さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.972016/12/6UP
フェザン店・長江おすすめ!
飛び立つ
スキマの設計学 椿昇/産学社著者は、長く高校の美術教師を勤めた後、アートの世界で様々な活動を続ける芸術家だ。高校教師だった頃の経験や、あるいは様々な場所でワークショップを設計したり、様々なプロジェクトに関わったりする中で見えてきたものを雑多に取り込みながら、「変人」をいか育てるかという提言を本書の中に散りばめる。
芸術活動を通じて子どもたちの「教育」にコミットする著者は、「場」や「環境」がどのように教育に影響を与えるのかという様々な実例を挙げ、さらに自身の経験を踏まえながら、日本の教育現場の欠陥を指摘していく。
『教育現場のストレスが多様な生き方を選択する可能性を閉ざし、クリエイティブな人間がどんどん世の中から消え、人々の対話がネガティブになり、誰もがアイデアを提案することの愉しさを忘れるような社会になってゆく未来を見たくはなかった。』
だから本書を書いたという著者。「教育」とは何であるのかを深く考えさせる異端の書である。 -
no.962016/12/6UP
本店・総務部Aおすすめ!
バー・リバーサイド 吉村喜彦/ハルキ文庫
表紙や中の絵がとても粋だ。
酒を巡る話が大概面白いのはどんな話であれ、やはり酒と人間の相性がいいからだと思う。いつも澄み切っていて濁りなく完璧な酒よりも、ちょっと不完全さを残した、雑味のある方が味わい深い。いい話よりも失敗談や心の傷などあった方がより陰影が生まれ、人間的に深みが出る。バー・リバーサイドを舞台に、そんな5つのショートストーリー。
「酒は人間をダメにするものじゃないんです。人間はダメだという事を教えてくれるために酒があるんです。」とは孤高の天才落語家、立川談志さんの言葉。カッコいい呑み方はなかなかできるものじゃないけれど、いい時はいいなりに、ダメな時もダメなりに、明日も生きるために。 -
no.952016/11/29UP
フェザン店・長江おすすめ!
錯覚の科学 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ/文春文庫
本書は、心理学の世界に衝撃をもたらし、教科書に載るようになった驚くべき実験を行い有名になった二人の心理学者による、日常的な6つの錯覚を扱った作品だ。
彼らが行った実験は、「selective attention test」でYouTubeで検索すれば出てくる。その映像は、6人が2つのバスケットボールをパスしている映像だ。映像を見て、白いTシャツを着た3人のパス回しの回数を正確にカウントするように指示が出る。
実際にやってみると本当に驚かされる。人間の感覚がいかにあてにならないかがよく分かる。
人間の知覚や記憶がこれほどまでに曖昧で信頼の置けないものであるという事実は、社会全体でもっと共有されるべきだろう。本書を読むと、僕たちが「揺るがない前提だ」と感じていることがことごとくひっくり返される。人間の能力への誤った信頼や評価が、様々な誤解や悲劇を生む可能性を持っていると思い知らされる。 -
no.942016/11/29UP
フェザン店・長江おすすめ!
密室キングダム 柄刀一/光文社文庫
かつて隆盛を誇ったマジシャンである吝一郎は、11年前に子供の頃に克服したはずの腕の麻痺が再発し、マジシャン稼業から足を洗っていた。しかしマジシャンとして復活公演を成功させ、さらにその後観客から50名を選び、自宅での第二部公演へと招待した。
後ろ手に縛られた状態で、厳重に鍵を掛けられた棺桶に入れられ霊柩車に乗せられた一郎は、棺桶に仕込んだマイクで実況中継をしながら、吝邸の<舞台部屋>と呼ばれる部屋まで運ばれて行く。しかしうめき声がマイクから聞こえ始め、なんとか棺桶を打ち破って中に入ると、鍵の掛かった棺桶の中で吝一郎は杭に貫かれて死んでいた…。
という事件から始まる、吝邸で起こる五つの密室事件を描いた作品だ。
1200ページを超えるという超絶なボリューに手が出ない人も多いだろうが、まさにタイトルに恥じない傑作だ。5つの密室すべてに意味があり、恐ろしく美しく構成されている。(2016年11月現在品切中) -
no.932016/11/22UP
フェザン店・長江おすすめ!
凍りのくじら 辻村深月/講談社文庫
高校生の理帆子は、いつでも現実を醒めたような目で見ながら生きている。誰にも心を開くことのない、ちょっと醒めた女の子。5年前失踪した父の影響で理帆子もドラえもんが好きになり、かつて藤子・F・不二雄が「SF」を「少しフシギ」と言ったように、周りの人間を「少し◯◯」と評するのが好きだ。
ある夏図書館にいると、「写真を撮らせてほしい」という青年に出会う。別所あきらと名乗ったその青年はひどく穏やかで、聞き上手だった。理帆子は、普段他人には決して見せない部分まで、別所には見せるようになっていった…。
かつてこの本に、「どこかにきっと、あなたのことが書いてある」というコピーをつけて売ったことがある。理帆子を始め、ちょっと真っ当には生きられない者たちが描かれる物語だが、その中の誰かに強く共感してしまうのではないかと思う。
僕は、理帆子にも別所にも若尾にも共感してしまうのだ。 -
no.922016/11/22UP
フェザン店・長江おすすめ!
圏外編集者 都築響一/朝日出版社
本書は、「POPEYE」「BRUTUS」のアルバイトから始め、今に至るまでフリーの編集者として走り続け、誰からも給料をもらわず、ただ原稿料のみで40年間編集者を続けた著者が初めて語る、自身の編集の歴史や手法の話だ。
冒頭で著者はこう言う。
『この本に具体的な「編集術」とかを期待されたら、それはハズレである。世の中にはよく「エディター講座」みたいなのがあって、そこでカネを稼いでいるひとや、カネを浪費しているひとがいるけれど、あんなのはぜんぶ無駄だ。編集に「術」なんてない』
そして編集者という仕事を、こんな風に評する。
『編集者でいることの数少ない幸せは、出身校も経歴も肩書も年齢も収入もまったく関係ない、好奇心と体力と人間性だけが結果に結びつく、めったにない仕事ということにあるのだから』
モノを生み出す人間、そしてそういう人間をサポートする人間。一般的には「編集者」と呼ばれないであろうそういう人たちにも読んで欲しい一冊だ。 -
no.912016/11/15UP
フェザン店・長江おすすめ!
マーケット感覚を身につけよう
「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法 ちきりん/ダイヤモンド社本書は、ちきりん氏が「マーケット感覚」と名づけた、これからの世の中を生きていくのに必要とされる能力について、「それは一体どんな能力なのか?」「どうやって身につければ良いのか」について書かれた本だ。
本書で「マーケット感覚」とは、こんな風に定義されている。
【商品やサービスが売買されている現場の、リアルな状況を想像できる能力】
【顧客が、市場で価値を取引する場面を、直感的に思い浮かべられる能力】
これだと少し伝わりにくいだろう。それを補うために著者は冒頭で、「ANAのライバルは?」という問いを読者に投げかける。非常に面白いのでここの部分だけでも読んでみて欲しい。
どんな仕事も、他者にモノやサービスを売る、ということで成り立っているはずだ。だからこそ著者の言う、『「自分は何を売っているのか」「何を買っているのか」について、意識的になること』が大事になる。あなたにはその意識があるだろうか? -
no.902016/11/15UP
フェザン店・長江おすすめ!
預言者ピッピ 地下沢中也/イースト・プレス(コミック)
ピッピは、科学者が総力を結集して作った、完璧な未来予測が出来る人工知能だ。日本の地震研究所で管理されており、地震予知だけにピッピを使う、という制約を科学者たちは頑なに守っていた。しかし様々な要因からピッピの力を最大限に解放せざるを得なくなる。制約を取り払われたピッピは、もはや人類には理解不能な“神”あるいは“怪物”へと変化していく…。
『なぜ目の前の救えるものを救わないの?』
ピッピの力を使えば、それまで不可能だったことが確かに可能になる。
『我々には迷う自由も間違う自由だってあるはずなんだ。しかしそれすらなくなるよ。行う前にそれが充分間違いだとわかったなら。考える前に答えが出てしまったなら』
しかしそれは、確定した未来をただなぞるだけの人生を歩むことと同じだ。
選べるとしたら、あなたはどちらの未来を生きたいだろうか? -
no.892016/11/8UP
本店・総務部Aおすすめ!
紙の城 本城雅人/講談社
新聞社の話だが本屋や出版業界も同じ“紙の城”という事で、主観も交えながら後半は夢中で一気に読んでしまった。テレビ局と新聞社を相手にIT企業が買収劇を仕掛ける物語。「紙」対「ネット」はわかりやすい構図だが、新旧あらゆる価値観の相違はどんな企業、どんな商売でもあると思う。時代の変化に対応し道具や媒体は変わっても、売っているものの本質は正しく見極めなければならない。パッケージやシステムだけがどんなに素晴らしくても中身が伴わなければ長くは続かない。やっぱり最終的には人だよという話はこれまでもいろいろな所で聞いてきた。しかし、これからもそうあり続けると言い切れるのか。それでも、これからも人の力を信じ続けたい、そう思わせる物語だった。
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no.882016/11/8UP
フェザン店・長江おすすめ!
理系の子
高校生科学オリンピックの青春 ジュディ・ダットン/文春文庫『何年ものあいだ、科学者の頭をなやませていた問題を高校生が解決しているのです』
アメリカには「サイエンス・フェア」と呼ばれる、主に高校生を対象にした科学コンテストがあり、その中でもトップクラスに優秀な研究が、「「インテル国債学生科学フェア(通称インテルISEF)」に登場する。賞金総額400万ドル(日本円で3億円以上)という破格のコンテストだ。
本書には、凄い素材を開発し特許を五つ取得、年間で1200万ドルの売上を見込める会社を設立した高校生や、14歳にして核融合炉を作ってしまった少年、巨大企業デュポン社に挑戦しFBIから監視されるようになった少女など、ちょっと考えられないような少年少女が登場する。
難しい科学の本ではない。科学的な話はほぼ出てこないと言っていい。本書は、少年少女たちの生い立ちや、何故研究を始めようと思ったのか、研究に関わる苦労や挫折など、『人』が描かれる作品だ。臆することなく読んで欲しい。