さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.353
    2019/9/26UP

    ORIORI・佐々木おすすめ!

    鯖猫長屋ふしぎ草紙 田牧大和/PHP文芸文庫

    ――人情たっぷり猫の魅力満載!謎解き時代小説――
    長屋で一番偉いのは「サバ」。誰もが認める美猫のサバと元・盗人の飼い主(手下)拾楽を取り巻く人情時代小説。猫好きはもちろん、ミステリー好きな方にもおすすめです。シリーズ7作とも問わず語りで進められていく粋な手法とツンデレ感満載のサバの魅力に虜になること間違いなし!

  • no.352
    2019/9/26UP

    松園店・山崎おすすめ!

    イラストだから簡単!
    なんでも自分で修理する本 片桐雅量/洋泉社

    ――早速挑戦!気軽に意外と簡単DIY――

    網戸、ドアノブ、水回り、自転車修理など数々の不具合を身近なホームセンターで買える工具や部品を自分で買って治してみませんか。ネットのユーチューブなどでも、これらの修理動画などがあったりもしますが、この本で一緒に研究するのも良いかと思います。

  • no.351
    2019/9/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    五郎治殿御始末 浅田次郎/中公文庫

    武家の道徳の第一は、おのれを語らざることであった――。武士にとって、明治維新という時代にどれほど人に言えない困難や葛藤があった事だろうか。
    世の中が大きく変わる中で名もなき最後の武士たちの、自分自身への始末のつけ方、武家としての最後の生き様を描く6篇。特にこの短編集を総括するようなラストの表題作には、時代に対する著者の考え方が色濃く込められている。
    著者の幕末から明治の物語でどうしても思い出すのが映画化もされた『壬生義士伝』。そして本書の中では『柘榴坂の仇討』が映画化されている。映画も本当に傑作だった。

  • no.350
    2019/9/21UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    晩秋の陰画 山本一力/祥伝社文庫

    「晩秋の陰画」「秒読み」「冒険者たち」「内なる響き」どれも味わい深い大人の傑作短編集だ。その中でも映画『冒険者たち』へのオマージュには特別な想いが込められているように思う。
    時代小説ですでに確固たる地位を築き、多くのファンを獲得しているにもかかわらず現代小説を書いた理由。それはどんなに年齢を重ねても、どんなにベストセラーを出し評価を受けたとしても、著者自身が敬愛する映画『冒険者たち』の精神を忘れないという、意志の表れのようにも感じた。

  • no.349
    2019/9/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    死の淵を見た男 門田隆将/角川文庫

    『Fukushima50』――佐藤浩市、渡辺謙、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美、監督・若松節朗――2020年3月公開のこの映画は日本人として、当事者意識を持って、必ず観るべき映画と言っていいだろう。その原作がノンフィクションの本書である。
    原発に反対とか賛成とかイデオロギーとかには一切関係なく、あの時の壮絶な現場から見た事実、現実を記している。そこから何を読み取り、何を語り継ぐかは読者の判断によるところだ。テレビやネットなどのメディアは速報性と話題性が最も重要な媒体であるが故に、自分ではあまり深く考えることもなく流されてしまいがちになる。やはり物事をじっくり考え、永く自らの糧とするためには、本という媒体が一番適している。すべて実名で記載されている本書を、まずは映画の前に読んでおく事を強くお勧めしたい。
    映画にはエンターテイメント性だけでなく、読書に近い性質のものがある。この映画も間違いなくそういった種類の作品になるだろう。傑作の予感しかしない。

  • no.348
    2019/9/9UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ミスト スティーヴン・キング/文春文庫

    著者原作による数多くの有名な映画の中でも、『ミスト』は特に傑作だ。霧に包まれて見えない中で得体の知れないものが蠢いているという怖ろしさと、人間自体の怖ろしさとが同時に描かれている。怪物よりむしろ霧そのものが人間心理を狂わせる。限りなく絶望的な状況で、それでも微かな希望を求めて彷徨う様子は、コーマック・マッカーシーの名作『ザ・ロード』をも彷彿とさせる。
    それにしてもラストである。原作とは違う唖然、茫然とする映画のラスト。個人的な好みで言えば原作のラストの方がいいとは思うが、映画史に残る衝撃のラストシーンであることは間違いない。本書では表題作「霧」の他に4つの短編が収録されており、その中でも「ジョウント」がいい。
    なんかいつも後味の悪い映画ばかり紹介しているような気がするので、思いつくままに後味のいい映画を、何の関係もないが列挙しておく。『スモーク』『素晴らしき哉、人生!』『セント・オブ・ウーマン』『リトル・ミス・サンシャイン』『小説家を見つけたら』『8月のメモワール』『クリード』『ミッドナイト・ラン』『いまを生きる』…。私は決してヤバい人間ではありませんよという言い訳を勝手に押し付けて終える。

  • no.347
    2019/8/30UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    老人と海 アーネスト・ヘミングウェイ/新潮文庫

    デンゼル・ワシントン主演の『イコライザー』という映画がある。最強な主人公の、本を読む姿が印象的なこの映画の冒頭の読書シーンが本書「老人と海」だった。
    ハードボイルドタッチで簡素な文章。ストーリーだけを追うならば、だから何?という人もいるだろう。個人的には学生の読書感想文課題図書には適していないと思う。本書はある程度の経験を積んだ大人でなければ、そのすっきりとした奥深さが理解できないだろう。事実を淡々と表した中から何を受け取るか、その意図は読者に委ねられる。下手な説明などしない。読書ならではの必要な時間と味わい深さがここにある。
    そういえば映画『セブン』のラストシーンは、本書の著者アーネスト・ヘミングウェイ「誰がために鐘は鳴る」からの引用で終わる。この映画は嫌な余韻が長く続き、そして深く悩み考えさせられる映画だ。

  • no.346
    2019/8/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    秋山善吉工務店 中山七里/光文社文庫

    いやあ、いい。なんて気持ちのいい小説だ。
    最近はあらゆるメディアで気持ちの悪いニュースを煽るようにこれでもかと見せつけてくる中で、この物語の主人公、大工の善吉はカッコ良すぎる。久しぶりに質のいい直球を見せられてハッとする気分である。誰でも自分の意見を好きなように主張できる、そういう時代だからこそ一周回って改めて光る小説なのかもしれない。ミステリーとしてのラストも見事だ。
    それにしても、まだどこかにいるのかなあ、こういう職人気質の頑固な爺さん。そりゃ身近にいたら現実には困る部分もあるだろうけど、何でもかんでも合理主義的な今の風潮にも疑問を感じる事はある。どんな時代であったとしても、その時の流行りや空気だけに流されずに、何の先入観もなく目の前の事実とまっすぐ向き合うことは大事だと思う。

  • no.345
    2019/8/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    カリ・モーラ トマス・ハリス/新潮文庫

    どんなものであれ、著者の新作を読まないという選択肢はない。名作『羊たちの沈黙』へのリスペクトを込めて。レクター博士シリーズは、その後の全てのサイコサスペンスを一変させたと言ってもいいだろう。レクター博士の存在を一層際立たせたのは、FBI捜査官の中で紅一点の、クラリスだった。
    今回の主人公は、何者にも頼らない孤高の移民女性、カリ・モーラ。ある種のトラウマを抱えた女性の強さと美しさを描くことに、やはり卓越したものを感じる。どうしても過去の作品と比べられてしまうのは、強烈な個性を生み出したビッグネームとしての宿命かもしれない。できることならそういった外野の評価とは一切関係なく、書き続けてほしいと願うばかりだ。
    ちなみにレクターシリーズ以外では『ブラック・サンデー』という作品も映画化されている。日本未公開だったこの作品も、かなりの傑作である。

  • no.344
    2019/8/13UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    影裏 沼田真佑/文藝春秋

    来年映画化される本書。文学性の強い作品は、受け取る側がどう読むかに全てが懸かっていると思う。これをどう映画で表現するのか今から楽しみだ。
    物語はごく短く、誰にでもわかるような文章で綴られている。普通に読めば多少の違和感と共にさらっと流れて、人によっては何も残らないかもしれない。しかし本書はこの違和感の意味を、じっくり時間をかけて読み解くべき作品であり、ある意味わかりづらいミステリーと言えなくもない。この物語の主題はタイトルの通り、言葉にされていない「影」や文章化されていない「裏」にこそあると思う。
    物語の終盤、主人公が日浅の父親に被災者の捜索願を出すように詰め寄る場面がある。父親は「では友情にお応えするとして」と、不意に席を立つ。ここで主人公は、“友情と、たしかにそう聞こえた。だがそれが誰と誰とのあいだの友情を指していうものか正確なことはわからなかった。”とある。話の流れとしては当然、主人公と日浅に決まっているのに全く予想もしていなかったような反応。友情ではないとするならば何なのか。そしてこの父親の、縁を切ったという息子に対する反応も、言葉とは裏腹な想いが濃厚に漂う。
    全く関係ないかもしれないが、デヴィッド・リンチ監督の映画『マルホランド・ドライブ』の不条理な美しさや難解さに近いものを感じる。