さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.148
    2017/5/16UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    流れとかたち
    万物のデザインを決める新たな物理法則 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン/紀伊国屋書店

    本書は、熱工学の世界的権威である著者が提唱している「コンストラクタル法則」について書かれたものだ。この法則自体は、僕の理解では説明することが難しい。
    法則自体をうまく認識することは難しいが、著者が提唱するこの法則は、科学の細分化された領域を無効にする、という点で非常に興味深い。地球上に存在するありとあらゆるものを「有限大の流動系」と捉えることで、その存在にシンプルな理由を与えることが出来る、と著者は主張している。
    またこの法則は、「存在理由」を説明する、という点でも面白い。例えば、「木というものが何故存在するのか?」は、これまでの科学では説明不可能だが、この法則ではそれに理由を与えることが出来る。
    理論自体は非常に難しいが、扱われている実例は興味深い。例えばこの法則は、「なぜ、短距離走は黒人が強いのに、水泳は白人が強いのか」を説明してしまう。今後この法則が、科学の世界で主流となる日が来るかもしれない。

  • no.147
    2017/5/9UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    戦争に
    チャンスを与えよ エドワード・ルトワック 奥山真司/文春新書

    理想論を声高に叫ぶのも必要な事だとは思うが、一方で見たくない現実を直視し、静かに選択をしなければならない時もあるだろう。世界情勢は複雑さを増して、対岸の火事どころの話ではなくなった。悲しい事だが人間の歴史の中で戦争が無くなった例はないので、平和を求めながら備えと戦略だけは必要だと思う。こういった議論は主義や信条などの話と混同され、話したり考えたりするだけでもタブーとなってしまうのはいかがなものか。いじめの問題でもそうだが、人類史上無くなった事のない問題に対しては、無くなることはないという前提でより現実に沿った議論や対策が必要だ。きれい事だけで本質を隠したりするのは最悪の結果を招く。本書の全てに賛成はできないが、考えさせられる一冊だった。

  • no.146
    2017/5/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ヒミズ 古谷実/講談社漫画文庫

    中学生である住田の夢は、「一生普通に暮らすこと」だ。自分に、超絶的な不幸も、超絶的な幸運もやってくるはずがない。だから、普通を目指す。あらゆる場面で、影のように、目立たず、ひっそりと生きていく。
    住田は既に、自分が人生をどうにか乗り切るだけの気力がないことを悟っている。はっきりとした理由があるわけじゃない。原因がはっきりしているならば、例えば、家庭環境にそのすべての原因があるのなら、原因をぶっ叩けばどうにかなる。でも、違う。それは目に見えないものだ。言葉に出来ないものだ。誰かに伝えられないものだ。
    そんな「漠然とした絶望」の象徴として登場するのが、住田の周囲に時々現れる「謎の怪物」だ。
    住田は、「手触りのある絶望」を増幅させることで、その「漠然とした絶望」を駆逐しようとする。狂気に囚われた住田が辿り着いた結論だ。
    もしかしたら自分もこんな人間になっていたかもしれない。この作品に漂う狂気は、読者にそんな気持ちを抱かせる。

  • no.145
    2017/5/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    みんなの映画100選 長場雄 鍵和田啓介/オークラ出版

    まず、表紙のイラストである。シンプルな線だけでこれほどの味を出せる絵はすごいし、絵だけでこれほどのイメージが湧いてくる映画の力も、改めてすごい。個人的に『レオン』は特別に好きな映画というわけでもないが、切なさが一発で伝わる、いい表紙だと思う。
    『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『インターステラ―』『ユージュアルサスペクツ』『グッドフェローズ』『パルプフィクション』『タクシードライバー』『リトルミスサンシャイン』『ニュー・シネマ・パラダイス』『パリ、テキサス』『ゴッドファーザー』『バッファロー’66』そして、『ルパン三世カリオストロの城』。思い出す度にまた観たくなる。ああ、やっぱり映画っていいなあ。

  • no.144
    2017/5/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    快晴フライング 古内一絵/ポプラ社

    元々水泳部が存在しなかった弓が丘第一中学校に水泳部を創設し、たった2年で各種大会で記録を生み出すまでの部活にしたタケルは、交通事故で死んでしまった。一人で泳ぐことにしか興味のなかった龍一は、タケルのような求心力もなく、顧問の柳田から愛好会に戻すと宣告されてしまう。不用意なひと言でさらに退部者を出してしまう結果になった龍一。売り言葉に買い言葉で顧問の柳田と約束してしまった、水泳部存続の条件。それは、市内で行われる水泳イベント・弓が丘杯のリレーで優勝することだった…。
    部員集めからスタートしなければならない龍一が弓が丘杯で優勝するなどほぼ不可能だろうが、彼らはその困難なミッションに挑む。この物語はそれだけではなく、ある人物の抱えている問題が同時並行で描かれ、水泳部の夢とその人物の夢がオーバーラップする形で物語が展開していく。生きづらさを抱えたまま全力で前に進もうする若者と、それをバックアップする面々の友情が熱い物語だ。

  • no.143
    2017/4/25UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    量子力学の解釈問題 コリン・ブルース/講談社 ブルーバックス新書

    近代物理学における一つの達成が量子論だろう。この理論がなければ精密機械が作れないと言われるほど実際的な理論でありながら、同時に、僕らが捉えている世界の見方を一変させてしまう奇妙な予測を様々に生み出す理論でもある。アインシュタインが「神はサイコロを振らない」と言ったり、シュレディンガーが「シュレディンガーの猫」というパラドックスを提示したりと、一般にも良く知られたエピソードも多い。
    量子論は、我々に物事の見方の転換を要求する。情報が光速を超えた速度で移動しているように見えたり、人間による観測行為が現象に影響を与えるように見えるなど、それまでの常識では捉えきれない現象が次々に現れる。
    量子論で最も解釈が難しいとされているのが、「量子の非局所性」「状態の収縮」の2つだ。本書はこの2つを、「多世界解釈」という、まさにSF小説のような捉え方で説明しようとする作品だ。文系の人には恐らく難しい作品だが、最先端物理学が捉えた奇妙な世界を楽しめる一冊である。(※2017年4月現在出版社品切中)

  • no.142
    2017/4/18UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    下手に居丈高 西村賢太/徳間文庫

    今更で恥ずかしながら、著者の本を初めて読ませていただいた。芥川賞作家のエッセイ集だが、かなり読む人を選ぶ種類の本だとは思う。個人的には、骨身を削るような文学的真剣さと、非常に律儀な駄目さ加減とが相まって、要するに相当面白かった。だが人にはなかなかお勧めすることが難しい。あまり大勢に支持されるような作風ではないだろうし、そうなったら面白さまで無くなってしまう。とにかく私がするべき最低限の支持のしかたは、著者の私小説をもっと読んでみることだと思っている。そしてそれらは図書館などではなく、当然のことながら購入だ。

  • no.141
    2017/4/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    江戸前
    通の歳時記 池波正太郎/集英社文庫

    高級食材などではなく、普通にある旬の食材でハッとさせられる味に出会う事がなかなか難しくなってきた。派手な味よりもそういった地味だけと深い味の方が良くなってきたのは年齢だけの問題かもしれないが、それを洗練と思うことにする。本書は味わい深い名エッセイとともに挿絵がまたいい味を出していて、なんとも言えない風情を味わえる。著者の時代小説にも漂う食通ぶりは、庶民感覚の中にあるさっぱりとしたものが多く、厭らしさが全くない。食に対する文化のひとつの形態としても読み継がれるべきだと思う。ちなみに本書は500円+税。他の嗜好品や娯楽、或いはスマホと比べてどうだろうか。正しいものに正しい金額を払わないと、やがて旨いものは根本からすべて無くなってしまう。

  • no.140
    2017/4/10UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    月3万円ビジネス
    非電化・ローカル化・分かち合いで愉しく稼ぐ方法 藤村靖之/晶文社

    本書は、非電化冷蔵庫や非電化除湿機など、電気を使わない非電化製品の発明を次々とする一方で、地方で仕事を創る塾を主催している有名な発明家である著者が、「月3万円しか稼げない」ビジネスで、いかに愉しく生きていくか、ということについて語った実践的な作品だ。
    グローバル経済に席巻されている現在、初期投資のために借金をして稼働率を上げるという発想は早晩立ちゆかなくなる。そうではなく、初期投資を出来る限りゼロにする、稼働率を上げようとしない、というやり方を徹底して、その中で、稼ぐこと自体を愉しみに変え、継続してやり続けることが出来ることを著者は重視する。
    月3万円ビジネスでどう生きるのかというスタンスや、様々な月3万円ビジネスの実例などに触れながら、「本当に豊かな生活とはどういうものか」について改めて考えさせる一冊だ。

  • no.139
    2017/4/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    血縁 長岡弘樹/集英社

    読みやすい文章の短篇集で、ストーリーだけを追うのであれば、ちょっとした時間の合間に読めてしまう。しかし、著者の本はちょっとゆっくり読むことをおすすめする。一篇読み終わったら一度本を閉じ、内容を最初からもう一度よく思い出してみてほしい。改めて考えると、実によくできている話だなあと感じる。名作短編ミステリーをいくつも書いている著者の本はすべて、ミステリーの中心が人の心に刺さる内容と直結しているものが多く、それによって深い余韻を残す。いやむしろ、活字に書かれていない部分を推し量る事こそが著者の描く中心なのかもしれない。