さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.41
    2016/8/2UP

    フェザン店・松本おすすめ!

    消えた都道府県名の謎 八幡和郎/イースト新書

    戊辰戦争において仙台藩と盛岡藩は「奥羽列藩同盟」の主力でした。
    戊辰戦争後、幕府側についた藩の領地は官軍に一旦占領され、新政府側についた藩に預けられます。明治元年12月に盛岡藩は20万石から13万石に厳封され、白石藩へ移されることになりました。しかし、盛岡藩ではなんとか盛岡に戻りたいと激しい運動を展開し、明治2年7月に7万円という法外な上納金と引き替えに戻ってきます。
    明治時代の1円は現在の2万円くらいの価値とのこと。
    7万円×2万円=14億円!なんという盛岡愛。いまの岩手県があるのも、その時ご先祖さまが支払いを決めてくれたおかげです。
    意外と知らない「ふるさとの成り立ち」47の物語。

  • no.40
    2016/8/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    箱の中 木原音瀬/講談社文庫

    痴漢の冤罪で逮捕された堂野。数万円の罰金を払うことを拒否し、無罪を主張し続けたために、執行猶予無しの10ヶ月の懲役に処せられた堂野は、失意のどん底にいる。それまで真面目一筋でやってきた自分の存在が否定されたような気がして、さらに、家族にも迷惑を掛けていることを気に病んでいる。
    堂野と同じ「箱」に、喜多川という男が収監されていた。人を殺した、という噂があるが、定かではない。堂野は同じ「箱」の中で、喜多川というちょっと謎めいた男を関わることで、それまで経験したことのない関係性の中に絡め取られていく。
    そう、この作品は、BL(ボーイズラブ)である。BL、というだけで拒絶したくなる気持ちも分からないではないが、本書は、BLというのがどれほど深い世界を描くことが出来るか、という好例なのだ。読まず嫌いはもったいない。

  • no.39
    2016/8/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    乃木坂46物語 篠本634/集英社

    アイドルに興味がない、という人の気持ちはよく分かる。僕も、つい一年前まではそちら側の人間だった。自分の人生に「アイドル」というものが入り込んでくることはないだろう、と思っていた。
    いくつか偶然が重なって、僕は「乃木坂46」というアイドルに惹かれるようになっていった。握手会にもライブにも行ったことがないが、今では自分のことを「乃木坂46のファンだ」と思っている。
    「アイドル」というものに一般的なイメージを当てはめるとすれば、「明るい」「元気」というようなポジティブなものが浮かぶだろう。しかし僕は、「乃木坂46」のネガティブな部分に惹かる。様々な発言から、彼女たちの、アイドルとは思えないような後ろ向きな姿勢が見て取れる。アイドルである自分と、ネガティブである自分の狭間でもがく彼女たちのあり方は、とても素敵だと思う。
    本書は、乃木坂46に詳しくない人でも、乃木坂46というものの来歴と、メンバーが持つネガティブさを知ることが出来る一冊だ。

  • no.38
    2016/8/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    叫びと祈り 梓崎優/創元推理文庫

    殺人事件が起こって、動機や手法が解明され、犯人が炙りだされる…。
    というような単純なミステリでは、ない。
    本書で切り取られていくのは、「価値観の相違」だ。異なる文化的背景を持つ者がいて、両者の間の価値観の違いが浮き彫りになっていく。
    確かに、何らかの事件が起こり、それが解き明かされていくミステリではある。しかしその過程で、読者が想像もしなかったような価値観が描かれていく
    例えば、冒頭の「砂漠を走る船の道」では、「何故砂漠のど真ん中で人を殺さなければならないか」に、驚くべき理由が与えられる。容疑者は3人ほどしかいない。殺人を犯せば、すぐに絞りこまれてしまう。しかも砂漠のど真ん中だ。そんな状況で、何故殺人という手段を取らなければならないのか。その価値観に、あなたは驚愕するだろう。
    ただのミステリだと思ったら火傷する、新人のデビュー作とは思えない良作だ。

  • no.37
    2016/8/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    日本人のための怒りかた講座 パオロ・マッツァリーノ/ちくま文庫

    このタイトルでこの表紙だとかなり過激な内容かと思われるかもしれませんが、至って真っ当な怒りかた(他人への注意のしかた)に関する本です。著者のどの本にも共通して言える事は、もっともらしい説などではなく、事実を正確に見るという主張があると思います。本書ではそれプラス、自ら実践した上での検証も書いております。理想とか完璧を求めるのではなく、失敗も含め身の回りの小さな実行こそが全てであり、それすらできないようではそれ以上の事など論外であると、私のような小心者はバッサリ斬られます。行動の伴わないエラそうな意見など1ミリの効果も出ない等、私だけでなくいろんなものをバッサバサ斬ってゆく語り口は、爽快ですらあります。

  • no.36
    2016/7/27UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ある奴隷少女に
    起こった出来事 ハリアット・アン・ジェイコブズ/大和書房

    19世紀末。奴隷制度が続いていたアメリカで、一人の奴隷少女が綴った記録、それが本書だ。しかし本書は、発行から100年近くもフィクションだと思われていた。奴隷が書いたとは思えない聡明さ、そしてその壮絶という言葉では表現しきれない人生が、現実を描写したものだとは思われなかったのだ。
    優しい女主人に見守られ、奴隷であると自覚しないまま育った少女時代。しかし女主人の死によってジェイコブズは、ある白人医師の元へ売られる。そこから始まる彼女の壮絶な人生。強姦の横行、7年間の屋根裏部屋での生活、そして不埒な医師から逃れるための勇気ある決断。そのどれもが、僕らの心を揺さぶる。
    現代に生きる僕らにはそれがどれほど醜悪なものであるか分かるが、奴隷制度はかつて当たり前のものだった。僕らが生きる時代にも、様々な「当たり前」がある。それらは、100年後振り返ってみても正しいと思えるか。本書は僕らに、そんな問いも突きつけるのだ。

  • no.35
    2016/7/27UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ハチはなぜ
    大量死したのか ローワン・ジェイコブセン/文春文庫

    世界的に農業が危機的状況に陥っている、という事実を、あなたは知っているだろうか?
    2007年の春までに、北半球から四分の一のミツバチが消えた。この現象は「蜂群崩壊症候群(CCD)」と名付けられ、世界的な問題として認識されている。
    何故か?
    ミツバチが存在しないと、果物を始めとする昆虫に受粉を手伝ってもらう植物のほとんどが受粉出来なくなってしまうからだ。ミツバチほど植物の受粉を精力的に行う昆虫はおらず、ミツバチの減少は農業に直結する大問題だ。
    このCCD、未だに原因もはっきりとは究明されておらず、対策もままならないと言う。
    本書は、どのようにCCDが認識され、原因追究がどのように行われ、どんな対策が行われようとしているのかなど、本書発行時点でのCCDを取り巻く状況が描かれる。今後世界的に人口が増え、食糧難が顕在化すると言われている中、このCCDは、知らないでは済まされない問題だ。

  • no.34
    2016/7/27UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ゴーマニズム宣言
    脱原発論 小林よしのり/小学館

    東日本大震災を境に、日本人の原発に対する意識は変わったはずだ。しかし、震災直後と比べると、また元に戻りつつあるようにも感じる。
    原発もいいんじゃないか、という意見に。
    原発という技術そのものは素晴らしいかもしれない。しかし僕は、原発を取り巻く人々(下請けに汚れ仕事を押し付ける構造や、原発村と呼ばれる人々のこと)がダメ過ぎると感じるので、人類は原発を持つべきではない、という考えでいる。
    本書は、小林よしのり氏が、様々な観点から「脱原発」を主張する作品だ。本書の内容を無条件で受け入れているわけではないが、僕には全体的に納得しやすい話だった。原発に賛成であっても反対であっても、自分の考えを明確にし、そして議論を深めるためにこういう本を読むのは大事ではないかと僕は感じる。

  • no.33
    2016/7/27UP

    フェザン店・田口おすすめ!

    いつもおまえが
    傍にいた 今井絵美子/祥伝社

    「立場茶屋おりきシリーズ」を筆頭に、多くの人気シリーズを世に送り続けている時代小説家・今井絵美子の自叙伝である。ステージ4の乳癌で、3年の余命宣告をされるが、抗癌剤治療を拒否し、執筆に余命を懸ける女流作家の生き様が描かれている。苦難に出遭っても志を曲げずに己の想いを貫いた人生。今井作品に登場する主人公たちの真っ直ぐで一途な姿は、まさに今井さんの分身だったのだろう。
    「手がけたシリーズは、全て完結するまで死ねないわ!」という今井さんの言葉が忘れられない。
    同時期に発売された、立場茶屋おりきシリーズ最新刊「幸せのかたち」(ハルキ時代文庫)は、涙なしには読めなかったのは、物語が佳境にさしかかっていることもあるのだが、おりきが今井さんと重なって見えたのかも知れない。

  • no.32
    2016/7/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    教養としてのプロレス プチ鹿島/双葉文庫

    プロレスの魅力に関して、普通は言葉にするのが野暮だったり難しかったりする部分を、様々な事例を交えながらこれでもかと伝えてくる本書。面白いのはプロレスファンの視点から現代の風潮や社会問題までをも語っている点だ。プロレスへの熱い想いが溢れすぎ、こじつけのような所もそれはそれで楽しく読むことができるし、たまに普遍的な物事の本質や核心を突いていてハッとさせられる。翻って、私達の本屋ももっとプロレス的であるべきだなどと思ってしまった。書店は優等生みたいにこぎれいな顔をしているが本来はもっと懐が深く、清濁併せ呑むような怪しげな魅力のある場所のはずではなかったか。本書に当てられ、若干プロレス者寄りの思考になっているのが危険でもある。