さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.188
    2017/10/31UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    デフレの正体
    経済は「人口の波」で動く 藻谷浩介/KADOKAWA

    本書は、「100年に1度の不況」と言われる現代日本で、実際は何が起きているのかを、一般にも公表されているデータから事実を拾い集めることで示し、さらにそれにどう対処していくべきなのか、という提言が載っている作品だ。
    著者のスタンスは一貫している。それは、「絶対数」が分かるデータを分析するということだ。「◯◯率」というような数字(出生率や有効求人倍率やGDPなど)は、何を何で割っているのかをきちんと把握しないと意味が取れないし、その意味をきちんと取らないままで議論をしている人が多いと言う。そういう「◯◯率」ではなく、基本的に「全数調査」されている「絶対数」の分かるデータで日本を分析しましょう、という本だ。
    そうしてみると、いかに世の中を「空気」で捉えているのかが見えてくる。
    そんな風にして日本の問題を明らかにしていった著者は、その原因の多くを「生産年齢人口の激減と高齢者の激増」に求める。これが本書の核となる主張だ。要は、「働く世代の人口が減ってるから今日本はこんな風になっちゃってるんだよ」ということだ。
    経済にはまるで詳しくない僕でも非常に面白く読める一冊だった。

  • no.187
    2017/10/31UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    アンドロイドは
    電気羊の夢を見るか? フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫

    『ブレードランナー2049』は今すぐ劇場へ観に行くべき映画だと思う。1982年に公開された『ブレードランナー』。前作を完璧に引き継ぎながらも、全く新しいその世界観に圧倒された。その原点となるのが1968年発行の本書であり、全てのエッセンスはこの原作から派生している。
    今回の映画は前作よりも一段と深く濃く想像を遥かに超えていた。レプリカントと呼ばれる人造人間がさらに進化し、限りなく人間に近づいた時に於いてなお、「人間的」とは何を意味するのかを浮き彫りにし、観る者に問いかける。
    とにかく、たまには本屋に行くべきというのと同様に、映画館にもまた足を運ぶべきだ。自分に全然関係ないものであっても、身銭を切って紙の本を買い、劇場で映画を観るという行為そのものが、コストパフォーマンスでは計り知れない「人間性」を深化させてくれる。

  • no.186
    2017/10/25UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    都立水商! 室積光/小学館文庫

    ある文部省の役人の思いつきから生まれたと言われる都立水商。その名の通り、水商売について教える公立の学校だ。主人公の田辺は元々、都立の普通高校の教師だった。校長と教頭と、それぞれ別の理由で対立していたのだが、そのせいもあって、嫌がらせのように、都立水商への配属が決まった。他の教師も様々な理由で集まってきた。開校当時は新入生を確保することが何より急務だった都立水商は、今では誰もが知る学校となった。そんな高校に長きに渡って籍を置いた教師の回顧録だ。
    水商売を教える高校だって!?と侮ってはいけない。僕はこの作品に、「教育の理想」を見た。もちろん、現場の教師からすれば「こんなうまくはいかない」と言われるようなことばかりだろう。それでも、こういう理想が実現すればいい、と思える教育環境だと感じた。「何を教えるか」ではなく「どう教えるか」によって生徒と教師の関係を切り結ぶ。そんな当たり前のはずなんだけど教育現場から失われつつあるように思える理想が描かれている作品だと思う。

  • no.185
    2017/10/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    満願 米澤穂信/新潮文庫

    話の導入部分から文章が美しく、一気に物語世界へと引き込まれる。人間の深い陰影を感じさせる、大人の上質なミステリー六話収録。下記独占も納得の一冊。
    「このミステリーがすごい!」1位
    「ミステリが読みたい!」1位
    「週刊文春ミステリーベスト10」1位
    第27回山本周五郎賞受賞

  • no.184
    2017/10/17UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 ウェンディ・ムーア/河出文庫

    本作は、18世紀のイギリスに生きた、ジョン・ハンターという解剖学者の生涯を描いたノンフィクションです。このジョン・ハンターは、「ドリトル先生」や「ジキル博士とハイド氏」のモデルになった人物であると言われていて、帯には『奇人まみれの英国でも群を抜いた奇人!』とあります。
    僕はこの前情報を読んで、解剖医としては飛び切りの腕を持つのだけど死体にしか興味がなく気味悪がられている変人、というようなイメージを持ちました。でも実際は全然違いました。このジョン・ハンターという男は、まさに近代医療の基礎を作ったと言っても過言ではない男でした。解剖医としてだけではなく外科医や生物学者としても一流で、また周囲の人間にはかなり慕われていて、世間的な地位ももの凄く高かったようです。
    科学的とは言い難い治療法が蔓延する社会で、それまでの常識を一切信じずに、自ら仮説を立て検証するということを繰り返すことで近代的な治療法を確立した男の生涯に渡った闘いを描いています。信念を持って医学の向上に努め人生のすべてを捧げた男の生涯は素晴らしい。

  • no.183
    2017/10/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    侠飯 福澤徹三/文春文庫

    「おまえはゆうべ、自分にむいた仕事を見つけたいっていってたな」
    「――はい」
    「仕事ってのは、飯食うためにやるもんだろうが」
    「まあ、そういう部分もありますけど――」
    「なら、自分が仕事にむくようになるのが筋なんじゃないか」(本書より)

    タイトルから男のグルメ小説と思われるかもしれないが、本書は物語を通して「働く」という事の本質を言っている。料理の話をスパイスにする事で、仕事に対する厳しい意見が説教臭くならずに、不思議と清々しい後味を残す。シリーズ最新刊の4巻目は「魅惑の立ち呑み編」。

  • no.182
    2017/10/10UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ソロモンの偽証 宮部みゆき/新潮文庫

    この長い物語を短く紹介するのは難しい。細部を取り払ってざっくり説明すると、この物語は「中学生が裁判を起こす」という話だ。しかし、中学生が現実の裁判所に対してアプローチをして裁判を開かせる、というような話ではない。彼らがやろうとしていることは、『中学生の被害者』を追い詰めたという容疑を掛けられている『中学生の被疑者』を、『中学生の検事』が追究し、『中学生の弁護人』が擁護し、『中学生の裁判官』が裁定しつつ、『中学生の陪審員』によって評決が下されるという、非常にざっくりとした表現をすれば【裁判ごっこ】をやろうとするのだ。もちろん、『ごっこ』なんて表現できるような生ぬるいレベルではない。それが、この物語に凄まじさを与えているのだが。
    正直これだけの長さの物語には、なかなか手が出なかった。それに、「これだけ長い分量を費やせばなんだって書けるだろうし、ズルい」という感覚もあった。しかし、読んでみてすべてが一変した。もう止められないぐらいの一気読みだったし、「この物語にリアリティを与えるにはこれぐらいの分量がどうしても必要だったのだ」と理解できた。凄い物語だ。

  • no.181
    2017/10/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ヒトは「いじめ」を
    やめられない 中野信子/小学館新書

    ヒトの集団において大なり小なり必ず存在する「いじめ」を脳科学の見地から分析する。今までゼロになった例がないとすれば、ヒトはそういう生き物であるという事をまずは認め認識し、対策を考えなければならない。脳科学的には「愛情」や「正義感」「仲間意識」などを司る部分と「いじめ」が表裏になっているという。ものの善悪とは何か。学校では善の中にある悪、悪の中にある善を学ぶべきで、そこから自分自身を見つめ返す「メタ認知力」を高めるのが肝要との事。大人でも子どもでも同じ事が言えると思うので、関係者ならずともぜひご一読をお勧めしたい。
    全然関係ない話で申し訳ないが、「マルホランド・ドライブ」という映画は、いつも飲み屋でお会いするN氏の解説よると、パラレルワールドがメタ的に入り混じる描写の最高傑作で、「メタ元祖」だとの事。よくわからない映画だが、個人的には強烈に好きな映画のひとつである。
    それはともかく、著者の中野信子氏。講演会を聞きに行った事があるがとても美しく、やわらかな口調で人間の核心を衝く魅力的な方だった。目に宿る光がデーモン閣下のそれに似ていると思うのは気のせいか…。

  • no.180
    2017/10/10UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    スコーレNo.4 宮下奈都/光文社文庫

    麻子は、小道具屋の長女として生まれた。一つ下の妹・七葉は自由奔放で容姿も可愛い女の子。麻子は、自分は七葉のようには生きられない、というほのかな劣等感を抱えながら、一方ではどんな友達とも共有することのできない時間を過ごすことの出来る大事な関係として、妹とうまいことやってきた。
    そんな麻子は、周囲の価値観に混じれないと感じたり、自分には大事な何かが欠けていると感じたりしながら、一方でそれぞれの時代で恋をしていく。しかしそれは、麻子の中の欠落を徐々に浮かび上がらせていくような、二人でいるのにまるで一人きりのような、そんな寂しさを麻子の与えるものだった。新しい環境や新しく出会う人々に馴染めずに不安だったり、自分自身の生き方に疑問を持ったりと回り道を続けながら、麻子はこれまでの人生や家族や自分自身のあり方について、正しいと思える場所に辿りつくことが出来る…。
    派手さはないし、特に仕掛けがあるわけでもない作品なんだけど、読み終わって、あぁなんだかよかったな、いい本を読んだな、と思えるような作品です。

  • no.179
    2017/10/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    逆襲される文明
    日本人へⅣ 塩野七生/文春新書

    「民主政が危機におちいるのは、独裁者が台頭してきたからではない。民主主義そのものに内包された欠陥が、表面に出てきたときなのである。」(本文より)
    上記の文を読んで、全く関係ない話で恐縮だがポール・トーマス・アンダーソン監督、トマス・ピンチョン原作の映画『インヒアレント・ヴァイス』を思い出した。タイトルの意味が「内在する欠陥」(海上保険用語で本質的に避けられない危険のこと)である。映画はよくわからなかったものの、噛めば噛むほど味が出るスルメ系映画なのは間違いない。よくわからないついでにもう一本。デビッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』もよくわからないのになぜか心を掴んで離さない。こちらも何度観ても、違う見方があるのではないかと思わせる不思議な魅力溢れる映画である。よくわからないのに惹かれるのは、もしかして2本とも人間に内在する欠陥に触れる映画だからなのかもしれない。
    かなり横道に逸れてしまったが、本書は現代の危機に対する著者のコラムである。「危機」(クライシス)という言葉を発明したのは古代ギリシャ人で、「蘇生」という意味も込めたのだそうだ。内包された欠陥のある人間を自覚するためにも、歴史に学ぶ意味は大きい。『ローマ人の物語』で有名な著者の本は、読んでおいて損はないと思う。