さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.2512018/6/26UP
フェザン店・長江おすすめ!
宇宙は「もつれ」で できている ルイーザ・ギルター/講談社ブルーバックス
「量子論」は、アインシュタインが生み出した「相対性理論」と並んで、20世紀物理学の至宝と呼ぶべき物理理論だ。「相対性理論」とは違い、「量子論」は多数の物理学者の喧々諤々の議論の末に形作られた。
「量子論」はあまりにも僕らの日常感覚からかけ離れるものだったために、「量子論」を認めない人も多くいた。その中の一人が、アインシュタインである。「神はサイコロを振らない」という彼の有名な言葉は、「量子論」に対して向けられた言葉だった。
アインシュタインは「量子論」のすべてを否定していたわけではない。なにしろ、「量子論」の根幹にある、「原子は粒でもあり波でもある」に通ずる概念を最初に説明したのはアインシュタインなのだ(彼は、光は波でもあり粒でもあるとする「光電子効果」の説明によってノーベル賞を受賞した)。しかし彼は、「量子論」は不完全な理論だと思っていた。そしてその不完全さを説明するために考えだしたのが「EPRパラドックス」という思考実験であり、そこで初めて投げかけられたのが「もつれ」という奇妙な振る舞いだ。
「量子論」は、「もつれ」との闘いだったと言っていい。そして、この「もつれ」を理解しようと多くの人間が奮闘したお陰で、「量子論」は完成し、理解が進んだのだ。
そんな「もつれ」が、僕らの生活にどう関係するのか、と思うだろうか。いや、大いに関係するのだ。何故なら、今研究が進められている「量子コンピュータ」は、まさに「もつれ」を利用している。そして、「量子コンピュータ」が実用化されれば、僕らの生活はまさに一変するだろう。 -
no.2502018/6/26UP
本店・総務部Aおすすめ!
世界史を大きく動かした植物 稲垣栄洋/PHPエディターズ・グループ
農業は自然が豊かな場所よりも自然の貧しい場所で発達し、劇的な進化を遂げるという。植物自体も厳しい場所の方が、環境に適応するためにより強く独自に進化するそうだ。植物に心があるのかどうかは知らないが、じっと動かずにいながら長い時間をかけて進化を遂げている植物に、人間よりも深い洞察力を感じるというのは言い過ぎだろうか。
人々は言葉を尽くして説明し、理性をもって行動しているはずなのに、その人間自身はどれだけ進化したのだろう。植物とそれを栽培する農業が、政治的に見てもいかに重要なのかも改めて思い知らされる。こうして眺めてみると、なるほど植物が世界を動かしていると言えなくもない。
とにかく、本書に紹介されているコショウ・トウガラシ・ジャガイモ・トマト・タマネギ・トウモロコシなどの辿ってきた長い歴史に思いを馳せながら、今一度じっくりと味わってみたい。そして何よりも日本のコメと味噌汁は完璧だ。 -
no.2492018/6/19UP
フェザン店・長江おすすめ!
奇跡の人 原田マハ/双葉文庫
自分の言いたいことが相手に伝わらない場合、それを相手の理解力のせいにしたがる人がいる。もちろん、そういう状況はあり得るが、しかし仮にそうだったとしても、相手の理解力のせいにすることに意味はない、と僕は感じてしまう。
何故なら、相手の理解力のせいにしたままであれば、永遠にその人に言いたいことが伝わらないからだ。
その人に何か伝えたいのであれば、その人に伝わるように伝え方を変えなければならない。そう、「伝わらない」という状況は、伝える側に「伝えたい」という意志がある限り、伝える側の問題なのだ。相手の理解力のせいにしても、問題は解決しない。
本書を読んで、改めてそのことを強く実感させられた。
青森でも有数の富豪である介良家は、当主・貞彦を筆頭とし、大きな屋敷住まいである。そこにれんという、目が見えず、耳も聞こえず、口も利けない少女がいる。奥の座敷に幽閉されるようにして、獣のような扱いをずっと受けてきた。若くしてアメリカに渡り教育を受けた去場安は、彼女の教育係になった。三重苦を背負う少女といかに対峙しコミュニケーションを取っていくのか―その過程は、「伝えること」の本質を感じさせてくれる力強い物語だ。 -
no.2482018/6/19UP
本店・総務部Aおすすめ!
極上の孤独 下重暁子/幻冬舎新書
ひとりでぼーっとしている時間が結構好きである。飲食店、床屋、タクシーなどでひとりの時に、最初だけあいさつしたら後は放っておいて欲しいと願うタイプだ。自分だけが少しおかしいのだと思っていたが、本書を読んで、あまり関係ないのにちょっと救われる思いである。
それはさておき、女性で孤独について前向きに語る人はなかなかいない。男性が語る孤独の場合はその中に情緒的な意味合いが含まれている気がするが、女性の場合はよりシビアで、現実的、客観的な考えに基づいているように思う。本書は著者自身や周りの人をよく観察した結果として、孤独が人間を形成し成熟させるという著者の確信が書かれている。
現代はつながる事をポジティブに考え過ぎていないか。孤独は悪くて、連帯が良いとする風潮に、一石を投じる本である。ベストセラー『家族という病』の著者。 -
no.2472018/6/19UP
本店・総務部Aおすすめ!
究極の選択 桜井章一/集英社新書
20年間無敗、伝説の“雀鬼”だからこそ語られる、勝ち続けることの功罪と、負ける事や失敗する事の意味。目先の損得だけでなく「負けるが勝ち」や「損して得とれ」という、人間をトータルで見た時の著者の価値観は、魑魅魍魎の蠢く修羅場を多く経験し様々な人をよく見てきた著者が出した最終的な答えなのだろうと思う。
一問一答形式で語られる著者の答えは、AIで導き出されるようなものではない。より強くより大きくという考え方とは別に、弱くても小さくても、トータルでより良く生き抜くためのヒントが見えてくる。 -
no.2462018/6/12UP
フェザン店・長江おすすめ!
屍人荘の殺人 今村昌弘/東京創元社
ミステリというのは、古くからある物語の形式であり、古今東西様々な作家が、これまでに様々な挑戦を続けてきた。新しいトリックなど出尽くしたと言われても、いくつかのものを組み合わせたり、想像もしていなかった設定にしたりすることで、新しい驚きを生み出し続けてきた。
とはいえ、そういう革命的な作品は、そうそう現れるものではない。
僕が本書に衝撃を受けたのは、まさにそういう、これまで誰も成し得なかった挑戦にチャレンジし、成功を収めていると感じるからだ。
ミステリの世界では、「クローズドサークル」と呼ばれる状況が設定されることがある。これは孤島や山荘など、外界と連絡が取れず、警察も介入しないような状況を指す。これまで僕は、「クローズドサークル」は、警察や科学技術の介入を可能な限り防ぎ、探偵が純粋に推理によって謎解きが出来る環境を整えるため「だけ」に設定していると感じることがほとんどだった。
しかし、本書はその「クローズドサークル」に新しい挑戦を持ち込んだ。詳しくは書かないが、特殊な「クローズドサークル」の設定の仕方が、物語全体に大きな影響を及ぼすのだ。凄いことを考えるものだと驚愕させられた。 -
no.2452018/6/12UP
本店・総務部Aおすすめ!
光のない海 白石一文/集英社文庫
好きな小説かと問われればそうではないし、決して“いい話”でもない。ただ、読み始めると途中で止められない何かが含まれていると感じる。
生きていれば誰しも大なり小なり人に言えない秘密や、最後まで消えない心の染みのようなものはあるだろう。程度の問題で人生の深い陰影にもなり得るし、完全に狂わされる人も紙一重の差だと思う。紙一重というより表裏一体というべきか、どちらに転ぶかそれだけの違いだ。いずれにしろ時が過ぎれば否応なく街の景色も変わり、そこで生きた人間の証しなど完全に忘れ去られるはかない命。その中で強い光は濃い影をも生み、生きてきた分だけ心にずっしりと深い闇を抱えながら、それでも人は生きていく。
人は何のために生きているのか。
その問いも答えも語られぬまま、それを浮き上がらせる小説だ。 -
no.2442018/6/5UP
フェザン店・長江おすすめ!
重力波は歌う ジャンナ・レヴィン/ハヤカワ文庫NF
重力波は、「アインシュタインの最後の宿題」とも呼ばれる、物理学の世界では聖杯の一つと数えられるほどの存在だ。アインシュタインは、自身が生み出した相対性理論の帰結として「重力波」を予言したが、しかし、あまりにも小さすぎて検出出来ないだろう、とも語っていた。「太陽10億個分の一兆倍を上回る」ほどのエネルギーが放出されても、発生する「重力波」は「陽子の大きさの一万分の一の距離の差」程度にしか観測できない。どれほど観測が困難であるのか、なんとなくイメージしてもらえるだろう。
本書は、そんな「重力波」を検出するための果てしなく壮大なプロジェクトが、生まれてから成果として結実するまでのドラマを、人間模様を中心に描き出す作品だ。
少し前であれば、科学系の研究は、個人でも出来た。もちろん今でも、個人単位で出来る研究はたくさんある。しかし現代において、学問的に重要度の高い研究をやろうとしたら、大規模なプロジェクトにならざるを得ない。そこには様々な人間が関わり、様々な主張や価値観が行き交い、すれ違いや誤解や混沌が生み出されることになる。
「重力波」の検出の陰にも、様々な人間の無念と諦念がある。その人間ドラマを読んでほしい。 -
no.2432018/6/5UP
本店・総務部Aおすすめ!
かさ 太田大八/文研出版
映画『シンドラーのリスト』は全編モノクロ映像の中で、少女の赤い服だけをカラーにしたワンシーンが強く印象に残る。
1975年発行の本書は、文字がなく絵だけで表現されている絵本である。こちらも全体がモノクロの中で唯一、女の子の小さな傘だけが赤く際立っている。
読書は文字を読んでその意味を認識するだけでなく、読者の想像力によって成立するものだとすれば、この絵本も間違いなく“読書”である。読んでいるのは、絵を見る事で心の中に伝わり生み出される思い。紙の本ならではの味わい深い質感に絵の構図も美しく、子どもから大人までそれぞれの“読み方”で楽しめるだろう。
当店「きせつのえほん」コーナーの中から児童書担当者お勧めの一冊だ。 -
no.2422018/5/29UP
フェザン店・長江おすすめ!
ふたご 藤崎彩織/文藝春秋
本書については、「手に取らない理由」を挙げやすい。「SEKAI NO OWARI」というバンドのメンバーが書いた本、というだけで、「SEKAI NO OWARI」が好きではないという人は読まないだろうし、芸能人が書いた本なんかいいよという人だっているだろう。僕は、個人的な感覚として、多くの人が「本を読まない理由を(積極的にせよ消極的にせよ)探している」と思っている。読まない理由を見つけられれば、どれだけ話題作でもどれだけ評判が良くても、自分がその本を読まないことを正当化出来るからだ。
そういう意味で本書は、手に取られにくい作品だろう。
しかし、そういう先入観をなんとか打ち破って、本書を読んでみてほしい。
主人公の西山夏子が置かれた状況そのものに共感できる人は多くないだろう。何故なら、彼女が生きている日常は、ちょっと特殊であり得ない関係が主軸となっているからだ。しかし、そういう日常の中で彼女が感じる孤独や鬱屈や葛藤は、誰だって思い当たるだろうし、人生のどこかで通り抜けてきたものだろうと思う。
傷つき、打ちのめされてきた人間ほど、内側に溜まっている言葉は強い、と思っている。西山夏子は、著者の藤崎彩織自身だろう。辛く厳しい時間を潜り抜けてきた者だからこそ形にすることが出来る言葉で溢れた作品だ。