすめする。
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no.762016/10/11UP
フェザン店・長江おすすめ!
ジェノサイド
(上下巻) 高野和明/角川文庫イラク戦争を決断したアメリカの大統領であるバーンズの元に届いた『人類絶滅の可能性。アフリカに新種の生物出現』という報告。治療薬の存在しない難病に冒された息子を持つイエーガーが働く民間軍事会社から依頼された、詳細を教えられないままのミッション。創薬化学の研究室に所属する、大学院生の古賀研人が亡き父から受け取った謎のメール。アフリカを舞台に巻き起こる人類が想像も出来ないような現実と、不可能としか思えないような壮絶な脱出劇が見事に融合し、エンタメとしてももちろん面白い。しかしそれだけでなく、日常の中で考えも及ばないような思考をもたらしてくれる哲学的な内容を含んでいるという点でも、実に魅力的な小説だ。
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no.752016/10/11UP
フェザン店・長江おすすめ!
ナガサキ
消えたもう一つの
「原爆ドーム」 高瀬毅/文春文庫長崎には、原爆の歴史を色濃く残すような遺構が存在しない。
実は、原爆によって半壊し悲惨な姿のまま廃墟となったキリスト教の教会である浦上天主堂というのが存在したのだが、戦後取り壊されてしまった。著者は長崎出身で、母から繰り返し被爆体験を聞いたが、浦上天主堂については知らなかった。長崎に生まれ育った者でも浦上天主堂を知っている者は少ないという。
何故か?
本書はその疑問を追うノンフィクションである。
当時長崎大司教区のトップである大司教であった山口大司教。「長崎の鐘」が大ベストセラーとなり、「浦上の聖者」と呼ばれた永井隆。当時の長崎市長であった田川市長。主にこの三名と、隠れキリシタンの聖地であった浦上という土地、そしてアメリカの遠大な世界戦略が絡まり合い巻き起こる、浦上天主堂の取り壊しの真実がここにある。 -
no.742016/10/4UP
フェザン店・長江おすすめ!
災害ユートピアなぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか レベッカ・ソルニット
本書は、「災害が起こった時、人々はどう行動するか」について、過去の様々な研究結果や、著者自身の手によるインタビューなどから、多角的に検証をしている作品だ。本書はちょっと難しく、すべてを理解することは出来なかったが、本書から僕は、災害がもたらす3つの要素を抜き出してみようと思う。それが
◯ 普通の人々の間ではパニックは起きない
◯ エリートたちはパニックに陥る
◯ 災害は様々な「革命」をもたらす可能性を持つという三つだ。
災害時、普通の人々の間では「協力的な行動」が圧倒的に多くなる。一方で、「普通の人々が混乱するから」という理由でエリートがパニック的な行動を取る。また、奪われた人命と釣り合うかどうかはともかく、災害は災害によってしか果たせないようなある種の「革命」をもたらすことがある。他にも様々なことが描かれるが、本書は「災害」というものが持つイメージを一変させる一冊である。