さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.95
    2016/11/29UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    錯覚の科学 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ/文春文庫

    本書は、心理学の世界に衝撃をもたらし、教科書に載るようになった驚くべき実験を行い有名になった二人の心理学者による、日常的な6つの錯覚を扱った作品だ。
    彼らが行った実験は、「selective attention test」でYouTubeで検索すれば出てくる。その映像は、6人が2つのバスケットボールをパスしている映像だ。映像を見て、白いTシャツを着た3人のパス回しの回数を正確にカウントするように指示が出る。
    実際にやってみると本当に驚かされる。人間の感覚がいかにあてにならないかがよく分かる。
    人間の知覚や記憶がこれほどまでに曖昧で信頼の置けないものであるという事実は、社会全体でもっと共有されるべきだろう。本書を読むと、僕たちが「揺るがない前提だ」と感じていることがことごとくひっくり返される。人間の能力への誤った信頼や評価が、様々な誤解や悲劇を生む可能性を持っていると思い知らされる。

  • no.94
    2016/11/29UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    密室キングダム 柄刀一/光文社文庫

    かつて隆盛を誇ったマジシャンである吝一郎は、11年前に子供の頃に克服したはずの腕の麻痺が再発し、マジシャン稼業から足を洗っていた。しかしマジシャンとして復活公演を成功させ、さらにその後観客から50名を選び、自宅での第二部公演へと招待した。
    後ろ手に縛られた状態で、厳重に鍵を掛けられた棺桶に入れられ霊柩車に乗せられた一郎は、棺桶に仕込んだマイクで実況中継をしながら、吝邸の<舞台部屋>と呼ばれる部屋まで運ばれて行く。しかしうめき声がマイクから聞こえ始め、なんとか棺桶を打ち破って中に入ると、鍵の掛かった棺桶の中で吝一郎は杭に貫かれて死んでいた…。
    という事件から始まる、吝邸で起こる五つの密室事件を描いた作品だ。
    1200ページを超えるという超絶なボリューに手が出ない人も多いだろうが、まさにタイトルに恥じない傑作だ。5つの密室すべてに意味があり、恐ろしく美しく構成されている。(2016年11月現在品切中)

  • no.93
    2016/11/22UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    凍りのくじら 辻村深月/講談社文庫

    高校生の理帆子は、いつでも現実を醒めたような目で見ながら生きている。誰にも心を開くことのない、ちょっと醒めた女の子。5年前失踪した父の影響で理帆子もドラえもんが好きになり、かつて藤子・F・不二雄が「SF」を「少しフシギ」と言ったように、周りの人間を「少し◯◯」と評するのが好きだ。
    ある夏図書館にいると、「写真を撮らせてほしい」という青年に出会う。別所あきらと名乗ったその青年はひどく穏やかで、聞き上手だった。理帆子は、普段他人には決して見せない部分まで、別所には見せるようになっていった…。
    かつてこの本に、「どこかにきっと、あなたのことが書いてある」というコピーをつけて売ったことがある。理帆子を始め、ちょっと真っ当には生きられない者たちが描かれる物語だが、その中の誰かに強く共感してしまうのではないかと思う。
    僕は、理帆子にも別所にも若尾にも共感してしまうのだ。

  • no.92
    2016/11/22UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    圏外編集者 都築響一/朝日出版社

    本書は、「POPEYE」「BRUTUS」のアルバイトから始め、今に至るまでフリーの編集者として走り続け、誰からも給料をもらわず、ただ原稿料のみで40年間編集者を続けた著者が初めて語る、自身の編集の歴史や手法の話だ。
    冒頭で著者はこう言う。
    『この本に具体的な「編集術」とかを期待されたら、それはハズレである。世の中にはよく「エディター講座」みたいなのがあって、そこでカネを稼いでいるひとや、カネを浪費しているひとがいるけれど、あんなのはぜんぶ無駄だ。編集に「術」なんてない』
    そして編集者という仕事を、こんな風に評する。
    『編集者でいることの数少ない幸せは、出身校も経歴も肩書も年齢も収入もまったく関係ない、好奇心と体力と人間性だけが結果に結びつく、めったにない仕事ということにあるのだから』
    モノを生み出す人間、そしてそういう人間をサポートする人間。一般的には「編集者」と呼ばれないであろうそういう人たちにも読んで欲しい一冊だ。

  • no.91
    2016/11/15UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    マーケット感覚を身につけよう
    「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法 ちきりん/ダイヤモンド社

    本書は、ちきりん氏が「マーケット感覚」と名づけた、これからの世の中を生きていくのに必要とされる能力について、「それは一体どんな能力なのか?」「どうやって身につければ良いのか」について書かれた本だ。
    本書で「マーケット感覚」とは、こんな風に定義されている。
    【商品やサービスが売買されている現場の、リアルな状況を想像できる能力】
    【顧客が、市場で価値を取引する場面を、直感的に思い浮かべられる能力】
    これだと少し伝わりにくいだろう。それを補うために著者は冒頭で、「ANAのライバルは?」という問いを読者に投げかける。非常に面白いのでここの部分だけでも読んでみて欲しい。
    どんな仕事も、他者にモノやサービスを売る、ということで成り立っているはずだ。だからこそ著者の言う、『「自分は何を売っているのか」「何を買っているのか」について、意識的になること』が大事になる。あなたにはその意識があるだろうか?

  • no.90
    2016/11/15UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    預言者ピッピ 地下沢中也/イースト・プレス(コミック)

    ピッピは、科学者が総力を結集して作った、完璧な未来予測が出来る人工知能だ。日本の地震研究所で管理されており、地震予知だけにピッピを使う、という制約を科学者たちは頑なに守っていた。しかし様々な要因からピッピの力を最大限に解放せざるを得なくなる。制約を取り払われたピッピは、もはや人類には理解不能な“神”あるいは“怪物”へと変化していく…。
    『なぜ目の前の救えるものを救わないの?』
    ピッピの力を使えば、それまで不可能だったことが確かに可能になる。
    『我々には迷う自由も間違う自由だってあるはずなんだ。しかしそれすらなくなるよ。行う前にそれが充分間違いだとわかったなら。考える前に答えが出てしまったなら』
    しかしそれは、確定した未来をただなぞるだけの人生を歩むことと同じだ。
    選べるとしたら、あなたはどちらの未来を生きたいだろうか?

  • no.89
    2016/11/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    紙の城 本城雅人/講談社

    新聞社の話だが本屋や出版業界も同じ“紙の城”という事で、主観も交えながら後半は夢中で一気に読んでしまった。テレビ局と新聞社を相手にIT企業が買収劇を仕掛ける物語。「紙」対「ネット」はわかりやすい構図だが、新旧あらゆる価値観の相違はどんな企業、どんな商売でもあると思う。時代の変化に対応し道具や媒体は変わっても、売っているものの本質は正しく見極めなければならない。パッケージやシステムだけがどんなに素晴らしくても中身が伴わなければ長くは続かない。やっぱり最終的には人だよという話はこれまでもいろいろな所で聞いてきた。しかし、これからもそうあり続けると言い切れるのか。それでも、これからも人の力を信じ続けたい、そう思わせる物語だった。

  • no.88
    2016/11/8UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    理系の子
    高校生科学オリンピックの青春 ジュディ・ダットン/文春文庫

    『何年ものあいだ、科学者の頭をなやませていた問題を高校生が解決しているのです』
    アメリカには「サイエンス・フェア」と呼ばれる、主に高校生を対象にした科学コンテストがあり、その中でもトップクラスに優秀な研究が、「「インテル国債学生科学フェア(通称インテルISEF)」に登場する。賞金総額400万ドル(日本円で3億円以上)という破格のコンテストだ。
    本書には、凄い素材を開発し特許を五つ取得、年間で1200万ドルの売上を見込める会社を設立した高校生や、14歳にして核融合炉を作ってしまった少年、巨大企業デュポン社に挑戦しFBIから監視されるようになった少女など、ちょっと考えられないような少年少女が登場する。
    難しい科学の本ではない。科学的な話はほぼ出てこないと言っていい。本書は、少年少女たちの生い立ちや、何故研究を始めようと思ったのか、研究に関わる苦労や挫折など、『人』が描かれる作品だ。臆することなく読んで欲しい。

  • no.87
    2016/11/8UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    SFを実現する
    3Dプリンタの想像力 田中浩也/講談社新書

    3Dプリンタがメディアで報じられ始めた時、それは「今すぐ」未来を変えるかのような夢の技術として紹介された。著者はそんな状況を危惧して本書を執筆する。
    『現在、日本でのこの分野は、一方は実態のない、風評ベースの過剰な期待、もう一方は現状の3Dプリンタの実力に対する冷静な失望、という二極に大きく引き裂かれてしまっています。』
    本書では、現在のまだまだ未成熟な技術状態から可能な限り想像を巡らせ、「ものをつくる」上で3Dプリンタがどのようにして人間の思考や創作や感覚を変えうるかということについて論じている。ここで書かれていることは、技術の進歩ともに古びていってしまうかもしれないが、それよりも新たなビジョンやアティチュードを示したい。著者はそんな思いを本書に込める。
    携帯電話やインターネットが世界を激変させたのと同じだけの可能性を、3Dプリンタは持っているかもしれない。そんな希望を感じさせてくれる作品だ。

  • no.86
    2016/11/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    赤めだか 立川談春/扶桑社文庫

    立川談志という、50年に一人出るか出ないかと言われる落語の天才の弟子である談春が、弟子入りから真打ちになるまでの立川一家での修行時代を書いた作品だ。談春役を二宮和也が演じたことでも記憶に新しいだろう。
    立川談志は、硬直した落語協会を飛び出し、自ら「立川流」を創設する。どうやったら昇進出来るのか分からない落語協会の仕組みと違って、立川流はシンプルだ。
    「古典落語を50席覚えること」
    これが出来れば二ツ目に上がれる。そりゃあ弟子は必死で覚える。
    さて、立川流は、落語協会を飛び出しちゃったもんだから、寄席がない。落語家は寄席の手伝いをすることが修行みたいなもんで、前座は普通死ぬほど忙しいが、立川流の弟子はやることがない。談志の世話はしなくちゃならないが、それ以外は自分で何をすべきか考える。それが立川流。
    そんな立川流が生んだ天才の一人の、落語になるまでの道を描いたエッセイだ。