さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.1432017/4/25UP
フェザン店・長江おすすめ!
量子力学の解釈問題 コリン・ブルース/講談社 ブルーバックス新書
近代物理学における一つの達成が量子論だろう。この理論がなければ精密機械が作れないと言われるほど実際的な理論でありながら、同時に、僕らが捉えている世界の見方を一変させてしまう奇妙な予測を様々に生み出す理論でもある。アインシュタインが「神はサイコロを振らない」と言ったり、シュレディンガーが「シュレディンガーの猫」というパラドックスを提示したりと、一般にも良く知られたエピソードも多い。
量子論は、我々に物事の見方の転換を要求する。情報が光速を超えた速度で移動しているように見えたり、人間による観測行為が現象に影響を与えるように見えるなど、それまでの常識では捉えきれない現象が次々に現れる。
量子論で最も解釈が難しいとされているのが、「量子の非局所性」「状態の収縮」の2つだ。本書はこの2つを、「多世界解釈」という、まさにSF小説のような捉え方で説明しようとする作品だ。文系の人には恐らく難しい作品だが、最先端物理学が捉えた奇妙な世界を楽しめる一冊である。(※2017年4月現在出版社品切中) -
no.1422017/4/18UP
本店・総務部Aおすすめ!
下手に居丈高 西村賢太/徳間文庫
今更で恥ずかしながら、著者の本を初めて読ませていただいた。芥川賞作家のエッセイ集だが、かなり読む人を選ぶ種類の本だとは思う。個人的には、骨身を削るような文学的真剣さと、非常に律儀な駄目さ加減とが相まって、要するに相当面白かった。だが人にはなかなかお勧めすることが難しい。あまり大勢に支持されるような作風ではないだろうし、そうなったら面白さまで無くなってしまう。とにかく私がするべき最低限の支持のしかたは、著者の私小説をもっと読んでみることだと思っている。そしてそれらは図書館などではなく、当然のことながら購入だ。
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no.1412017/4/10UP
本店・総務部Aおすすめ!
江戸前
通の歳時記 池波正太郎/集英社文庫高級食材などではなく、普通にある旬の食材でハッとさせられる味に出会う事がなかなか難しくなってきた。派手な味よりもそういった地味だけと深い味の方が良くなってきたのは年齢だけの問題かもしれないが、それを洗練と思うことにする。本書は味わい深い名エッセイとともに挿絵がまたいい味を出していて、なんとも言えない風情を味わえる。著者の時代小説にも漂う食通ぶりは、庶民感覚の中にあるさっぱりとしたものが多く、厭らしさが全くない。食に対する文化のひとつの形態としても読み継がれるべきだと思う。ちなみに本書は500円+税。他の嗜好品や娯楽、或いはスマホと比べてどうだろうか。正しいものに正しい金額を払わないと、やがて旨いものは根本からすべて無くなってしまう。
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no.1402017/4/10UP
フェザン店・長江おすすめ!
月3万円ビジネス
非電化・ローカル化・分かち合いで愉しく稼ぐ方法 藤村靖之/晶文社本書は、非電化冷蔵庫や非電化除湿機など、電気を使わない非電化製品の発明を次々とする一方で、地方で仕事を創る塾を主催している有名な発明家である著者が、「月3万円しか稼げない」ビジネスで、いかに愉しく生きていくか、ということについて語った実践的な作品だ。
グローバル経済に席巻されている現在、初期投資のために借金をして稼働率を上げるという発想は早晩立ちゆかなくなる。そうではなく、初期投資を出来る限りゼロにする、稼働率を上げようとしない、というやり方を徹底して、その中で、稼ぐこと自体を愉しみに変え、継続してやり続けることが出来ることを著者は重視する。
月3万円ビジネスでどう生きるのかというスタンスや、様々な月3万円ビジネスの実例などに触れながら、「本当に豊かな生活とはどういうものか」について改めて考えさせる一冊だ。 -
no.1392017/4/4UP
本店・総務部Aおすすめ!
血縁 長岡弘樹/集英社
読みやすい文章の短篇集で、ストーリーだけを追うのであれば、ちょっとした時間の合間に読めてしまう。しかし、著者の本はちょっとゆっくり読むことをおすすめする。一篇読み終わったら一度本を閉じ、内容を最初からもう一度よく思い出してみてほしい。改めて考えると、実によくできている話だなあと感じる。名作短編ミステリーをいくつも書いている著者の本はすべて、ミステリーの中心が人の心に刺さる内容と直結しているものが多く、それによって深い余韻を残す。いやむしろ、活字に書かれていない部分を推し量る事こそが著者の描く中心なのかもしれない。
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no.1382017/4/4UP
フェザン店・長江おすすめ!
バタス 刑務所の掟/藤野眞功
本書は、一介の広告代理店社員である大沢努が、フィリピン最大の刑務所で「王」となるまでの道のりが描かれる作品だ。
モンテンルパ刑務所は、パンカットと呼ばれる複数の集団によって管理されている。それぞれのパンカットは、大雑把に言えば日本の暴力団のようなものだ。絶対的な階級社会で、コマンダーと呼ばれるパンカットの頂点以下、明確な序列が存在する。刑務所内での生活は、どのパンカットに所属しているのかによって大きく左右されることになる。
そして大沢は、類まれな商才を発揮して能力を見せつけ(刑務所内では、これまた暴力団のシノギのように、各人がそれぞれに商売を見つけ金を稼がなくては生きていけない)、他にも様々な要素が絡み合い、ついに刑務所内最大のパンカットであるスプートニクのコマンダーに選ばれることになる…。
こんなことが起こりうるのか!という衝撃に満ち溢れた作品だ。才能というのはどこで開花するかわからない。 -
no.1372017/3/28UP
フェザン店・長江おすすめ!
でっちあげ
福岡「殺人教師」事件の真相 福田ますみ/新潮文庫本書は、2003年に福岡で起こったとある事件を追ったノンフィクションだ。
2003年のある日、朝日新聞の西部本社版に、「小4の母『曾祖父は米国人』教諭、直後からいじめ」という大きな見出しが載る。そのショッキングなニュースに地元のメディアは湧くも、あくまでもそれはローカルニュースの一つだった。
しかし、週刊文春が、「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の『殺人教師』」という記事を載せたために一気に全国区のニュースになった。
両親からの指摘を受けた学校は教師による暴行の事実を認め、福岡市教育委員会もいじめと虐待を認定、全国初の「教師によるいじめ」と認定された。
しかし「史上最悪の殺人教師」とまで呼ばれたこの教師、実はいじめに当たるようなことは一切していなかったという。それなのに何故このような事態になってしまったのか。学校やマスコミの体質が生んだこの異様な展開を、様々な関係者への取材を通じて解きほぐしていく一冊。 -
no.1362017/3/21UP
本店・総務部Aおすすめ!
インテリやくざ文さん 和泉晴紀/鉄人文庫
うーんっと…。非常におすすめしづらい漫画だが、勇気を持って載せている事をご了承願いたい。そして真面目な方、特に女性の方はこのおすすめを完全に無視してほしい。本来ならばごく親しい友人にのみ一言「面白れぇんだよ」と言うのが本書の正しい勧め方だろう。インテリやくざらしいところは一切出てこない。日常の中のごく小さな点に誇大妄想しツッコミを爆発させるだけの話である。劇画タッチの画とこの雰囲気、どこかで見た気がすると思ったらあの『かっこいいスキヤキ』の著者であった。どちらの漫画も、まあはっきり言えばくだらない。でもあまりに熱いので、こみ上げる笑いが止まらない。ぜひ喫茶店や電車などのパブリックスペースで、必死に堪えながら読んでみてほしい。あまりのバカバカしさに涙することだろう。(賛辞です)
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no.1352017/3/21UP
フェザン店・長江おすすめ!
生物と無生物のあいだ 福岡伸一/講談社現代新書
生命とはなんだろう、という一見簡単そうな問いかけが存在する。
あなたなら、どう答えるだろうか?
この問いが、実はなかなかに難しいのである。
DNAが発見されて以降、「生命とは、自己複製を行うシステムである」という定義が生まれた。これは現象を良く表しているようにも思えるが、しかしウイルスというのはこの定義には上手く当てはまらない。「自己複製能力」だけでは、生命を説明しきれない。
著者は、「生命とは、動的平衡にある流れである」と定義し、「動的平衡」という新たな概念を生み出した。本書は、「動的平衡」とは何であり、著者がいかにしてその概念にたどり着いたのかを、科学者らしくない流麗な文章で綴られた作品だ。比喩が実に的確で、文章の端々から、素人にも伝わるように易しく説明しようという意識を垣間見ることが出来て、非常に読みやすい。生命というものについて改めて考えさせる一冊だ。 -
no.1342017/3/14UP
フェザン店・長江おすすめ!
スエズ運河を消せ デヴィッド・フィッシャー/柏書房
本書は、一人の偉大なマジシャンが、マジックの知識・技術を駆使して敵軍を翻弄するイリュージョンを戦場で行った、その記録だ。
ステージマジシャンとして評価を得ていたジャスパーだったが、その状況に物足りなさを感じていた。軍隊で自分の能力が必ず活かせると確信していたジャスパーは、なんとか軍隊に潜り込み、カムフラージュ舞台という特殊なチームを作った。しかし実績がないから依頼がこない。彼らは、少ないチャンスをものにし、「アレクサンドリア港を移動させる」「スエズ運河を消す」と言った、不可能とも思えるミッションを次々と成功させる。戦車や銃ではなく、ダンボールやペンキで敵の目を欺き、「砂漠のキツネ」と恐れられたドイツ軍のロンメル司令官を相手に奇策を繰り広げたという、歴史に埋もれた史実を丹念に掘り起こした一冊だ。