さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.248
    2018/6/19UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    究極の選択 桜井章一/集英社新書

    20年間無敗、伝説の“雀鬼”だからこそ語られる、勝ち続けることの功罪と、負ける事や失敗する事の意味。目先の損得だけでなく「負けるが勝ち」や「損して得とれ」という、人間をトータルで見た時の著者の価値観は、魑魅魍魎の蠢く修羅場を多く経験し様々な人をよく見てきた著者が出した最終的な答えなのだろうと思う。
    一問一答形式で語られる著者の答えは、AIで導き出されるようなものではない。より強くより大きくという考え方とは別に、弱くても小さくても、トータルでより良く生き抜くためのヒントが見えてくる。

  • no.247
    2018/6/12UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    屍人荘の殺人 今村昌弘/東京創元社

    ミステリというのは、古くからある物語の形式であり、古今東西様々な作家が、これまでに様々な挑戦を続けてきた。新しいトリックなど出尽くしたと言われても、いくつかのものを組み合わせたり、想像もしていなかった設定にしたりすることで、新しい驚きを生み出し続けてきた。
    とはいえ、そういう革命的な作品は、そうそう現れるものではない。
    僕が本書に衝撃を受けたのは、まさにそういう、これまで誰も成し得なかった挑戦にチャレンジし、成功を収めていると感じるからだ。
    ミステリの世界では、「クローズドサークル」と呼ばれる状況が設定されることがある。これは孤島や山荘など、外界と連絡が取れず、警察も介入しないような状況を指す。これまで僕は、「クローズドサークル」は、警察や科学技術の介入を可能な限り防ぎ、探偵が純粋に推理によって謎解きが出来る環境を整えるため「だけ」に設定していると感じることがほとんどだった。
    しかし、本書はその「クローズドサークル」に新しい挑戦を持ち込んだ。詳しくは書かないが、特殊な「クローズドサークル」の設定の仕方が、物語全体に大きな影響を及ぼすのだ。凄いことを考えるものだと驚愕させられた。

  • no.246
    2018/6/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    光のない海 白石一文/集英社文庫

    好きな小説かと問われればそうではないし、決して“いい話”でもない。ただ、読み始めると途中で止められない何かが含まれていると感じる。
    生きていれば誰しも大なり小なり人に言えない秘密や、最後まで消えない心の染みのようなものはあるだろう。程度の問題で人生の深い陰影にもなり得るし、完全に狂わされる人も紙一重の差だと思う。紙一重というより表裏一体というべきか、どちらに転ぶかそれだけの違いだ。いずれにしろ時が過ぎれば否応なく街の景色も変わり、そこで生きた人間の証しなど完全に忘れ去られるはかない命。その中で強い光は濃い影をも生み、生きてきた分だけ心にずっしりと深い闇を抱えながら、それでも人は生きていく。
    人は何のために生きているのか。
    その問いも答えも語られぬまま、それを浮き上がらせる小説だ。

  • no.245
    2018/6/5UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    重力波は歌う ジャンナ・レヴィン/ハヤカワ文庫NF

    重力波は、「アインシュタインの最後の宿題」とも呼ばれる、物理学の世界では聖杯の一つと数えられるほどの存在だ。アインシュタインは、自身が生み出した相対性理論の帰結として「重力波」を予言したが、しかし、あまりにも小さすぎて検出出来ないだろう、とも語っていた。「太陽10億個分の一兆倍を上回る」ほどのエネルギーが放出されても、発生する「重力波」は「陽子の大きさの一万分の一の距離の差」程度にしか観測できない。どれほど観測が困難であるのか、なんとなくイメージしてもらえるだろう。
    本書は、そんな「重力波」を検出するための果てしなく壮大なプロジェクトが、生まれてから成果として結実するまでのドラマを、人間模様を中心に描き出す作品だ。
    少し前であれば、科学系の研究は、個人でも出来た。もちろん今でも、個人単位で出来る研究はたくさんある。しかし現代において、学問的に重要度の高い研究をやろうとしたら、大規模なプロジェクトにならざるを得ない。そこには様々な人間が関わり、様々な主張や価値観が行き交い、すれ違いや誤解や混沌が生み出されることになる。
    「重力波」の検出の陰にも、様々な人間の無念と諦念がある。その人間ドラマを読んでほしい。

  • no.244
    2018/6/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    かさ 太田大八/文研出版

    映画『シンドラーのリスト』は全編モノクロ映像の中で、少女の赤い服だけをカラーにしたワンシーンが強く印象に残る。
    1975年発行の本書は、文字がなく絵だけで表現されている絵本である。こちらも全体がモノクロの中で唯一、女の子の小さな傘だけが赤く際立っている。
    読書は文字を読んでその意味を認識するだけでなく、読者の想像力によって成立するものだとすれば、この絵本も間違いなく“読書”である。読んでいるのは、絵を見る事で心の中に伝わり生み出される思い。紙の本ならではの味わい深い質感に絵の構図も美しく、子どもから大人までそれぞれの“読み方”で楽しめるだろう。
    当店「きせつのえほん」コーナーの中から児童書担当者お勧めの一冊だ。

  • no.243
    2018/5/29UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ふたご 藤崎彩織/文藝春秋

    本書については、「手に取らない理由」を挙げやすい。「SEKAI NO OWARI」というバンドのメンバーが書いた本、というだけで、「SEKAI NO OWARI」が好きではないという人は読まないだろうし、芸能人が書いた本なんかいいよという人だっているだろう。僕は、個人的な感覚として、多くの人が「本を読まない理由を(積極的にせよ消極的にせよ)探している」と思っている。読まない理由を見つけられれば、どれだけ話題作でもどれだけ評判が良くても、自分がその本を読まないことを正当化出来るからだ。
    そういう意味で本書は、手に取られにくい作品だろう。
    しかし、そういう先入観をなんとか打ち破って、本書を読んでみてほしい。
    主人公の西山夏子が置かれた状況そのものに共感できる人は多くないだろう。何故なら、彼女が生きている日常は、ちょっと特殊であり得ない関係が主軸となっているからだ。しかし、そういう日常の中で彼女が感じる孤独や鬱屈や葛藤は、誰だって思い当たるだろうし、人生のどこかで通り抜けてきたものだろうと思う。
    傷つき、打ちのめされてきた人間ほど、内側に溜まっている言葉は強い、と思っている。西山夏子は、著者の藤崎彩織自身だろう。辛く厳しい時間を潜り抜けてきた者だからこそ形にすることが出来る言葉で溢れた作品だ。

  • no.242
    2018/5/29UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    瑕疵借り 松岡圭祐/講談社文庫

    そんな業者が本当にあるのかどうかは知らないが、賃貸物件の賃借人に告知義務のあるワケあり物件に対し、一旦専門の「瑕疵借り」を住ませることで、その瑕疵を和らげよう、あるいは無かった事にしようとするものらしい。資金洗浄ならぬ賃貸物件洗浄といったところか。明らかに怪しげなこの「瑕疵借り」だが、その男が冷静な分析で瑕疵の原因である問題を、鮮やかに解いて立ち去る連作短編ミステリーだ。
    賃貸物件。――人生の中である時期、短期間だけ住んで刹那的に通り過ぎていく場合もあるだろう。しかし、どんな時代の一時期であったとしても、何気ない今のこの瞬間をもっと大切にしなければならないと、読後強く感じさせる。非常に心に残る4つのショートストーリー。

  • no.241
    2018/5/23UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    開幕ベルは華やかに 有吉佐和子/文春文庫

    人気俳優・女優が主演する舞台の会期中、劇場に「二億円用意しろ。でないと大詰めで女優を殺す」という脅迫電話が届く…という脅迫事件が物語の核にある。そういう意味で、本書はもちろんミステリであり、ミステリ的な部分も面白い。
    しかし、本書で最も面白いのは、決してそのミステリ的な部分ではない。脚本家・演出家・役者を巻き込んだ、演劇の舞台裏のドタバタこそが、本書の主役である。
    かつて演劇の脚本を書いていたが、色々あって演劇界から離れて推理小説家になった渡紳一郎。その渡の元妻である小野寺ハルが、常軌を逸した依頼を受けた。演劇界にその名を馳せる加藤梅三という脚本家が、松宝の看板である八重垣光子と中村勘十郎を東竹が借りて行う演劇の開幕1ヶ月前に降りてしまった。その脚本を引き受けてもらえないか、と依頼された小野寺は、演出を渡が担当するなら引き受けると返事をしたというのだ。
    演劇的ではないイカれた脚本を上げてくる元妻に憤りつつ、なんとか劇として成り立たせようと奮闘する渡。しかし、我の強い役者である八重垣光子と中村勘十郎の二人の、お互いの我を主張するような演技にも手を焼かされる。しかもその裏で、女優の命を狙うと予告する脅迫事件が起きるのだ。
    この収拾のつかない事態をどう取り仕切り、どう物語として着地させるのか―。有吉佐和子の手腕に驚いて欲しい。

  • no.240
    2018/5/23UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    モチモチの木 斎藤隆介・滝平二郎/岩崎書店

    「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない。」とはレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の中の有名な一節。
    勇気を描くこの絵本は、「優しささえあれば、困難でも人はやるべきことをやる」という物語だ。
    児童書の中には大人でも往々にして直面する諸問題について、その本質を衝いているものがある。例えば『泣いた赤おに』では、何かを得れば必ず別な何かを失っているという事実。『アリとキリギリス』では価値観の違う生き方を、お互いに否定できるものではないという事実。人間の善悪の基本は子どもの頃の直感により、その後一生の大枠が決まってくるのではないだろうか。
    ともあれ本書は、内容もさる事ながら絵の色彩感覚も美しく、大人でも納得の一冊だと思う。

  • no.239
    2018/5/15UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    火怨
    北の耀星アテルイ 高橋克彦/講談社文庫

    大げさなことを言おう。いや、決して大げさではないのだが、きっと大げさに聞こえてしまうだろう。
    さわや書店に来て良かった。「火怨」と出会えたから。
    さわやで働くことにならなければ、「火怨」を読むことは一生なかったかもしれない。それぐらい本書は、僕にとってハードルの高い本だった。歴史のことは詳しくないから、歴史を扱った小説を読むのが苦手だ。それに上下で1000ページを超える分量も、躊躇させる要因だ。
    さわやで働くからには、地元の偉大な作家である高橋克彦の小説は避けては通れないだろう―正直、その程度の気持ちで読み始めた。でも、読みながら、すぐさま心を掴まれた。なんて面白いんだ!と。
    人間ではなく、獣として扱われ続けた蝦夷の民が、「人間」としての誇りも、自分たちが住むこの土地も捨てずに済むように闘う物語は、「人間」として生きる上で忘れてはならない大事なことを胸に刻んでくれる。