さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.47
    2016/8/17UP

    フェザン店・長江 おすすめ!

    20歳の自分に受けさせたい文章講義 古賀史健/星海社新書9

    本書の冒頭で、考えてみれば当たり前なのだがあまり意識することのないこんな話が出てくる。
    『われわれが文章を書く機会は、この先増えることはあっても減ることはない』
    確かにその通りだろう。例えば、今まで電話で済んでいたことが、メール・SNSに変わることで、多くの人が文字で情報や感情を伝えている。インターネットの普及により、インターネット上に文章を書く機会も格段に増えたことだろう。
    そういう世の中にあって、文章を書く力を鍛えることはとても大事だ。
    本書は、ただの文章の技工書ではない。「書くことは考えることだ」「話せるのに書けない、を解消することが最も大事」「絵文字入りの文章は文章ではない」など、「書くということ」そのものを突き詰めながら、実際的な文章の書き方にまで落とし込んでいく作品だ。この一冊で文章を書くためのすべての基本が手に入ると言っても言い過ぎではないだろう。

  • no.46
    2016/8/17UP

    フェザン店・長江 おすすめ!

    ハサミ男 殊能将之/講談社文庫

    少女を絞殺し、その喉元に研ぎ上げたハサミを突き立てる猟奇殺人が都内近郊で発生し、その犯人をマスコミは「ハサミ男」と名付ける。知的で用心深い「ハサミ男」は、一定の期間を置いて殺人をしていた。
    三人目の被害者を選定し、尾行を繰り返し綿密にチャンスを狙う「ハサミ男」。しかしなんと、自分とまったく同じ手口でその少女が殺されてしまい、しかもその死体の第一発見者になってしまった!何故その少女は、「ハサミ男」の犯行に似せて、「ハサミ男」以外の人間に殺されたのか。猟奇殺人鬼「ハサミ男」自身が探偵となり、調査を始めるが・・・。
    あらゆる意味で衝撃的な作品だ。覆面作家であり素性がほとんど明らかにされないまま亡くなってしまった、常識外れの作品を世に送り出し続けた著者のデビュー作に相応しい、そんな風に思える作品だ。この衝撃を、是非味わって欲しい。

  • no.45
    2016/8/10UP

    フェザン店・長江 おすすめ!

    私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 島村英紀/講談社文庫

    地震学者である著者は、ある日逮捕される。逮捕から裁判の終結に至るまでの流れは非常に奇妙なものだった。業務上横領罪から詐欺罪への切り替え、検察が設定した被害者側から裁判で「被害はない」と証言されたこと、裁判史上類例のない判例など、著者は実に奇妙な形で有罪判決を受ける。
    しかし本書のメインは、それらの過程を描くことにはない。著者は殊更に、自らの無実を主張することもない。
    本書は、身柄を拘束されてから、一審の裁判が終結し保釈が認められるまでの拘置所内での生活を細かく記した作品だ。
    部屋の広さなど様々なサイズを計ったり、拘置所内の規則を把握したりと、研究者目線で拘置所内での生活を描いていく。世界各地の調査船に乗る機会のある著者は、調査船と比べれば拘置所は天国のようだと書く。接見禁止の措置や、望んだ本が読めない環境は辛かったようだが、そんな著者だからこそ描ける、湿っぽくない獄中記だ。

  • no.44
    2016/8/10UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    写楽
    閉じた国の幻 島田荘司/新潮文庫

    写楽という浮世絵師をご存知だろうか?浮世絵が隆盛を誇った時代の一大スターでありながら、寛政6年の5月からたったの10ヶ月しか歴史上に登場しない、謎に包まれた人物だ。無名でありながら大々的に売り出されたこと、当時の浮世絵の常識を逸脱したような構成、写楽が表に出なくなって以降誰も写楽について言及していないこと。そうした様々な不可思議な点があり、美術界の大きな謎として今も研究者を惹きつけている。
    本書は、本格ミステリの旗手であり、同時に自身も美術系の大学で美術を学んだ著者が、ミステリという物語の中で「写楽は一体誰なのか?」という壮大な謎に挑んでいる作品だ。本書の中で島田荘司が提示した解答は、写楽問題に詳しくない僕には非常に納得できるものだった。後半で描かれる、島田荘司の仮説を元にした、江戸時代にこんなことがあったのだろう、という物語も、非常によく出来ていて面白い。

  • no.43
    2016/8/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    春にして君を離れ アガサ・クリスティー著 中村妙子訳/ハヤカワ文庫

    いやな話だ。誰一人悪人など出てこないだけにますますいやだ。ごく普通の善良な主婦が一人旅をして家に帰ってくる、ただそれだけの話である。道中にて、今までの人生を回想し、自己と向き合い自問自答を繰り返す。最初から最後までいやな不協和音がずっとベースに流れているかのように進み、そして物語は最後の一文で極まる。いやな話ではあるが、登場人物たちと自分は全然違うと誰が言い切れるのか。すべての登場人物において自分自身を投影することのできる部分があるからこそ、これほどいやで恐れるのだろうと思う。読後感は悪いが、しばらく茫然としてしまう程深く、長い余韻を残す。
    ちなみに著者原作「検察側の証人」の映画「情婦」も傑作だ。

  • no.42
    2016/8/10UP

    フェザン店・佐々木おすすめ!

    怪談のテープ起こし 三津田信三/集英社

    人生史上最凶の恐怖本でした。誰か「この本はつくりものだ!」と私に断言して下さい!!
    物語は作家になる前、編集者時代の三津田信三がライターの吉柳から自殺者が吹き込んだメッセージテープを原稿に起こす企画を提案されたことから始まります。しかし吉柳は失踪、テープが三津田のもとに届く…。
    全六篇を読み進めるごとに蓄積されていく『日常』の恐怖。いまだに家のドアを開けることが、擦れ違っただけの人がこの本を思い出させる後遺症が残りました。覚悟してお読み下さい!!

  • no.41
    2016/8/2UP

    フェザン店・松本おすすめ!

    消えた都道府県名の謎 八幡和郎/イースト新書

    戊辰戦争において仙台藩と盛岡藩は「奥羽列藩同盟」の主力でした。
    戊辰戦争後、幕府側についた藩の領地は官軍に一旦占領され、新政府側についた藩に預けられます。明治元年12月に盛岡藩は20万石から13万石に厳封され、白石藩へ移されることになりました。しかし、盛岡藩ではなんとか盛岡に戻りたいと激しい運動を展開し、明治2年7月に7万円という法外な上納金と引き替えに戻ってきます。
    明治時代の1円は現在の2万円くらいの価値とのこと。
    7万円×2万円=14億円!なんという盛岡愛。いまの岩手県があるのも、その時ご先祖さまが支払いを決めてくれたおかげです。
    意外と知らない「ふるさとの成り立ち」47の物語。

  • no.40
    2016/8/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    箱の中 木原音瀬/講談社文庫

    痴漢の冤罪で逮捕された堂野。数万円の罰金を払うことを拒否し、無罪を主張し続けたために、執行猶予無しの10ヶ月の懲役に処せられた堂野は、失意のどん底にいる。それまで真面目一筋でやってきた自分の存在が否定されたような気がして、さらに、家族にも迷惑を掛けていることを気に病んでいる。
    堂野と同じ「箱」に、喜多川という男が収監されていた。人を殺した、という噂があるが、定かではない。堂野は同じ「箱」の中で、喜多川というちょっと謎めいた男を関わることで、それまで経験したことのない関係性の中に絡め取られていく。
    そう、この作品は、BL(ボーイズラブ)である。BL、というだけで拒絶したくなる気持ちも分からないではないが、本書は、BLというのがどれほど深い世界を描くことが出来るか、という好例なのだ。読まず嫌いはもったいない。

  • no.39
    2016/8/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    乃木坂46物語 篠本634/集英社

    アイドルに興味がない、という人の気持ちはよく分かる。僕も、つい一年前まではそちら側の人間だった。自分の人生に「アイドル」というものが入り込んでくることはないだろう、と思っていた。
    いくつか偶然が重なって、僕は「乃木坂46」というアイドルに惹かれるようになっていった。握手会にもライブにも行ったことがないが、今では自分のことを「乃木坂46のファンだ」と思っている。
    「アイドル」というものに一般的なイメージを当てはめるとすれば、「明るい」「元気」というようなポジティブなものが浮かぶだろう。しかし僕は、「乃木坂46」のネガティブな部分に惹かる。様々な発言から、彼女たちの、アイドルとは思えないような後ろ向きな姿勢が見て取れる。アイドルである自分と、ネガティブである自分の狭間でもがく彼女たちのあり方は、とても素敵だと思う。
    本書は、乃木坂46に詳しくない人でも、乃木坂46というものの来歴と、メンバーが持つネガティブさを知ることが出来る一冊だ。

  • no.38
    2016/8/2UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    叫びと祈り 梓崎優/創元推理文庫

    殺人事件が起こって、動機や手法が解明され、犯人が炙りだされる…。
    というような単純なミステリでは、ない。
    本書で切り取られていくのは、「価値観の相違」だ。異なる文化的背景を持つ者がいて、両者の間の価値観の違いが浮き彫りになっていく。
    確かに、何らかの事件が起こり、それが解き明かされていくミステリではある。しかしその過程で、読者が想像もしなかったような価値観が描かれていく
    例えば、冒頭の「砂漠を走る船の道」では、「何故砂漠のど真ん中で人を殺さなければならないか」に、驚くべき理由が与えられる。容疑者は3人ほどしかいない。殺人を犯せば、すぐに絞りこまれてしまう。しかも砂漠のど真ん中だ。そんな状況で、何故殺人という手段を取らなければならないのか。その価値観に、あなたは驚愕するだろう。
    ただのミステリだと思ったら火傷する、新人のデビュー作とは思えない良作だ。