さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.223
    2018/3/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    それまでの明日 原尞/早川書房

    他のメディアにはない「本」だけの愉しみのひとつに、全ての物語は読むひと自身の想像力次第だという点があるだろう。
    全て語り尽くす事なく、ある程度を読者の想像力に任せる事で、活字の内容以上に無限の含みを持つ。本書の、この乾いていながらにして抒情的な匂いある文章。正統派ハードボイルドミステリー、伝説の「私立探偵・沢崎シリーズ」に14年ぶりの再会を感じる。

  • no.222
    2018/3/23UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    クライマーズハイ 横山秀夫/文春文庫

    圧巻の物語だ。
    メインの舞台は、1985年に起きた世界最大の飛行機事故である、御巣鷹山の日航機事故を取材する新聞社だ。
    安西という販売局の人間と山登りをするようになっていた、編集局所属の悠木。安西は何故山に登るのか、という悠木の問に対し、「下りるために登るんさ」という謎の言葉を残す。そして同じ日、駅での集合直前に、日航機事故の一報が入る。
    悠木は、古参の記者にしては珍しく、いわゆる「遊軍」だ。デスクでも長でもなく、なんでもこなすフリーの記者。その悠木に、突然「日航全権デスク」、つまり日航機事故に関する紙面の全ての責任を持つデスクの任が降って掛かり、悠木はそれを受ける。
    独りで山に行ったんだろうと思っていた安西は何故か歓楽街で倒れていた。その一報を聞くや病院に向かった悠木は、目を開けたまま文字通り「眠っている」安西の姿を目にする。
    それでも悠木は新聞を作り続ける…。
    新聞を作る、というその全てがこんなにもドラマティックだったのか、と思う。その緊迫感、緊張感、いがみ、争い、想い、そうした全ての描写が圧巻だった。

  • no.221
    2018/3/23UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午/文春文庫

    気持ちよく騙される本格ミステリー。品のない一行目からすでに始まっている。むしろこれ以上の出だしはないと言っていい。いや、こんなコメントは蛇足以外の何物でもなく、完全に忘れてほしい。難しい事は一切ないので、綺麗にやられるのが理想的だ。それにしても、なんとも魅力的なタイトルである。何を書いても蛇足になるが。

  • no.220
    2018/3/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    孤狼の血 柚月裕子/角川文庫

    日岡秀一は、機動隊から呉原東署へと配属された。配属先は捜査二課。暴力団係だ。日岡は大上班に配属されることになったのだが、班長の大上が、その名を県内に轟かす有名な刑事だ。凄腕のマル暴として有名で、暴力団絡みの事件を多数解決し、警視庁長官賞を始めとする各種表彰を多数受けている。しかし同時に、褒められない処分歴も多い人物だった。表沙汰に出来ない違法捜査も数多く繰り返す。正義感の強い日岡はその度に、大上への不信感を募らせていく。しかし一方で大上は、善良な市民に対しては実に親切に接していた。あくどいことを続けているが、市民を暴力団から守るためという大義名分はきっちりとしている。日岡は少しずつ、大上のやり方に違和感を覚えなくなっていく。
    呉原では、きな臭い事件が頻発していた。尾谷組と、五十子会傘下の加古村組の衝突が様々に起こり、銃撃でお互いの組の人間が幾人か殺されるという事件に発展している。この衝突を回避しようと奔走するが…。
    エンタメ作品としてすいすい読み進められる一方で、法とは何か、正義とは何か、というようなことを強く考えさせる物語だ。

  • no.219
    2018/3/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    神坐す山の物語 浅田次郎/双葉文庫

    これは娯楽小説ではない。著者の実体験をモチーフにした物語。神社仏閣の敷地に足を踏み入れた時の、厳かで静謐な空気を感じるような小説だ。八百万の神々が宿る国、日本特有の自然観や畏れが描かれている。昔話、お伽噺、怪談、奇談、言い伝え、等々…何年経っても心に残され、語り継がれるべき物語のひとつである。不自由さや不確実さの残る余地が少なくなった時代だからこそ、忘れてはならない何かが含まれているような気がする。例えば津波がここまで来たという事を示す石碑と同じように。心にくさびを打ち込むように。

  • no.218
    2018/3/7UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    数学ガール 結城浩/SBクリエイティブ

    本書はガチの数学の本だ。しかし小説風でもあり、中身は頑張れば文芸の人でも読めるレベルだ。何よりも、登場人物たちが魅力的なんだなぁ。
    主人公であるぼくは高校生になった。彼の趣味は、数式を展開すること。つまり数学だ。中学時代も、ずっと図書室にこもっては数学的な思索にふけっていた。
    同じクラスにミルカという少女がいる。とにかく数学のことになると彼女はすごい。勝手にぼくのノートに書き込みをしたり突然講義を始めたりするところがあるけれども、ミルカとの数学談義にはいつも引き込まれる。
    二年になる。ぼくはある後輩の女の子から手紙をもらう。そこには、数学のことをいろいろ聞きたい、教えてもらえないですか、と書いてあった。
    彼女の名はテトラ。数学はまだまだ勉強し始めで疑問だらけだけど、でもきちんと勉強したいという意欲の伝わってくる子だ。
    ぼくはこうして、ミルカとテトラという女性と数学を介した交流を続けることになる…。
    フィボナッチ数列の一般項や、sinxの因数分解など、数学の授業では教わったことのない刺激的で魅力的な数学の話が展開される作品だ。

  • no.217
    2018/3/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ダイナー 平山夢明/ポプラ文庫

    例えば『レザボア・ドッグス』。
    いきなり品のない会話から始まるこの映画は、一見B級映画風に見せかけて決してB級映画にはない独特の雰囲気で観る者を最後まで釘付けにする。但し人にはなかなか勧めづらい一本でもある。
    本書は殺し屋専門の定食屋(ダイナー)で働かされる羽目になった女の物語だ。これでもかという程グロテスクな描写が延々と続く中、もの凄く旨そうな料理が出てきたりする。容赦なく物語世界に引きずり込まれ、吐き気と空腹を覚えつつ夢中で読み進めるうちに、物語は恍惚と幕を閉じる。
    本書もなかなか人には勧めづらい。しかし、ごく親しい友人にのみ、多少の注意事項と共に声を大にしてお勧めしたい一冊だ。

  • no.216
    2018/2/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    史上最強の哲学入門 飲茶/河出文庫

    本書は主に西洋哲学について、古代から近代に至るまでの様々な思想を、「真理・国家・神・存在」の4つに分け、それぞれについて、誰がどんなことを主張したのか、そう主張するに至った対立的な概念は何か、その思想が受け入れられる歴史的な背景はどんなものだったのか、などについて恐ろしく分かりやすく、かつ恐ろしく面白く綴った作品だ。
    ホント驚きました。もう、ハチャメチャに面白い!僕はこれまでも、哲学の本はそれなりに読んできましたが、その中でももうダントツに面白い。とにかく、4つの分類の中で流れがしっかりしてるから、「どうしてそういう考え方が生まれたのか」という点が本当に分かりやすい。それに、難しい哲学用語をほとんど使っていないのでそういう点でも非常に分かりやすい。それぞれの哲学者の有名な著書は、おそらく普通に読めばまったく歯がたたないほど難解だろうが、著者の手に掛かれば、ものすごく分かったような気になれる。まさに最強の入門書だろう。

  • no.215
    2018/2/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    男たちは北へ 風間一輝/ハヤカワ文庫JA

    ジャンルに関係なく、たまに読み返したくなる本がある。本書もそのひとつ。
    基本的には、ある男が自転車で東京から青森まで行くというシンプルなストーリーだ。その中にハードボイルド、ミステリー、旅、酒、成長小説など様々な要素が絶妙に絡み合い、いつ読んでも間違いなく傑作である。
    本書の他、「錦繍」(宮本輝著)、「そして夜は甦る」(原尞著)、「ダック・コール」(稲見一良著)、「ブルース」(花村萬月著)、「春にして君を離れ」(アガサ・クリスティー著)、「星への旅」(吉村昭著)、「青空のルーレット」(辻内智貴著)、「月の上の観覧車」(荻原浩著)なども面白いという以前に、なぜか無性に読み返したくなる時がある。
    映画だと「ゴッドファーザー」「羊たちの沈黙」「パリ、テキサス」「キッズ・リターン」「パルプ・フィクション」「セブン」「ヒート」「リトル・ミス・サンシャイン」などが自分の中では中毒性が高い。本でも映画でも、人それぞれにそういう作品はあると思う。確実に何かが刺さっていて、たまに疼くような。

  • no.214
    2018/2/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    詩羽のいる街 山本弘/角川文庫

    詩羽という少女の物語だ。この詩羽が凄い。
    なんと、ここ数年お金を持ったことがないし、家もないというのだ。どうやって生活しているというのか。
    解説で有川浩が、こんな風に書いている。
    『詩羽は「奇跡」に魔法を使わない』
    まさにその通り。詩羽は、まるで魔法のような形で、お金も家もない生活をもう何年も続けている。しかしそれは、決して魔法ではない。詩羽にはちょっととんでもない能力が備わっているのだけど、発想だけで言えば僕らでも実践可能なレベルの事柄だ。それで詩羽は、奇跡を起こす。その奇跡の恩恵をお金以外の形で受け取ることで、詩羽は生活をしている。
    この詩羽の生き方の発想は、これから生活していく中でリアルに必要になっていくのではないかと思う。
    詩羽の能力をかんたんに説明するのは難しいので省くが、様々な需要と供給を狭い地域の中でマッチングさせている。詩羽と同じことをするのはかなり難しいだろうが、詩羽の生き方は、「お金」を追うだけではない人生の選択を提示してくれる。物語としても、メチャクチャ面白い!