さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.532016/8/23UP
フェザン店・長江おすすめ!
ピンポンさん 城島充/角川文庫
ノーベル平和賞をもらってもおかしくない、と言われた日本人卓球選手がいたことを、あなたはご存知だろうか。荻村伊智朗、その人である。
新聞に、20世紀を代表するスポーツ選手というアンケートが載った時、荻村は16位の中田英寿を抑えて15位にランクインした。文化大革命によって世界から孤立した中国を国際舞台に引き戻したのも荻村であり、当時の中国の指導者である周恩来からも絶大な信頼を得ていた。卓球王国・中国を生み出したのも、荻村なのだ。
高校一年生の時に卓球を始め、たった5年7ヶ月で世界一となった圧倒的な練習量。選手としては毀誉褒貶がある独特のスタイル。常に卓球界、スポーツ界全体を考えて行動し続けた器の大きさ。あまりにも偉大なスポーツ選手だ。
1994年、荻村が62歳で亡くなった際、メディアは荻村についてこんな風に伝えた。
<日本スポーツ界は天才的才能のリーダーを失った><戦後日本の希望の星><「スポーツを通じ平和」が信念>
この凄い男の人生を、是非あなたにも知ってほしい。 -
no.522016/8/23UP
フェザン店・長江おすすめ!
僕たちはいつまで
こんな働き方を
続けるのか? 木暮太一/星海社新書マルクスの「資本論」と言われると、難しそう、つまらなそう、と感じる人が多いだろう。僕もそうだ。しかし著者は、この「資本論」の中の考え方こそが、サラリーマンとして生きていく上で最も重要なのだ、と語る。本書は、「資本論」をベースに、「給料はどのように決まるのか?」「会社の利益はどのように生み出されるのか?」などを明らかにし、それらを元に、「我々はどんな働き方を目指すべきか」という提案をしてくれる作品だ。「資本論」をベースにしているとはいえ、難しい話はまったくない。既に社会に出ている人にももちろん読んでもらいたいが、中学生・高校生・大学生など、まさにこれから社会に出て行く人が、自分の将来の生き方を考える上で知ってもらいたい一冊だ。
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no.512016/8/23UP
フェザン店・佐々木おすすめ!
夏空に、きみと見た夢 飯田雪子/ヴィレッジブックス文庫
近くにいたら「嫌な女の子」って思ってしまいそうなら高校三年生の悠里が、見知らぬ男子高生から頼まれ、悠里に片思いしていた顔も知らない広瀬天也の葬式に参列したことから始まる悪夢の様な出来事と優しい時間。触れ合うことも手をつなぐことも出来ない。それでも好きを止めることは出来ない。まっすぐすぎる想いに涙が止まらない。純粋な気持ち思い出させてくれる、夏の一冊です。
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no.502016/8/23UP
フェザン店・佐々木おすすめ!
十八の夏 光原百合/双葉文庫
「朝顔」「金木犀」「ヘリオトロープ」「夾竹桃」4つの花が彩る短篇集。表題作「十八の夏」恋しいと憎い。相反する自分ではどうすることが出来ない想いに捕らわれた女性と十八の少年が辿り着いた切ない真実。最後の一文が与えてくれる夏の余韻を感じて下さい。そしてほっこりあったかい気持ちにさせてくれる、秋におすすめ「ささやかな奇跡」…私がこの本に初めて出会ったときは、本屋で働けるとは思っていませんでした。この奇跡、素敵です。
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no.492016/8/17UP
フェザン店・松本 おすすめ!
地方創生の罠 山田順/イースト新書
「地方創生はカタチを変えたバラマキである」と主張する著者。ゆるキャラやB級グルメを効果なしと切り捨て、プレミアム商品券の欺瞞を説く。地方にいながら世界と直接つながれる現代において、危機感に付け込んで右から左へと行われるバラマキに警鐘をならす。著者の「地方はゆっくりと衰退するべし」という主張には賛同しかねるが、地方の現状認識および一時のブームに流されない目を養うという意味では一読の価値があります。
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no.482016/8/17UP
フェザン店・長江 おすすめ!
「ニッポン社会」入門 英国人記者の抱腹レポート コリン・ジョイス/生活人新書
本書は、イギリスの高級紙「デイリー・テレグラフ」の記者・東京特派員として日本に住んでいる英国人記者による、『外国人から見た日本』的な本だ。この手の本は最近多くあるが、2006年に発売された本書はその先駆けと言える作品かもしれない。
銭湯の素晴らしさやプールでの礼儀正しさ、電車で寝ているサラリーマン、「ずんぐりむっくり」という表現の素晴らしさ、「勝負パンツ」「上目遣い」「おニュー」という著者が好きな三大日本語、などなど、日本に長年住んでいる著者が、取材の過程ではなく、自身の日常生活の中で感じたことが素直に描かれているので面白い。日本語をしっかりと理解し、また新聞記者としての知性や観察眼などから切り取られる日本の姿は、普段日本人が意識しないようなものとして描かれていて、非常に新鮮だ。イギリスとの比較も随所で描かれていて、イギリスに対するイメージも変わるのではないかと思う。 -
no.472016/8/17UP
フェザン店・長江 おすすめ!
20歳の自分に受けさせたい文章講義 古賀史健/星海社新書9
本書の冒頭で、考えてみれば当たり前なのだがあまり意識することのないこんな話が出てくる。
『われわれが文章を書く機会は、この先増えることはあっても減ることはない』
確かにその通りだろう。例えば、今まで電話で済んでいたことが、メール・SNSに変わることで、多くの人が文字で情報や感情を伝えている。インターネットの普及により、インターネット上に文章を書く機会も格段に増えたことだろう。
そういう世の中にあって、文章を書く力を鍛えることはとても大事だ。
本書は、ただの文章の技工書ではない。「書くことは考えることだ」「話せるのに書けない、を解消することが最も大事」「絵文字入りの文章は文章ではない」など、「書くということ」そのものを突き詰めながら、実際的な文章の書き方にまで落とし込んでいく作品だ。この一冊で文章を書くためのすべての基本が手に入ると言っても言い過ぎではないだろう。 -
no.462016/8/17UP
フェザン店・長江 おすすめ!
ハサミ男 殊能将之/講談社文庫
少女を絞殺し、その喉元に研ぎ上げたハサミを突き立てる猟奇殺人が都内近郊で発生し、その犯人をマスコミは「ハサミ男」と名付ける。知的で用心深い「ハサミ男」は、一定の期間を置いて殺人をしていた。
三人目の被害者を選定し、尾行を繰り返し綿密にチャンスを狙う「ハサミ男」。しかしなんと、自分とまったく同じ手口でその少女が殺されてしまい、しかもその死体の第一発見者になってしまった!何故その少女は、「ハサミ男」の犯行に似せて、「ハサミ男」以外の人間に殺されたのか。猟奇殺人鬼「ハサミ男」自身が探偵となり、調査を始めるが・・・。
あらゆる意味で衝撃的な作品だ。覆面作家であり素性がほとんど明らかにされないまま亡くなってしまった、常識外れの作品を世に送り出し続けた著者のデビュー作に相応しい、そんな風に思える作品だ。この衝撃を、是非味わって欲しい。 -
no.452016/8/10UP
フェザン店・長江 おすすめ!
私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 島村英紀/講談社文庫
地震学者である著者は、ある日逮捕される。逮捕から裁判の終結に至るまでの流れは非常に奇妙なものだった。業務上横領罪から詐欺罪への切り替え、検察が設定した被害者側から裁判で「被害はない」と証言されたこと、裁判史上類例のない判例など、著者は実に奇妙な形で有罪判決を受ける。
しかし本書のメインは、それらの過程を描くことにはない。著者は殊更に、自らの無実を主張することもない。
本書は、身柄を拘束されてから、一審の裁判が終結し保釈が認められるまでの拘置所内での生活を細かく記した作品だ。
部屋の広さなど様々なサイズを計ったり、拘置所内の規則を把握したりと、研究者目線で拘置所内での生活を描いていく。世界各地の調査船に乗る機会のある著者は、調査船と比べれば拘置所は天国のようだと書く。接見禁止の措置や、望んだ本が読めない環境は辛かったようだが、そんな著者だからこそ描ける、湿っぽくない獄中記だ。 -
no.442016/8/10UP
フェザン店・長江おすすめ!
写楽
閉じた国の幻 島田荘司/新潮文庫写楽という浮世絵師をご存知だろうか?浮世絵が隆盛を誇った時代の一大スターでありながら、寛政6年の5月からたったの10ヶ月しか歴史上に登場しない、謎に包まれた人物だ。無名でありながら大々的に売り出されたこと、当時の浮世絵の常識を逸脱したような構成、写楽が表に出なくなって以降誰も写楽について言及していないこと。そうした様々な不可思議な点があり、美術界の大きな謎として今も研究者を惹きつけている。
本書は、本格ミステリの旗手であり、同時に自身も美術系の大学で美術を学んだ著者が、ミステリという物語の中で「写楽は一体誰なのか?」という壮大な謎に挑んでいる作品だ。本書の中で島田荘司が提示した解答は、写楽問題に詳しくない僕には非常に納得できるものだった。後半で描かれる、島田荘司の仮説を元にした、江戸時代にこんなことがあったのだろう、という物語も、非常によく出来ていて面白い。