さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.279
    2018/10/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人工知能に哲学を教えたら 岡本裕一朗/SBクリエイティブ

    人工知能について考える時、最終的に人間とは何なのかを考える事になる。今まで特別に意識した事のなかった、人間性とは具体的に何を指すのか。人工知能の登場により誰もが改めて問われる、正義とは、芸術とは、宗教とは、幸福とは何なのか。
    デジタルテクノロジーが、その良し悪しはともかく生活の中で、なくてはならない存在となっている以上、人間はすでにデジタルに支配されていると言えなくもない。人工知能は今後ますます、想像を超えるスピードで進化し、人間が使っているのか使われているのか判らなくなってくるだろう。しかし、どこまで進化したとしても最後まで残る人間的なものは必ず存在すると信じたい。
    本書でも紹介されている映画『Her世界でひとつの彼女』は、人工知能の進化に対する示唆に富んでいて面白かった。ハスキーボイスなのが魅力的でズルい。

  • no.278
    2018/10/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか 池谷孝司/幻冬舎

    本書を読んで、一番衝撃的だった事実がこれだ。
    『教師の仕事は好きでした。でも、根本的なところで間違っていました。自分が権力を持っているなんて考えもしませんでした』
    問題行動を起こす教師の多くが、「自分に権力などない」と思っていた、と言うのだ。
    これには本当に驚かされた。教師が生徒に対して権力を持っているということなど、当然だろう。その認識を持てない、という時点で、教師としては失格ではないだろうか。しかし、その認識を持っていないという前提に立てば、問題行動を起こす教師の行動原理の一部は説明がつく。なるほど、彼らの理屈ではそうなっているのか、と感じさせられる。
    本書では、学校におけるセクハラの問題を取材し続ける著者が、その現状や解決策、問題行動を起こす教師への聞き取りなどをまとめた作品だ。学生が自分の身を守るために、親が子供を守るために本書は読んでおくべきだろう。そして何よりも、自分が問題教師にならないように、そして問題教師を止める教師でいるために、教師として教鞭をとっている人たちに、是非本書を読んでほしいと思う。

  • no.277
    2018/9/24UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    海について、あるいは巨大サメを追った一年 モルテン・ストロークスネス著・岩崎晋也訳/化学同人

    「白鯨」「老人と海」あるいは「グラン・ブルー」「ライフ・オブ・パイ」など、海はこれまでも様々な小説や映画の舞台となってきた。
    本書は巨大サメを釣ろうとするノンフィクションを軸に、話はあらゆる方向へと乱反射する。地球について、生命について、宇宙について、人間について、海について。それらの思索は謎の巨大サメの話とどこかリンクして、不思議に味わい深い読み物となっている。環境問題に触れる部分も文章は非常に乾いていて、俯瞰した事実を淡々と語る様子がいい。野生の動物番組などを見るともなしに見ていると、いつの間にか釘付けになっている事が多くなった。若い時には何とも思わなかった野生動物の生き方に感じ入るものがある。
    それにしても、海。その生命の源は、身勝手な人間の行動に何を思う。いや、おそらく何とも思ってはいないだろう。だが、気が付いた時にはもう、私たちはただ自然の法則に従うまでである。

  • no.276
    2018/9/24UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    さくらんぼ同盟 松宮宏/講談社文庫

    松宮宏の奇想は留まるところを知らない。
    本書は、要約するとこうだ。
    「腋から謎の物質が摘出される奇病が板橋で頻発するが、その謎の物質が超絶美味で、“さくらんぼ”と名付けられ、日本中を大混乱に陥れる」
    相変わらず松宮宏の作品は、要約すると「そんなんで物語として成立するのか?」と思わされるのだが、これがメチャクチャ面白いのだ。“さくらんぼ”が摘出される奇病、という発想だけで物語を成立させようとするのではなく、そこに輪をかけてぶっ飛んだ状況や人物をこれでもかと重ね合わせて、誰も予想出来ない展開を生み出していく。
    設定や人物造形には「あり得ない!」と感じてしまうが、しかし松宮宏はそれらを妙なリアリティで描き出すことで、説得力を醸し出す。だから、荒唐無稽なのに、どこか本当に起こった出来事であるかのように読まされてしまうのだ。
    不思議な作品である。

  • no.275
    2018/9/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ブレードランナーの未来世紀 町山智浩/新潮文庫

    いつも飲み屋で会う映画鑑賞上の師匠N氏に『ファントム・スレッド』を解説する著者の音声データを聴かせてもらったのをきっかけに本書を読んでみた。『ビデオドローム』『グレムリン』『ターミネーター』『未来世紀ブラジル』『プラトーン』『ブルーベルベット』『ロボコップ』そして、『ブレードランナー』が紹介されている。実際に監督へのインタビュー取材もして書いているのだか、語弊を恐れずに言ってしまえば、どの監督も完全に頭のイカレた変人であり、且つ全くもって天才だ。そしてそれを分析しようとする著者もまた同様である。
    興行的には成功しないと判っていながら、自身のこだわりと生き方全てをフィルムに焼き付ける。これを娯楽作品ではなく芸術と呼ぶのだろう。カルト・ムービーと言ってしまえばそれまでだが30年以上経って今なお語り継がれ、ファンを惹きつける映画とはまさに、芸術作品以外の何物でもない。『ブレードランナー』以降、新しい未来都市のイメージは生まれていないと書かれている。決して言い過ぎではないだろう。

  • no.274
    2018/9/17UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    くすぶり亦蔵 松宮宏/講談社文庫

    本書は、「秘剣こいわらい」シリーズではあるが、本書だけ読んでもまったく問題はない。
    しかし松宮宏は、どこからこんな物語を生み出すのか、まったく理解が出来ない。
    本書は、実にシンプルな物語だ。要約すると、「路上喫煙が禁止されているマンハッタンでタバコを吸い、何度も逮捕される無口な日本人」を描く小説、となるだろう。それで小説として成立するのか?と思うかもしれないが、これがまた滅法面白いのだ。
    主人公の樺沢亦蔵は、主人公なのに、作中でほぼ喋らない。彼がすることは、「マンハッタンでタバコを吸うこと」だけであり、それによってただ逮捕されるだけなのである。しかし、彼のその行動が、想像もしていなかった様々な事態を引き起こすことになる。その騒動が実に現代的で、だからこそこの荒唐無稽な物語にリアリティを感じられる人も多いだろうと思う。
    あり得ない奇想を物語に仕立て上げ、一気に読ませる作品を生み出す手腕は、ちょっと尋常ではない。

  • no.273
    2018/9/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    信長の原理 垣根涼介/KADOKAWA

    あるインタビューで著者は「『光秀の定理』が受け入れられたら、『信長の原理』『家康の条理』の三段構えを考えています」と語っている。歴史上の有名な人物の物語は基本的に大きなストーリーとしては初めからネタバレしているので、その事実をどう解釈するかだけになるが著者の作品は前作同様、今回も歴史に興味がある人にもない人にも十分に面白く読ませる内容になっている。個人的には松永弾正久秀の描写にシビれた。ともあれ、三段構えの最後をどのように締めくくるのかが、今から非常に楽しみである。
    本書については序文に記されている下記の文が最も的確に言い表していると思う。
    「私たちがいま住む世界についての理解はもともと不完全であり、完全な社会などは達成不可能なのだ。ならば、私たちは次善のもので良しとせねばならない。それは不完全な社会であるが、それでも限りなく改善していくことはできる社会である」――ジョージ・ソロス

  • no.272
    2018/9/11UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    八月十五日に吹く風 松岡圭祐/講談社文庫

    本書を読んで、今まで考えたこともなかったが、確かにその通りだな、と感じる疑問がある。それは、「何故日本は比較的平穏な終戦を迎えることが出来たのか?」ということだ。歴史を振り返ってみても、イラク戦争などの近代史も含め、戦勝国は敗戦国を苛烈に扱うことが多い。しかしその中にあって、第二次世界大戦においては、アメリカ軍は平和な占領政策を取った。終戦の直前に、原爆を投下するなどという無慈悲さを見せているにも関わらずである。
    その疑問に答えるのが本書だ。
    本書では、2つの物語が並行して描かれる。一つは、ロシアとアラスカに挟まれたベーリング海に浮かぶアリューシャン列島にある、周囲をアメリカ軍に取り囲まれたキスカ島に取り残された5000人の日本兵の救助作戦。そしてもう一つは、「源氏物語」を読んで日本に関心を持ち、アメリカ軍で日本語の通訳として従事する20歳の「ロナルド・リーン」の物語。この救助作戦と、後に日本に帰化した一人のアメリカ人の存在がなければ、日本の平穏な終戦はあり得なかった。
    日本が戦争に巻き込まれるかもしれない―そんな雰囲気をひしひしと感じさせる国際情勢にあって、戦争の記憶が薄れつつある我々が知っておくべき真実がここにある。

  • no.271
    2018/9/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ブラッド・メリディアン コーマック・マッカーシー著・黒原敏行訳/ハヤカワepi文庫

    『ノーカントリー』『ザ・ロード』『悪の法則』これらは現代のアメリカ文学を代表するひとり、本書の著者コーマック・マッカーシー原作の映画である。過酷で残酷な描写の内に、流れゆく時と不動の現実だけが残され、物語は何の逆転劇もなく幕を閉じる。これらはエンターテイメントでは決してなく、明らかに文学的叙事詩だ。
    その中に人は何を見るのか。
    受け容れ難くとも逃れようのない現実。どうもがいても絶対に取り戻すことのできない過去。時代の流れに抗う事などできず、古き良き時代に戻る事など有り得ない世界。悲観的な場面が繰り返され何の解決も見ることができないが、だからこそ、それらの事象は紛れもなく人生そのものであり、生きる事の本質を示唆しているのだと思う。
    どんな状況であれ人が生きるためには現在の事実を認め、今の一歩を踏み出さなければならない。そこには中途半端な“生きる意味”など役に立たず、もっと崇高で厳粛な“生”と“死”があるだけだ。
    万人にお勧めできるものではないが、読む者、観る者を選ぶ非常に重厚なテーマを持った作家であることは間違いない。

  • no.270
    2018/9/4UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    Ank:a mirroring ape 佐藤究/講談社

    「何故人類は言語を獲得したか?」という問いは、魅力的だ。人類ほど高度で多岐にわたる言語体系を獲得した種は、恐らく存在しない。しかし、何故人類だけが言語を獲得できたのかは分からない。僕にとっての謎はこうだ。言語は当初、思考のためというよりコミュニケーションのために生まれたはずだ。しかしそう考えると、二人以上の人類が同時に言語を獲得する、という状況を想像しなければならない。この点がどうにも自然な状況とは思えず、そこから先に思考を進めることが出来ないでいた。
    また、本書を読んで初めて知ったが、「ホモ・サピエンス」という人類の種には、他にもいくつか解明されていない謎がある。そして本書は、「何故人類は言語を獲得したか?」という謎も含め、それらの疑問に解を与えるミステリとなっている。
    チンパンジーの研究を行う鈴木望の物語と、京都で発生した謎の大暴動。2つの物語が結びつき、重なる時、「人類」の存在に内包された謎を解き明かす鍵が導かれる。本書で提示される仮説は、そのまま論文に出来るのではないかと思わせるほどの説得力を持つ、世界レベルの傑作だ。