さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.255
    2018/7/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    虚無への供物 中井英夫/講談社文庫

    1964年刊行のミステリー小説。名作は半世紀以上たった今もなお、古くなるどころか時を超えてその輝きを増し、さらに新たな価値を放っているように思う。それは、時代に左右されることのない、人間の「業」そのものを描いているからだ。
    この作品の意図はそのラストに全て集約されているので、ちょっと長い小説だが、ばかばかしいと思わずに最後まで読んでみてほしい。そのばかばかしさも本書を構成する重要な役割を担っている。現代のネット社会の功罪などは、まさに「虚無への供物」としか言いようがない。
    なぜか映画『凶悪』を思い出した。
    鉄格子の内と外、純粋な悪と善。今、自分はどちら側に立っているのか。自省の意味も込め、よく考えてみたいと思う。

  • no.254
    2018/7/10UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    コンビニ人間 村田沙耶香/文藝春秋

    子供の頃、「みんな」にうまく馴染めなかった。昔はそのことで、結構苦労した。「みんな」の考えていることに賛同できなかったり、「みんな」が無意識に従っているルールが分からなくて困ったりすることは多かった。「みんな」の中にいる人は、自分が所属している「みんな」に違和感を覚えていないように見えた。そのことも怖かった。
    大人になって少しずつ、「みんな」が怖くなくなった。今では「みんな」から外れていられることを良いことだと思えるようになった。子供の頃から「みんな」に違和感を覚えて、どう「みんな」と付き合っていくのかを考え続けてきた結果だと思っている。
    でも、そういう人は多くないかもしれない。そしてそういう人が、大人になってから「みんな」に違和感を抱くようになったら、なかなか対処は難しいだろう。それこそ、死んでしまうという選択をする人だっているかもしれない。
    そういう人に、本書を読んでほしいと思う。
    主人公の古倉さんも、「みんな」に馴染めない人だ。彼女には、「はっきりしたルールさえあればちゃんとした人間でいられるのに」という思いがある。だからこそ彼女は、ルールが明確なコンビニで働く。コンビニで働いている時だけ、ちゃんと人間をやれている、と感じる。
    ある意味で、「コンビニ人間」の主人公は古倉さんじゃない。「みんな」だ。本書を読んで、「みんな」の怖さを知ることで、現実に対処しやすくなるかもしれない。

  • no.253
    2018/7/3UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    この世でいちばん大事な「カネ」の話 西原理恵子/角川文庫

    書店に行けばいくらでも「成功するための本」を見つけることが出来る。成功した人が、自分が成功した理由だと思っていることを本に書き、成功したいと思っている人がそういう本を読む。もちろん、需要があるのだから問題ないが、僕の個人的な考えでは、成功するための道筋というのはあくまでも個別的なものだから、あまり他人の話は参考にならないだろう、と思っている。
    本書は、「成功するための本」とは真逆だ。本書は、「人生において、しなくていい失敗を避けるための本」とでも言えるだろう。そういう本は、「成功するための本」と比較して、圧倒的に少ない印象だ。
    そして、まさに本書のような本こそ、多くの人が読むべきだと思う。何故なら、成功するための道筋とは違って、失敗にはある程度共通項があると思っていて、だから「失敗を避けるための方法」は、他人の話が参考になる、と思っているからだ。
    本書は、「お金」をテーマにしている。僕らは大人になるまでの間に、「お金」について学ぶ機会が極端に少ない。大人になれば、もの凄く大事な知識だと実感できるのが、学校で誰かに教わった記憶はない。何故だろう?
    そして、「お金」だけに限らず、本書は、学校や家庭ではなかなか教わらない、でも生きていく上では大事なことが詰まっている作品だ。

  • no.252
    2018/7/3UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    午前十時の映画祭9プログラム キネマ旬報社/キネマ旬報ムック

    映画館で映画を観るのと、それ以外の方法で観るのとでは基本的に別物だろうと思う。さわや書店本店より徒歩1分の中央映画劇場へ「午前十時の映画祭」をたまに観に行くが、先日『地獄の黙示録』を観て、これは映画館で観るべき作品だと感じた。
    そういえば中学生の頃、『プラトーン』を観て大変感動し、そして全く期待していなかった同時上映の『サボテン・ブラザーズ』も面白かったと記憶している。同じように『ロッキー4』を観に行き、やはり同時上映でアイスホッケーの映画『栄光のエンブレム』もいまだに印象に残っている。
    映画館で映画を観るという行為は、ちょっと他には代え難い価値があるように思う。現代感覚において、映画料金が高いか安いかは人それぞれに考え方があるだろう。でも後になって何かの拍子にふっと、その良さに気が付くことも多い。そういう意味では「本」が持っている価値と一緒である。最近観た映画の中では『パターソン』が良かった。
    ちなみに『ロッキー4』といえば、来年2019年1月公開の『クリード2』にはドラゴ役でドルフ・ラングレンが出演するそうだ。30数年越しに楽しみである。

  • no.251
    2018/6/26UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    宇宙は「もつれ」で できている ルイーザ・ギルター/講談社ブルーバックス

    「量子論」は、アインシュタインが生み出した「相対性理論」と並んで、20世紀物理学の至宝と呼ぶべき物理理論だ。「相対性理論」とは違い、「量子論」は多数の物理学者の喧々諤々の議論の末に形作られた。
    「量子論」はあまりにも僕らの日常感覚からかけ離れるものだったために、「量子論」を認めない人も多くいた。その中の一人が、アインシュタインである。「神はサイコロを振らない」という彼の有名な言葉は、「量子論」に対して向けられた言葉だった。
    アインシュタインは「量子論」のすべてを否定していたわけではない。なにしろ、「量子論」の根幹にある、「原子は粒でもあり波でもある」に通ずる概念を最初に説明したのはアインシュタインなのだ(彼は、光は波でもあり粒でもあるとする「光電子効果」の説明によってノーベル賞を受賞した)。しかし彼は、「量子論」は不完全な理論だと思っていた。そしてその不完全さを説明するために考えだしたのが「EPRパラドックス」という思考実験であり、そこで初めて投げかけられたのが「もつれ」という奇妙な振る舞いだ。
    「量子論」は、「もつれ」との闘いだったと言っていい。そして、この「もつれ」を理解しようと多くの人間が奮闘したお陰で、「量子論」は完成し、理解が進んだのだ。
    そんな「もつれ」が、僕らの生活にどう関係するのか、と思うだろうか。いや、大いに関係するのだ。何故なら、今研究が進められている「量子コンピュータ」は、まさに「もつれ」を利用している。そして、「量子コンピュータ」が実用化されれば、僕らの生活はまさに一変するだろう。

  • no.250
    2018/6/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    世界史を大きく動かした植物 稲垣栄洋/PHPエディターズ・グループ

    農業は自然が豊かな場所よりも自然の貧しい場所で発達し、劇的な進化を遂げるという。植物自体も厳しい場所の方が、環境に適応するためにより強く独自に進化するそうだ。植物に心があるのかどうかは知らないが、じっと動かずにいながら長い時間をかけて進化を遂げている植物に、人間よりも深い洞察力を感じるというのは言い過ぎだろうか。
    人々は言葉を尽くして説明し、理性をもって行動しているはずなのに、その人間自身はどれだけ進化したのだろう。植物とそれを栽培する農業が、政治的に見てもいかに重要なのかも改めて思い知らされる。こうして眺めてみると、なるほど植物が世界を動かしていると言えなくもない。
    とにかく、本書に紹介されているコショウ・トウガラシ・ジャガイモ・トマト・タマネギ・トウモロコシなどの辿ってきた長い歴史に思いを馳せながら、今一度じっくりと味わってみたい。そして何よりも日本のコメと味噌汁は完璧だ。

  • no.249
    2018/6/19UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    奇跡の人 原田マハ/双葉文庫

    自分の言いたいことが相手に伝わらない場合、それを相手の理解力のせいにしたがる人がいる。もちろん、そういう状況はあり得るが、しかし仮にそうだったとしても、相手の理解力のせいにすることに意味はない、と僕は感じてしまう。
    何故なら、相手の理解力のせいにしたままであれば、永遠にその人に言いたいことが伝わらないからだ。
    その人に何か伝えたいのであれば、その人に伝わるように伝え方を変えなければならない。そう、「伝わらない」という状況は、伝える側に「伝えたい」という意志がある限り、伝える側の問題なのだ。相手の理解力のせいにしても、問題は解決しない。
    本書を読んで、改めてそのことを強く実感させられた。
    青森でも有数の富豪である介良家は、当主・貞彦を筆頭とし、大きな屋敷住まいである。そこにれんという、目が見えず、耳も聞こえず、口も利けない少女がいる。奥の座敷に幽閉されるようにして、獣のような扱いをずっと受けてきた。若くしてアメリカに渡り教育を受けた去場安は、彼女の教育係になった。三重苦を背負う少女といかに対峙しコミュニケーションを取っていくのか―その過程は、「伝えること」の本質を感じさせてくれる力強い物語だ。

  • no.248
    2018/6/19UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    極上の孤独 下重暁子/幻冬舎新書

    ひとりでぼーっとしている時間が結構好きである。飲食店、床屋、タクシーなどでひとりの時に、最初だけあいさつしたら後は放っておいて欲しいと願うタイプだ。自分だけが少しおかしいのだと思っていたが、本書を読んで、あまり関係ないのにちょっと救われる思いである。
    それはさておき、女性で孤独について前向きに語る人はなかなかいない。男性が語る孤独の場合はその中に情緒的な意味合いが含まれている気がするが、女性の場合はよりシビアで、現実的、客観的な考えに基づいているように思う。本書は著者自身や周りの人をよく観察した結果として、孤独が人間を形成し成熟させるという著者の確信が書かれている。
    現代はつながる事をポジティブに考え過ぎていないか。孤独は悪くて、連帯が良いとする風潮に、一石を投じる本である。ベストセラー『家族という病』の著者。

  • no.247
    2018/6/19UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    究極の選択 桜井章一/集英社新書

    20年間無敗、伝説の“雀鬼”だからこそ語られる、勝ち続けることの功罪と、負ける事や失敗する事の意味。目先の損得だけでなく「負けるが勝ち」や「損して得とれ」という、人間をトータルで見た時の著者の価値観は、魑魅魍魎の蠢く修羅場を多く経験し様々な人をよく見てきた著者が出した最終的な答えなのだろうと思う。
    一問一答形式で語られる著者の答えは、AIで導き出されるようなものではない。より強くより大きくという考え方とは別に、弱くても小さくても、トータルでより良く生き抜くためのヒントが見えてくる。

  • no.246
    2018/6/12UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    屍人荘の殺人 今村昌弘/東京創元社

    ミステリというのは、古くからある物語の形式であり、古今東西様々な作家が、これまでに様々な挑戦を続けてきた。新しいトリックなど出尽くしたと言われても、いくつかのものを組み合わせたり、想像もしていなかった設定にしたりすることで、新しい驚きを生み出し続けてきた。
    とはいえ、そういう革命的な作品は、そうそう現れるものではない。
    僕が本書に衝撃を受けたのは、まさにそういう、これまで誰も成し得なかった挑戦にチャレンジし、成功を収めていると感じるからだ。
    ミステリの世界では、「クローズドサークル」と呼ばれる状況が設定されることがある。これは孤島や山荘など、外界と連絡が取れず、警察も介入しないような状況を指す。これまで僕は、「クローズドサークル」は、警察や科学技術の介入を可能な限り防ぎ、探偵が純粋に推理によって謎解きが出来る環境を整えるため「だけ」に設定していると感じることがほとんどだった。
    しかし、本書はその「クローズドサークル」に新しい挑戦を持ち込んだ。詳しくは書かないが、特殊な「クローズドサークル」の設定の仕方が、物語全体に大きな影響を及ぼすのだ。凄いことを考えるものだと驚愕させられた。