さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.369
    2019/12/20UP

    フェザン店・竹内おすすめ!

    ザ・ロイヤルファミリー 早見和真/新潮社

    ――競馬にロマンを!馬主にロマンを!――
    馬にドラマあり、馬主にドラマあり、騎手にドラマあり、厩舎にドラマあり、牧場にドラマありな圧巻の競馬小説で感動の大河小説。時の流れに心揺さぶられ、レースの流れに興奮する。ぐいぐい読ませながらのラストの絶妙な仕掛けに感嘆のため息が出た。

  • no.368
    2019/12/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    アースクエイクバード スザンナ・ジョーンズ/ハヤカワ文庫

    幻聴なのか現実なのか。記憶なのか幻想なのか。アースクエイクバード(地震鳥)。東京で警察から事情聴取を受ける主人公の、回想だけの物語。あらゆる事実の中でも、真実はその当人にしか知り得ない。

  • no.367
    2019/12/9UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    日本を支えた12人 長部日出雄/集英社文庫

    小津安二郎『東京物語』――何という事もない日常の中に潜む、人間の醜さも含めたかけがえのなさ。その美しさを画面描写だけで感じさせる、世界的評価の高い日本を代表する映画。
    木下惠介『楢山節考』――民話的・伝説的な雰囲気を十分に醸し出すため、全編をあえてリアルではなく歌舞伎的表現方法で統一。日本でしか生まれ得ない映画芸術の、ひとつの到達点。
    本書でも紹介されている上記の映画は、日本人特有の心の動きと美的感覚を、研ぎ澄まされた手法で描かれている。「もののあわれ」を知る、そんな文化・芸術を生み出す土壌とは何なのか。12人の人物を基に日本を古代から考察する。
    正直、歴史的な事をあまりよく知らない部分も多かったので、本書の内容をすべて正しく理解したとは言えない。ただ、今年は即位礼正殿の儀などもあり、日本古来のものに思いを馳せるにはいい本だと思う。とりあえず、伊勢神宮や東大寺、法隆寺など今一度じっくりと眺めてみたい。それらは若い頃よりもむしろ、大人になってからこそ見るべきものだろう。それと、青森はやはり奥深い。

  • no.366
    2019/12/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    庭とエスキース 奥山淳志/みすず書房

    北海道の大自然の中で、自給自足を目指し生活していた孤高の老人・弁造さん。本書は著者と弁造さんの14年間にもわたる交流を通じ、生きること、老いること、死ぬことの意味を深く見つめた手記である。シンプルで力強い弁造さんの言葉やその生き方に、写真家である著者自身の解釈も加わり、非常に陰影のある味わい深い一冊となっている。
    本書を読んでいて映画『ストレイト・ストーリー』を思い出した。巨匠デイヴィッド・リンチ監督の中では唯一と言っていい、安心して万人にお勧めできる映画である。
    老人。自分にはまだ関係ないと思っていても、老いや死は必ず全ての人に訪れる。人生の大先輩の話に耳を傾けることは、たとえそれがどんなものであれ、聴いておいて損はない。虚実が入り交じる世の中にあって、本当に大事なものは何なのかを、問わず語りに身をもって教えてくれる。

  • no.365
    2019/11/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    墨龍賦 葉室麟/PHP文芸文庫

    コーマック・マッカーシー脚本の『悪の法則』という映画の中で、宝石商が主人公にこんなセリフを言うシーンがある。――たとえどんなに代償を払っても、人はダイヤの持つ永遠性を追い求めようとする。それが宝石というものです。そして愛する人をダイヤで飾る事で、逆にその人の儚さに気づき、限りある命の価値を知るのです。あなたにも今に分かりますよ。――
    本書は戦国時代の絵師・海北友松の物語である。武士として生きたいと願いながらも、その魂を絵の中に吹き込み、人が生きる上での美を追求する。明日をも知れぬ命という時代の中で、一瞬の美に永遠の価値を持たせる絵を描く事は、今では想像もできないぐらい切実なものだったはずだ。人間の業や命の儚さを見ることで逆にその美しさを知る。人は理想通りには生きられないけれど、自らの思いを体現しようとするのは武士も絵師も変わらない。そして現代に生きる自分達も。

  • no.364
    2019/11/18UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    悪の脳科学 中野信子/集英社新書

    「笑ゥせぇるすまん」を題材にした脳科学。著者と同じく中学生の頃にテレビで初めて笑ゥせぇるすまんを見た。バブルの時代に暗いブラックジョークのようなストーリーが、子供心にもなぜか人間の本質を衝いている気がして見入っていた。説明する能力はなくても若い頃に感じる直感のようなものは意外と正しい。
    本でも映画でも或いは絵画でも写真でも、単純にそこに書いてあるものとは別に、作者が描いているものを感じ取れるかどうかは評価の分かれ目だと思う。こういう部分の良さは、いくら言葉を尽くしても伝わらない人には1ミリも伝わらないし、逆に伝わる人には説明しない方がより深く伝わる。笑ゥせぇるすまんはそういう種類のものだろう。北野武氏やデイヴィッド・リンチ監督の映画などにも同じ事が言えるかもしれない。
    本書は「ココロのスキマ」を現代脳科学の観点から完璧に解説した本である。ただ、特に若い人はあまり正解だけを求めずに、よく分からないけど妙に心に残るというものを大事にしておいた方がいい。おそらくそれは、一生変わらないテーマに近いはずだ。

  • no.363
    2019/11/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    絶滅危惧職、講談師を生きる 神田松之丞/新潮文庫

    理論的だが妙にシニカルでストイック。本文中でも触れられている立川談志の雰囲気が漂う。そして何よりも人間国宝に認定された師匠・神田松鯉の人間的な素晴らしさが大きく影響しているのだろう。真打昇進が決定し、今後「六代目神田伯山」を襲名するそうだ。講談のことはよく知らなくても、その生き方そのものに興味を覚える本である。
    働き方改革などが叫ばれる中、敢えて古典芸能という茨の道を歩む若い人間もいる。
    絶滅危惧職。本屋も頑張ろう。

  • no.362
    2019/11/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ベル・カント アン・パチェット/ハヤカワepi文庫

    たしかこういうのをストックホルム症候群と言ったか。人質とテロリストが長時間共にすることで奇妙な連帯感が生まれる。本書は1996年のペルー日本大使館公邸人質事件をモデルにした小説だ。
    (美しい歌)というタイトルの「ベル・カント」。イタリア・オペラにおける理想的な歌唱法を意味するのだそうだ。専門的な事はよく分からないが、すぐれた音楽や芸術やスポーツ、或いは傑作の映画や文学に触れた時、すぐに意味は解らなくとも一瞬にして直接心に響くことがある。そういうものはあらゆる言語や人種や思想を越えた人類共通の価値だと思う。現在の世界に蔓延する不寛容さと出口の見えない対立の中で、文化的価値の認識だけは主義主張に関係のない唯一の希望と思いたい。
    ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮共演のこの映画も楽しみである。

  • no.361
    2019/10/31UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    生き物の死にざま 稲垣栄洋/草思社

    雑草生態学が専門の著者の本は非常に文学的だ。植物の意志を表現するような本が多く、あまり興味はなくても十分に文章を読ませる。本書は著者のフィルターを通して、生き物に対するストーリーが語られている。実際に生き物がどう思っているかは誰にも分からない。ただ、短い寿命でも何世代もの小さな命をつないでいる現実を俯瞰すると、確かにそこには意志があるような、見事な死にざまのような気がしてくる。これをどう見るかは見た人間がどう思うかによるのだろう。だが、死にざまとは、言葉はなくともその生きざまを如実に表しているのではないだろうか。
    結果に対して意志を持ってやっているなら素晴らしいし、無意識にやっているならもっと素晴らしい。頭脳だけ発達した人類にとって、多くの示唆を与えてくれる。

  • no.360
    2019/10/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    田村はまだか 朝倉かすみ/光文社文庫

    もし、本屋で自分が過去に読んだ本がふと目に入ってきた時、家でちょっと探しても見つからない場合は、迷わずに購入するべきである。本や映画で自分が一度でも心を動かされた作品は、その中の何かが確実に神経に触れており、いつ読んでも何回観てもいいものはやっぱりいい。意外とそういう作品にめぐり合う機会は少ないので、同じ本が2~3冊ぐらいダブろうが、確実に手元に置いておく事が何よりも重要だ。いつか自分でも忘れ去ってしまう前に。
    10年ぐらい前に読んだ本書をまた読んでみた。間違いないと改めて確信する。さりげなくテンポのいい話から入り、いつのまにか心のまっさらな場所に触れられていて、急に切なくなる。歳をとって良かった事なんてほとんどないが、こういう小説を読んで味わい深く噛み締める事ができるというのは、悪くはない。無性に旧友に会いたくなる本である。