さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.33
    2016/7/27UP

    フェザン店・田口おすすめ!

    いつもおまえが
    傍にいた 今井絵美子/祥伝社

    「立場茶屋おりきシリーズ」を筆頭に、多くの人気シリーズを世に送り続けている時代小説家・今井絵美子の自叙伝である。ステージ4の乳癌で、3年の余命宣告をされるが、抗癌剤治療を拒否し、執筆に余命を懸ける女流作家の生き様が描かれている。苦難に出遭っても志を曲げずに己の想いを貫いた人生。今井作品に登場する主人公たちの真っ直ぐで一途な姿は、まさに今井さんの分身だったのだろう。
    「手がけたシリーズは、全て完結するまで死ねないわ!」という今井さんの言葉が忘れられない。
    同時期に発売された、立場茶屋おりきシリーズ最新刊「幸せのかたち」(ハルキ時代文庫)は、涙なしには読めなかったのは、物語が佳境にさしかかっていることもあるのだが、おりきが今井さんと重なって見えたのかも知れない。

  • no.32
    2016/7/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    教養としてのプロレス プチ鹿島/双葉文庫

    プロレスの魅力に関して、普通は言葉にするのが野暮だったり難しかったりする部分を、様々な事例を交えながらこれでもかと伝えてくる本書。面白いのはプロレスファンの視点から現代の風潮や社会問題までをも語っている点だ。プロレスへの熱い想いが溢れすぎ、こじつけのような所もそれはそれで楽しく読むことができるし、たまに普遍的な物事の本質や核心を突いていてハッとさせられる。翻って、私達の本屋ももっとプロレス的であるべきだなどと思ってしまった。書店は優等生みたいにこぎれいな顔をしているが本来はもっと懐が深く、清濁併せ呑むような怪しげな魅力のある場所のはずではなかったか。本書に当てられ、若干プロレス者寄りの思考になっているのが危険でもある。

  • no.31
    2016/7/27UP

    フェザン店・松本おすすめ!

    心やすらぐ
    国宝仏像なぞり描き 田中ひろみ/池田書店

    いま秘かなブームになりつつあるのが、仏像のなぞり描き。試しにやってみると、その曲線美にうっとりしつつ心がフワフワと軽くなってゆくのを感じます。国内最高峰とされる国宝仏像。特に「美男子の仏像」のページにはまる人が続出しているようです。いつの間にか日常を忘れ、深い癒し(とトキメキ)を得ることができると思います。

  • no.30
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    化石の分子生物学
    生命進化の謎を解く 更科功/講談社現代新書

    「化石の分子生物学」を一発でイメージする最良の例が「ジュラシックパーク」だ。蚊が閉じ込められたコハクの化石が発見され、その蚊が吸った恐竜の血から、バイオテクノロジー技術を使って現代に恐竜を蘇らせる、という物語は、まさに「化石の分子生物学」を元にしたものだ(実際に「ジュラシックパーク」が公開される前年に、コハクの中のシロアリから古代DNAが発見された)。
    さて、そんな「化石の分子生物学」だが、「化石から古代DNAを採取して研究する」というだけには留まらない。他にも、現在生きている生物のDNAを研究することで分子の進化速度を判定したり、あるいは生物の進化の枝分かれの時期を推測したり、というような研究もある。それまでは、化石を「観察する」ことでしか古代生物の研究が不可能だったが、古代DNAの研究や、あるいは分子の進化速度の研究などによって、新たな可能性が拓けた。本書は、そんな「化石の分子生物学」の世界の一端を垣間見れる作品だ。

  • no.29
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    リーマン博士の大予想
    数学の未解決最難問に挑む カール・サバー/紀伊国屋書店

    ワイルズが解き明かした「フェルマーの最終定理」や、ペレルマンが解き明かした「ポアンカレ予想」など、一般社会でも大きく報じられ認知された数学の証明はいくつか存在する。
    それらに匹敵するほど重要で、かつ難問だと思われている予想が存在する。それが「リーマン予想」だ。
    リーマン博士が提唱したこの予想は、ゼータ関数という一般にはなかなか馴染みのない分野に関するものだが、証明されれば、謎めいた「素数」という数について非常に重要な事実が明らかになる、とされている(こんな風に書いている僕も、リーマン予想そのものをちゃんと理解できているわけではない)。
    本書はリーマン予想の本だが、数学の話というよりは数学者の話である。リーマン予想という最難関を、これまでどのような数学者がどのように攻略しようとしてきたのかが描かれる。
    解ければ1億円の賞金が約束されているこの予想、あなたもチャレンジしてみませんか?

  • no.28
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ドアの向こうのカルト
    9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録 佐藤典雅/河出書房新社

    著者は現在、「東京ガールズコレクション」を仕掛けるなど、その方面では著名なプロデューサーのようだ。しかし、タイトルにもあるように彼は、9歳から35歳まで「エホバの証人」の信者として生きてきた。
    本書は、彼が何故「エホバの証人」を信じるようになり、そして何故「エホバの証人」から抜け出すに至ったのか、その過程を描いた作品だ。
    「エホバの証人」の話、と言われると、ちょっと特殊な経験だと思ってしまうだろう。しかし本書には、こんな文章が出てくる。
    『洗脳に関して言うと、私のカルト体験談は確かに特殊で極端な環境だった。しかし程度の差こそあれど、広い意味での洗脳は社会のあらゆる所で見られる』
    テレビやインターネットや口コミ。こういったものを無条件に信じることも、ある意味では「洗脳」と言える。そういう「洗脳」からいかに外れたところで生きていけるか。本書はそういう示唆も与えてくれる一冊だ。

  • no.27
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    炭素文明論
    「元素の王者」が歴史を動かす 佐藤健太郎/新潮選書

    『こうした本を書いたのは、ひとつには化学に対する関心の低さを、少しでも改善したいという思いがあったためだ』
    そう著者は語る。
    本書は、世界の歴史に影響を与えたいくつかの「炭素化合物」を取り上げ、それらを軸に世界史を眺めてみるという、非常に面白い視点で描かれた化学と歴史の本だ。「炭素化合物」と書くと難しそうだろうが、簡単に書けば「デンプン」「砂糖」「ニコチン」「カフェイン」などのことだ。
    内容も、「昆布のお陰で薩摩藩は倒幕出来た」とか、「紅茶がアメリカ独立のきっかけになった」とか、「アメリカ最初の植民地は、ビール不足によって決定された」みたいな話が展開されていく。そう言われると難しい印象は薄れるのではないだろうか?
    歴史も化学も得意ではない僕が全ページの9割以上をドッグイヤーした一冊だ。

  • no.26
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    天空への回廊 笹本稜平/光文社文庫

    今世界を救えるのは、エベレストにいる主人公ただ一人。
    ハリウッド映画のようなそんなスペクタクルでスリリングな物語が展開されていく作品だ。
    真木郷司は世界でも有数のクライマーで、エベレストへの登攀に挑んでいる。しかしその最中、大規模な雪崩に巻き込まれてしまう。なんとか生還した郷司だったが、親友は行方不明のまま。すぐにエベレストは入山禁止となり、アメリカ軍がやってきたことで不穏な様相を呈していく。説明によれば、エベレストに落ちたのは隕石ではなく衛星で、郷司は、回収作戦を行うので協力してはもらえないか、と打診されるが…。
    『エベレストの山頂付近に衛星が墜落した』という設定から、まさかこんなとんでもない物語が展開されるとは思ってもみなかった。二転三転どころの展開じゃない。色んな人間がそれぞれの思惑を隠したまま行動し、それが徐々に明かされていくことで、驚きの展開を生み出すのだ。

  • no.25
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    私の男 桜庭一樹/文春文庫

    地震で家族を失った当時9歳だった花を、海上保安庁に勤めていた当時25歳だった淳悟が引き取る。この花という養女と淳悟という養父の物語だ。
    二人は淫靡な関係にある。花は吸い付くようにしていつも淳悟に寄り添って生きてきた。気持ちだけではなく、身体も寄り添いながら、長い時間を掛けて汚れきってしまった一組の男女。親子という壁を超え、男女という関係さえも超越したところで、二人は二人だけの世界を築いて生きていく。
    物語は、時系列を逆に辿るような形で進んでいく。第一章では、24歳になった花が大企業の重役の息子と結婚する話が描かれ、そこから少しずつ何か皮を剥いていくような感じで時間を遡っていきながら、禁忌の愛を描き出していく作品だ。

  • no.24
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    TOKYO
    0円ハウス0円生活 坂口恭平/河出文庫

    本書は、著者が早稲田大学の建築学科に通っていた頃に行った卒論のための調査がベースになっている作品だ。
    著者はホームレスの方々が住んでいるダンボールハウスを「0円ハウス」と名付けた。そしてそれらが、どれだけ機能的で創意工夫がなされているのかを知るようになっていくのだ。
    著者が0円ハウスに対して抱いた最も素晴らしい点は、「生活に合わせて家を作る」というものだ。僕らが家を建てる時、様々な選択肢があるとはいえ、基本的には既存の間取りやサイズなどから様々なものを選び取っていく。つまり、「家に生活スタイルを合わせる形」だ。しかしホームレスの方々は、まず生活スタイルが先にあり、それに必要な環境を実現させるために家を建てる。発想が真逆なのだ。
    本書は、ダンボールハウスを建築学的な観点から捉え直した意欲作なのだ。