さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.1972017/12/5UP
フェザン店・長江おすすめ!
二人静 盛田隆二/光文社文庫
町田周吾は、食品会社に勤めるサラリーマン。パーキンソン病で母を亡くして以来、めっきりと老けこんでしまった父親の介護の問題に、頭を悩ませている。近くののぞみ苑に預けることを決めたが、あくまで短期入所が原則。根本的な解決にはならない。のぞみ苑で父親を担当してくれる乾あかりという女性と親しくなる一方で、万引きがきっかけであかりの娘と関わることになる。場面緘黙症という情緒障害を抱える志保は、人前で喋ることがなかなか難しい。周吾は、父の介護という問題を抱えつつも、そんな二人とも関わりを持とうとするが…。
彼らは皆、ささやかな日常を得たい、あるいは守りたいと、それだけを希望に生きている。もの凄く大きなことを望んでいるわけではないし、彼らが望んでいることを難なく実現している人もたくさんいる。でも彼らには、境遇や状況や環境がそうさせない。ささやかな日常さえも、努力しなくては勝ち得ることが出来ない。時に諦めそうになったり、必死で無理をしたり、そんなことを繰り返しながら人生に立ち向かっていく姿を描く様が良い。 -
no.1962017/11/28UP
フェザン店・長江おすすめ!
A
マスコミが報道しなかったオウムの素顔 森達也/角川文庫この作品を読んだ時の衝撃は相当なものだった。
地下鉄サリン事件が起こったのは確か、小学校の卒業式の日だったと思う。オウム真理教が起こした未曾有の大事件は、その後の日本社会を大きく変質させた。
しかし、オウム真理教とはどんな存在なのか、それを正確に掴もうとした者はほとんどいなかったのではないか。本書の著者、森達也を除いては。
森達也は、一介の雇われテレビディレクターだった頃、オウム真理教の内部にカメラを持って潜入し、オウム真理教の内側から社会を覗く、ということをやってのけた。それはドキュメンタリー映画として結実するが、本書はその書籍版と言っていい。上祐史浩に変わってオウム真理教の広報担当になった荒木浩にアプローチをし、モザイクを一切掛けない取材を了承させ、オウム真理教の信者を撮りながら、一方で社会も切り取っていく。そうした中で森達也は、「社会の思考停止」というキーワードを拾う。そして、オウム真理教を通じて社会を覗く中で、森達也は自分自身をも覗くことになる。
マスコミとは何か、社会とは何か、そしてオウム真理教とは何だったのか。答えの出しようのない問いを問い続ける森達也の覚悟が滲み出る一冊だ。 -
no.1952017/11/28UP
本店・総務部Aおすすめ!
うそつき、うそつき 清水杜氏彦/ハヤカワ文庫
小学生の頃から、嘘をついてはいけませんと教わるのは、人は嘘をつく生き物だからだ。必要悪とは言え、嘘はいずれにしろ周りを傷つけ、最終的には本人をも苦しめる。それが経験的にもわかっていながら、それでも哀しい嘘をつく人間の性。そんな複雑な、人の心を描いている物語だ。
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no.1942017/11/28UP
本店・総務部Aおすすめ!
ざわつく4コマ せきの/ワニブックス
ネットで話題だそうだが、紙の方がよりいい味出すと思う。笑いのツボがダークで狭くて、込み上げる。ちょっと病んでる人にハマりそうな気がする自分も、どこかヤバいんだろうか。大なり小なり病んだ世界のすき間に、この4コマは効く。
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no.1932017/11/21UP
フェザン店・長江おすすめ!
前世への冒険 森下典子/光文社
先に書いておく。僕は、前世だの超常現象だのと言った類のことは基本的には信じていない。それでも、この作品はメチャクチャ面白かった。
著者も前世と言った類のことは基本的に信じていない。ある時取材で、京都に住む、前世が見えるという清水さん(仮名)という女性の元を訪れることになった。そこで彼女は、前世はルネサンス期に活躍したデジデリオという彫刻家だと言われる。清水さんの話は非常に具体的で、デジデリオの出生の秘密や、デジデリオに男の愛人がいたこと、そしてその愛人の愛称などまで語るのである。
著者は早速デジデリオについて調査を開始する。しかし、日本にある資料をどれだけ調べても、清水さんが語るほど詳しい情報が載った資料がない。そこで著者は、イタリアまで行くことにする。そこで彼女は、清水さんの主張が正しいことを示す数々の資料に出会うのだが…。
というような話です。
僕は、清水さんが本当に前世が見える人なのだと信じたわけではない。しかし、この作品に描かれていること全体を、とても不思議な出来事として捉えていて、非常に面白く読んだ。 -
no.1922017/11/14UP
フェザン店・長江おすすめ!
DIVE!! 森絵都/角川文庫
高さ10メートルの飛び込み台から、
時速60キロでダイブして、
わずか1.4秒の空中演技で競う飛び込み競技。
日本での競技人口がわずか600人と言われるこのマイナーな競技に魅了された子供達がいる。
両親共にオリンピック出場経験を持つサラブレッドである高校生の要一を始め、まだ中学生ながら日々練習に取り組む知季・レイジ・陵が、ダイバーを養成するMDCに所属し、都内で唯一屋内ダイビングプールを有する辰巳国際水泳場で練習をしている。しかしMDCに存続の危機が訪れる。回避するには、翌年開催のオリンピックに選手を出すこと。中高生らしい悩みを抱えながらもそれでも飛び込みに力を注ぎ続ける子供達の、オリンピックを目指す長い道のりを描いた物語だ。
ヒリヒリするような少年たちの熱と、そんな少年たちを指導する女コーチの関わり合いが見事な物語だ。結構な分量のある物語だが、一気読みだった。 -
no.1912017/11/14UP
本店・総務部Aおすすめ!
オックスフォード&ケンブリッジ大学
世界一「考えさせられる」入試問題 ジョン・ファーンドン 小田島恒志 小田島則子/河出文庫「あなたは自分を利口だと思いますか?」
本書を読んで、はっきりしていることは2つ。ひとつは、私は絶対にオックスフォードやケンブリッジに入れないということ。そしてもうひとつ、この入試問題の質問は相当に「ムカつく」ということ。この場合の「ムカつく」は例えるならば、ビートたけし氏が半笑いで「バカヤロウ」と言うのと同じようなニュアンスである。
短い質問の中に多くの問題とパラドックスが含まれており、問い自体が興味深い。 -
no.1902017/11/8UP
フェザン店・長江おすすめ!
経済は感情で動く マッテオ・モッテルリーニ/紀伊國屋書店
従来の経済学は、合理的に判断するヒト、というものを仮定して、それに基づいて様々な理論が組み立てられてきた。しかし実際は、現実の人間はそこまで合理的な判断をしているわけではない。確実に高い利益が得られるからと言って、必ずそちらを選択するとは限らない。例えば、今1万円あげるというのと、一週間後に1万1千円をあげるというのとでどちらを選ぶでしょうか?僕は、正直後者なんですけど、大半の人は前者だと答えるのではないでしょうか。一週間後に手に入る1万1千円よりは、すぐに手に入る1万円の方が価値が高い、と判断してしまうわけです。
そういう、人間の曖昧な部分、合理的でない判断を組み込んだ経済理論を組み立てられないだろうか、ということで出来たのが行動経済学という分野です。
本書を読めば、主婦がスーパーのチラシを見比べて1円でも安い商品を探してスーパーをはしごする理由も、宗教の勧誘が何故無料の雑誌を持ってやってくるのかということも分かります。なるほど、自分はこんな非合理的な判断に基づいて買い物をしていたのか、ということに気づける本です。 -
no.1892017/11/8UP
本店・総務部Aおすすめ!
東の果て、夜へ ビル・ビバリー 熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリー文庫
15歳の少年が主人公のクライムノベル。甘さは無い。明るい描写も無いに等しいが、読後なぜか爽快感が残る。主人公が旅の中で確実に何かを掴んだ様を感じるからだろう。
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no.1882017/10/31UP
フェザン店・長江おすすめ!
デフレの正体
経済は「人口の波」で動く 藻谷浩介/KADOKAWA本書は、「100年に1度の不況」と言われる現代日本で、実際は何が起きているのかを、一般にも公表されているデータから事実を拾い集めることで示し、さらにそれにどう対処していくべきなのか、という提言が載っている作品だ。
著者のスタンスは一貫している。それは、「絶対数」が分かるデータを分析するということだ。「◯◯率」というような数字(出生率や有効求人倍率やGDPなど)は、何を何で割っているのかをきちんと把握しないと意味が取れないし、その意味をきちんと取らないままで議論をしている人が多いと言う。そういう「◯◯率」ではなく、基本的に「全数調査」されている「絶対数」の分かるデータで日本を分析しましょう、という本だ。
そうしてみると、いかに世の中を「空気」で捉えているのかが見えてくる。
そんな風にして日本の問題を明らかにしていった著者は、その原因の多くを「生産年齢人口の激減と高齢者の激増」に求める。これが本書の核となる主張だ。要は、「働く世代の人口が減ってるから今日本はこんな風になっちゃってるんだよ」ということだ。
経済にはまるで詳しくない僕でも非常に面白く読める一冊だった。