さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.167
    2017/8/15UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 松永和紀/光文社新書

    本書はまさにタイトル通りの作品です。メディアが健康情報や科学的な知識を、いかに間違った形で報道しているのか、ということについて、具体例を山ほど挙げながら啓蒙している作品です。東日本大震災の時にも、あるいは豊洲新市場の時にも、様々な形で情報が出ましたが、それらが本当にどのぐらい危険なのかは、結局受け手である僕らが正しく判断する知識を持つしかありません。
    今の世の中、誰でも情報の送り手になることが出来ます。だからこそ、テレビや新聞といった権威ある情報を信じたくなる気持ちも分かります。しかし、テレビや新聞がそう言っているから、というだけでその情報を信じるスタンスは、あなたを正しい判断へは導かないでしょう。情報を読み解き、科学の基本的な知識を持つことで、情報の真偽を判断する能力が求められる時代に僕たちは生きています。本書を読んで、どんな風に僕らが情報に騙され得るのか、まずはそれを理解していきましょう。

  • no.166
    2017/8/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    火山のふもとで 松家仁之/新潮社

    舞台は、村井設計事務所という、こじんまりとした小所帯の設計事務所だ。フランク・ロイド・ライトの元で学んだことがある所長・村井俊輔を筆頭に、とても気持ちのよい雰囲気の中でみな仕事をしている。
    大きな仕事を請け負わず、個人の注文住宅を主な仕事にしていた村井俊輔は、世間で名の知れた建築家というわけではなかったが、しかしその設計に魅了された人からの注文は絶えなかった。同時に、村井俊輔に師事しようと、事務所の門を叩く者も多かったが、その道はほとんど閉ざされていると言ってよかった。その類まれな例外が、本書の主人公である坂西徹だ。とある事情で人手が必要になったのだ。それで、村井俊輔の姪である麻里子も、いつもより長く手伝いをすることになった。
    村井設計事務所は、夏になると、浅間山のふもとにある「夏の家」に事務所機能を移転する。そこで、何か不思議な演劇でも見ているかのように、ゆったりと麻里子との仲が深まっていく。
    デビュー作とは到底思えない、非常に重厚で手練た作品だ。とにかく雰囲気の良い小説で、どっぷりその世界に浸らせてくれる。ずっと読んでいたい小説だった。

  • no.165
    2017/8/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    あがり 松崎有理/東京創元社

    北の方のとある街にある蛸足大学(色んな学部が蛸足のようにあちこちに散らばっている大学)を舞台にした5編の短編が収録された連作短編集だ。理系大学の研究室が主な舞台になっているのだが、決して理解の知識がなければ理解できない作品というわけではない。理解の研究室は本書の中で「何かが起こりうる場所」、つまり「物語が始まる場所」として捉えられている。まさに科学の、そして人類の新たな発見が生み出される最先端である場である研究室という性質をくっきりと浮かび上がらせながら物語を生み出していく。そのスタンスがとても気持ちのいい作品でした。
    一番好きな作品は「不可能もなく裏切りもなく」だ。ここで出てくる「遺伝子間領域」に関する仮説も見事だったし、何よりも、おれと友人を取り巻く、本当に狭い世界でのどうにもならない関係性みたいなものが本当に素晴らしかった。その場に身を置いていない人間には到底届かない感情の深さみたいなものをほんの一瞬だけど見えるようにしてくれている感じが素晴らしいと思う。

  • no.164
    2017/8/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    息子と狩猟に 服部文祥/新潮社

    生きるとは何なのか、死とは何なのか。サバイバル登山家ならではのリアルさと、山をやる人特有の文学性とを合わせ持って物語の中に放たれている。命の循環。その自然観、死生観は短期的な物事の思考からは絶対に生まれ得ないものだと感じる。表題作「息子と狩猟に」と「K2」の二篇収録。万人受けする本ではないので、読むにはそれなりの覚悟が必要だ。

  • no.163
    2017/8/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    爆撃聖徳太子 町井登志夫/PHP文芸文庫

    本書の内容を一言で説明すれば、「小野妹子をパシリにした聖徳太子が、超大国・隋と無謀な闘いを繰り広げる」となるだろう。
    とにかくメチャクチャ面白い作品だ。
    聖徳太子は、実在すら疑われている歴史上の人物ではあるが、様々な伝説を残している有名人でもある。そんな聖徳太子の様々な伝説を、彼にある特異な性質を付け加えるだけでそのほとんどを説明してしまう。また、最初から最後まで奇人として描かれる聖徳太子だが、それは「隋と闘う」という要素があるからこそ成立するとも言える。当時、隋と闘おうなどと考える人間は、それこそ気が狂っていると思われても仕方がなかった。しかし、聖徳太子が隋を含めた世界をどう捉えているのかが明らかになると、今まで「奇人」としか見えなかった部分が氷解するような気分を味わうことが出来るだろう。
    元々理系の人間で歴史の知識なんてまったくない僕でも一気読みだった作品です。聖徳太子の造型がムチャクチャに感じられるだろうし、小野妹子のパシられっぷりが可哀想に思えるかもしれないけど、圧倒的な世界観と人物像で読ませる、圧巻の作品です。

  • no.162
    2017/8/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    名人に香車を引いた男 升田幸三/中公文庫

    最後の方に、今年6月に引退した加藤一二三さんの名前がちらりと出てくる。戦前から戦中・戦後と時代の大きな波にもまれながらも将棋の道を究めた伝説の人物、升田幸三。棋譜も載っているが、将棋を知らなくても自伝としてその生き様を読むだけで価値がある。

  • no.161
    2017/8/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    スタンフォードの
    自分を変える教室 ケリー・マクゴニガル/だいわ文庫

    本書のテーマは、「いかにして意志の力を高めるか」です。怠け癖があったり、止めたいと思っているのに止められなかったり、意志の弱さのせいで困難さを感じている人にとって、非常に有益な本です。
    この本では、絶対的な方法は提示されません。そうではなくて、「自分にあったやり方は自分で見つけてください、それを見つける手助けを私はします」というスタンスを著者は取ります。本書は、「やり方」を教えてくれる本ではなく、「自分にあったやり方を発見する方法」を教えてくれる本であるという点が非常に有益だと僕は感じました。
    新しいことを始めたいと思っているのに続かない人、やらなければいけないことをどうしても先送りしてしまう人、止めたいと思っていることをどうしても止められない人。そういう人は、一度本書を読んでみると良いでしょう。自分が正しいと思い込んでいることが、実は正しくないかもしれません。人間の本能や反射をきちんと理解して、それと対抗出来るように訓練を積めば、誰でも意志の強い人間になれるのではないか。そんな風に思わせてくれる一冊です。

  • no.160
    2017/7/18UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    遠くの街に犬の吠える 吉田篤弘/筑摩書房

    「つむじ風食堂の夜」の著者。いつもながら独特の雰囲気が漂う。著者の作品はいつも風を感じ、匂いを感じ、音を感じ、そこはかとなく懐かしい何かを感じる。装幀は著者自身の「クラフトエヴィング商會」。作中の写真も含め、やはりブックデザインも素晴らしい。とはいえ、派手ではない。

  • no.159
    2017/7/18UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    男の絆
    明治の学生からボーイズ・ラブまで 前川直哉/筑摩書房

    現代の日本社会では、「恋愛の延長線上に結婚がある」とか、「男は外で仕事、女は家庭を守る」というような、未だに根強く残り続けている考え方があります。そして多くの人がこれを、「日本古来の伝統的な考え方だ」と思っているだろうと思います。しかし本書を読むと、そのイメージは一変することでしょう。これら、現代まで残る恋愛観や結婚観の多くは、たかだか100年程度の歴史しかない、比較的新しい考え方なのです。そして本書は、その新しい恋愛観や結婚観によって、「男同士の関係性」がどう影響を受け、どうマイノリティに追いやられて行ったのかを明らかにしていきます。
    つまりこういうことです。「男同士の関係性」をマイノリティに貶める考え方は、たった100年程前に日本に根づいた考え方なのであり、そしてその歴史を詳らかにすることで、僕たちが無意識の内に「前提」として捉えている考え方を掘り下げていこう、ということです。「恋愛や結婚の当たり前」が覆される、という意味で、「男の絆」そのものに関心がない人にも是非読んで欲しい一冊です。

  • no.158
    2017/7/11UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ディスコ探偵水曜日 舞城王太郎/新潮社文庫

    この小説を読んで僕が伝えられることは、「舞城王太郎すげーなー!!」ということぐらいしかありません。ちゃんと最後まで全部読んだんですけど、正直、さっぱり意味がわかりません!(笑)
    でもこれ、褒め言葉だと思ってください!ストーリーにはまったくついていけないんだけど、「理解したい!」「楽しみたい!」って思える作品なんです。後半になればなるほど、主人公が一体「いつ」「どこで」「何を」しているのかすらさっぱり理解できなくなってくるんだけど、それでも「読みたい!」っていう気分にさせられちゃうんだよなぁ。不思議な作品だし、舞城王太郎っていうのも不思議な作家だなと思います。こういう物語をちゃんと理解して評価できる人になりたいなと思うし、でも理解できなくても楽しいと思わせられるのってホントの才能なんじゃないか、と思ったりもします。