さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.87
    2016/11/8UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    SFを実現する
    3Dプリンタの想像力 田中浩也/講談社新書

    3Dプリンタがメディアで報じられ始めた時、それは「今すぐ」未来を変えるかのような夢の技術として紹介された。著者はそんな状況を危惧して本書を執筆する。
    『現在、日本でのこの分野は、一方は実態のない、風評ベースの過剰な期待、もう一方は現状の3Dプリンタの実力に対する冷静な失望、という二極に大きく引き裂かれてしまっています。』
    本書では、現在のまだまだ未成熟な技術状態から可能な限り想像を巡らせ、「ものをつくる」上で3Dプリンタがどのようにして人間の思考や創作や感覚を変えうるかということについて論じている。ここで書かれていることは、技術の進歩ともに古びていってしまうかもしれないが、それよりも新たなビジョンやアティチュードを示したい。著者はそんな思いを本書に込める。
    携帯電話やインターネットが世界を激変させたのと同じだけの可能性を、3Dプリンタは持っているかもしれない。そんな希望を感じさせてくれる作品だ。

  • no.86
    2016/11/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    赤めだか 立川談春/扶桑社文庫

    立川談志という、50年に一人出るか出ないかと言われる落語の天才の弟子である談春が、弟子入りから真打ちになるまでの立川一家での修行時代を書いた作品だ。談春役を二宮和也が演じたことでも記憶に新しいだろう。
    立川談志は、硬直した落語協会を飛び出し、自ら「立川流」を創設する。どうやったら昇進出来るのか分からない落語協会の仕組みと違って、立川流はシンプルだ。
    「古典落語を50席覚えること」
    これが出来れば二ツ目に上がれる。そりゃあ弟子は必死で覚える。
    さて、立川流は、落語協会を飛び出しちゃったもんだから、寄席がない。落語家は寄席の手伝いをすることが修行みたいなもんで、前座は普通死ぬほど忙しいが、立川流の弟子はやることがない。談志の世話はしなくちゃならないが、それ以外は自分で何をすべきか考える。それが立川流。
    そんな立川流が生んだ天才の一人の、落語になるまでの道を描いたエッセイだ。

  • no.85
    2016/11/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    イカロスレポート 竹田真太郎/講談社

    新宿区の大学に通う、化学科の学生・坂崎基樹は、大学に入ってから「サイクリング同好会」に入り、そこでロードバイクに魅せられた。それは、恋愛とは無縁の生活だった。
    そんなある日のこと、高校時代の悪友・萩山から久々に連絡があった。彼は坂崎に、「人力飛行機を漕がないか?」と持ちかけるのだ。「航空機研究会」に所属する萩山は、いわゆる「鳥人間コンテスト」への出場のためのパイロットを探していたのだ。様々な事情から予定していたパイロットがダメになり、ロードバイクで鍛えた実績を見込まれてのスカウトだった。
    正直そこまで乗り気なわけではなかった坂崎だったが、とある事情から一変、全力で鳥人間コンテストのパイロットを目指すことになる…。
    青春小説の王道的展開でありながら、「鳥人間コンテスト」という一風変わったテーマがこの作品を普通の物語にはしない。甘酸っぱさとカッコよさが詰まった一冊だ。

  • no.84
    2016/11/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人生はいつもちぐはぐ 鷲田清一/角川ソフィア文庫

    ぐずぐずと思い悩み迷いまくりながらも、人は今を生きるために迷いを断ち切り、最後に残る何かを選択している。その決断の本気度は、言葉だけでなく全体の雰囲気として、思い悩んだ厚みの分だけ正確に周囲に伝わり、きっと未来の誰かに繋がっていく。職人の矜持であれば、その仕事が未来の同業者に対して恥ずかしい仕事はできないというように。今の私達は恥ずかしくない仕事をしていると言えるのかどうか。悩みは尽きる事がないが、ぐずぐずと考えている事にも一定の肯定を示してくれる本書は、私のようなぐずぐず人間にはありがたい。正直、よくわかる話とよくわからない話が半々ぐらいだったが、大事なことが書かれている本だと思う。

  • no.83
    2016/10/26UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    謎の独立国家
    ソマリランド
    そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア 高野秀行/本の雑誌社

    アフリカ東北部のソマリア共和国は、「崩壊国家」と呼ばれている。内戦により無政府状態が続き、国内は無数の武装勢力に埋め尽くされ戦国時代の様相を呈しているという。しかしその一角に、「ソマリランド」という奇跡のような地域がある。無政府状態の中で平和な独立国家を長年保っているだけでも凄いのだが、独自に内戦を終結させ、複数政党制による民主化に移行し、普通選挙により大統領選挙を行った民主主義国家だというのだ。
    ホントにそんな場所があるのだろうか?
    誰もやったことがないことに惹かれる著者は、ほとんどその存在が知られていない「ソマリランド」に乗り込むことに決める。
    そこで高野秀行は、ソマリア文化を決定づける「氏族」という概念を、恐らく世界中の誰よりも完璧に理解し、その上でソマリアの謎に迫っていく。高野秀行らしさが爆発しながら、学術的にも相当価値が高いだろうと思われる、驚異のノンフィクションである。

  • no.82
    2016/10/26UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    理性の限界
    不可能性・不確定性・不完全性 高橋昌一郎/講談社現代新書

    本書は、『理性』というキーワードで、政治・経済・数学・物理・哲学・宗教などありとあらゆる分野について書かれた作品だ。メインで描かれるのが、「アロウの不可能性定理」「ハイゼンベルグの不確定性定理」「ゲーデルの不完全性定理」の三つで、これだけ聞くと、それだけで拒絶したくなる、という人もいるだろう。
    しかし本書は、一風変わった形式が取られた作品だ。それが本書を、圧倒的に読みやすくしている。
    本書は、『論理学者』『科学主義者』『数理経済学者』『会社員』『学生A』と言ったような様々な人々が集う架空のシンポジウムという設定で、会話だけで構成されている。専門的な話も会話なら読みやすく、また『会社員』や『学生A』といった素人が素朴な疑問を出してくれるので、難しい話のはずなのにすいすい読めてしまう。書店で手に取ってどこでもいいから数ページ読んでもらえば、本書の魅力が伝わるはずだ。

  • no.81
    2016/10/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人ノ町 詠坂雄二/新潮社

    時代背景も場所も何の説明もなく始まるが、かつての繁栄が滅びた後の世界だという事は判る。主人公の旅人、名前は語られない。「風ノ町」「犬ノ町」「日ノ町」「石ノ町」「王ノ町」の5編から成り、全体で「人ノ町」という物語になっている。そこに描かれているのはシンプルな自然の摂理を背景に、いつの時代も変わらない人間そのものの姿だと思う。独特な雰囲気を漂わせながら語られるストーリーは、時に哲学的で思想的だ。人間の本質的な「業」に起因する進化も滅びも再生も、もしかするともっと大きな自然の、或いは宇宙の過程の一部分なのかもしれない。漫画『火の鳥』や映画『博士の異常な愛情』をちょっと思い出した。

  • no.80
    2016/10/26UP

    フェザン店・松本おすすめ!

    最後の秘境
    東京藝大 二宮敦人/新潮社

    21世紀―。
    世の秘境は世界の隅々まで探検しつくされたと言われている。

    しかし!
    最後の秘境は東京・上野に存在していたっ!!

    本書の著者・二宮敦人は「!」という人をくったようなタイトルでデビューした小説家だ。
    だがある時、身近に輪をかけて強烈なキャラクターがいることに彼は気づく。
    ……奥さんだ。

    NINOMIYA’s wifeは、なんとあの「最後の秘境」と巷間に流布されるTOKYO GEI DAIの住人だったのである!妻を人格にしてしまった秘境へ、旦那である二宮敦人は潜入を試みる。そこには秘境と呼ぶには生ぬるい、想像を絶する魔窟のような世界が広がっていた!

    ※本書はノンフィクションです。

  • no.79
    2016/10/18UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    紋切型社会
    言葉で固まる現代を解きほぐす 武田砂鉄/朝日出版社

    『本書全体に通底するテーマでもあるけれど、どこまでも自由であるべき言葉を紋切型で拘束する害毒は、正しい・正しくないを越えて駆除すべきだと思っている。つまり、あらゆる“こうでなければならない”から、言葉は颯爽と逃れていかなければならないと思う』
    本書では、「全米が泣いた」「なるほど。わかりやすいです」「うちの会社としては」「誤解を恐れずに言えば」「逆にこちらが励まされました」など、ある場面で必ず登場する「紋切型の言葉」を様々に取り上げながら、その背後に見える人間性、社会構造、時代背景などを鋭くあぶり出し、批評していく。舌鋒は恐ろしいほど鋭く、頭を使わずに放たれた言説や、世の中をコントロールするために放たれた頭の良い人たちによる言説を、マグロの解体ショーでも見るかのように著者の冴え渡った言葉で解体していく。何気ない言葉から、ここまで社会を切り取ることが出来るのかと、衝撃を受けた一冊だ。

  • no.78
    2016/10/18UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    新幹線をつくった男伝説のエンジニア・島秀雄物語 高橋団吉/PHP文庫

    戦勝国においてさえ「高速鉄道列車」という発想がない、そんな敗戦直後という時代に、『日本の車両技術は、島と松平によって、鉄道先進各国に大きく水をあけたのである』と著者が評す程とんでもない化け物のようなシステムだった新幹線を、その卓越した先見性と完璧なまでの合理性によって創り上げた伝説的なエンジニア・島秀雄についての評伝だ。
    『もし島秀雄が、国鉄にカムバックしなかったら…。今日の日本の鉄道は、大きく様変わりしていたにちがいない。』
    島秀雄は、そう言わしめるほどの圧倒的な存在だった。
    本書では、技術者として島秀雄がどんな歩みを辿ったのか、国鉄がどういう歩みの中で新幹線という途方もない計画を進行させたのか、島秀雄はどうして国鉄を去り、そしてまた戻ってきたのか、新幹線に至る技術的な歴史はどういう流れなのか、というような、島秀雄という男を中心軸に据えて、新幹線開発に至るまでの流れを追っていく。(平成28年10月現在出版社品切れ中)