さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.283
    2018/10/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    闇市 マイク・モラスキー編/新潮文庫

    私には経験がないので想像するしかないが、戦中から戦後の価値観が大きく変わる混乱の中、違法ながら生きるために売り、生きるために買う人の群像劇。その闇市に関する当時の短編小説を通じて闇市とは何だったのかを考察する。太宰治、耕治人、鄭承博、平林たい子、永井荷風、坂口安吾、野坂昭如、織田作之助、梅崎春生、石川淳、中里恒子の短編小説11作が収録されている。
    全く関係ないかもしれないが、ボロくて小さな飲み屋での妙に旨いものとか“どぶろく”などを出された時の、ちょっとヤバいかもという何とも言えない魅力。あるいは祭りの露店で鉄砲や怪しげな型抜き、生き物の販売などのヤバいドキドキ感やお好み焼きなどの味わいには、闇市に近い感覚があるのかもしれない。これがファミレス風の安心安全な場所ならその魅力や旨さは半減以下である。この感覚は外国人にもあるのだろうか。
    さらに関係ないが、山に登る時、もしかしたら死ぬかもしれないという危険が全くない安心安全な観光地ならば、登山の魅力は半減以下だろう。

  • no.282
    2018/10/16UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    でんでら国 平谷美樹/小学館

    「どう死ぬか」というのは、誰にとっても関心のある事柄だろう。特に、平均寿命が伸び、しかしそれに比例するようにして老後の時間の使い方やお金に対する不安が増大している現代においてはなおさらだろう。
    「どう死ぬか」の一つの答えとして、本書は非常に面白く読める一冊だ。もちろん、エンタメ小説として読んでも十分に面白いのだが、「どう死ぬか」が「どう生きるか」と直結する物語の設定と展開は、幕末を舞台にした物語ではあるが、現代にも通じる何かを感じ取れる物語として受け取ることが出来るだろう。
    陸奥国八戸藩と南部藩に挟まれた大平村には姥捨てという仕組みがあった。60歳を越えた者は自ら山に入らなければならないのだが、実はその山奥には「でんでら国」という、60歳以上の者しかいない地があり、そこで税金を収める必要のない米などを作って生活をしている。
    一方、大平村には穏田(税金逃れをしている田んぼ)があるのではないか、と睨んだ役人が大平村へとやってくる。「でんでら国」の存在を隠したい大平村の面々と、税金を取り立てたい役人の騙し合いのバトルを楽しんで欲しい。

  • no.281
    2018/10/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    なんてやつだ 野口卓/集英社文庫

    いやあ、なんと味わい深い時代小説だろう。「軍鶏侍」を読んだ時もそう思ったが、オチがどうのとは関係なく1ページ1ページがいとおしい。本を読んでいると残りの分量が目に見えてわかるので、終わりが近づくにつれ残念な気さえする。もっとこの物語に浸っていたい、そんな風情のある時代小説である。
    「よろず相談屋繁盛記」との副題が付いているが全く繁盛はしておらず、まともに相談すらされてもいない。にもかかわらず若い主人公と話すうちに、悩みは自らの中で解決していくのである。問題解決の糸口は他人の中にではなく自らの中にしか有り得ない、図らずもそんな結果にさせる物語に人生の機微を感じる。
    人の心の不思議さや深遠さ、人情などを端的に表現するには、いたずらに複雑化した現代よりも時代小説というジャンルが最も適しているのだろう。著者の本は、まるで名作落語を聴いているかのように、江戸の物語へと心をがっさり持って行かれる。

  • no.280
    2018/10/8UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    コルトM1851残月 月村了衛/文春文庫

    江戸時代を舞台に、「コルトM1851」という銃を登場させる―これが本書の肝となる。江戸時代に銃というのはちょっと想像しにくいが、さすが月村了衛、あり得そうな設定をうまく作り上げる。
    刀と銃では、銃の殺傷能力が高すぎて勝負にならないのではないか、と思うかもしれない。しかし、そうではない。当時の銃は、6発の弾を込めるのに、訓練を積んだ主人公であっても3分半掛かるというような代物だった。主人公は、腕っ節自体は強くはない。拳銃がなければ、戦いの場に出てこられるような男ではない。殺傷能力は刀と比べて圧倒的だが装弾のための時間がネックになる、という設定が、この物語を実に絶妙なバランスで展開させる要素となっている。
    主人公の郎次は、江戸の暗黒街で「残月の郎次」と呼ばれている極悪人だ。共感できる要素が薄いと言わざるを得ない主人公ではあるが、郎次が物語の途中ですべてを失う展開になってから状況が少しずつ変わっていく。そうしなれば生きてはこられなかった悲哀を背負い込んだ男の、闘う理由が変化してからの怒涛の物語に圧倒されてほしい。

  • no.279
    2018/10/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人工知能に哲学を教えたら 岡本裕一朗/SBクリエイティブ

    人工知能について考える時、最終的に人間とは何なのかを考える事になる。今まで特別に意識した事のなかった、人間性とは具体的に何を指すのか。人工知能の登場により誰もが改めて問われる、正義とは、芸術とは、宗教とは、幸福とは何なのか。
    デジタルテクノロジーが、その良し悪しはともかく生活の中で、なくてはならない存在となっている以上、人間はすでにデジタルに支配されていると言えなくもない。人工知能は今後ますます、想像を超えるスピードで進化し、人間が使っているのか使われているのか判らなくなってくるだろう。しかし、どこまで進化したとしても最後まで残る人間的なものは必ず存在すると信じたい。
    本書でも紹介されている映画『Her世界でひとつの彼女』は、人工知能の進化に対する示唆に富んでいて面白かった。ハスキーボイスなのが魅力的でズルい。

  • no.278
    2018/10/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか 池谷孝司/幻冬舎

    本書を読んで、一番衝撃的だった事実がこれだ。
    『教師の仕事は好きでした。でも、根本的なところで間違っていました。自分が権力を持っているなんて考えもしませんでした』
    問題行動を起こす教師の多くが、「自分に権力などない」と思っていた、と言うのだ。
    これには本当に驚かされた。教師が生徒に対して権力を持っているということなど、当然だろう。その認識を持てない、という時点で、教師としては失格ではないだろうか。しかし、その認識を持っていないという前提に立てば、問題行動を起こす教師の行動原理の一部は説明がつく。なるほど、彼らの理屈ではそうなっているのか、と感じさせられる。
    本書では、学校におけるセクハラの問題を取材し続ける著者が、その現状や解決策、問題行動を起こす教師への聞き取りなどをまとめた作品だ。学生が自分の身を守るために、親が子供を守るために本書は読んでおくべきだろう。そして何よりも、自分が問題教師にならないように、そして問題教師を止める教師でいるために、教師として教鞭をとっている人たちに、是非本書を読んでほしいと思う。

  • no.277
    2018/9/24UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    海について、あるいは巨大サメを追った一年 モルテン・ストロークスネス著・岩崎晋也訳/化学同人

    「白鯨」「老人と海」あるいは「グラン・ブルー」「ライフ・オブ・パイ」など、海はこれまでも様々な小説や映画の舞台となってきた。
    本書は巨大サメを釣ろうとするノンフィクションを軸に、話はあらゆる方向へと乱反射する。地球について、生命について、宇宙について、人間について、海について。それらの思索は謎の巨大サメの話とどこかリンクして、不思議に味わい深い読み物となっている。環境問題に触れる部分も文章は非常に乾いていて、俯瞰した事実を淡々と語る様子がいい。野生の動物番組などを見るともなしに見ていると、いつの間にか釘付けになっている事が多くなった。若い時には何とも思わなかった野生動物の生き方に感じ入るものがある。
    それにしても、海。その生命の源は、身勝手な人間の行動に何を思う。いや、おそらく何とも思ってはいないだろう。だが、気が付いた時にはもう、私たちはただ自然の法則に従うまでである。

  • no.276
    2018/9/24UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    さくらんぼ同盟 松宮宏/講談社文庫

    松宮宏の奇想は留まるところを知らない。
    本書は、要約するとこうだ。
    「腋から謎の物質が摘出される奇病が板橋で頻発するが、その謎の物質が超絶美味で、“さくらんぼ”と名付けられ、日本中を大混乱に陥れる」
    相変わらず松宮宏の作品は、要約すると「そんなんで物語として成立するのか?」と思わされるのだが、これがメチャクチャ面白いのだ。“さくらんぼ”が摘出される奇病、という発想だけで物語を成立させようとするのではなく、そこに輪をかけてぶっ飛んだ状況や人物をこれでもかと重ね合わせて、誰も予想出来ない展開を生み出していく。
    設定や人物造形には「あり得ない!」と感じてしまうが、しかし松宮宏はそれらを妙なリアリティで描き出すことで、説得力を醸し出す。だから、荒唐無稽なのに、どこか本当に起こった出来事であるかのように読まされてしまうのだ。
    不思議な作品である。

  • no.275
    2018/9/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ブレードランナーの未来世紀 町山智浩/新潮文庫

    いつも飲み屋で会う映画鑑賞上の師匠N氏に『ファントム・スレッド』を解説する著者の音声データを聴かせてもらったのをきっかけに本書を読んでみた。『ビデオドローム』『グレムリン』『ターミネーター』『未来世紀ブラジル』『プラトーン』『ブルーベルベット』『ロボコップ』そして、『ブレードランナー』が紹介されている。実際に監督へのインタビュー取材もして書いているのだか、語弊を恐れずに言ってしまえば、どの監督も完全に頭のイカレた変人であり、且つ全くもって天才だ。そしてそれを分析しようとする著者もまた同様である。
    興行的には成功しないと判っていながら、自身のこだわりと生き方全てをフィルムに焼き付ける。これを娯楽作品ではなく芸術と呼ぶのだろう。カルト・ムービーと言ってしまえばそれまでだが30年以上経って今なお語り継がれ、ファンを惹きつける映画とはまさに、芸術作品以外の何物でもない。『ブレードランナー』以降、新しい未来都市のイメージは生まれていないと書かれている。決して言い過ぎではないだろう。

  • no.274
    2018/9/17UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    くすぶり亦蔵 松宮宏/講談社文庫

    本書は、「秘剣こいわらい」シリーズではあるが、本書だけ読んでもまったく問題はない。
    しかし松宮宏は、どこからこんな物語を生み出すのか、まったく理解が出来ない。
    本書は、実にシンプルな物語だ。要約すると、「路上喫煙が禁止されているマンハッタンでタバコを吸い、何度も逮捕される無口な日本人」を描く小説、となるだろう。それで小説として成立するのか?と思うかもしれないが、これがまた滅法面白いのだ。
    主人公の樺沢亦蔵は、主人公なのに、作中でほぼ喋らない。彼がすることは、「マンハッタンでタバコを吸うこと」だけであり、それによってただ逮捕されるだけなのである。しかし、彼のその行動が、想像もしていなかった様々な事態を引き起こすことになる。その騒動が実に現代的で、だからこそこの荒唐無稽な物語にリアリティを感じられる人も多いだろうと思う。
    あり得ない奇想を物語に仕立て上げ、一気に読ませる作品を生み出す手腕は、ちょっと尋常ではない。