さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.1832017/10/17UP
本店・総務部Aおすすめ!
侠飯 福澤徹三/文春文庫
「おまえはゆうべ、自分にむいた仕事を見つけたいっていってたな」
「――はい」
「仕事ってのは、飯食うためにやるもんだろうが」
「まあ、そういう部分もありますけど――」
「なら、自分が仕事にむくようになるのが筋なんじゃないか」(本書より)タイトルから男のグルメ小説と思われるかもしれないが、本書は物語を通して「働く」という事の本質を言っている。料理の話をスパイスにする事で、仕事に対する厳しい意見が説教臭くならずに、不思議と清々しい後味を残す。シリーズ最新刊の4巻目は「魅惑の立ち呑み編」。
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no.1822017/10/10UP
フェザン店・長江おすすめ!
ソロモンの偽証 宮部みゆき/新潮文庫
この長い物語を短く紹介するのは難しい。細部を取り払ってざっくり説明すると、この物語は「中学生が裁判を起こす」という話だ。しかし、中学生が現実の裁判所に対してアプローチをして裁判を開かせる、というような話ではない。彼らがやろうとしていることは、『中学生の被害者』を追い詰めたという容疑を掛けられている『中学生の被疑者』を、『中学生の検事』が追究し、『中学生の弁護人』が擁護し、『中学生の裁判官』が裁定しつつ、『中学生の陪審員』によって評決が下されるという、非常にざっくりとした表現をすれば【裁判ごっこ】をやろうとするのだ。もちろん、『ごっこ』なんて表現できるような生ぬるいレベルではない。それが、この物語に凄まじさを与えているのだが。
正直これだけの長さの物語には、なかなか手が出なかった。それに、「これだけ長い分量を費やせばなんだって書けるだろうし、ズルい」という感覚もあった。しかし、読んでみてすべてが一変した。もう止められないぐらいの一気読みだったし、「この物語にリアリティを与えるにはこれぐらいの分量がどうしても必要だったのだ」と理解できた。凄い物語だ。 -
no.1812017/10/10UP
本店・総務部Aおすすめ!
ヒトは「いじめ」を
やめられない 中野信子/小学館新書ヒトの集団において大なり小なり必ず存在する「いじめ」を脳科学の見地から分析する。今までゼロになった例がないとすれば、ヒトはそういう生き物であるという事をまずは認め認識し、対策を考えなければならない。脳科学的には「愛情」や「正義感」「仲間意識」などを司る部分と「いじめ」が表裏になっているという。ものの善悪とは何か。学校では善の中にある悪、悪の中にある善を学ぶべきで、そこから自分自身を見つめ返す「メタ認知力」を高めるのが肝要との事。大人でも子どもでも同じ事が言えると思うので、関係者ならずともぜひご一読をお勧めしたい。
全然関係ない話で申し訳ないが、「マルホランド・ドライブ」という映画は、いつも飲み屋でお会いするN氏の解説よると、パラレルワールドがメタ的に入り混じる描写の最高傑作で、「メタ元祖」だとの事。よくわからない映画だが、個人的には強烈に好きな映画のひとつである。
それはともかく、著者の中野信子氏。講演会を聞きに行った事があるがとても美しく、やわらかな口調で人間の核心を衝く魅力的な方だった。目に宿る光がデーモン閣下のそれに似ていると思うのは気のせいか…。 -
no.1802017/10/10UP
フェザン店・長江おすすめ!
スコーレNo.4 宮下奈都/光文社文庫
麻子は、小道具屋の長女として生まれた。一つ下の妹・七葉は自由奔放で容姿も可愛い女の子。麻子は、自分は七葉のようには生きられない、というほのかな劣等感を抱えながら、一方ではどんな友達とも共有することのできない時間を過ごすことの出来る大事な関係として、妹とうまいことやってきた。
そんな麻子は、周囲の価値観に混じれないと感じたり、自分には大事な何かが欠けていると感じたりしながら、一方でそれぞれの時代で恋をしていく。しかしそれは、麻子の中の欠落を徐々に浮かび上がらせていくような、二人でいるのにまるで一人きりのような、そんな寂しさを麻子の与えるものだった。新しい環境や新しく出会う人々に馴染めずに不安だったり、自分自身の生き方に疑問を持ったりと回り道を続けながら、麻子はこれまでの人生や家族や自分自身のあり方について、正しいと思える場所に辿りつくことが出来る…。
派手さはないし、特に仕掛けがあるわけでもない作品なんだけど、読み終わって、あぁなんだかよかったな、いい本を読んだな、と思えるような作品です。 -
no.1792017/10/2UP
本店・総務部Aおすすめ!
逆襲される文明
日本人へⅣ 塩野七生/文春新書「民主政が危機におちいるのは、独裁者が台頭してきたからではない。民主主義そのものに内包された欠陥が、表面に出てきたときなのである。」(本文より)
上記の文を読んで、全く関係ない話で恐縮だがポール・トーマス・アンダーソン監督、トマス・ピンチョン原作の映画『インヒアレント・ヴァイス』を思い出した。タイトルの意味が「内在する欠陥」(海上保険用語で本質的に避けられない危険のこと)である。映画はよくわからなかったものの、噛めば噛むほど味が出るスルメ系映画なのは間違いない。よくわからないついでにもう一本。デビッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』もよくわからないのになぜか心を掴んで離さない。こちらも何度観ても、違う見方があるのではないかと思わせる不思議な魅力溢れる映画である。よくわからないのに惹かれるのは、もしかして2本とも人間に内在する欠陥に触れる映画だからなのかもしれない。
かなり横道に逸れてしまったが、本書は現代の危機に対する著者のコラムである。「危機」(クライシス)という言葉を発明したのは古代ギリシャ人で、「蘇生」という意味も込めたのだそうだ。内包された欠陥のある人間を自覚するためにも、歴史に学ぶ意味は大きい。『ローマ人の物語』で有名な著者の本は、読んでおいて損はないと思う。 -
no.1782017/9/25UP
フェザン店・長江おすすめ!
憲法主義 条文には書かれていない本質 南野森+内山奈月/PHP文庫
「日本国憲法を全文暗唱できるアイドル」として有名になった、AKB48の内山奈月が、憲法学者である南野森の講義を受ける、という形で進んでいく一冊。僕自身、憲法にはまるで詳しくないのだけど、そんな僕でもすんなり読める、入門書と言える一冊だった。内山氏に対しては、「暗唱出来るってだけじゃなぁ」と否定的な見方をしていたのだけど、本書を読むと、中身もかなり理解しているし、自分なりの意見もきちんと発信出来る。非常に頭のいい女性だなと感じました。その知性は、南野氏も驚くほどだ。
憲法というのは国民にとってどんな存在なのか。どんな風に成立し、どんな点が議論の対象となっているのか。憲法と法律は何が違うのか。こういう、一見答えられそうで、でも実際にはなかなか答えられないだろう本質的な部分について触れられており、憲法改正が議論される世の中では読んでおくべき一冊ではないかと感じる。 -
no.1772017/9/25UP
本店・総務部Aおすすめ!
アナログ ビートたけし/新潮社
北野武監督の映画は、セリフや説明のないシーンこそがリアルで最大の説得力がある。『あの夏、いちばん静かな海。』『ソナチネ』『キッズ・リターン』『HANA-BI』『ドールズ』…一番の核心部分は全て言葉ではなく、画だけで表現する事によって観る者は考えさせられ、より深く心に沁みる。
本書は、著者の考え方やこだわりが随所に散りばめられた、シンプルな純愛小説である。
映画でも本でもジャンルや評価などとは一切関係なく、北野作品をこれからもどんどん出してほしいと個人的には思っている。とにかく本書を読み終えた以上、目下の最大の楽しみは来月公開の映画『アウトレイジ最終章』を観に行くという事になっている。 -
no.1762017/9/25UP
フェザン店・長江おすすめ!
カラスの親指 道尾秀介/講談社文庫
かつて悪徳な金貸しに金をむしり取られ、さらにそのせいで妻を亡くしている武沢竹夫と入川鉄巳という二人の詐欺師は、ある日一人の少女と出会う。彼女も同じく、詐欺で生計を立てているようだ。成り行きで一緒に住むことになり、さらに同居人は増えていく。彼らは、ずっと後悔に囚われているある過去を払拭するために、壮大な計画を実行に移すのだが…。
赤の他人同士が寄り集まって家族のように過ごしている、その生活の描写がまずとてもいい。辛い過去を抱えた面々が、お互いに寄り添うようにして生きる日々の描写に、色んな伏線が潜んでいるので侮れない。そして彼らが一世一代の大勝負に出てからのどんでん返しの連続は素晴らしい。正直、あんまり内容に触れられない作品なのだけど、詐欺師たちの物語なのに、心がじんわり暖まるような素敵な物語だ。 -
no.1752017/9/19UP
フェザン店・長江おすすめ!
窮鼠はチーズの夢を見る/俎上の鯉は二度跳ねる 水城せとな/小学館フラワーコミックスα
「窮鼠はチーズの夢を見る/俎上の鯉は二度跳ねる」水城せとな 小学館フラワーコミックスα
シリーズ作なので、2作まとめて紹介します。
この2作は、いわゆるBL(ボーイズラブ)と呼ばれるコミックです。えっ、じゃあ読まない、と思った方。もう少し待ってください。この作品は、普段BLを読まない人にも絶対に感動してもらえると、自信を持って勧められる一冊です。
恭一と今ヶ瀬という二人の男の話です。今ヶ瀬は探偵事務所に勤めていて、たまたま高校時代に好きだった恭一の浮気調査をすることになります。浮気の現場を押さえた今ヶ瀬は、それをネタにして恭一と関係を持つ…。
というところから始まる物語ですが、まさに「男同士の恋愛でなければ描けない純愛」と呼ぶべき作品です。今ヶ瀬は男が好きな、いわゆる「ゲイ」なのだけど、恭一は女性が好きな、いわゆる「ノンケ」です。そんな二人が、身を削るようなやり取りを繰り広げ、お互いを傷つけ合いながら、少しずつその距離を変えていきます。男女の恋愛では起こり得ない葛藤に次々とさいなまれる二人の愛に、あなたはのめり込むことでしょう。 -
no.1742017/9/12UP
フェザン店・長江おすすめ!
風が強く吹いている 三浦しをん/新潮文庫
一言で言えば、「ただ走るだけの小説」なんですけどね。なんでこんなに感動させられるんだろう。特に後半は、もうずっと泣きっぱなしという感じでした。
清瀬灰二(ハイジ)は、竹青荘に10名揃う日を待っていた。竹青荘に住むのは、マラソンや長距離走など未経験の面々ばかり。そんな彼らがハイジの甘言に乗せられて、なんとあの箱根駅伝に挑戦することになってしまったのだ!7人の素人と1人の超ド素人、そして2人の経験者は、明らかに無謀とも思える挑戦にひた走ることになる…。
いや、ムチャクチャな話なのはその通りなんです。こんなド素人集団で箱根駅伝を目指すとかあり得ないし、駅伝経験者が読んだら「んなアホな!」って描写の連続かもしれません。でも!グッとくるんですよ。僕はスポーツ全般に興味もないし、箱根駅伝も基本的に見ないんだけど、本書を読んだ翌年の箱根駅伝だけはちゃんと見たぐらい、この作品にはどっぷりハマりました。