さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.305
    2019/1/16UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    あなたの知らない脳 意識は傍観者である ディヴィッド・イーグルマン/ハヤカワ文庫NF

    「人間に自由意志はあるのか?」という疑問は、科学の世界で議論され続けてきたものだ。ん?と思うだろうか。自由意志は、あるに決まってるじゃないか、と。だって、コンビニで何を食べたいのかを決めるのも、誰を好きになるのかも、私の自由意志に決まってるじゃないか、と。
    でも、そうではない。本書を読めばあなたもきっと、人間には自由意志などないのかもしれない、と感じることが出来るだろう。
    本書では脳を「意識」と「意識以外のもの(無意識)」とに分けている。「意識」というのは、僕たちがまさに「自分である」と感じているような、痛いとか楽しいとか朝だなとかお腹すいたとかそういうことだ。そして様々な研究によって、脳における「意識」の領域は極端に狭く、人間の行動のほとんどを「意識以外のもの」が決定していると分かってきている。さらに「意識」は、「意識以外のもの」が何をしているのかを知ることは出来ないのだ。
    僕たちは、自由意志によって自分の行動を決めていると感じている。しかし、脳の機能的に見れば、「意識以外のもの」が様々な決定をし、その後で「自分自身でそういう決断をした」という「意識」を持つ、と表現するのが正しいのだ。
    そんなバカな!と思うだろうか。そう思うなら、是非本書を読んでほしい。

  • no.304
    2019/1/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    料理人 ハリー・クレッシング/ハヤカワ文庫NV

    食と人間の欲望を題材にした、何とも言えない皮肉に富んだブラックファンタジーというか、喪黒福造ばりにダークな料理人の話。読む人の環境、年齢、性別、立場などによってその解釈は大きく異なるような気がする。多くの見方が考えられる幅のある物語だ。
    関係ないが久しぶりに「午前十時の映画祭」へ行き『チャンス』という映画を観た。これは話を受け取る側がどう解釈するかによって、その捉えられ方が大きく変わってくるという物語だった。ゲラゲラ笑える話ではないものの、ジャンルでいえばコメディとかファンタジーということになるのだろう。シニカルな笑いが、人間というものの愚かさや愛おしさを含めた奥深い可笑しみを生んでいる。
    人間誰もがある意味、喜劇性と悲劇性を内包している。同じ1つの事象でもそれをどう見るかは、受け取る側の見解しだいである。

  • no.303
    2019/1/8UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    はじめて考えるときのように 野矢茂樹/PHP文庫

    【あなたに「包丁」を手渡したい。だからこの本を勧めます】
    こんなフレーズから始まるPOPで、2017年大いに売り伸ばしをした一冊だ。「考えること」と「包丁」がどう結びつくのかは、店頭のパネルで是非確認をしてほしい。
    普段僕たちは、色んな場面で「考えること」をしているが、しかしよくよく思い返してみれば、「考えること」について誰かに教わった記憶はない。他人がどんな風に考えているのか、という本は、もちろん世の中にたくさんあるから、「考える道筋」とか「考え方」みたいなものは後天的に学んだ人もいるだろう。しかしそういうことではなくて、「考えること」ってそもそもどういうことなの?ということについて思いを巡らす機会はそうそうないだろう。
    「考えること」について思考することが何故大事なのかということを、「包丁」を使った喩えで説明しているのだが、この大前提の部分をきちんと押さえておくことで、「考えること」が苦手、という感覚を払拭出来るのではないか、と思っている。
    あらゆる年代の人に手にとって欲しい一冊だ。

  • no.302
    2019/1/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    偶然の科学 ダンカン・ワッツ/ハヤカワ文庫NF

    本書を読んだ時、なぜか映画『ノーカントリー』を思い出した。10年ぐらい前に初めて劇場で観た時、あまりの意味のわからなさに茫然としたのを今でも覚えている。それから数年を経て『ザ・ロード』の本を読み、映画『悪の法則』を観たあたりで原作者コーマック・マッカーシーの言わんとするところがようやく理解できてきたように思う。これらの作品はクライムサスペンスのような顔をしながらも、実際には完全に文学作品であった。何の説明もなく事実のみを淡々と描写する、非常に乾いた表現でありながらも綿密に考え抜かれたストーリー。しかし、それらの全体像を解き明かすことが物語の主題ではない。
    歴史に“もし”がないのと同じく、私たちも一回限りで後戻りのできない時を生きている。純粋悪・シガーのコイントスに象徴されるように、未来が不確実な世界の中で、偶然や環境に大きく左右される儚い命。そして生を受けた全ての者は、老いや死からは絶対に逃げる事ができない。それでもなお、いや、だからこその生きる意味を観る者に問うている。
    前置きが長くなったが、本書は常識や美しいサクセスストーリーなど、過去の先入観に囚われることなく、現在の事実をありのままに見ることの重要性を繰り返し説いている。全く関係ないように見える上記の映画が、自分の中では神経のどこかでリンクした。

  • no.301
    2019/1/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    爆走社長の天国と地獄 木村元彦/小学館

    溝端宏という男は、シンプルには評価することの出来ない、強烈な何かを持った人生を歩んできた。
    彼は、グラウンドもクラブハウスも選手もいないところから大分トリニータというサッカーチームを立ち上げ、高級官僚の座を投げ捨てて社長に就任。15年で日本一(2008年ナビスコカップ優勝)に導いた。これは、信じがたいほどの功績だ。
    一方彼には悪評もつきまとう。放漫経営、6億の借金、Jリーグへの多大な迷惑、選手や職員の生活をメチャクチャにしながら、自分はチームを捨てて観光庁の長官に栄転…などなど。
    プラスもマイナスも強烈な男の人生を描き出す著者は、『ことわっておくが溝畑の擁護をする気はさらさらない。私はむしろ長い間、アンチ溝畑の書き手であった』と本書の中で断っている。そんな著者が描き出す溝端宏は、僕にとっては魅力的な人物に見えた。もちろん、その振る舞いによって誤解された部分もあるだろうし、実際にそれは悪いと判断される行動もしているだろう。しかし、外野がとやかく言うよりも、溝端宏の一番近くで彼を見ていた者の言葉にやはり強さを感じる。彼が大分トリニータの社長を「解任」させられたことを知った当時の監督は選手に向かって、『いいか、社長を絶対に戻すぞ!』と言ったという。監督や選手からは、最後まで愛された男だった。
    働いている、すべての人に読んでほしい一冊だ。

  • no.300
    2019/1/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    雨やどり 半村良 集英社文庫

    平成ももうすぐ終わり、また新たな時代に変わろうとしている。昭和を古くさくてどうしようもないと思っていた年代の人も、すぐに自分たちがそう思われる順番である。しかし時代によって形式的にはどう変わろうとも、人々の営みや心のありようは基本的に同じじゃないかと思う。
    本書は夜の街、新宿を舞台に昭和を色濃く感じさせる連作短編集だ。どの短編も水商売のリアリティと人間の心の機微を感じさせる。中でも秀逸なのが最後の『愚者の街』。――「上ならいいのか。下じゃいけねえのか。ほんとにそうか」――自らの愚かさには目を背け、世の中を利口そうに眺める、はたしてそれを利口と言えるのか。愛すべき愚者たちの葛藤の中から己の人生を考えさせられる。
    自分の意見を誰でも簡単に主張でき、善し悪しをはっきりと区別される世の中で、単純に割り切れないものに対する遊びの幅が年々狭くなっているような気がする。いつの時代でも損得や馬鹿利口では割り切れない部分を埋めるのが大人の了見なのだと思う。今ではあまり聞こえなくなった、そんな大人を感じさせる物語である。

  • no.299
    2018/12/25UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    アイデア大全 読書猿/フォレスト出版

    本書はタイトルの通り、「どうやったらアイデアを生み出せるのかの方法を示す本」だ。分かりやすく言えば、How To本だ。しかし、ただそれだけの本ではない。著者のまえがきから引用しよう。
    『本書は、<新しい考え>を生み出す方法を集めた道具箱であり、発想法と呼ばれるテクニックが知的営為の中でどんな位置を占めるかを示した案内書である。
    このために、本書は実用書であると同時に人文書であることを目指している。』
    How To本でありながら、かつ人文書でもある。なかなかどんな本なのか、イメージすることが難しいだろう。しかし本書は、まさにその看板に偽りのない作品だった。著者の、まさに博覧強記と言っていい膨大な知識によって、発想法の歴史を学問の領域にまで押し上げている。
    さらに本書は、How To本としても秀逸だ。いかにその発想法をすぐに実践出来るか、という観点から、様々なことが書かれている。
    本書を手にしたあなたが、何らかの発想を導き出すのに必要なものは、本書で書かれたやり方を実践するための「時間」だけなのだ。

  • no.298
    2018/12/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    フランス座 ビートたけし/文藝春秋

    「俺たちもう終わっちゃったのかな」「ばかやろう、まだ始まっちゃいねえよ」――『キッズ・リターン』
    「ありがとう・・・ごめんね」――『HANA‐BI』
    「おじちゃん名前なんていうの」「菊次郎だよばかやろう、帰れ早く」――『菊次郎の夏』

    すっきりとしていて深い余韻を残す印象的なラストシーン。著者の映画はどれもハッピーエンドには決してならないものの、それでもいいんじゃないかと思わせてくれる。それは芸人として今まで駆け抜ける中で見てきた、多くの人間から得た人間観によるものなのだろう。人間を見つめる濃度が一般的な人とは全く違う。
    本書は著者の自伝的小説だが、描きたかったのは師匠・深見千三郎を中心とした、周りの人たちの事だったのだろう。今の風潮では考えられない時代だったとはいえ書き残す価値があり、今それができるのは著者だけだと思う。
    この小説も、ラストの一文は見事としか言いようがない。

  • no.297
    2018/12/18UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    蚊がいる 穂村弘/角川文庫

    普通に日常生活を送っているが、どうしても世界に馴染めない感覚を捨てきれない人のことが、男女ともに好きだ。世の中の様々な常識や、自分の周りの日常の様々なことに、立ち止まって違和感を覚えてしまう人。当たり前だと思われていることをすんなり受け入れられず、周囲と違う嗜好を持って自分なりの行動をしつつ、とはいえ「みんな」が支配する世界でもそれなりにうまく頑張って生きている人。そういう人を見かけると、いいなぁ、といつも思ってしまう。
    穂村弘も、そういう一人だと僕は思っている。
    『文化祭でもキャンプでも大掃除でも会社の仕事でも、いつも同じことが起きる。全ての「場」の根本にある何かが私には掴めないのだ。現実世界に張り巡らされた蜘蛛の巣のようなルールがみえない。』
    彼のエッセイを読むと、同類だなと思えてなんだか嬉しくなる。日常生活の中の、本当に些細な、躓く必要のないちょっとした段差みたいなところで、それってどういうことなんだろうと立ち止まって考えてしまう著者の生き方は、共感できるし、微笑ましいし、ガンバレ!と言いたくなってくる。

  • no.296
    2018/12/18UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    逃北 つかれたときは北へ逃げます 能町みね子/文春文庫

    ネガティブ観光案内、北への旅。どうぞいらっしゃいという観光地ではなく、あえて何もない寂しいところの魅力を紹介している。東北人としては微妙だが、北への愛情は充分に伝わり、ああわかるなあと思う部分の多々ある傑作エッセイだ。
    個人的には、大学時代にワンダーフォーゲル部で山へ行き、何日かして帰ってくる時の電車の中で、無事に帰って来たなという安堵と共に、ああまた下界の雑踏と喧騒の中に戻ってしまったなという思いが交錯するのに似ている。山に行くのは決して絶景を見る為ではなかった。それはある意味、山へ逃げていたのかもしれない。
    北への旅で思い出すのが「男たちは北へ」という小説だ。ある男が東京から青森まで自転車で行くというだけの物語。その間にいろいろと絡んでくるが、そんなものとは関係なく我が道を行く主人公が清々しい。こちらもぜひご一読を。
    先日さわや書店は青森駅ビルにラビナ店をオープンした。青森県では野辺地店に続き2店舗目。開店準備で大雪のなか青森に行ってみたが、底知れぬ魅力のあるところだと改めて感じた。本格的な雪の季節にこそ、みなさん北へ逃げにいらっしゃい。