さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.218
    2018/3/7UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    数学ガール 結城浩/SBクリエイティブ

    本書はガチの数学の本だ。しかし小説風でもあり、中身は頑張れば文芸の人でも読めるレベルだ。何よりも、登場人物たちが魅力的なんだなぁ。
    主人公であるぼくは高校生になった。彼の趣味は、数式を展開すること。つまり数学だ。中学時代も、ずっと図書室にこもっては数学的な思索にふけっていた。
    同じクラスにミルカという少女がいる。とにかく数学のことになると彼女はすごい。勝手にぼくのノートに書き込みをしたり突然講義を始めたりするところがあるけれども、ミルカとの数学談義にはいつも引き込まれる。
    二年になる。ぼくはある後輩の女の子から手紙をもらう。そこには、数学のことをいろいろ聞きたい、教えてもらえないですか、と書いてあった。
    彼女の名はテトラ。数学はまだまだ勉強し始めで疑問だらけだけど、でもきちんと勉強したいという意欲の伝わってくる子だ。
    ぼくはこうして、ミルカとテトラという女性と数学を介した交流を続けることになる…。
    フィボナッチ数列の一般項や、sinxの因数分解など、数学の授業では教わったことのない刺激的で魅力的な数学の話が展開される作品だ。

  • no.217
    2018/3/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ダイナー 平山夢明/ポプラ文庫

    例えば『レザボア・ドッグス』。
    いきなり品のない会話から始まるこの映画は、一見B級映画風に見せかけて決してB級映画にはない独特の雰囲気で観る者を最後まで釘付けにする。但し人にはなかなか勧めづらい一本でもある。
    本書は殺し屋専門の定食屋(ダイナー)で働かされる羽目になった女の物語だ。これでもかという程グロテスクな描写が延々と続く中、もの凄く旨そうな料理が出てきたりする。容赦なく物語世界に引きずり込まれ、吐き気と空腹を覚えつつ夢中で読み進めるうちに、物語は恍惚と幕を閉じる。
    本書もなかなか人には勧めづらい。しかし、ごく親しい友人にのみ、多少の注意事項と共に声を大にしてお勧めしたい一冊だ。

  • no.216
    2018/2/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    史上最強の哲学入門 飲茶/河出文庫

    本書は主に西洋哲学について、古代から近代に至るまでの様々な思想を、「真理・国家・神・存在」の4つに分け、それぞれについて、誰がどんなことを主張したのか、そう主張するに至った対立的な概念は何か、その思想が受け入れられる歴史的な背景はどんなものだったのか、などについて恐ろしく分かりやすく、かつ恐ろしく面白く綴った作品だ。
    ホント驚きました。もう、ハチャメチャに面白い!僕はこれまでも、哲学の本はそれなりに読んできましたが、その中でももうダントツに面白い。とにかく、4つの分類の中で流れがしっかりしてるから、「どうしてそういう考え方が生まれたのか」という点が本当に分かりやすい。それに、難しい哲学用語をほとんど使っていないのでそういう点でも非常に分かりやすい。それぞれの哲学者の有名な著書は、おそらく普通に読めばまったく歯がたたないほど難解だろうが、著者の手に掛かれば、ものすごく分かったような気になれる。まさに最強の入門書だろう。

  • no.215
    2018/2/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    男たちは北へ 風間一輝/ハヤカワ文庫JA

    ジャンルに関係なく、たまに読み返したくなる本がある。本書もそのひとつ。
    基本的には、ある男が自転車で東京から青森まで行くというシンプルなストーリーだ。その中にハードボイルド、ミステリー、旅、酒、成長小説など様々な要素が絶妙に絡み合い、いつ読んでも間違いなく傑作である。
    本書の他、「錦繍」(宮本輝著)、「そして夜は甦る」(原尞著)、「ダック・コール」(稲見一良著)、「ブルース」(花村萬月著)、「春にして君を離れ」(アガサ・クリスティー著)、「星への旅」(吉村昭著)、「青空のルーレット」(辻内智貴著)、「月の上の観覧車」(荻原浩著)なども面白いという以前に、なぜか無性に読み返したくなる時がある。
    映画だと「ゴッドファーザー」「羊たちの沈黙」「パリ、テキサス」「キッズ・リターン」「パルプ・フィクション」「セブン」「ヒート」「リトル・ミス・サンシャイン」などが自分の中では中毒性が高い。本でも映画でも、人それぞれにそういう作品はあると思う。確実に何かが刺さっていて、たまに疼くような。

  • no.214
    2018/2/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    詩羽のいる街 山本弘/角川文庫

    詩羽という少女の物語だ。この詩羽が凄い。
    なんと、ここ数年お金を持ったことがないし、家もないというのだ。どうやって生活しているというのか。
    解説で有川浩が、こんな風に書いている。
    『詩羽は「奇跡」に魔法を使わない』
    まさにその通り。詩羽は、まるで魔法のような形で、お金も家もない生活をもう何年も続けている。しかしそれは、決して魔法ではない。詩羽にはちょっととんでもない能力が備わっているのだけど、発想だけで言えば僕らでも実践可能なレベルの事柄だ。それで詩羽は、奇跡を起こす。その奇跡の恩恵をお金以外の形で受け取ることで、詩羽は生活をしている。
    この詩羽の生き方の発想は、これから生活していく中でリアルに必要になっていくのではないかと思う。
    詩羽の能力をかんたんに説明するのは難しいので省くが、様々な需要と供給を狭い地域の中でマッチングさせている。詩羽と同じことをするのはかなり難しいだろうが、詩羽の生き方は、「お金」を追うだけではない人生の選択を提示してくれる。物語としても、メチャクチャ面白い!

  • no.213
    2018/2/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    精鋭 今野敏/朝日文庫

    何も事件の起きない警察小説。しかし読み進むにつれ新人警察官の主人公とともに、警察について、特殊急襲部隊(SAT)や自衛隊について、あるいは武術などについての本質を考えさせられる物語だ。なにも起こらない平和は、何もしないでいて得られるものではないという、当たり前だけれども普段は目に見えない事実。何も起こらないがゆえの凄み。いろいろな分野で大なり小なり同じような事が言えるのではないだろうか。
    全く関係ないが先日、中劇の「午前十時の映画祭」で『バグダッド・カフェ』を鑑賞。こちらも基本何も起こらない映画ではあるものの、スクリーンに映し出される色彩感覚と、音楽“Calling You”の余韻が長く心に残る。この手の物語は意外とボディーブローだ。ふとした瞬間に後からじわじわ効いてくる。

  • no.212
    2018/2/13UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    カイシャデイズ 山本幸久/文春文庫

    舞台は、ココスペースという社名の、店舗や商業施設のリニューアル工事を請け負う会社だ。
    協調性がなく無愛想で、酒を飲めば皆悪口を言うが、しかし周りから好かれている営業チーフの高柳憲一。プランは常に斬新で、低予算でもアイデアでうまく切り抜ける才覚を持っている、天才肌のデザイナーの隈元歳蔵。次期社長とも言われ、現在売上の20パーセントを占めている営業リーダーである江沢六輔。ケーオー卒のおぼっちゃんであり、親に反発するようにして小規模な会社に就職した高柳の部下の一人の橋本陽七。同じく高柳の部下である石渡信吾も営業マンとして苦労している。会社の裏権力者のような立ち位置の統括室室長の大屋時枝。そして成り行きで社長になってしまった巨瀬司郎。こんな人、確かに会社にいそうだなと思わせるリアルさと、人物としての魅力を同時に醸し出し、働くことの大変さと楽しさを同時に描き出す作品だ。

  • no.211
    2018/2/13UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    白日の鴉 福澤徹三/光文社文庫

    映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』のラストシーン、アル・パチーノの下記演説を思い出した。
    「――私も何度か人生の岐路に立ったことがある。どちらの道が正しい道かは判断できた。いつも判断できていた。だが、私はその道を行かなかった。それはなぜか。その道は険しく困難な道だったからだ。チャーリーも岐路に直面した。そして彼は正しい道を選んだ。真の人間を形成する信念の道だ。どうか彼を守ってやってほしい。いつかそれを誇れる日が来る。――」
    本書は痴漢冤罪を仕組まれた製薬会社社員が、新人警察官と老弁護士の協力で冤罪に立ち向かう物語だ。ストーリーの中で病院と製薬会社の暗部や、警察と検察、裁判所の官僚主義的な部分などがリアルに描かれている。どのような組織にあっても、個人の生き方として人生の岐路に立つような場面がいくつかあることだろうと思う。どんなに困難な道であったとしても、正しい道を選択できるかどうか問われるような物語だった。

  • no.210
    2018/2/7UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    非属の才能 山田玲司/光文社新書

    著者は、著名人へのインタビューを漫画にしている漫画家で、そんな著者が、これまで山ほど才能を持った人間と話をしてきて分かったことが、『才能というのは、どこにも属せないという感覚の中にこそある』ということでした。著者はそれを、『非属の才能』と呼びます。
    学校にひとりも友人がいなかったという爆笑問題の太田光や大槻ケンジ、高校三年間で5分しかしゃべらなかったというほっしゃん、15歳にして女性と付き合う可能性を100%諦め研究に没頭した荒俣宏、小学校のクリスマス会を「自主参加でいいですよね」と言って堂々とサボった井上雄彦、などなど、とにかく『あたりまえの環境』『誰もが理解している常識』に染まることが出来なかった人間こそが才能を発揮するのだ、と言います。
    本書は、『非属』をキーワードにしながら、親が子の才能を伸ばすにはどうしたらいいか、引きこもりにはどう対処すればいいのか、というアドバイスや、メディアや多数派の意見に流されるような生き方はするな、学校には行かなくたっていい、というメッセージを伝える作品です。
    僕が生きていく中で、読んで「救われた」と感じた、数少ない本です。

  • no.209
    2018/1/31UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    おとなの進路教室。 山田ズーニー/河出文庫

    本書は、「働くとは?」「生きていくとは?」というような、主に進路をテーマとした文章をまとめた作品です。
    まえがきで、こんな風に書かれています。
    『特効薬ではありません。
    さらさら読める文章でもありません。
    ひっかかり、ひっかかり、読むところもあります。
    でも、自分の考えを引き出すのによく効きます。』
    確かにその通りです。
    本書は、明確な答えを提示してくれる作品でもなければ、何かズバッとしたものを提示してくれるような作品でもありません。著者が、自身の経験から、あるいは自身と関わりのある他者の経験から、様々に悩み苦しみ考え、そうやって表に出てきたものをまとめている、そんな印象があります。文章は、読みやすいし難しくないです。でも、書かれている内容は、スルッと読めるものでもないし、消化するのに時間が掛かるようなものも多いです。
    でも、だからこそ価値がある、と僕は思います。分かりやすくないからこそ、明確な答えではないからこそ、あなた自身をきちんと知るために、本書を読むべきなのだと思います。