さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.458
    2021/5/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    天使エスメラルダ ドン・デリーロ/新潮社

    決して面白いわけではないのに観れば観るほど味わい深く、何度観ても何故か飽きない、そんな映画がある。『インヒアレント・ヴァイス』『裏切りのサーカス』『ノーカントリー』『めぐりあう時間たち』『スモーク』『ブレードランナー』など。これらに共通してひとつ言える事は、監督や俳優もさることながら、原作者の文学的な世界観が素晴らしいという点だろう。
    自分にとってそんな映画のひとつに『コズモポリス』がある。これもよく分らない映画だが、たまに無性に観たくなる。監督デイヴィッド・クローネンバーグ、原作ドン・デリーロ。心に残る作品に出合った時、監督や脚本、原作を追ってみると必ず何かしらの発見がある。本書は『コズモポリス』から原作者を追って読んでみた一冊だ。こちらも文学的意図が深くあるのは感じるものの、最初よく分らない。それでいて妙に心に残り、いつでも再読、深読みに値する本だと思う。名作とはそういうものだと思う。

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  • no.457
    2021/5/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    月と六ペンス ウィリアム・サマセット・モーム/新潮文庫

    名作文学には時代の風潮に流されない力強さがある。
    本書は画家のポール・ゴーギャンをモチーフにした小説。天才画家と周囲の人々を、ある小説家が客観的に見つめるという物語だ。タイトルの「月」とは美しい理想を表し、「六ペンス」は現実の生活を表現しているのかもしれない。様々な解釈があると思うが、これは決して単に美しい「月」だけのサクセスストーリーなどではない。語り手である「わたし」が、登場人物たちの「善」の中にある「悪」を見、また「悪」の中にもある「善」を見出だしている。道徳的にも論理的にも正しくはない場面もあるが、それにより人間の中にある光と影を明確に表現している名著だと思う。
    古典文学は、現在では他者から教わることのできない問いを、こころに植え付けてくれる。そしてその答えは自分の中で、時の経つほどに成長し熟成されていく。

  • no.456
    2021/5/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    午前十時の映画祭11プログラム キネマ旬報社

    『ティファニーで朝食を』『マディソン郡の橋』『イージー★ライダー』『2001年宇宙の旅』『ターミネーター』『ユージュアル・サスペクツ』『未来世紀ブラジル』『グッドフェローズ』『ファイト・クラブ』『天使にラブ・ソングを…』『ファーゴ』『イングリッシュ・ペイシェント』などなど。
    一年ぶりに帰って来た「午前十時の映画祭」。今回のラインナップもかなり素晴らしい名作揃いだ。観たことのある映画でも、映画館という空間で観ると全く別物のように感じる。たまたま同じ日に劇場に居合わせた見知らぬ人々の低いざわめきすら、映画を彩る名脇役である。
    これはもう、説明する意味などほとんどないので四の五の言わずに中劇へGO!

  • no.455
    2021/4/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    眼の冒険 松田行正/ちくま文庫

    言語を用いずに表現するカタチ。価値観が反転するようなイメージにハッとさせられる。デザインの善し悪しは思考か嗜好か、もしくは志向か。
    誰に向けて、どんな用途で書かれたものかはわからないが、誰が読んでもあらゆる示唆に富む一冊だ。硬直化してしまった時、ものの見方や考え方の角度を変え得る本だと思う。

  • no.454
    2021/3/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    山の独奏曲 串田孫一/ヤマケイ文庫

    インターネットの不具合やなんかで画面と格闘していると、あっという間に2~3時間無駄に過ぎ去ってしまう事がある。そんなトラブルでもなく、たまにwebニュースなんかをぱらぱらと見ているだけでも、時間の割には後に何も残らず、疲労と不快感だけが残る場合が多い。単なる無知ゆえの自業自得なのかも知れないが。
    たとえ同じように得るものがあまりなかったとしても、本書の旅のような贅沢な時間の送り方がしたい。派手な事など何もない朴訥としたショートエッセイだからこそ伝わってくる、揺るぎない旅の魅力とシンプルで骨太な思考。こんな時期だからか、全てを忘れて無性に山に行きたくなる。そんな時間も体力もないのだけれども。
    最高の贅沢は、食べるものでも着るものでもなく、時間の過ごし方だと思うような年代に、どうやらいつの間にかなってしまったようだ。

  • no.453
    2021/3/22UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ A・J・フィン/ハヤカワ文庫

    主人公の時折観る古いサスペンス映画が非常に興味深く、読後そんなモノクロ映画のいくつかを観てみた。名作とか古典と呼ばれるものの中には、やはりどんな時代にも色あせる事のない奥深さがあると改めて感じる。本でも映画でも心に残る不朽の名作は、一度観たからそれでおしまいではなく、モノとして自分の手元に置いておき時折眺めてみた方がいい。本書の主人公のように。
    精神的に不安定な女性が主人公の、いわゆる信頼できない語り手の小説だ。やはり良質なサスペンス映画を観ているかのように物語世界に引きずり込まれる。アルフレッド・ヒッチコック監督の独特な演出における美「ヒッチ・タッチ」の現代版のような雰囲気が文章からも伝わってくる。本書に出てくる古い映画の中では、個人的には『レベッカ』が好みだ。

  • no.452
    2021/3/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    わたしは贋作 バーバラ・ボーランド/ハヤカワ文庫

    正解はどこにもなく、人が生きていくために必要なものでもない。ただ、ごくわずかな人にとって、それは生きる指針ともなり得る究極の美的感覚であり、ある意味信仰に近いものなのかもしれない。そして作者の手を離れた瞬間に、作品は芸術的価値から商品的価値へと移り変わったりもする。芸術の世界はよく分らないけど、凄い世界だと思う。
    あらゆるアートの本質や価値とは何なのか。今の時代AIでも音楽や絵画などかなり高度な作品が作れてしまう。いろいろな見方があるにせよ、最終的には作者自身のアイデンティティーが作品の全てだろう。技術面もさることながら、芸術作品を創るという人の生き方や行為そのものがすでに芸術だ。音楽でも映画でも舞台でも本でも、それは同じ事だろう。芸術家である以上、売れる売れないはまた別の話として。
    読み終わり、そんなことを思ったりする。本書は美術ミステリーで、語り手である抽象画家「わたし」の成長物語でもある。

  • no.451
    2021/2/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    特集:流通 広告Vol.415 『広告』編集部/博報堂

    東日本大震災から10年。
    当時、痛烈に感じたのは、電気、水道、ガスと同じく、物流とはまさにライフラインだという現実だった。ネットでどんなに便利な世の中になろうとも、実際にモノを運ぶ人がいなければ何の役にも立たない。徐々に物流が回復してきた時のありがたさは、止まってみて初めて実感する感動だった。
    本書はメーカーから倉庫、卸売、運送会社を経て、小売、そして消費者の手に渡るまでの一連の流れを余すところなく網羅した一冊だ。流通の歴史から今のコロナ禍で売上が伸びているネット通販、梱包材としての段ボールメーカー、さらに音楽や映画などの現状、そして本の流通。川上から川下へのあらゆる取材を通じて、現代を考えさせられる。
    小売店が全てネットに変わり、街からリアル店舗が完全に無くなるという事はないだろう。そんな世界はまさにディストピアで、誰も望んではいない。ただし、便利さと快適さだけを求めて消費行動をしているうちに、知らぬ間にディストピアに近づく可能性はあり得る。リアル店舗は厳しい状況が続いているが、ネットとリアルには最適なバランスがあると思う。今厳しいエンタメ業界も、旅行関係も、飲食店も、そして街の本屋も、なんとか残らなければならない。

  • no.450
    2021/2/19UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    キャッチ=22 ジョーゼフ・ヘラー/ハヤカワepi文庫

    全くもって、わけがわからない。ストーリーを追えていない不安から、何度も読むのをやめようかとも思ったが、なぜか妙に心に引っかかる。これはブラック・ユーモアの形をとりながらも、人間社会の本質的なメタファーなのではないかと。
    有名な作品ではあるものの、万人受けする本ではないだろう。本書は皮肉なパラドックスやジレンマ、不条理などを時間軸のずれとともに繰り返す。そしてラストに来てようやく一定の爽快感を得ることができる物語だ。ただ、このラストに主題があるのではなく、あくまでもそこに至るまでのわけのわからなさの方にこそ、本書の主題があるように思う。
    映画で言えば、『マルホランド・ドライブ』『ファイトクラブ』『TAKESHIS′』『インセプション』『パルプ・フィクション』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『ジョーカー』などを観た時の感覚に近い。よくわからないけど無駄に熱く、そして強烈に魅力的だ。本書も作品に込められた熱量と、読者を突き放すような文学的意志の強さを感じさせる。

  • no.449
    2021/1/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    死にゆく者への祈り ジャック・ヒギンズ/ハヤカワ文庫

    読んでいない過去の傑作小説はまだまだ山ほどある。ページをめくるのももどかしく、上質な映画を観ているかのように一気に読み終えてしまった。代表作「鷲は舞い降りた」で有名なジャック・ヒギンズ。訳者あとがきによると、著者本人が自分の作品の中で一番好きな小説は本書であるという。
    暗黒街の顔役から依頼され殺人を請け負ってしまう主人公。その殺人をたまたま目撃しながらも警察に口を割ろうとしない神父。不器用な生き方しかできない、哀しい過去のある2人のハードボイルド・サスペンスと言っていいだろう。自らの矜持を貫き、死に場所を求めて生きるような主人公に対し、神父はなんとかその魂を救済することができないかと、苦悩しながら祈りを捧げる。
    クールでスマートな生き方の対極にあるような男の生きざまに、最近ではあまり思う事も少なくなってしまったある種の憧れを感じる。