さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.158
    2017/7/11UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ディスコ探偵水曜日 舞城王太郎/新潮社文庫

    この小説を読んで僕が伝えられることは、「舞城王太郎すげーなー!!」ということぐらいしかありません。ちゃんと最後まで全部読んだんですけど、正直、さっぱり意味がわかりません!(笑)
    でもこれ、褒め言葉だと思ってください!ストーリーにはまったくついていけないんだけど、「理解したい!」「楽しみたい!」って思える作品なんです。後半になればなるほど、主人公が一体「いつ」「どこで」「何を」しているのかすらさっぱり理解できなくなってくるんだけど、それでも「読みたい!」っていう気分にさせられちゃうんだよなぁ。不思議な作品だし、舞城王太郎っていうのも不思議な作家だなと思います。こういう物語をちゃんと理解して評価できる人になりたいなと思うし、でも理解できなくても楽しいと思わせられるのってホントの才能なんじゃないか、と思ったりもします。

  • no.157
    2017/7/4UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ソハの地下水道 ロバート・マーシャル/集英社

    戦時中、14ヶ月も地下水道に隠れ続けた、ユダヤ人たちの実話だ。
    1943年。ポーランドのルヴフという町に住むユダヤ人は、ドイツ軍により徹底的に残虐な扱いを受けていた。ホロコーストである。ドイツ軍の上官の気まぐれで人が殺されていく。理由もなく、意味もなく、順番もなく、ひたすら殺戮が繰り広げられる日々。ユダヤ人たちは、自らの持てるものと知力を振り絞ってどうにか自分の身を、そして自分の家族を守ろうと努力したが、しかしそれは微々たる影響しか与えなかった。
    ユダヤ人たちは、地下水道に潜伏する計画を立て、慎重に実行に移した。しかし予期せぬ出来事が次々と起こる。まず、下水道の管理人をしているポーランド人のソハに見つかってしまう。ソハは地下水道にいるユダヤ人のことを密告すれば大金を手にできる立場だ。しかし彼らはソハを信用するしかない。さらに不測の事態により、当初の計画より遥かに多い人数で地下水道に潜伏することになり…。
    人間の恐ろしさ、そして歴史が持つ力をまざまざと見せつけられる作品だ。

  • no.156
    2017/6/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    絶叫委員会 穂村弘/ちくま文庫

    歌人として活躍する著者は、本書をこんな風に捉えています。
    『名言集的なものをやってみようという意図で始めたのですが、実際に書き進むうちに、名言というよりはもう少しナマモノ的な「偶然性による結果的ポエム」についての考察にシフトしていきました。』
    本書には、瞬発力的なインパクトで惹きつけるものや、一瞬わからないけどじわじわくるもの、言葉としての使われ方がどうなんだろうと疑問を感じさせるものなど色んな言葉が登場します。そういう言葉に対して、言葉に対して独特の感覚を持つ著者が独自の視点で突っ込んだり、自分なりの違和感を表明したりしながら進んでいく作品です。
    美容院でよく聞く「おかゆいところはございませんか」や、トイレの張り紙でよく見かける「いつもきれいにご利用いただきありがとうございます」など誰もが知っているものや、あるいは著者の周辺で発せられた言葉など、様々な「ひっかかる言葉」を通じて、言葉に対する感度を高めていける一冊です。

  • no.155
    2017/6/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    花の命は
    ノー・フューチャー ブレイディみかこ/ちくま文庫

    シビれた。美しい一文も、カッコイイ言葉のひとつも出てこない。にもかかわらず、である。96年より英国ブライトン在住の著者による、ハードボイルド・ビターエッセイとも言うべき作品集。恥ずかしながら著者について何も知らず、ただ単に表紙買い、というよりタイトル買いであった。第一章の一発目にタイトルの表題作があるので、まえがきから2~3ページだけでも、試しにぜひ読んでみてほしい。それはそうと、こういう表紙買いのインスピレーションは、やはりほどよい広さの本屋に限る。新たな価値を発見する確率が高いからである。ネットだとその逆のパターンが多いように思われる。根拠はない。が、そう思う。

  • no.154
    2017/6/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    放浪の天才数学者
    エルデシュ ポール・ホフマン/草思社文庫

    奇人変人の多い数学者の中でも、とびきりの変人と言われるのがこのエルデシュだ。定住地を持たず、世界中の数学者の家に寝泊まりしては放浪を続けた。所持品は汚いカバン半分ほどしかなかった。よく浮浪者と間違われ、また極度の方向音痴だった。生活に関するあらゆることに疎く、彼と生活したことのある人間は皆、何らかの迷惑を被った。しかしそれでも彼は愛され続けた。
    エルデシュは、数学者としてももちろん凄い。共著者400人以上、書いた論文1000本以上という驚異的な数字で、しかもその論文のどれもが素晴らしいものだという。過去ありとあらゆる数学者の中で、書いた論文はあのガウスに次いで多いらしい。数学者は40代で一線を引退すると言われるが、エルデシュは83歳で生涯を終えるそのまさに直前まで数学漬けの生活を送っていた。何よりも、若い数学者を育て続けた生涯だった。
    数学そのものについての記述は少なく、一人の奇人についての自伝として、数学が苦手な人にも面白く読める一冊だ。

  • no.153
    2017/6/13UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    星を継ぐもの J・P・ホーガン/創元推理文庫

    火星や木星に探査船を送れるようになった2020年代の終わり頃、アメリカのとある機関が月の探査中、死後5万年以上経過している人類の死体を発見した。チャーリーと名付けられたその死体は様々な謎を呼ぶ。5万年前と言えば原始時代だ。当然人類はまだ月に行ける文明などない。ありとあらゆる専門家がこの謎を解こうと集結するが、さらに驚くべき発見が待っていた。なんと木星の衛星であるガニメデから、地球の物ではありえない宇宙船が発見されたというのだ…
    SF作品だけど、同時にミステリでもあります。それも非常にスケールの大きなミステリです。しかも、謎の解明が至ってシンプル。「SFはちょっと…」と思っている方、騙されたと思って読んでみてください。本格ミステリが好きな方だったらまず嵌まると思います。僕は外国人作家の作品があまり得意ではありませんが、一気読みでした。

  • no.152
    2017/6/6UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    世の中それほど
    不公平じゃない 浅田次郎/集英社文庫

    言いたい放題の多様な価値観が完全に情報過多の現代。はっきりと正面切って筋を通し、当たり前の事を当たり前だと大声で言ってくれるような清々しさが本書にはある。人生相談だが、『週刊プレイボーイ』誌上での企画なので、「よくこれを浅田次郎氏に聞けるな!」と思うばかばかしいものもあり、それはそれで面白い。若手編集者太郎さんとの掛け合いという構成で、この太郎さんの聞き方というか引き出し方も素晴らしいと思う。伊集院静氏「悩むが花」、内館牧子氏「心に愛、唇に毒」、佐藤愛子氏「九十歳。何がめでたい」なども竹を割ったような気持ちのいい主張の中で、物事の本質を衝いている。作家というのはやっぱり凄いなと改めて思う。

  • no.151
    2017/6/6UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ヒトゲノムを
    解読した男
    クレイグ・ベンター自伝 クレイグ・ベンター/化学同人

    クレイグ・ベンターは、世界で初めてヒトゲノムを解読した科学者として知られている。ヒトゲノムの解読競争は当時熾烈を極め、その聖杯を掴むことは科学者にとって栄誉なことだった。彼はその聖杯を掴んだが、しかしそこに至るまでの道のりは、数々の妨害と不運が度重なる、波乱万丈のものだった。
    EST法という、現在の遺伝子解析の主流となる手法を自ら開発しながら、当時は独創的な手法過ぎて誰にも認められなかったこと。所属する研究所との軋轢。そして、DNAの二重らせん構造の発見者の一人であり、科学界の重鎮であるジェームズ・ワトソンとの対立など、常に苦難の連続だった。自らの利益より、科学の進歩を常に最優先に考えていた一人の高潔な科学者の波乱の人生を自らの手で記した作品だ。

  • no.150
    2017/5/30UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    寄生虫なき病 モイセズ・ベラスケス=マノフ/文藝春秋

    本書は、次のような疑問に答える作品である。
    【なぜ自己免疫性疾患やアトピーなどの病気は、発展途上国ではほとんど見られず、先進国でここ最近急増しているのか?】
    【なぜ兄弟がいる子は、長男よりも喘息やアトピーになりにくいのか?】
    【花粉症にかかる人間はなぜ、先進国の富裕層の人間からだったのか?】
    【世界の人口の1/3の人間が未だに寄生虫に感染しているのに、症状が出ることはほとんどない。寄生虫は一体人間の体内で何をしているのか?】
    これらすべてを包括的に説明する、従来の学説とは矛盾するある考え方が、ここ最近真面目に研究され始めている。それが、《人間は、寄生虫や腸内微生物を失ったがために、免疫関連疾患に冒されるようになった》というものだ。
    本書は、この仮説を裏付ける様々な実験を紹介しながら、何故寄生虫や微生物が様々な病気の発現を防ぐのか、人類と「腸内細菌叢」との関わり方はどうなっているのかなどついて深く考察する。

  • no.149
    2017/5/23UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    料理狂 木村俊介/幻冬舎文庫

    容易に真似のできるものではないが、天才シェフたち10名の修業時代の苦労話や次世代に向けてのアドバイスが聞き語り形式でまとめられている。あらゆる失敗談から仕事に対する姿勢や生き方までが惜しげもなく語られている。業界の先頭集団を走り抜け、酸いも甘いも噛み分けた年代だからこそ言える重みと説得力のある言葉が続く。それぞれの視点や方法論は違えども、共通して言えるのはもの凄い情熱とハードワーク。そして一発当てる事よりも継続する事の難しさや基本の大切さなど、意外とベーシックな中にこそプロフェッショナルたる所以があるように思う。どんなビジネスでも生活でも、時代が違うとは言え多くの示唆を与えてくれる一冊だ。