さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.400
    2020/5/30UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    逃亡者 中村文則/幻冬舎

    冒頭の、疾走する緊迫のサスペンスを追いかけるうちに、潜伏キリシタンの時代から現代までを貫く壮大な物語へと引き込まれる。それぞれの土地に染み込んだ記憶の重み、背負ってきた歴史の連なりの上に現在が存在している事を改めて想わせる。そしてジャーナリズムと正義感、戦争と人間、宗教と愛についてなど、時代の中において表面上ではない人間の本質が描かれている。
    作中、妙に印象的に登場するのが、関わってはいけないとされる“B”という男。死神のような恐ろしくも魅力ある謎の人物で、この存在にはいろいろな解釈があると思う。誰にでも起こりうる、踏み込んではいけない、引き返せない領域を象徴的に示しているのかもしれない。
    それにしても、長崎。一度は行ってみたい土地である。

  • no.399
    2020/5/23UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    残酷な進化論 更科功/NHK出版新書

    あまりいい考え方ではないのかもしれないが、誤解を恐れずに敢えて言えば、戦争も原発も殺人も自殺も事故も悪政も天災も、そしてウイルス感染症も、人類の進化のために必要なシステムがその都度作動していると見えなくもない。「死」によってしか新たな進化は生まれないとするならば、「死」こそが生命にとって最も重要な役割を果たしていると言ってもいいと思う。
    人間は「生きる意味」などに悩んでしまう時もたまにはある。だが本書のような巨視的な見方をする本を読んだりすると、今とりあえず生きているだけでも充分に立派なものだと思えるし、奇跡的なことだとも思う。ただ、宇宙の広大な虚無の彼方の先に、神のような存在がもしあるとするならば、「生きる意味」や「愛」や「夢」、あるいは「人工知能」などを真剣に考えてしまう脳を持つ、人類というものをどう見ているのだろうか。少なくとも趣味がいいとはとても思えない。

  • no.398
    2020/5/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    クランクイン 相場英雄/双葉文庫

    映画『新幹線大爆破』に始まり、終盤には『パリ,テキサス』まで絡んでくる。洒落たラストも印象的な、映画ファンにはたまらない一冊だ。
    本書では冒頭で『新幹線大爆破』と『スピード』について語られる。関係ないが『新幹線大爆破』はラストシーンに『ヒート』との類似性もあり、そして『ヒート』は『ダークナイト』にも影響を与え、『ダークナイト』は昨年公開の『ジョーカー』にもつながる。
    映画に関わる全ての人は、相互に影響を与え合いながらその力を結集させる。そしてプロとしての金銭的な面もしっかり折り合いをつけてはじめて奇跡のような一本が撮れるかどうかだ。本書には現代の映画事情や制作にかかる費用もリアルに描かれている。この労力や費用を考えれば映画料金というのは安すぎると言えなくもない。
    何でも安くて便利な方がいいという選択をし続けていると知らず知らずのうちに、より大事なものを失っている可能性がある。今のコロナ騒ぎでも、もしかするともっと意外な所にまで影響が出てくるのかもしれない。ウイルスと戦う中でも本当に大切なものだけは、少なくとも見失わないようにしていたい。

  • no.397
    2020/5/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ペスト カミュ/新潮文庫

    今改めて、話題の「ペスト」である。よく分らない病に対する人間の反応が、現在の世界と酷似している。全員に降りかかる災厄と世の不条理感。その中にありながらも人は理性を保ちつつ適切な振る舞いを行えるか。本書中の言葉を引用すれば「人は神によらずして聖者になりうるか――」。
    自粛要請に応じない人や、逆に厳格な自粛を求める人なども含め、どこか自分さえ良ければというのが根底にありはしないか。そして自分の主張に合わない意見を叩きまくるのも現代を象徴し、事態を深刻化させている。結局のところできる事はマスクをして手を洗うような当初の対策しかないのに、この未知なるウイルスに対する人間同士の反応もウイルスそのものと同等に恐ろしい。敵は自分自身の中にもある。
    スティーブン・キング原作、フランク・ダラボン監督の映画『ミスト』を思い出した。一見、B級パニックムービーを思わせるこの映画だが、怪物と共に人間の怖さが描かれている傑作だ。

  • no.396
    2020/4/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    映画が教えてくれること。 アンドプレミアム特別編集/マガジンハウス

    表紙は『パリ,テキサス』のナスターシャ・キンスキー。この映画はどのカットを切り取ってみても、完璧な一枚の絵になるような美しい作品だ。映画全体の色調、乾いた風景、人間の佇まい、背後に流れるボトルネックギターの音色。ストーリーや理屈ではなく、構図だけでダイレクトに心に響く。
    本書で紹介されている他の作品の中では『アニー・ホール』『ゴースト ニューヨークの幻』『パルプ・フィクション』『レオン』『ニュー・シネマ・パラダイス』『マグノリア』『スモーク』『コーヒー&シガレッツ』『タンポポ』『歩いても、歩いても』などが心に残っている。それぞれお気に入りの1本を探し出し、または再確認するのも今年の連休はいいと思う。
    また、『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』、あるいはクリストファー・ノーランの『ダークナイト』3部作など長い映画を観るのにも、この際いい機会だろう。家で観るのもいいが、やはり何よりも映画館に安心して入れる時が一日も早く訪れる事を願いつつ。

  • no.395
    2020/4/24UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    クモのイト 中田兼介/ミシマ社

    気が滅入る情報ばかりがどうしても目に耳に入ってしまう。新型コロナウイルスで連休中も不要不急の外出を控えるべきとするならば、家で映画を観るか本を読むという旅に出るしか、垂れ流される情報から身を守る術はない。ウイルスにやられる前に心がやられてしまいそうだ。
    そんな時には、ちょっと外に出て身近にある自然に目を向けてみるのもいいかもしれない。どこにでもある足元の草花や昆虫の世界などこれから活発になる季節だ。そこには人間社会とは全く別の小さな小宇宙があり、現在まで種を生き残らせた者の秩序と逞しさがある。本書は一般的に言って嫌われ者であるクモの話だが、その見方がちょっと変わった。網の張り方やその角度など2~3日注意深く観察してみたくなる。
    「花と昆虫、不思議なだましあい発見記」(田中肇/ちくま文庫)も面白い。花と虫の共存共栄などという生ぬるいものではなく、双方生きていくために必要な振る舞いをし続けた結果つないできた命なのだろう。どちらの本も無性に外に出て確認してみたくなり、そしてそれはいつでも近くに転がっている。こんな時だから日がな一日観察し、ちょっと発見したり自らを省みたりするのも、情報に流されっぱなしの1日よりはよほどましである。

  • no.394
    2020/4/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    死ぬ瞬間 E・キューブラー・ロス/中公文庫

    幼い頃からテレビで見ていた志村けんさんの死が、未だどうにも信じられない。それと同じように、人は少なくとも自分だけは当分死なないと思い込んで生きているようだ。でも実際、年齢に関係なくいつその瞬間が訪れるかは、誰にも予測できない。他者の死を悼み、自分の死を想う事は、どう生きるかと表裏一体である。生も死も一度限りのものだとすれば、本書もやはり、死ぬまでに一度は読んでおくべき名著の一つだろう。
    映画『悪の法則』の中にこんなセリフがある。――“最期の時”が迫り来ると知る者にとって、死は別の意味を持つ。あらゆる現実の消滅は、死を受け入れてもなお認めがたい概念だ。最期の時に、自分の人生はどんなものであったのか、ようやくその真の姿を知る事ができるのだ――。この原作者コーマック・マッカーシーの作品には全て、必ず同様のメッセージが込められる。老いや死からは誰も逃れることはできないし、人生は一方通行で決して取り戻す事などできない。かなりグロテスクな形でそれを表現するので、こちらは読む人を選ぶ作家である。ただ、時に人は、死を想う事が必要なのだろう。

  • no.393
    2020/4/9UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    2000年の桜庭和志 柳澤健/文藝春秋

    どんな業界であれ、自分の仕事によって生計を維持しそれで飯を食っている人のことを、プロと言うのだと思う。例えば格闘家であれば、どんなに強くて技に精通していたとしても、仕事にならなければそれはアマチュア競技か単なる乱暴者と変わりはない。
    護身術をルーツとして、どんな相手と戦っても負けない事を唯一無二の至上命令とするグレイシー一族と、片やプロレスラーとして、リアルファイトの中でも興行として観客を楽しませる試合を追求する桜庭和志。相反する2つの価値観を、お互いプロとしてのプライドを賭けて戦わせた伝説の試合が2000年5月1日、ホイス・グレイシーvs桜庭和志だ。
    秋田県出身の朴訥としたプロレスラーが最強の格闘家に自然体で立ち向かい、真剣勝負の中でも観客を沸かせるパフォーマンスを見せる度に、ハラハラさせられながら同時にわくわくもした。どんな試合でも勝ち負けに関係なく高いプロ意識を感じさせるその勇気に、同じ東北人として誇りに思う。

  • no.392
    2020/4/2UP

    フェザン店・竹内おすすめ!

    雲を紡ぐ 伊吹有喜/文藝春秋

    ――盛岡が舞台の小説の新定番――
    家出をした高二の美緒は盛岡で毛織物の工房を営む祖父の家に駆けこむ。そこで出会ったホームスパンが家族の絆を紡いでいく。手づくりの技の醍醐味を堪能しながら、娘と母・父・祖父のほつれた糸を紡ぎなおすドラマに嗚咽を耐えられない。盛岡の名所がこれでもかというくらいに登場するのも嬉しい。

  • no.391
    2020/4/2UP

    本店・佐藤おすすめ!

    ちきゅうはメリーゴーラウンド まど・みちお:詩/南塚直子:絵/小峰書店

    ――どんな世の中であったとしても――
    まど・みちおさんの、目の前の全てを慈しむような詩が、南塚直子さんの描く春色のようなあたたかい世界で広がります。「いちねんせいになったら」「ぞうさん」など童謡で親しまれている詩も入っています。
    世の中がどんな状況でも、子どもの無垢なまなざしは守りたい。そんな気持ちになります。