さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.153
    2017/6/13UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    星を継ぐもの J・P・ホーガン/創元推理文庫

    火星や木星に探査船を送れるようになった2020年代の終わり頃、アメリカのとある機関が月の探査中、死後5万年以上経過している人類の死体を発見した。チャーリーと名付けられたその死体は様々な謎を呼ぶ。5万年前と言えば原始時代だ。当然人類はまだ月に行ける文明などない。ありとあらゆる専門家がこの謎を解こうと集結するが、さらに驚くべき発見が待っていた。なんと木星の衛星であるガニメデから、地球の物ではありえない宇宙船が発見されたというのだ…
    SF作品だけど、同時にミステリでもあります。それも非常にスケールの大きなミステリです。しかも、謎の解明が至ってシンプル。「SFはちょっと…」と思っている方、騙されたと思って読んでみてください。本格ミステリが好きな方だったらまず嵌まると思います。僕は外国人作家の作品があまり得意ではありませんが、一気読みでした。

  • no.152
    2017/6/6UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    世の中それほど
    不公平じゃない 浅田次郎/集英社文庫

    言いたい放題の多様な価値観が完全に情報過多の現代。はっきりと正面切って筋を通し、当たり前の事を当たり前だと大声で言ってくれるような清々しさが本書にはある。人生相談だが、『週刊プレイボーイ』誌上での企画なので、「よくこれを浅田次郎氏に聞けるな!」と思うばかばかしいものもあり、それはそれで面白い。若手編集者太郎さんとの掛け合いという構成で、この太郎さんの聞き方というか引き出し方も素晴らしいと思う。伊集院静氏「悩むが花」、内館牧子氏「心に愛、唇に毒」、佐藤愛子氏「九十歳。何がめでたい」なども竹を割ったような気持ちのいい主張の中で、物事の本質を衝いている。作家というのはやっぱり凄いなと改めて思う。

  • no.151
    2017/6/6UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ヒトゲノムを
    解読した男
    クレイグ・ベンター自伝 クレイグ・ベンター/化学同人

    クレイグ・ベンターは、世界で初めてヒトゲノムを解読した科学者として知られている。ヒトゲノムの解読競争は当時熾烈を極め、その聖杯を掴むことは科学者にとって栄誉なことだった。彼はその聖杯を掴んだが、しかしそこに至るまでの道のりは、数々の妨害と不運が度重なる、波乱万丈のものだった。
    EST法という、現在の遺伝子解析の主流となる手法を自ら開発しながら、当時は独創的な手法過ぎて誰にも認められなかったこと。所属する研究所との軋轢。そして、DNAの二重らせん構造の発見者の一人であり、科学界の重鎮であるジェームズ・ワトソンとの対立など、常に苦難の連続だった。自らの利益より、科学の進歩を常に最優先に考えていた一人の高潔な科学者の波乱の人生を自らの手で記した作品だ。

  • no.150
    2017/5/30UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    寄生虫なき病 モイセズ・ベラスケス=マノフ/文藝春秋

    本書は、次のような疑問に答える作品である。
    【なぜ自己免疫性疾患やアトピーなどの病気は、発展途上国ではほとんど見られず、先進国でここ最近急増しているのか?】
    【なぜ兄弟がいる子は、長男よりも喘息やアトピーになりにくいのか?】
    【花粉症にかかる人間はなぜ、先進国の富裕層の人間からだったのか?】
    【世界の人口の1/3の人間が未だに寄生虫に感染しているのに、症状が出ることはほとんどない。寄生虫は一体人間の体内で何をしているのか?】
    これらすべてを包括的に説明する、従来の学説とは矛盾するある考え方が、ここ最近真面目に研究され始めている。それが、《人間は、寄生虫や腸内微生物を失ったがために、免疫関連疾患に冒されるようになった》というものだ。
    本書は、この仮説を裏付ける様々な実験を紹介しながら、何故寄生虫や微生物が様々な病気の発現を防ぐのか、人類と「腸内細菌叢」との関わり方はどうなっているのかなどついて深く考察する。

  • no.149
    2017/5/23UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    料理狂 木村俊介/幻冬舎文庫

    容易に真似のできるものではないが、天才シェフたち10名の修業時代の苦労話や次世代に向けてのアドバイスが聞き語り形式でまとめられている。あらゆる失敗談から仕事に対する姿勢や生き方までが惜しげもなく語られている。業界の先頭集団を走り抜け、酸いも甘いも噛み分けた年代だからこそ言える重みと説得力のある言葉が続く。それぞれの視点や方法論は違えども、共通して言えるのはもの凄い情熱とハードワーク。そして一発当てる事よりも継続する事の難しさや基本の大切さなど、意外とベーシックな中にこそプロフェッショナルたる所以があるように思う。どんなビジネスでも生活でも、時代が違うとは言え多くの示唆を与えてくれる一冊だ。

  • no.148
    2017/5/16UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    流れとかたち
    万物のデザインを決める新たな物理法則 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン/紀伊国屋書店

    本書は、熱工学の世界的権威である著者が提唱している「コンストラクタル法則」について書かれたものだ。この法則自体は、僕の理解では説明することが難しい。
    法則自体をうまく認識することは難しいが、著者が提唱するこの法則は、科学の細分化された領域を無効にする、という点で非常に興味深い。地球上に存在するありとあらゆるものを「有限大の流動系」と捉えることで、その存在にシンプルな理由を与えることが出来る、と著者は主張している。
    またこの法則は、「存在理由」を説明する、という点でも面白い。例えば、「木というものが何故存在するのか?」は、これまでの科学では説明不可能だが、この法則ではそれに理由を与えることが出来る。
    理論自体は非常に難しいが、扱われている実例は興味深い。例えばこの法則は、「なぜ、短距離走は黒人が強いのに、水泳は白人が強いのか」を説明してしまう。今後この法則が、科学の世界で主流となる日が来るかもしれない。

  • no.147
    2017/5/9UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    戦争に
    チャンスを与えよ エドワード・ルトワック 奥山真司/文春新書

    理想論を声高に叫ぶのも必要な事だとは思うが、一方で見たくない現実を直視し、静かに選択をしなければならない時もあるだろう。世界情勢は複雑さを増して、対岸の火事どころの話ではなくなった。悲しい事だが人間の歴史の中で戦争が無くなった例はないので、平和を求めながら備えと戦略だけは必要だと思う。こういった議論は主義や信条などの話と混同され、話したり考えたりするだけでもタブーとなってしまうのはいかがなものか。いじめの問題でもそうだが、人類史上無くなった事のない問題に対しては、無くなることはないという前提でより現実に沿った議論や対策が必要だ。きれい事だけで本質を隠したりするのは最悪の結果を招く。本書の全てに賛成はできないが、考えさせられる一冊だった。

  • no.146
    2017/5/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ヒミズ 古谷実/講談社漫画文庫

    中学生である住田の夢は、「一生普通に暮らすこと」だ。自分に、超絶的な不幸も、超絶的な幸運もやってくるはずがない。だから、普通を目指す。あらゆる場面で、影のように、目立たず、ひっそりと生きていく。
    住田は既に、自分が人生をどうにか乗り切るだけの気力がないことを悟っている。はっきりとした理由があるわけじゃない。原因がはっきりしているならば、例えば、家庭環境にそのすべての原因があるのなら、原因をぶっ叩けばどうにかなる。でも、違う。それは目に見えないものだ。言葉に出来ないものだ。誰かに伝えられないものだ。
    そんな「漠然とした絶望」の象徴として登場するのが、住田の周囲に時々現れる「謎の怪物」だ。
    住田は、「手触りのある絶望」を増幅させることで、その「漠然とした絶望」を駆逐しようとする。狂気に囚われた住田が辿り着いた結論だ。
    もしかしたら自分もこんな人間になっていたかもしれない。この作品に漂う狂気は、読者にそんな気持ちを抱かせる。

  • no.145
    2017/5/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    みんなの映画100選 長場雄 鍵和田啓介/オークラ出版

    まず、表紙のイラストである。シンプルな線だけでこれほどの味を出せる絵はすごいし、絵だけでこれほどのイメージが湧いてくる映画の力も、改めてすごい。個人的に『レオン』は特別に好きな映画というわけでもないが、切なさが一発で伝わる、いい表紙だと思う。
    『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『インターステラ―』『ユージュアルサスペクツ』『グッドフェローズ』『パルプフィクション』『タクシードライバー』『リトルミスサンシャイン』『ニュー・シネマ・パラダイス』『パリ、テキサス』『ゴッドファーザー』『バッファロー’66』そして、『ルパン三世カリオストロの城』。思い出す度にまた観たくなる。ああ、やっぱり映画っていいなあ。

  • no.144
    2017/5/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    快晴フライング 古内一絵/ポプラ社

    元々水泳部が存在しなかった弓が丘第一中学校に水泳部を創設し、たった2年で各種大会で記録を生み出すまでの部活にしたタケルは、交通事故で死んでしまった。一人で泳ぐことにしか興味のなかった龍一は、タケルのような求心力もなく、顧問の柳田から愛好会に戻すと宣告されてしまう。不用意なひと言でさらに退部者を出してしまう結果になった龍一。売り言葉に買い言葉で顧問の柳田と約束してしまった、水泳部存続の条件。それは、市内で行われる水泳イベント・弓が丘杯のリレーで優勝することだった…。
    部員集めからスタートしなければならない龍一が弓が丘杯で優勝するなどほぼ不可能だろうが、彼らはその困難なミッションに挑む。この物語はそれだけではなく、ある人物の抱えている問題が同時並行で描かれ、水泳部の夢とその人物の夢がオーバーラップする形で物語が展開していく。生きづらさを抱えたまま全力で前に進もうする若者と、それをバックアップする面々の友情が熱い物語だ。