さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.163
    2017/8/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    爆撃聖徳太子 町井登志夫/PHP文芸文庫

    本書の内容を一言で説明すれば、「小野妹子をパシリにした聖徳太子が、超大国・隋と無謀な闘いを繰り広げる」となるだろう。
    とにかくメチャクチャ面白い作品だ。
    聖徳太子は、実在すら疑われている歴史上の人物ではあるが、様々な伝説を残している有名人でもある。そんな聖徳太子の様々な伝説を、彼にある特異な性質を付け加えるだけでそのほとんどを説明してしまう。また、最初から最後まで奇人として描かれる聖徳太子だが、それは「隋と闘う」という要素があるからこそ成立するとも言える。当時、隋と闘おうなどと考える人間は、それこそ気が狂っていると思われても仕方がなかった。しかし、聖徳太子が隋を含めた世界をどう捉えているのかが明らかになると、今まで「奇人」としか見えなかった部分が氷解するような気分を味わうことが出来るだろう。
    元々理系の人間で歴史の知識なんてまったくない僕でも一気読みだった作品です。聖徳太子の造型がムチャクチャに感じられるだろうし、小野妹子のパシられっぷりが可哀想に思えるかもしれないけど、圧倒的な世界観と人物像で読ませる、圧巻の作品です。

  • no.162
    2017/8/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    名人に香車を引いた男 升田幸三/中公文庫

    最後の方に、今年6月に引退した加藤一二三さんの名前がちらりと出てくる。戦前から戦中・戦後と時代の大きな波にもまれながらも将棋の道を究めた伝説の人物、升田幸三。棋譜も載っているが、将棋を知らなくても自伝としてその生き様を読むだけで価値がある。

  • no.161
    2017/8/1UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    スタンフォードの
    自分を変える教室 ケリー・マクゴニガル/だいわ文庫

    本書のテーマは、「いかにして意志の力を高めるか」です。怠け癖があったり、止めたいと思っているのに止められなかったり、意志の弱さのせいで困難さを感じている人にとって、非常に有益な本です。
    この本では、絶対的な方法は提示されません。そうではなくて、「自分にあったやり方は自分で見つけてください、それを見つける手助けを私はします」というスタンスを著者は取ります。本書は、「やり方」を教えてくれる本ではなく、「自分にあったやり方を発見する方法」を教えてくれる本であるという点が非常に有益だと僕は感じました。
    新しいことを始めたいと思っているのに続かない人、やらなければいけないことをどうしても先送りしてしまう人、止めたいと思っていることをどうしても止められない人。そういう人は、一度本書を読んでみると良いでしょう。自分が正しいと思い込んでいることが、実は正しくないかもしれません。人間の本能や反射をきちんと理解して、それと対抗出来るように訓練を積めば、誰でも意志の強い人間になれるのではないか。そんな風に思わせてくれる一冊です。

  • no.160
    2017/7/18UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    遠くの街に犬の吠える 吉田篤弘/筑摩書房

    「つむじ風食堂の夜」の著者。いつもながら独特の雰囲気が漂う。著者の作品はいつも風を感じ、匂いを感じ、音を感じ、そこはかとなく懐かしい何かを感じる。装幀は著者自身の「クラフトエヴィング商會」。作中の写真も含め、やはりブックデザインも素晴らしい。とはいえ、派手ではない。

  • no.159
    2017/7/18UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    男の絆
    明治の学生からボーイズ・ラブまで 前川直哉/筑摩書房

    現代の日本社会では、「恋愛の延長線上に結婚がある」とか、「男は外で仕事、女は家庭を守る」というような、未だに根強く残り続けている考え方があります。そして多くの人がこれを、「日本古来の伝統的な考え方だ」と思っているだろうと思います。しかし本書を読むと、そのイメージは一変することでしょう。これら、現代まで残る恋愛観や結婚観の多くは、たかだか100年程度の歴史しかない、比較的新しい考え方なのです。そして本書は、その新しい恋愛観や結婚観によって、「男同士の関係性」がどう影響を受け、どうマイノリティに追いやられて行ったのかを明らかにしていきます。
    つまりこういうことです。「男同士の関係性」をマイノリティに貶める考え方は、たった100年程前に日本に根づいた考え方なのであり、そしてその歴史を詳らかにすることで、僕たちが無意識の内に「前提」として捉えている考え方を掘り下げていこう、ということです。「恋愛や結婚の当たり前」が覆される、という意味で、「男の絆」そのものに関心がない人にも是非読んで欲しい一冊です。

  • no.158
    2017/7/11UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ディスコ探偵水曜日 舞城王太郎/新潮社文庫

    この小説を読んで僕が伝えられることは、「舞城王太郎すげーなー!!」ということぐらいしかありません。ちゃんと最後まで全部読んだんですけど、正直、さっぱり意味がわかりません!(笑)
    でもこれ、褒め言葉だと思ってください!ストーリーにはまったくついていけないんだけど、「理解したい!」「楽しみたい!」って思える作品なんです。後半になればなるほど、主人公が一体「いつ」「どこで」「何を」しているのかすらさっぱり理解できなくなってくるんだけど、それでも「読みたい!」っていう気分にさせられちゃうんだよなぁ。不思議な作品だし、舞城王太郎っていうのも不思議な作家だなと思います。こういう物語をちゃんと理解して評価できる人になりたいなと思うし、でも理解できなくても楽しいと思わせられるのってホントの才能なんじゃないか、と思ったりもします。

  • no.157
    2017/7/4UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ソハの地下水道 ロバート・マーシャル/集英社

    戦時中、14ヶ月も地下水道に隠れ続けた、ユダヤ人たちの実話だ。
    1943年。ポーランドのルヴフという町に住むユダヤ人は、ドイツ軍により徹底的に残虐な扱いを受けていた。ホロコーストである。ドイツ軍の上官の気まぐれで人が殺されていく。理由もなく、意味もなく、順番もなく、ひたすら殺戮が繰り広げられる日々。ユダヤ人たちは、自らの持てるものと知力を振り絞ってどうにか自分の身を、そして自分の家族を守ろうと努力したが、しかしそれは微々たる影響しか与えなかった。
    ユダヤ人たちは、地下水道に潜伏する計画を立て、慎重に実行に移した。しかし予期せぬ出来事が次々と起こる。まず、下水道の管理人をしているポーランド人のソハに見つかってしまう。ソハは地下水道にいるユダヤ人のことを密告すれば大金を手にできる立場だ。しかし彼らはソハを信用するしかない。さらに不測の事態により、当初の計画より遥かに多い人数で地下水道に潜伏することになり…。
    人間の恐ろしさ、そして歴史が持つ力をまざまざと見せつけられる作品だ。

  • no.156
    2017/6/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    絶叫委員会 穂村弘/ちくま文庫

    歌人として活躍する著者は、本書をこんな風に捉えています。
    『名言集的なものをやってみようという意図で始めたのですが、実際に書き進むうちに、名言というよりはもう少しナマモノ的な「偶然性による結果的ポエム」についての考察にシフトしていきました。』
    本書には、瞬発力的なインパクトで惹きつけるものや、一瞬わからないけどじわじわくるもの、言葉としての使われ方がどうなんだろうと疑問を感じさせるものなど色んな言葉が登場します。そういう言葉に対して、言葉に対して独特の感覚を持つ著者が独自の視点で突っ込んだり、自分なりの違和感を表明したりしながら進んでいく作品です。
    美容院でよく聞く「おかゆいところはございませんか」や、トイレの張り紙でよく見かける「いつもきれいにご利用いただきありがとうございます」など誰もが知っているものや、あるいは著者の周辺で発せられた言葉など、様々な「ひっかかる言葉」を通じて、言葉に対する感度を高めていける一冊です。

  • no.155
    2017/6/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    花の命は
    ノー・フューチャー ブレイディみかこ/ちくま文庫

    シビれた。美しい一文も、カッコイイ言葉のひとつも出てこない。にもかかわらず、である。96年より英国ブライトン在住の著者による、ハードボイルド・ビターエッセイとも言うべき作品集。恥ずかしながら著者について何も知らず、ただ単に表紙買い、というよりタイトル買いであった。第一章の一発目にタイトルの表題作があるので、まえがきから2~3ページだけでも、試しにぜひ読んでみてほしい。それはそうと、こういう表紙買いのインスピレーションは、やはりほどよい広さの本屋に限る。新たな価値を発見する確率が高いからである。ネットだとその逆のパターンが多いように思われる。根拠はない。が、そう思う。

  • no.154
    2017/6/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    放浪の天才数学者
    エルデシュ ポール・ホフマン/草思社文庫

    奇人変人の多い数学者の中でも、とびきりの変人と言われるのがこのエルデシュだ。定住地を持たず、世界中の数学者の家に寝泊まりしては放浪を続けた。所持品は汚いカバン半分ほどしかなかった。よく浮浪者と間違われ、また極度の方向音痴だった。生活に関するあらゆることに疎く、彼と生活したことのある人間は皆、何らかの迷惑を被った。しかしそれでも彼は愛され続けた。
    エルデシュは、数学者としてももちろん凄い。共著者400人以上、書いた論文1000本以上という驚異的な数字で、しかもその論文のどれもが素晴らしいものだという。過去ありとあらゆる数学者の中で、書いた論文はあのガウスに次いで多いらしい。数学者は40代で一線を引退すると言われるが、エルデシュは83歳で生涯を終えるそのまさに直前まで数学漬けの生活を送っていた。何よりも、若い数学者を育て続けた生涯だった。
    数学そのものについての記述は少なく、一人の奇人についての自伝として、数学が苦手な人にも面白く読める一冊だ。