さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.5692023/11/11UP
本店・総務部Aおすすめ!
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン デイヴィッド・グラン/ハヤカワ文庫NF
マーティン・スコセッシ監督のこの映画を観た。疲れていたこともあり、正直に言って途中少しうとうとしてしまった所もある。この監督の映画は『タクシードライバー』『レイジング・ブル』『グッドフェローズ』などを観た事があるが、デ・ニーロ・アプローチと呼ばれるロバート・デ・ニーロの鬼気迫る役作りはこのあたりに代表される。
この監督はエンターテイメント性よりも人間の狂気を描く文学性の高い作品が多いので、つまらないと感じてしまう人もいるのはわかる。ただ、ふとした拍子に昔観た映画を思い出すというようなことが、この監督の作品には多い。エンターテイメントのような面白さではないものの、必ず何かが心に深く刻まれる。映画も本書ノンフィクションも決して傍観することのできない普遍性のある問題が含まれている。 -
no.5682023/11/11UP
本店・総務部Aおすすめ!
カード師 中村文則/朝日文庫
占いを全く信じていないタロット占い師で違法賭博のディーラーでもある主人公が不条理な事態に巻き込まれてゆくストーリー。錬金術師や魔女狩り、奇術師、UFO、ユリ・ゲラー、オウムなどの怪しい話から、阪神淡路大震災、3.11、コロナなど最近の話まで入ってくる。
中でもやはり、ポーカーの心理戦が圧巻だ。いわゆるポーカーフェイスからイカサマまで、どこまで読み切れるか。確率の問題と周りの気配が複雑に絡み合う選択。
勝つ時も負ける時も明日は必ず来る。出た目をどう解釈するかは、結局自分自身がどう生きるかの問題だ。全ては死ぬまで途中経過。あらゆる占いよりも、明日がどうなるか誰にもわからないという唯一の真実は、全ての人に与えられた小さくても確かな希望とも言える。 -
no.5672023/10/9UP
本店・総務部Aおすすめ!
列 中村文則/講談社
― 幸福? 目の前の猿が問うようだった。 “何を言っているのだろうか。私は幸福ではない” 彼が私をずっと見ていた。 “私は吹雪のなか芽を食べているだけだ。私はただこのようにあるだけだ。君たちの尺度を私達に当てはめるな” ・・・・・・
“別に幸福でなくてもいいだろうが” ― (本書より)今ほど、どうでもいい情報、知りたくもない情報がガンガン入ってくる時代もないだろう。人は自分の絶対的尺度ではなく、他者との相対的尺度でしかものを計れなくなった。つまり列の前か後か。そして、列は永遠に伸びてゆく・・・。
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no.5662023/10/5UP
本店・総務部Aおすすめ!
新編 宮沢賢治詩集 宮沢賢治/新潮文庫
(あめゆじゆとてちてけんじや)
中学校の教科書に出てきた「永訣の朝」は、本書の大半を占める「春と修羅」からの一節だ。深い哀しみと空虚な怒りが通底するようなこの詩集は全編、妹の死という受け入れ難い現実に直面した困惑から成るのだろう。
「永訣の朝」とそれに続く「松の針」「無声慟哭」だけがはっきりとした意味を持ち、他は普通に読むと全く意味が分からないものも多い。ただ、いつ読んでも新鮮な驚きを感じさせる。意味なんて実はあまり関係ないのかもしれない。これは詩というよりも、やはり心象スケッチ以外の何ものでもないのだから。絵画でも文学でも映画でも、それぞれ自由に解釈することができ、その幅が広く懐が深い作品ほど名作と呼ばれる。
宮沢賢治没後90年。まさに時代を超えた名作なのだと思う。 -
no.5652023/9/27UP
本店・総務部Aおすすめ!
心淋し川 西條奈加/集英社文庫
直木賞受賞作文庫化。
厳しい境遇に立たされた老若男女が流されてくる心町(うらまち)の長屋を舞台にした時代連作短編集。「心」と書いて「うら」と読ませるように、それぞれに傷を持った住人達は互いに干渉し過ぎず、でもそれとなく心を配り合いながら暮らしている。何かが一気に好転する事はひとつもないが、1篇1篇に鈍く光る人生があり、貧乏長屋なればこその粋を感じさせる。
最近では「貧富の格差」やら「二極化」などと声高に報じられたり、さらには「親ガチャ」や「論破」などという品のない言葉が流行ったりもするが、それはいつの時代でも言っても詮無い同じ事。たまにこういう小説を読むと、時代の趨勢に関わらず本当に大切なものは何なのかを思い出させてくれる。
誰の人生にもAIなどでは計り知れない、繊細な心の機微があるだろう。 -
no.5642023/9/13UP
本店・総務部Aおすすめ!
きのうのオレンジ 藤岡陽子/集英社文庫
いい話だった。
いい話を、いい話のまま、受け止められる人間でありたいと思った。
そして、ああ山に登りたいと、読後そう思う。
表紙買いした一冊。 -
no.5632023/9/5UP
本店・総務部Aおすすめ!
一九八四年 ジョージ・オーウェル/ハヤカワepi文庫
ディストピア小説の金字塔。
ディストピアとはユートピア(理想郷)の真逆で暗黒世界のこと。なので当然ながら読んでいて気持ちのいいものではない。ただ、暗黒であればあるほど、ないかもしれない小さな光が存在感を増す。読書を通じて本当に大切なものは何なのかを、そこに書いてあるわけではないのに、逆に読者に対してはっきりと意識させる。それにしても、1949年に刊行された本書の示す暗黒未来には、現在の世界情勢や最近のコミュニケーションツールなども含めて、さらにリアルさを増して震撼させられる。
同時代と言える1943年に製作されたフランク・キャプラ監督の名画『素晴らしき哉、人生!』は誰が観ても心温まるクリスマス・ストーリーだ。だがふと、映画の終盤主人公が垣間見たディストピアの世界は、実は現実の世界なのではないかという気もする。ファンタジーの中に、一瞬見せる現実世界。これがハッピーエンドの物語に深みを与えている。
本書の場合、最後まで徹底した暗黒世界のストーリーの中、さりげない情景描写がわずかに残る最後の淡い希望に見えなくもない。そのあたりが、深みを湛えた名作なのだと思う。
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no.5622023/8/28UP
本店・総務部Aおすすめ!
雨の中の涙ように 遠田潤子/光文社文庫
本書の中に、いろいろな映画への言及が少しずつ出てくる。その中でも、個人的に大好きな映画が大事な場面で3つ出てきたので、単純にそれだけで嬉しい。ひとつは映画の中のセリフが本書のタイトルにもなっている『ブレードランナー』、そしてアル・パチーノ主演の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』、最後にフランク・キャプラ監督の名作『素晴らしき哉、人生!』。どの映画も一見するとハッピーエンドのように見えるが、その過程においてかなり深い問いが内包されているように思う。
本書は全8話の連作短編集で、これらも一見するとそれぞれハッピーエンドのように思えるが、決してそれだけではない奥深さがある。短編なのでしつこい説明などはなく、各章ごとに余韻を残す終わり方が想像力をかきたてる。最終章「美しい人生」で大団円だ。
それにしても、「雨の中の涙のように」か…。また『ブレードランナー』が観たくなった。
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no.5612023/8/24UP
本店・総務部Aおすすめ!
スター 朝井リョウ/朝日文庫
何かを創作したり表現したりする職業の、避けられない葛藤がリアルさをもって伝わってくる。映画と動画制作がメインのストーリーになっているが、本書にも少し出てくる料理人の世界や、テレビ、俳優、音楽、文芸、美術、建築、工芸、美容、デザイン…その他あらゆる職業でも同じことがあると思う。
大学時代に映画サークルのトップ2だった二人のその後、それぞれ別の世界で映像と関わりもがきながら、自分なりに確かなものを掴むまでの成長物語。善かれ悪しかれ今の世界との向き合い方を突き詰めていくと、最終的には自分との向き合い方になってくる。本書に出てくるクリエイター達の話や技術は今を象徴したものも多いが、媒体は変われども発信する側も受け取る側も人の心は大昔からそう変わらない。結局は作品で全てを物語るのがプロの仕事というものなのだろう。古いのも新しいのも、また無性に映画が観たくなった。 -
no.5602023/8/19UP
本店・総務部Aおすすめ!
世界はなぜ地獄になるのか 橘玲/小学館
嫌な話なんだけれども、現代では残念ながら避けては通れない不都合な現実。差別や偏見をなくし、誰もが自分らしく生きるという出発点からは程遠く、お互いの足を引っ張り合うだけのポジショントークや、社会正義という名のもとにSNSで罵詈雑言を浴びせるキャンセルカルチャーなど、本当に嫌な気持ちにさせられる。どこに地雷が潜んでいるのか、誰にも全くわからない。
政治や宗教、肌の色や性別、主義主張などに関わらず、問題だけを純粋に解決させる方法はないのだろうか。罪を憎んで人を憎まずなどは、もはや死語なのか。本書はなぜ地獄になるのかという構造を示したもので、問題の解決方法を示すものではない。これだけ世界が複雑化するとそう簡単には解決しそうもないが、少なくとも個人としてはそんな風潮からは距離を置き、物事の本質を冷静に見るようにする他ない。