さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.177
    2017/9/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    アナログ ビートたけし/新潮社

    北野武監督の映画は、セリフや説明のないシーンこそがリアルで最大の説得力がある。『あの夏、いちばん静かな海。』『ソナチネ』『キッズ・リターン』『HANA-BI』『ドールズ』…一番の核心部分は全て言葉ではなく、画だけで表現する事によって観る者は考えさせられ、より深く心に沁みる。
    本書は、著者の考え方やこだわりが随所に散りばめられた、シンプルな純愛小説である。
    映画でも本でもジャンルや評価などとは一切関係なく、北野作品をこれからもどんどん出してほしいと個人的には思っている。とにかく本書を読み終えた以上、目下の最大の楽しみは来月公開の映画『アウトレイジ最終章』を観に行くという事になっている。

  • no.176
    2017/9/25UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    カラスの親指 道尾秀介/講談社文庫

    かつて悪徳な金貸しに金をむしり取られ、さらにそのせいで妻を亡くしている武沢竹夫と入川鉄巳という二人の詐欺師は、ある日一人の少女と出会う。彼女も同じく、詐欺で生計を立てているようだ。成り行きで一緒に住むことになり、さらに同居人は増えていく。彼らは、ずっと後悔に囚われているある過去を払拭するために、壮大な計画を実行に移すのだが…。
    赤の他人同士が寄り集まって家族のように過ごしている、その生活の描写がまずとてもいい。辛い過去を抱えた面々が、お互いに寄り添うようにして生きる日々の描写に、色んな伏線が潜んでいるので侮れない。そして彼らが一世一代の大勝負に出てからのどんでん返しの連続は素晴らしい。正直、あんまり内容に触れられない作品なのだけど、詐欺師たちの物語なのに、心がじんわり暖まるような素敵な物語だ。

  • no.175
    2017/9/19UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    窮鼠はチーズの夢を見る/俎上の鯉は二度跳ねる 水城せとな/小学館フラワーコミックスα

    「窮鼠はチーズの夢を見る/俎上の鯉は二度跳ねる」水城せとな 小学館フラワーコミックスα
    シリーズ作なので、2作まとめて紹介します。
    この2作は、いわゆるBL(ボーイズラブ)と呼ばれるコミックです。えっ、じゃあ読まない、と思った方。もう少し待ってください。この作品は、普段BLを読まない人にも絶対に感動してもらえると、自信を持って勧められる一冊です。
    恭一と今ヶ瀬という二人の男の話です。今ヶ瀬は探偵事務所に勤めていて、たまたま高校時代に好きだった恭一の浮気調査をすることになります。浮気の現場を押さえた今ヶ瀬は、それをネタにして恭一と関係を持つ…。
    というところから始まる物語ですが、まさに「男同士の恋愛でなければ描けない純愛」と呼ぶべき作品です。今ヶ瀬は男が好きな、いわゆる「ゲイ」なのだけど、恭一は女性が好きな、いわゆる「ノンケ」です。そんな二人が、身を削るようなやり取りを繰り広げ、お互いを傷つけ合いながら、少しずつその距離を変えていきます。男女の恋愛では起こり得ない葛藤に次々とさいなまれる二人の愛に、あなたはのめり込むことでしょう。

  • no.174
    2017/9/12UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    風が強く吹いている 三浦しをん/新潮文庫

    一言で言えば、「ただ走るだけの小説」なんですけどね。なんでこんなに感動させられるんだろう。特に後半は、もうずっと泣きっぱなしという感じでした。
    清瀬灰二(ハイジ)は、竹青荘に10名揃う日を待っていた。竹青荘に住むのは、マラソンや長距離走など未経験の面々ばかり。そんな彼らがハイジの甘言に乗せられて、なんとあの箱根駅伝に挑戦することになってしまったのだ!7人の素人と1人の超ド素人、そして2人の経験者は、明らかに無謀とも思える挑戦にひた走ることになる…。
    いや、ムチャクチャな話なのはその通りなんです。こんなド素人集団で箱根駅伝を目指すとかあり得ないし、駅伝経験者が読んだら「んなアホな!」って描写の連続かもしれません。でも!グッとくるんですよ。僕はスポーツ全般に興味もないし、箱根駅伝も基本的に見ないんだけど、本書を読んだ翌年の箱根駅伝だけはちゃんと見たぐらい、この作品にはどっぷりハマりました。

  • no.173
    2017/9/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    愚者よ、
    お前がいなくなって
    淋しくてたまらない 伊集院静/集英社文庫

    著者の自伝的小説の傑作。登場人物が多く、その一人ひとりの人物になんともいえない人間的な魅力がある。そう思う人と思わない人がいるかもしれないが、非常に人間臭い愛すべき不器用な愚者たちの、高潔で駄目な格好良さ。
    AIがどんなに進化しようともこの複雑な感情は伝わるまい。

  • no.172
    2017/9/4UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    1491
    先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見 チャールズ・C.マン/NHK出版

    本書は、あるたった一つの質問に答えるための作品だ。
    著者はその質問に、コロンブスの大陸到着五百周年にあたる1992年に出会った。
    『コロンブスが到着したころの新世界はどんなところだったのだろう?』
    著者は学生時代、南北アメリカの歴史は、コロンブスがやってきた時から始まっているものと習った。それまでは、大した文明もなく、少数の原始的な人間たちが原始的な生活をしていたのだろう――著者を始め、大方のアメリカ人は、そのような認識でいた。
    本書は、その認識を覆す作品だ。
    著者自身は考古学者でも歴史学者でもなく、サイエンスライターだ。様々な研究者に話を聞くことでこの作品を書き上げた。だからだろう、思い込みや先入観のない、データや分析に裏打ちされた形で歴史を見ることが出来ているように思える。著者は、様々な研究から、コロンブスが到着した頃の世界は、もっと人口が多く、文明も栄えていたと書く。そしてこれらは、「多くの一般のアメリカ人さえ知らない歴史」なのだという。本書に載っている事柄が教科書に載る日も、そう遠くないのかもしれない。

  • no.171
    2017/9/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    母に歌う子守唄
    決定版 落合恵子/朝日文庫

    少し前に、当店の大池店長がIBCラジオで紹介していた一冊。いつもぼそぼそと話す店長はこの日、言葉を選びながら逡巡し、いつにも増してぼそぼそと話していた。話の内容はよくわからなかったものの、言葉以上にその真摯な迷いや複雑な想いまでもがラジオから伝わってきた。
    気になって読んでみると、誰もが例外なく身につまされ、やはり安易に解説できるものではなかった。外で読んでいる時は2~3ページの短いエッセイを最後まで読み切れず、人目を気にして一旦本を閉じ、溢れるものを封じ込めた箇所がいくつもある。
    この本に対し理路整然とはっきり語る事ができる人を、私は信用できない。大池店長の、言葉を詰まらせながらのぼそぼそが、本書に対する最も正しい姿勢だろうと思う。
    全く関係のない人ほど読んでおくべき本でもある。

  • no.170
    2017/8/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    分水嶺 笹本稜平/祥伝社文庫

    山、写真、オオカミ、笹本稜平。これで面白くないはずがない。小説の舞台、北海道大雪山系のトムラウシ周辺を学生時代に縦走した事がある。人の住む下界とは完全に別世界だと感じた思い出があるが、もう20年前になるのか…。野生動物の気配が濃厚に漂う領域に人が異物として入っているような感じが確かにした。観光地みたいになってしまった山も多い中で、人があまり入れない山は本来の自然そのものを感じさせてくれる。そんな山の感覚を思い出させる物語だった。
    ちなみにさわや書店の新しいブックカバーは、こういった山岳小説を読むにはベストなカバーだ。シンプル且つ重厚なデザインになっており、とても気に入っている。読書の秋、改めて宮澤賢治に取り組んでみようという方にもぜひお勧めしたい。さわやオリジナルの栞と共に、気分が高まる事間違いない。その色合い、質感、そして本と地域へのリスペクトを現物で確かめてほしい。

  • no.169
    2017/8/23UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    丸太町ルヴォワール 円居挽/講談社文庫

    これほどスリリングで興奮に満ちた小説も珍しい。
    大きく前後半で分けられるこの物語の前半は、城坂論語という青年が、屋敷に忍び込んだと思しきルージュと名乗る女性の腕を掴んだことから始まる。論語はルージュの正体を暴くべく、一見他愛もない会話から相手の素性を探ろうと知恵を絞った応酬が繰り広げられる。
    そして後半。ルージュと出会ってから3年が経ったある日、論語は「双龍会」と呼ばれる私的裁判の被告席に立つことになった。容疑は、祖父殺し。ルージュと会ったあの日、そぐ傍の部屋で祖父が亡くなっており、その殺害容疑が掛けられているのだ。
    論語は3年間、ルージュを探し回った。しかし見つからない。論語はこの裁判の中でルージュの存在を明らかにすることで、ルージュに近づく手がかりを探ろうとするのだが…。
    バレなければ嘘も捏造もなんでもあり、という「双龍会」もスリリングだが、たった二人が密室で話しているだけで物語が展開される前半部分も圧巻だ。こんなにどんでん返しを畳み掛けられるのか!と驚かされるほどの驚愕の物語です。

  • no.168
    2017/8/15UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    働く人のためのマインドフルネス 菱田哲也 牧野宗永/PHPビジネス新書

    全然関係のない話で恐縮だが、「悪の法則」という映画がある。これは小説家コーマック・マッカーシー脚本、リドリー・スコット監督の作品だ。このコーマック・マッカーシーという作家は、残酷なまでに人生の不可逆性を表現する事により、それゆえの儚い美しさ、かけがえの無さを浮き立たせる素晴らしい小説を書く。映画は裏社会に一歩足を踏み入れてしまった弁護士が、もうどうしようもない所まで追い込まれ苦悩する。
    しかし、ああすれば良かった、しなければ良かったなどと言ってみても意味は無いし、失ってしまったものはもう絶対に元には戻らない。現実を拒み続けて、より苦悩が深まってゆく。それでもなお生きてゆくためには、今起きている現在の事実のみを正確に認識し、それを現実として受け入れるしかない…。
    前置きが長くなってしまったが、本書は仏教の考え方で、自分の心の動きをコントロールする瞑想方法などが平易な文章で紹介されている。上記の映画で表現されている人間の苦悩と本書の内容の一部が似ていなくもないと感じたのは、映画があまりにも強烈に心に残っていただけなのかもしれないが、どうだろうか。あらゆる宗教や哲学、或いは文学やビジネスでさえ、突き詰めれば根底のどこかではつながっているのかもしれない。