さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.462
    2021/6/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    われはロボット 決定版 アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫

    1950年出版当時は相当ぶっ飛んだ内容だっただろう。ほんの20年前でもまだ荒唐無稽な話だったかもしれない。だが今改めて読むと、かなりのリアリティをもって胸に迫る。あらゆる古典の名作と呼ばれるものは、やはり本質的なものを問いかけているため、投げられた光が時代によって古くならずにむしろ光が強くなる。
    有名な「ロボット工学の三原則」を冒頭に記した本書は、一編一編が様々な角度からの哲学的な思考実験とも言える短編集だ。サイエンスフィクションというジャンルの小説や映画、それだけではなく現在実用化されつつあるAIまでも含め、遡れば全ては本書を土台にしていると言っても決して過言ではないだろう。
    人工知能を突き詰めれば、人間性とは何かを考える事とイコールになる。科学的な合理性と哲学的な問い。人は大いなる矛盾や葛藤を抱え込んだ自己と、改めて向き合わされる事になる。古くて新しいテーマの源流がここにある。

  • no.461
    2021/6/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ゲンロン戦記 東浩紀/中公新書ラクレ

    泳ぎ方を習得するには、100回の講義よりも1回水に入った方が早くて情報量も多い。というか、体験と理論は両輪なのだろう。両方あってはじめて生きたものになる。
    本書は哲学者で批評家である著者が会社を設立して10年間の軌跡をまとめた本だ。特に失敗談には、なんとなく分かるなあという部分が多い。ネットで有名になった著者だが、経営という非常にリアルで現実的な問題と向き合う事で、その理論にも説得力や厚みが増しているのだと思う。失敗を赤裸々に語れるというのも、知のプラットフォームを目指す著者ならではの懐の深さなのだろう。決して同質なものだけを集めるのではなく、その主張にバランス感覚の良さを感じさせる。そのあたりの感覚は、最近文庫化した『ゆるく考える』の最後、「ゲンロンと祖父」を読むと、妙に納得したりする。

  • no.460
    2021/5/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ランチ酒 原田ひ香/祥伝社文庫

    本書は美味そうな料理と酒とビターな話が絶妙にマッチしたショートストーリーだ。ほろ苦さと味わい深さはどうしてこんなに相性がいいのだろう。お互いを引き立てる。
    先日、ガイ・リッチー監督の『ジェントルメン』を観に行った。大人向けのエンターテイメントで、非常に面白い映画だったのだが、土曜日なのに劇場内は閑散としていた。少なからずコロナの影響もあるのだろう、盛岡でもあちこちでウワサが耳に入り、人通りもまばらだ。それでも、と敢えて言いたい。人の事を考えない奔放さではなく、自粛警察のような狭量さでもなく、今こそ大人の分別を発揮させながらリスクを冷静に判断し、自らの意志においてお気に入りの場所にはなるべく行くようにするべきだと思う。
    特に飲食店などは一度無くなったらもう二度と同じ味に出会う事はない。本書に出てくるような場所が身近にあるという幸運は、決して当たり前のことなどではないのだから。

  • no.459
    2021/5/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    鍬ヶ崎心中 平谷美樹/小学館時代小説文庫

    今年は宮古盛岡横断道路が全線開通し、時間的にも心理的にも宮古と盛岡の距離は近くなったように感じられる。本書はそんな宮古を舞台にした幕末から明治にかけての「宮古湾海戦」を、時代に翻弄される1組の男女の目線で描いた、岩手出身の著者による傑作時代小説だ。
    物語は官軍と旧幕府軍の戦いと、主人公2人の情愛を軸に進んでいく。だた、個人的にはその周囲の人々、特に宮古の漁師や女郎屋など市井の人々の義理人情が、最も深く心に沁みた。盛岡、宮古市民としてはぜひとも読んでおきたい一冊である。
    宮古といえば「かんの書店」。昨年さわや書店はかんの書店を子会社化して経営を引き継がせていただいた。長く宮古で培われてきたその名に恥じぬよう、これからも宮古の文化を担う一助として、地域に愛され続ける書店をスタッフ一同と共に目指したい。
    かんの書店×さわや書店。今まで同様これからも変わらぬご愛顧の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

  • no.458
    2021/5/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    天使エスメラルダ ドン・デリーロ/新潮社

    決して面白いわけではないのに観れば観るほど味わい深く、何度観ても何故か飽きない、そんな映画がある。『インヒアレント・ヴァイス』『裏切りのサーカス』『ノーカントリー』『めぐりあう時間たち』『スモーク』『ブレードランナー』など。これらに共通してひとつ言える事は、監督や俳優もさることながら、原作者の文学的な世界観が素晴らしいという点だろう。
    自分にとってそんな映画のひとつに『コズモポリス』がある。これもよく分らない映画だが、たまに無性に観たくなる。監督デイヴィッド・クローネンバーグ、原作ドン・デリーロ。心に残る作品に出合った時、監督や脚本、原作を追ってみると必ず何かしらの発見がある。本書は『コズモポリス』から原作者を追って読んでみた一冊だ。こちらも文学的意図が深くあるのは感じるものの、最初よく分らない。それでいて妙に心に残り、いつでも再読、深読みに値する本だと思う。名作とはそういうものだと思う。

    ご注文はオンライン書店HonyaClubが便利です。サイトで注文、受け取りをさわや書店本店・フェザン店・ORIORI店・イオンタウン釜石店・ラビナ店・野辺地店から受け取り、お支払いができます。書影をクリックしHonyaClubのサイトから会員登録のうえご利用ください。

  • no.457
    2021/5/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    月と六ペンス ウィリアム・サマセット・モーム/新潮文庫

    名作文学には時代の風潮に流されない力強さがある。
    本書は画家のポール・ゴーギャンをモチーフにした小説。天才画家と周囲の人々を、ある小説家が客観的に見つめるという物語だ。タイトルの「月」とは美しい理想を表し、「六ペンス」は現実の生活を表現しているのかもしれない。様々な解釈があると思うが、これは決して単に美しい「月」だけのサクセスストーリーなどではない。語り手である「わたし」が、登場人物たちの「善」の中にある「悪」を見、また「悪」の中にもある「善」を見出だしている。道徳的にも論理的にも正しくはない場面もあるが、それにより人間の中にある光と影を明確に表現している名著だと思う。
    古典文学は、現在では他者から教わることのできない問いを、こころに植え付けてくれる。そしてその答えは自分の中で、時の経つほどに成長し熟成されていく。

  • no.456
    2021/5/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    午前十時の映画祭11プログラム キネマ旬報社

    『ティファニーで朝食を』『マディソン郡の橋』『イージー★ライダー』『2001年宇宙の旅』『ターミネーター』『ユージュアル・サスペクツ』『未来世紀ブラジル』『グッドフェローズ』『ファイト・クラブ』『天使にラブ・ソングを…』『ファーゴ』『イングリッシュ・ペイシェント』などなど。
    一年ぶりに帰って来た「午前十時の映画祭」。今回のラインナップもかなり素晴らしい名作揃いだ。観たことのある映画でも、映画館という空間で観ると全く別物のように感じる。たまたま同じ日に劇場に居合わせた見知らぬ人々の低いざわめきすら、映画を彩る名脇役である。
    これはもう、説明する意味などほとんどないので四の五の言わずに中劇へGO!

  • no.455
    2021/4/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    眼の冒険 松田行正/ちくま文庫

    言語を用いずに表現するカタチ。価値観が反転するようなイメージにハッとさせられる。デザインの善し悪しは思考か嗜好か、もしくは志向か。
    誰に向けて、どんな用途で書かれたものかはわからないが、誰が読んでもあらゆる示唆に富む一冊だ。硬直化してしまった時、ものの見方や考え方の角度を変え得る本だと思う。

  • no.454
    2021/3/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    山の独奏曲 串田孫一/ヤマケイ文庫

    インターネットの不具合やなんかで画面と格闘していると、あっという間に2~3時間無駄に過ぎ去ってしまう事がある。そんなトラブルでもなく、たまにwebニュースなんかをぱらぱらと見ているだけでも、時間の割には後に何も残らず、疲労と不快感だけが残る場合が多い。単なる無知ゆえの自業自得なのかも知れないが。
    たとえ同じように得るものがあまりなかったとしても、本書の旅のような贅沢な時間の送り方がしたい。派手な事など何もない朴訥としたショートエッセイだからこそ伝わってくる、揺るぎない旅の魅力とシンプルで骨太な思考。こんな時期だからか、全てを忘れて無性に山に行きたくなる。そんな時間も体力もないのだけれども。
    最高の贅沢は、食べるものでも着るものでもなく、時間の過ごし方だと思うような年代に、どうやらいつの間にかなってしまったようだ。

  • no.453
    2021/3/22UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ A・J・フィン/ハヤカワ文庫

    主人公の時折観る古いサスペンス映画が非常に興味深く、読後そんなモノクロ映画のいくつかを観てみた。名作とか古典と呼ばれるものの中には、やはりどんな時代にも色あせる事のない奥深さがあると改めて感じる。本でも映画でも心に残る不朽の名作は、一度観たからそれでおしまいではなく、モノとして自分の手元に置いておき時折眺めてみた方がいい。本書の主人公のように。
    精神的に不安定な女性が主人公の、いわゆる信頼できない語り手の小説だ。やはり良質なサスペンス映画を観ているかのように物語世界に引きずり込まれる。アルフレッド・ヒッチコック監督の独特な演出における美「ヒッチ・タッチ」の現代版のような雰囲気が文章からも伝わってくる。本書に出てくる古い映画の中では、個人的には『レベッカ』が好みだ。