さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.193
    2017/11/21UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    前世への冒険 森下典子/光文社

    先に書いておく。僕は、前世だの超常現象だのと言った類のことは基本的には信じていない。それでも、この作品はメチャクチャ面白かった。
    著者も前世と言った類のことは基本的に信じていない。ある時取材で、京都に住む、前世が見えるという清水さん(仮名)という女性の元を訪れることになった。そこで彼女は、前世はルネサンス期に活躍したデジデリオという彫刻家だと言われる。清水さんの話は非常に具体的で、デジデリオの出生の秘密や、デジデリオに男の愛人がいたこと、そしてその愛人の愛称などまで語るのである。
    著者は早速デジデリオについて調査を開始する。しかし、日本にある資料をどれだけ調べても、清水さんが語るほど詳しい情報が載った資料がない。そこで著者は、イタリアまで行くことにする。そこで彼女は、清水さんの主張が正しいことを示す数々の資料に出会うのだが…。
    というような話です。
    僕は、清水さんが本当に前世が見える人なのだと信じたわけではない。しかし、この作品に描かれていること全体を、とても不思議な出来事として捉えていて、非常に面白く読んだ。

  • no.192
    2017/11/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    DIVE!! 森絵都/角川文庫

    高さ10メートルの飛び込み台から、
    時速60キロでダイブして、
    わずか1.4秒の空中演技で競う飛び込み競技。
    日本での競技人口がわずか600人と言われるこのマイナーな競技に魅了された子供達がいる。
    両親共にオリンピック出場経験を持つサラブレッドである高校生の要一を始め、まだ中学生ながら日々練習に取り組む知季・レイジ・陵が、ダイバーを養成するMDCに所属し、都内で唯一屋内ダイビングプールを有する辰巳国際水泳場で練習をしている。しかしMDCに存続の危機が訪れる。回避するには、翌年開催のオリンピックに選手を出すこと。中高生らしい悩みを抱えながらもそれでも飛び込みに力を注ぎ続ける子供達の、オリンピックを目指す長い道のりを描いた物語だ。
    ヒリヒリするような少年たちの熱と、そんな少年たちを指導する女コーチの関わり合いが見事な物語だ。結構な分量のある物語だが、一気読みだった。

  • no.191
    2017/11/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    オックスフォード&ケンブリッジ大学
    世界一「考えさせられる」入試問題 ジョン・ファーンドン 小田島恒志 小田島則子/河出文庫

    「あなたは自分を利口だと思いますか?」
    本書を読んで、はっきりしていることは2つ。ひとつは、私は絶対にオックスフォードやケンブリッジに入れないということ。そしてもうひとつ、この入試問題の質問は相当に「ムカつく」ということ。この場合の「ムカつく」は例えるならば、ビートたけし氏が半笑いで「バカヤロウ」と言うのと同じようなニュアンスである。
    短い質問の中に多くの問題とパラドックスが含まれており、問い自体が興味深い。

  • no.190
    2017/11/8UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    経済は感情で動く マッテオ・モッテルリーニ/紀伊國屋書店

    従来の経済学は、合理的に判断するヒト、というものを仮定して、それに基づいて様々な理論が組み立てられてきた。しかし実際は、現実の人間はそこまで合理的な判断をしているわけではない。確実に高い利益が得られるからと言って、必ずそちらを選択するとは限らない。例えば、今1万円あげるというのと、一週間後に1万1千円をあげるというのとでどちらを選ぶでしょうか?僕は、正直後者なんですけど、大半の人は前者だと答えるのではないでしょうか。一週間後に手に入る1万1千円よりは、すぐに手に入る1万円の方が価値が高い、と判断してしまうわけです。
    そういう、人間の曖昧な部分、合理的でない判断を組み込んだ経済理論を組み立てられないだろうか、ということで出来たのが行動経済学という分野です。
    本書を読めば、主婦がスーパーのチラシを見比べて1円でも安い商品を探してスーパーをはしごする理由も、宗教の勧誘が何故無料の雑誌を持ってやってくるのかということも分かります。なるほど、自分はこんな非合理的な判断に基づいて買い物をしていたのか、ということに気づける本です。

  • no.189
    2017/11/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    東の果て、夜へ ビル・ビバリー 熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリー文庫

    15歳の少年が主人公のクライムノベル。甘さは無い。明るい描写も無いに等しいが、読後なぜか爽快感が残る。主人公が旅の中で確実に何かを掴んだ様を感じるからだろう。

  • no.188
    2017/10/31UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    デフレの正体
    経済は「人口の波」で動く 藻谷浩介/KADOKAWA

    本書は、「100年に1度の不況」と言われる現代日本で、実際は何が起きているのかを、一般にも公表されているデータから事実を拾い集めることで示し、さらにそれにどう対処していくべきなのか、という提言が載っている作品だ。
    著者のスタンスは一貫している。それは、「絶対数」が分かるデータを分析するということだ。「◯◯率」というような数字(出生率や有効求人倍率やGDPなど)は、何を何で割っているのかをきちんと把握しないと意味が取れないし、その意味をきちんと取らないままで議論をしている人が多いと言う。そういう「◯◯率」ではなく、基本的に「全数調査」されている「絶対数」の分かるデータで日本を分析しましょう、という本だ。
    そうしてみると、いかに世の中を「空気」で捉えているのかが見えてくる。
    そんな風にして日本の問題を明らかにしていった著者は、その原因の多くを「生産年齢人口の激減と高齢者の激増」に求める。これが本書の核となる主張だ。要は、「働く世代の人口が減ってるから今日本はこんな風になっちゃってるんだよ」ということだ。
    経済にはまるで詳しくない僕でも非常に面白く読める一冊だった。

  • no.187
    2017/10/31UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    アンドロイドは
    電気羊の夢を見るか? フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫

    『ブレードランナー2049』は今すぐ劇場へ観に行くべき映画だと思う。1982年に公開された『ブレードランナー』。前作を完璧に引き継ぎながらも、全く新しいその世界観に圧倒された。その原点となるのが1968年発行の本書であり、全てのエッセンスはこの原作から派生している。
    今回の映画は前作よりも一段と深く濃く想像を遥かに超えていた。レプリカントと呼ばれる人造人間がさらに進化し、限りなく人間に近づいた時に於いてなお、「人間的」とは何を意味するのかを浮き彫りにし、観る者に問いかける。
    とにかく、たまには本屋に行くべきというのと同様に、映画館にもまた足を運ぶべきだ。自分に全然関係ないものであっても、身銭を切って紙の本を買い、劇場で映画を観るという行為そのものが、コストパフォーマンスでは計り知れない「人間性」を深化させてくれる。

  • no.186
    2017/10/25UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    都立水商! 室積光/小学館文庫

    ある文部省の役人の思いつきから生まれたと言われる都立水商。その名の通り、水商売について教える公立の学校だ。主人公の田辺は元々、都立の普通高校の教師だった。校長と教頭と、それぞれ別の理由で対立していたのだが、そのせいもあって、嫌がらせのように、都立水商への配属が決まった。他の教師も様々な理由で集まってきた。開校当時は新入生を確保することが何より急務だった都立水商は、今では誰もが知る学校となった。そんな高校に長きに渡って籍を置いた教師の回顧録だ。
    水商売を教える高校だって!?と侮ってはいけない。僕はこの作品に、「教育の理想」を見た。もちろん、現場の教師からすれば「こんなうまくはいかない」と言われるようなことばかりだろう。それでも、こういう理想が実現すればいい、と思える教育環境だと感じた。「何を教えるか」ではなく「どう教えるか」によって生徒と教師の関係を切り結ぶ。そんな当たり前のはずなんだけど教育現場から失われつつあるように思える理想が描かれている作品だと思う。

  • no.185
    2017/10/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    満願 米澤穂信/新潮文庫

    話の導入部分から文章が美しく、一気に物語世界へと引き込まれる。人間の深い陰影を感じさせる、大人の上質なミステリー六話収録。下記独占も納得の一冊。
    「このミステリーがすごい!」1位
    「ミステリが読みたい!」1位
    「週刊文春ミステリーベスト10」1位
    第27回山本周五郎賞受賞

  • no.184
    2017/10/17UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 ウェンディ・ムーア/河出文庫

    本作は、18世紀のイギリスに生きた、ジョン・ハンターという解剖学者の生涯を描いたノンフィクションです。このジョン・ハンターは、「ドリトル先生」や「ジキル博士とハイド氏」のモデルになった人物であると言われていて、帯には『奇人まみれの英国でも群を抜いた奇人!』とあります。
    僕はこの前情報を読んで、解剖医としては飛び切りの腕を持つのだけど死体にしか興味がなく気味悪がられている変人、というようなイメージを持ちました。でも実際は全然違いました。このジョン・ハンターという男は、まさに近代医療の基礎を作ったと言っても過言ではない男でした。解剖医としてだけではなく外科医や生物学者としても一流で、また周囲の人間にはかなり慕われていて、世間的な地位ももの凄く高かったようです。
    科学的とは言い難い治療法が蔓延する社会で、それまでの常識を一切信じずに、自ら仮説を立て検証するということを繰り返すことで近代的な治療法を確立した男の生涯に渡った闘いを描いています。信念を持って医学の向上に努め人生のすべてを捧げた男の生涯は素晴らしい。