さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.135
    2017/3/21UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    生物と無生物のあいだ 福岡伸一/講談社現代新書

    生命とはなんだろう、という一見簡単そうな問いかけが存在する。
    あなたなら、どう答えるだろうか?
    この問いが、実はなかなかに難しいのである。
    DNAが発見されて以降、「生命とは、自己複製を行うシステムである」という定義が生まれた。これは現象を良く表しているようにも思えるが、しかしウイルスというのはこの定義には上手く当てはまらない。「自己複製能力」だけでは、生命を説明しきれない。
    著者は、「生命とは、動的平衡にある流れである」と定義し、「動的平衡」という新たな概念を生み出した。本書は、「動的平衡」とは何であり、著者がいかにしてその概念にたどり着いたのかを、科学者らしくない流麗な文章で綴られた作品だ。比喩が実に的確で、文章の端々から、素人にも伝わるように易しく説明しようという意識を垣間見ることが出来て、非常に読みやすい。生命というものについて改めて考えさせる一冊だ。

  • no.134
    2017/3/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    スエズ運河を消せ デヴィッド・フィッシャー/柏書房

    本書は、一人の偉大なマジシャンが、マジックの知識・技術を駆使して敵軍を翻弄するイリュージョンを戦場で行った、その記録だ。
    ステージマジシャンとして評価を得ていたジャスパーだったが、その状況に物足りなさを感じていた。軍隊で自分の能力が必ず活かせると確信していたジャスパーは、なんとか軍隊に潜り込み、カムフラージュ舞台という特殊なチームを作った。しかし実績がないから依頼がこない。彼らは、少ないチャンスをものにし、「アレクサンドリア港を移動させる」「スエズ運河を消す」と言った、不可能とも思えるミッションを次々と成功させる。戦車や銃ではなく、ダンボールやペンキで敵の目を欺き、「砂漠のキツネ」と恐れられたドイツ軍のロンメル司令官を相手に奇策を繰り広げたという、歴史に埋もれた史実を丹念に掘り起こした一冊だ。

  • no.133
    2017/3/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    合理的にありえない
    上水流涼子の解明 柚月裕子/講談社

    「確率的にありえない」「合理的にありえない」「戦術的にありえない」「心情的にありえない」「心理的にありえない」の5編からなる連作短編集。もうこのタイトルを見ただけでかなりそそられる。とある事情で弁護士資格を剥奪され公的な弁護士の仕事はできない主人公が、個人事務所で公にできない相談事を請け負う。明晰な頭脳と美貌を武器に法律で裁けない部分を裁く、現代版“殺さない”必殺仕事人といった感じの痛快エンターテイメントだ。著者はさわベス1位「慈雨」の柚月裕子さん。岩手県釜石市のご出身という事で、釜石市に縁の深いさわや書店としてはぜひとも応援したい。余談だが釜石ラーメンは細麺すっきり醤油味で懐かしい味がする。要するにうまい。

  • no.132
    2017/3/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    神の味噌汁 鬼頭誠司/秀和システム

    まず、オビに目が留まった。『人気外食ブロガー「うどんが主食」絶賛』・・・。意味がよくわからないと思いながら裏を見ると『全日本一人飲み協会推薦!』。ますますよくわからないが、当たり前のように書いてあるので一般的には常識なのかもしれない。そして出版社がパソコン書の秀和システム。全体的に妙な感じがする本だが、呼ばれたように読んだ。小説としてどうのこうのよりも、圧倒的な熱量を感じる。著者は飲食店の経営コンサルタントという事で、ご自身の経験と今までいろいろと見てきたものの集大成として、ひとつ完成させたのだろうと思う。本気で情熱を懸けて書いたという思いがビシビシと伝わってくる本だった。

  • no.131
    2017/3/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ご冗談でしょう、
    ファインマンさん R・P・ファインマン/岩波現代文庫

    ファインマンは、ノーベル賞も受賞した、ありとあらゆる分野にその功績を残す天才物理学者だ。しかし本書は、科学の難しい話が書かれた本というわけではない。科学の話はほとんど出てこないと言っていい。本書は、ファインマン自身が関わった様々なエピソードが語られる、ユーモラスなエッセイだ。
    科学の分野だけでなく、ありとあらゆる事柄に興味を持ち続けたファインマンは、サンバの時期にブラジルに行き難しい楽器をかじってみたり、ある国に行くのに相当真剣にその国の言葉を学んだり、まったく絵なんて描けなかったにも関わらず苦心して個展を開くまでになったりとパワフルに活動を続ける。イタズラも大好きなようで、いかにして人を騙すか、からかうかを様々な場面で試している。科学者、というイメージを一変させる無邪気でお茶目な姿を楽しんで欲しい。

  • no.130
    2017/3/14UP

    フェザン・店長江おすすめ!

    ニートの歩き方 Pha/技術評論社

    本書は、京大卒であり、それゆえ「日本一有名なニート」とも言われている著者が、自身の生き方や考え方を綴り、自分と同じような人間に、もっと楽な生き方があるよ、と示唆する作品だ。
    『世の中で一般的とされているルールや常識や当たり前は、世の中で多数派とされている人たちに最適化して作られている。少数派がそんなアウェイな土俵で戦っても負けるだけだ。無理して我慢しても意味がないし、向いていない場所からは早めに逃げたほうがいい。レールから外れることで自分と違う人種の人たちにどう思われようが気にすることはない』
    生きることに辛さを感じている人は、彼の考え方に触れてみるといいと思う。著者の考え方は、ポジティブに人生を生きている人には諦めや逃げにしか見えないことだろう。しかし、僕には、そういう風にしか生きられない人の気持ちが理解できる。あなたが感じている“無駄な”苦しみは、本書を読むことで解消出来るかもしれない。

  • no.129
    2017/2/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ソロモンの指環 コンラート・ローレンツ著 日高敏隆訳/ハヤカワ文庫NF

    人間が他の動物よりも高等とする根拠はどこにあるだろうか。脳が発達しているから確かにいろいろ考えるかもしれないが、それらによって自らの首を絞めている面もありプラマイゼロのような気もする。むしろ生物としては生まれて死ぬまで本能に従い、純粋にその生を全うする動物の方に賢明さと潔さを感じる。人間の考える科学も工学も医療も、あるいは哲学も生きがいも老後の不安なども、生命は生まれて死んでいくという循環の中においてはどれほどの貢献があるのか。全ての生物の中でヒトという一種族は、自分達で思っているよりたちの悪い部類に入ると、本書を読んで客観的総合的にそう思う。

  • no.128
    2017/2/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    わかりあえないことから 平田オリザ/講談社現代新書

    本書は、「コミュニケーション」をテーマとして、広い分野についての主張や提言がなされる作品だ。『コミュニケーション教育に直接携わる者として、そこに感じる違和感を中心に書き進めてきた』というように、著者は、劇作家であると共に、教育現場において「演劇をベースにしたコミュニケーション教育」を行っている。そんな著者が様々な実例や社会分析を元に、「コミュニケーション能力の欠如の問題の本質」を探り当て、そこに解決策を見出そうとする。
    本書を読むと、コミュニケーションの問題は個人の問題ではないのだ、ということが分かるだろう。子どもを取り巻く数々の環境の変化、それらが密接に結びついて、「コミュニケーション能力」が育ちにくい状況にある。だからこそ積極的に「コミュニケーション教育」を行っていくべきなのではないか、と提言していく。目からウロコの一冊だった。

  • no.127
    2017/2/21UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ジェリー・フィッシュ 雛倉さりえ/新潮社

    高校という箱庭の中で、純粋に美しいものを追い求める若者たち。おそろしいもの、はかないもの、みにくいもの、とうめいなもの。それぞれ美しさへの感受性は異なる者たちが、今目の前にある現実の中から、また望みようもなく限定的な選択肢の中から、「最善」ではなく「唯一」を選び出そうとする。若さ故の衝動と、若さ故の諦めが奇妙にないまぜになった5人の若者を描く、連作短編集だ。
    本書は、ぬるま湯のようなほどほどに満たされた日常の中で、捉えどころのない空白に気づいてしまった若者たちの物語だ。絶望的な境遇に生まれたわけでもない。日常に不安が渦巻くわけでもない。未来への希望が持てないわけでもない。しかしだからと言って、平穏なわけでもない。
    少女たちは、ある一定の平凡さを身にまといながら、緩やかに孤立する。世界の輪郭を狭めていく。そうする中で少女たちは、空白に気づく。その空白との関わり方が、若い感性によって絶妙に切り取られていく。

  • no.126
    2017/2/21UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    キネマの神様 原田マハ/文春文庫

    大企業で、課長としてシネマコンプレックス建設計画の中心的な役割を担っていた丸山歩は、ほんの些細なきっかけから、39歳にして会社を辞めざるをえなくなってしまう。ちょうどまさにそのタイミングで父が入院、父の仕事であるマンションの管理人の仕事を、一週間有給を取ると嘘をついて肩代わりすることになった。
    この父が、実に厄介な男なのだった。ギャンブル狂で借金に首が回らなくなっているが、80歳になった今も生き方を改めようとしない。しかしこの父が、紆余曲折を経て、「映友」という映画雑誌でライターとして記事を書くことになったのだ。
    自分の欲望にも人の気持ちにも真っ直ぐで、それでいて四角四面ということもなく、だらしないし適当だったりもする。母や歩に散々迷惑を掛け通しで、それでも80年間まるで変わらないまま生きてきた父が、物凄い波を呼び起こすことになる。その過程で起こる父親の変化に、主人公や母だけでなく読者も感動させられる。