さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.2132018/2/20UP
本店・総務部Aおすすめ!
精鋭 今野敏/朝日文庫
何も事件の起きない警察小説。しかし読み進むにつれ新人警察官の主人公とともに、警察について、特殊急襲部隊(SAT)や自衛隊について、あるいは武術などについての本質を考えさせられる物語だ。なにも起こらない平和は、何もしないでいて得られるものではないという、当たり前だけれども普段は目に見えない事実。何も起こらないがゆえの凄み。いろいろな分野で大なり小なり同じような事が言えるのではないだろうか。
全く関係ないが先日、中劇の「午前十時の映画祭」で『バグダッド・カフェ』を鑑賞。こちらも基本何も起こらない映画ではあるものの、スクリーンに映し出される色彩感覚と、音楽“Calling You”の余韻が長く心に残る。この手の物語は意外とボディーブローだ。ふとした瞬間に後からじわじわ効いてくる。 -
no.2122018/2/13UP
フェザン店・長江おすすめ!
カイシャデイズ 山本幸久/文春文庫
舞台は、ココスペースという社名の、店舗や商業施設のリニューアル工事を請け負う会社だ。
協調性がなく無愛想で、酒を飲めば皆悪口を言うが、しかし周りから好かれている営業チーフの高柳憲一。プランは常に斬新で、低予算でもアイデアでうまく切り抜ける才覚を持っている、天才肌のデザイナーの隈元歳蔵。次期社長とも言われ、現在売上の20パーセントを占めている営業リーダーである江沢六輔。ケーオー卒のおぼっちゃんであり、親に反発するようにして小規模な会社に就職した高柳の部下の一人の橋本陽七。同じく高柳の部下である石渡信吾も営業マンとして苦労している。会社の裏権力者のような立ち位置の統括室室長の大屋時枝。そして成り行きで社長になってしまった巨瀬司郎。こんな人、確かに会社にいそうだなと思わせるリアルさと、人物としての魅力を同時に醸し出し、働くことの大変さと楽しさを同時に描き出す作品だ。 -
no.2112018/2/13UP
本店・総務部Aおすすめ!
白日の鴉 福澤徹三/光文社文庫
映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』のラストシーン、アル・パチーノの下記演説を思い出した。
「――私も何度か人生の岐路に立ったことがある。どちらの道が正しい道かは判断できた。いつも判断できていた。だが、私はその道を行かなかった。それはなぜか。その道は険しく困難な道だったからだ。チャーリーも岐路に直面した。そして彼は正しい道を選んだ。真の人間を形成する信念の道だ。どうか彼を守ってやってほしい。いつかそれを誇れる日が来る。――」
本書は痴漢冤罪を仕組まれた製薬会社社員が、新人警察官と老弁護士の協力で冤罪に立ち向かう物語だ。ストーリーの中で病院と製薬会社の暗部や、警察と検察、裁判所の官僚主義的な部分などがリアルに描かれている。どのような組織にあっても、個人の生き方として人生の岐路に立つような場面がいくつかあることだろうと思う。どんなに困難な道であったとしても、正しい道を選択できるかどうか問われるような物語だった。 -
no.2102018/2/7UP
フェザン店・長江おすすめ!
非属の才能 山田玲司/光文社新書
著者は、著名人へのインタビューを漫画にしている漫画家で、そんな著者が、これまで山ほど才能を持った人間と話をしてきて分かったことが、『才能というのは、どこにも属せないという感覚の中にこそある』ということでした。著者はそれを、『非属の才能』と呼びます。
学校にひとりも友人がいなかったという爆笑問題の太田光や大槻ケンジ、高校三年間で5分しかしゃべらなかったというほっしゃん、15歳にして女性と付き合う可能性を100%諦め研究に没頭した荒俣宏、小学校のクリスマス会を「自主参加でいいですよね」と言って堂々とサボった井上雄彦、などなど、とにかく『あたりまえの環境』『誰もが理解している常識』に染まることが出来なかった人間こそが才能を発揮するのだ、と言います。
本書は、『非属』をキーワードにしながら、親が子の才能を伸ばすにはどうしたらいいか、引きこもりにはどう対処すればいいのか、というアドバイスや、メディアや多数派の意見に流されるような生き方はするな、学校には行かなくたっていい、というメッセージを伝える作品です。
僕が生きていく中で、読んで「救われた」と感じた、数少ない本です。 -
no.2092018/1/31UP
フェザン店・長江おすすめ!
おとなの進路教室。 山田ズーニー/河出文庫
本書は、「働くとは?」「生きていくとは?」というような、主に進路をテーマとした文章をまとめた作品です。
まえがきで、こんな風に書かれています。
『特効薬ではありません。
さらさら読める文章でもありません。
ひっかかり、ひっかかり、読むところもあります。
でも、自分の考えを引き出すのによく効きます。』
確かにその通りです。
本書は、明確な答えを提示してくれる作品でもなければ、何かズバッとしたものを提示してくれるような作品でもありません。著者が、自身の経験から、あるいは自身と関わりのある他者の経験から、様々に悩み苦しみ考え、そうやって表に出てきたものをまとめている、そんな印象があります。文章は、読みやすいし難しくないです。でも、書かれている内容は、スルッと読めるものでもないし、消化するのに時間が掛かるようなものも多いです。
でも、だからこそ価値がある、と僕は思います。分かりやすくないからこそ、明確な答えではないからこそ、あなた自身をきちんと知るために、本書を読むべきなのだと思います。 -
no.2082018/1/23UP
フェザン店・長江おすすめ!
電車屋赤城 山田深夜/角川文庫
赤城という車両整備の職人との関わりを通じて、様々な人間の人生を切り取る物語だ。引きこもりの少年、子どもを失った親、二代目としての自信のない社長、鼻つまみ者のダメ社員など様々な人間が、赤城という無骨で物静かな職人と関わることで何かしらの新しい道筋を開くことが出来るようになる。
赤城は、愛想はないし人付き合いは悪いしで、深く関わらないで遠くから見ている分にはすごく悪い人間に見える。けど、近づいて見れば見るほどその良さが分かる。口にしなくても伝わる言葉があり、視線を合わせなくても伝わる気持ちがある。そのさりげない好意に非常に好感が持てる。不器用な男だが、赤城と関わった様々な人間がみな、赤城を慕い赤城のために何か出来る事はないかと模索してしまうのも分かる。
自分の正しさを信じているがために上とは衝突するし、正しいことをしてもそれを明かさない。言い訳もしないし何かに従属することもないまさに一匹狼で、組織には馴染まない男だ。そんな人間を中心に据え、1000形という廃棄寸前の車両を取り巻く人々を描き出す、見事な作品だ。 -
no.2072018/1/23UP
本店・総務部Aおすすめ!
ハーバード日本史教室 佐藤智恵/中公新書ラクレ
映画『終戦のエンペラー』を思い出した。
本書はハーバード大学で実際に講義している日本史のエッセンスについて、教授10名にインタビューした本である。日本の過去の出来事や日本人のとった行動を、世界でもトップレベルの教授や学生たちはどう見ているかが記されている。外からの目線で見る日本史だからなのか、非常に読みやすく切り口が新鮮で興味深い。歴史は暗記ではなく、過去の人々の行動や結果をどう解釈するか、自分だったらどうするかなどを考える事なんだと、今更ながら気づかされる。
個人的に日本史と聞くと、年代やら人の名前やらを暗記しなければならないような、嫌な勉強アレルギーがいまだにある。試験のための勉強は練習だろうと思う。勉強ができた優秀な人は練習のスペシャリストだ。私のように勉強ができなかった優秀じゃない人は、本番から学ぶタイプなのだから遅くても大丈夫だと、思う事にしよう。(汗) -
no.2062018/1/17UP
フェザン店・長江おすすめ!
ノーサイドじゃ終わらない 山下卓/幻冬舎
高校時代のラグビー部の勝治先輩が亡くなった。先輩の死は、ギャグみたいなもので、ニュースにも取り上げられるほど大きな事件だった。ヤクザの事務所にマシンガンを持ってぶっ放し、返り討ちに遭って死亡。勝治先輩らしいと言えばらしい。
15年振りに地元に戻った沢木は、久々にラグビー部の面々と再会した。変わっていないようで、やっぱりみんな、それなりに色々ある。
マネージャーだった翔子は、沢木たちと同期の牧瀬と付き合っていたのだけど、結婚寸前で牧瀬が結婚を撤回。翔子はようやく立ち直り掛けている。牧瀬は、勝治先輩の葬儀にも来なかった。
「アホなことして死んだよね、ホント」という、悼むというよりは勝治先輩のらしさを偲ぶようなのんびりとした雰囲気が一変したのは、勝治先輩の襲撃事件に共犯者がいたという報道を見た時からだ。
週刊誌記者時代の勘が、沢木をざわつかせる…。
どう読んでも爽やかとは言えない設定の物語なのに、読むとどうしてか、青春小説のような爽快感がある。それぞれの人生に、どうやって落とし所を見つけていくのか。その過程で生まれる必死さや優しさ楽しむ小説だ。 -
no.2052018/1/17UP
フェザン店・長江おすすめ!
コミュニティ
デザインの時代 山崎亮/中央公論新社本書は、コミュニティデザイナーとして、日本中で様々な魅力的なプロジェクトを展開していることで著名であり、「つくらないデザイナー」を標榜している著者の作品だ。普段考えていること、仕事の進め方、社会の変化の捉え方など、コミュニティデザインというなかなかイメージしにくい仕事について全般的に語っている作品だ。
『それでは、どんな市町村がこれからの時代の先進地になり得るだろうか。都道府県の県庁所在地だろうか。きっとそうではないだろう。都道府県のなかでも中山間離島地域と呼ばれる不便な場所で、すでにここ何十年も人口が減り続けている市町村こそ、眼前にさまざまな課題が立ち現れ、その対応に追われてきた「人口減少エリート」たちが住む地域である。この人たちが発明する日々の工夫や対応策は、人口が減少する地域のなかで何をすべきなのか僕たちに教えてくれる』
「人生の豊かさ」や「人との繋がり」とは何なのか、そしてその構築に他者はどう関わることが出来るのか。これからの時代に確実に問われることになる問いと、それにどう答えを見出すかという奮闘を読み解くことが出来る一冊だ。 -
no.2042018/1/9UP
フェザン店・長江おすすめ!
生ける屍の死 山口雅也/創元推理文庫
トゥームズヴィル(墓の町)と名付けられた、ニューイングランド郊外の町。そこはバーリーコーン家が営む「スマイル霊園」という葬儀屋で成り立っている町であり、その名前と共に「死」に彩られた町である。
その一帯で、奇妙な話が持ち上がる。一度死んだ人間が蘇るというのだ。ニュースでも取りあげられるほどで、次第に世界は、「死者の蘇り」という事実を受け入れなければならなくなってくる。
そんな状況の中、バーリーコーン家の当主・スマイリーの遺産分配の関係で一族は集められた。しかし、スマイリーの死を待たずして、なんと日本人の血も併せ持つグリンが毒殺されてしまう。「生ける屍」として蘇ったグリンは、自らの死の真相を暴くべく、自分が死んでしまっていることを隠しながら調査に乗り出すが、スマイリーの死と前後して霊園内で死者が相次ぐ…
「何故、死者が蘇る世界で殺人という行為を繰り返すのか?」
これに対する論理の見事さが、そのまま作品の質になっている。あらゆる宗教・文学・歴史・医学などの知識をふんだんに織り交ぜ、独特の「死生観」を築き上げながらラストまで突き進む作品の凄みを感じて欲しい。