さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.123
    2017/2/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    退出ゲーム 初野晴/角川文庫

    本書は4編の短編が収録された連作短編集だ。
    物語の設定はこうだ。主人公は、高校生で吹奏楽部に所属している穂村千夏。吹奏楽部の顧問の草壁先生に恋しているが、ライバルがいるためなかなか簡単にはいかない。
    チカの幼馴染である上条春太も同じく吹奏楽部。チカとハルタは、万年人材不足の吹奏楽部をなんとかするため部員集めに奔走するが、その過程でいつも変な謎解きに関わることになる…。
    ハルチカと呼ばれるこのシリーズで描かれるミステリにはいつも驚かされる。どの話にも、どこから仕入れてきたんだろう、と思ってしまうマニアックなトリビアが盛り込まれる。そしてそのトリビアが、謎そのものと密接に関わるのだ。どこから着想しているのかまるで想像出来ない物語に是非翻弄されてほしい。

  • no.122
    2017/2/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ラーメンと愛国 速水健朗/講談社新書

    本書は、「ラーメンとは日本人にとって何なのか?」という問いを軸として、戦前から現在に至るまでのラーメンの存在の変遷や、ラーメンという存在が国民性に与えた影響などについて深く探っていく作品だ。という内容紹介はあまりにも漠然としすぎているが、本書で描かれる範囲があまりにも広いので、うまく要約することが難しい。
    それは、章題を並べてみるだけでもある程度は理解できるだろう。
    「ラーメンとアメリカの小麦戦略」
    「T型フォードとチキンラーメン」
    「ラーメンと日本のノスタルジー」
    「国土開発とご当地ラーメン」
    「ラーメンとナショナリズム」
    ラーメンを主軸にしようとするあまり、あまりに我田引水に過ぎるように感じる箇所もあり、話の信憑性なども不明だが、読み物として読んでいる分には非常に面白い。本書は、ラーメンというものを主軸として、戦前から現在までの日本及び日本人の変化を抽出しようとする試みが斬新である。

  • no.121
    2017/1/31UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    すべてはモテるためである 二村ヒトシ/イーストプレス

    本書は、AV監督である著者が、「モテない男たち」に送る「実践的なモテ本」だ。しかし本書は、恐らく一般的なモテ本がそうであるように、こんな風に喋れ、こんな服を着ろ、女はこんな行動に弱い、などということが書かれているわけではない。
    本書は、あなたの考え方を変える一冊だ。
    本書では、あなたがモテない理由を、一言でこんな風に表現する。
    『あなたが彼女にモテなのは、あなたが「彼女にとってキモチワルい人」だからである。』
    そして、どうやったら「キモチワルい人」から脱し、女性とコミュニケーションするためのスタートラインに立つか、ということが書かれていく。
    それは結局「どう生きるか」ということと直結し、自分なりの生き方、一人でいても孤独にならない居場所をどう獲得するか、という話になっていく。
    タイトルから、ただのモテ本だと思って読み始めると驚くだろう。そしてその驚きは、あなたが女性と関わる際の意識を変える第一歩になるのだ。

  • no.120
    2017/1/31UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    死のテレビ実験
    人はそこまで服従するのか クリストフ・ニック+ミシェル・エルチャニノフ/河出書房新社

    この作品は、テレビが一台でも家にある人は全員読んだ方がいい作品だと思う。
    2009年、フランスのテレビ局がある実験を行った。それは、1960年代に心理学者・ミルグラムが行った、通称「アイヒマン実験」と呼ばれるものを現代的に作り変えた実験だった。
    架空のクイズ番組のパイロット版だと言って集められた被験者は、クイズの出題者となり、サクラである解答者が間違える度に電気ショックを与えるよう指示される。間違える度に電圧は上がり、最後には解答者を死に至らしめる電圧にまで達すると説明される。その実験で、被験者の何%が最後まで電圧を与え続けたか。
    実に81%もの被験者が最後まで電圧を与え続けたのだ。
    「人間の服従性」と「テレビの権威」について調べるためのこの衝撃的な実験についての詳細が描かれている作品だ。自分は大丈夫、だなんて思わない方がいい。あなたもきっと、最後まで電圧を与え続けてしまう一人に違いないのだから。

  • no.119
    2017/1/31UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    イベリコ豚を買いに 野地秩嘉/小学館文庫

    本は迷ったら買いだ。本屋でざっと本を眺めた時になんとなく気になる時は直感を信じて間違いないと思う。イベリコ豚には全く興味がないものの、書籍が出た時も文庫化した時もやっぱり気になったので買ってみた。お気軽そうなタイトルだが、これはノンフィクション作家が相当な覚悟を持って対象の業界に身を投じ、輸入・加工・販売に至るまで深く関わって自らの体験を綴った、著者渾身の記録である。外から見て書いたのと違い、評論家みたいな話ではない。体験を通じての良質なビジネス書でもあり、食文化を考えさせられる紀行文とも言える。ちなみに本書に出てくる伝説の料理人のお店「シェ・ジャニー」は安比高原から最近盛岡に移転し割と近所にある。いつか一度は行ってみたい憧れだ。

  • no.118
    2017/1/24UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    麦酒の家の冒険 西澤保彦/講談社文庫

    ボアン先輩、タカチ、ウサコ、タックは、ちょっとした気晴らしのためにR高原へとやってきた。ふとしたことから森をさ迷う羽目になってしまった彼らは、ようやく民家らしき建物を見つけた。あまりの疲労に、窓ガラスを割って不法侵入する四人。
    しかしこの建物、あまりに異常なのである。
    とにかく、物という物がほとんどない。食料も家具もカーテンさえもないのだ。あるのは、クローゼットに隠されたヱビスビール96本とキンキンに冷やされた13本のビアジョッキ、そしてベッド一台だけ…。
    まあこれだけあるんだし、とりあえず飲もうということになった一向は、飲みながら、この建物は一体なんのために存在するのかを推理し始めるのだけど…。
    四人がひたすら、この謎の建物についてあーでもないこーでもないと議論をし続けるだけのミステリなのだが、これが滅法面白い。ごく僅かな手がかりを元に、追加の情報がないまま、いくつもの推理が現れては消えていく。物語の閉じ方も実に巧いのだ。

  • no.117
    2017/1/24UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    円卓 西加奈子/文春文庫

    主人公は、小学三年生の渦原琴子、通称「こっこ」。
    こっこは、『孤独』を愛している。孤独になって、一人涙したい。でもその欲求は、残念ながら叶わない。なにせこっこは大家族なのだ。
    こっこは、人と違うことに物凄く憧れる。だから、『ものもらい』になって『眼帯』をしてきた香田めぐみに憧れ、ベトナム人の両親が『なんみん』で、名前が三つに分かれているグウェン・ヴァン・ゴックに憧れ、吃音が激しく吃った声でしか喋ることが出来ない幼なじみのぽっさんに憧れ、クラス会中『不整脈』になって倒れた朴くんに憧れるのだ。
    それに比べて、三つ子の姉の平凡さと来たら。両親と祖母もアホだ。唯一、祖父である石太だけは、評価してやってもいい、と思っている。
    そんなこっこの日常の物語だ。
    こっこは一貫している。ブレない。「なんとなく」が通じないこっこの日常に触れることで、僕らは、様々な「なんとなく」が僕らの日常を支えているということに気づくだろう。

  • no.116
    2017/1/24UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    こちら弁天通りラッキーロード商店街 五十嵐貴久/光文社文庫

    荒唐無稽な話で馬鹿馬鹿しいからこそ現実味があると思った。シャッター通り商店街再生の話である。いや、図らずも再生するかもといった話である。商店街活性化や地方活性化などの議論では、討議を重ねるごとに利害が絡みまとまらなくなるか、理想論が美し過ぎて存続不可能な場合が多いと思われる。地域の特色を活かした素晴らしい意見やきれいな理論であればあるほど怪しいと個人的には思っている。この小説は成り行きでそうなっただけの話で、やり方もテキトーな思いつきだが愚直に実行する話なので、きれいな理論よりは可能性があると思う。言葉は悪いが「若者・馬鹿者・よそ者」が地域の活性化には不可欠だと誰かが言っていた。つまりはそういう事なのだろうと思う。

  • no.115
    2017/1/18UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    検証
    財務省の近現代史
    政治との闘い150年を読む 倉山満/光文社新書

    ハッキリ言って、全然面白そうなタイトルじゃない。僕も、何でこの本を読もうと思ったのか全然思い出せない。けど読んでみたら、べらぼうに面白い一冊だった。
    本書は、ひと言で内容紹介すると、「お金から読み解く日本の近代史」となるだろう。そして、本書の着地点は、「何故財務省は増税しようとしているのか」にある(本書刊行時、増税に関する議論が取り沙汰されていた、はず)。財務省は、「増税」を「したくないのにせざるを得ない」状況に置かれていると著者は説く。その背景を、150年の歴史を振り返りながら読み解いていくのだ。そしてそれは、大蔵省と日銀が、お金をどう掌握し、どう使って行ったのかという、日本の歴史そのものなのだ。

  • no.114
    2017/1/10UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    さよならドビュッシー 中山七里/宝島社文庫

    大富豪である祖父を持つ香月遥は、インドネシアから来た、大地震で両親を失った従姉妹・ルシアと共に年末年始を過ごしていた。ある日、自宅の敷地内に祖父が建てた離れに、遙とルシアは泊まることになった。その夜大火事が起こり、離れは全焼した。
    全身火傷を負い、顔面を初め全身の皮膚移植の末になんとか一命を取り留めた遥は、祖父が遺産の大半を自分に残してくれたことを知る。しかしそれは、ピアニストを目指すためにしか引き出されない、条件付きの遺産相続だった。やがて彼女は、自分が命を狙われていることに気づくが…。
    ミステリではあるが、それ以上に、大火傷を乗り越えてピアニストを目指す遥の姿に打たれる作品だ。そこには、尋常ではない経歴を持つ、魔術師のようなピアノ教師・岬洋介の存在がある。彼の存在が、この作品を非現実的にしていない。コンクール出場に至る奇跡は、感動的である。