さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.357
    2019/10/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ボーダー二つの世界 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト/ハヤカワ文庫

    ジャンルで言えばホラーという事になるのだろうが、決して怖がらせようという内容ではない。ありえないような異形のグロテスクな表現の中に、それとは別の何か大事なものが隠喩されているように感じる。本書はそんな著者のエッセンスがぎっしり詰まった11篇の物語だ。
    著者の原作で2010年に公開された映画『ぼくのエリ 200歳の少女』は、血まみれながらもどこか芸術的で美しい作品だった。本書に収録されている「古い夢は葬って」はこの映画の後日談を表している。やはり本書の中でも美しい物語だった。
    まだ観ていないが表題作の映画も楽しみである。

  • no.356
    2019/9/26UP

    フェザン店・竹内おすすめ!

    Iの悲劇 米澤穂信/文藝春秋

    ――岩手にも似たような自治体がありそうな、地域再生ミステリー――
    過疎化が進み、誰もいなくなった南はかま市簑石地区。そこに家賃など様々な補助を掲げたIターン支援プロジェクトが始動したが、移住者達でなぜかトラブルが絶えない。トラブルの謎と最後の大きな謎に唸る。「甦り課」に配属された主人公万願寺が奮闘する地方公務員お仕事ミステリー。

  • no.355
    2019/9/26UP

    本店・大池おすすめ!

    罪の轍 奥田英朗/新潮社

    ――今年のベスト1はこれだ――
    奥田さん久々の犯罪小説は600ページを一気に読ませる凄い本です。1963年の誘拐事件を基に、随所に「砂の器」「太陽にほえろ」を思わせる場面が出てきます。最終章の東北新幹線と青函連絡船の場面は手に汗握る展開で、その当時夜行列車で上京した人はよくぞ書いてくれたと喝采するでしょう。

  • no.354
    2019/9/26UP

    本店・佐藤おすすめ!

    はんなちゃんとへんちくりん 絵・はんなばあば 文・はんなぱぱ/セブン&アイ出版

    ――病気に立ち向かう子どもに勇気を!――
    実際に重い病気を患った、3歳の女の子はんなちゃんの為に、お父さんが考えた絵本です。
    病気の正体“へんちくりん”が治療でどんどん小さく弱くなるという、克服をイメージできるストーリー。ひ弱な姿のへんちくりん、子どもはきっとやっつけてやる!と勇気が湧くでしょう。

  • no.353
    2019/9/26UP

    ORIORI・佐々木おすすめ!

    鯖猫長屋ふしぎ草紙 田牧大和/PHP文芸文庫

    ――人情たっぷり猫の魅力満載!謎解き時代小説――
    長屋で一番偉いのは「サバ」。誰もが認める美猫のサバと元・盗人の飼い主(手下)拾楽を取り巻く人情時代小説。猫好きはもちろん、ミステリー好きな方にもおすすめです。シリーズ7作とも問わず語りで進められていく粋な手法とツンデレ感満載のサバの魅力に虜になること間違いなし!

  • no.352
    2019/9/26UP

    松園店・山崎おすすめ!

    イラストだから簡単!
    なんでも自分で修理する本 片桐雅量/洋泉社

    ――早速挑戦!気軽に意外と簡単DIY――

    網戸、ドアノブ、水回り、自転車修理など数々の不具合を身近なホームセンターで買える工具や部品を自分で買って治してみませんか。ネットのユーチューブなどでも、これらの修理動画などがあったりもしますが、この本で一緒に研究するのも良いかと思います。

  • no.351
    2019/9/26UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    五郎治殿御始末 浅田次郎/中公文庫

    武家の道徳の第一は、おのれを語らざることであった――。武士にとって、明治維新という時代にどれほど人に言えない困難や葛藤があった事だろうか。
    世の中が大きく変わる中で名もなき最後の武士たちの、自分自身への始末のつけ方、武家としての最後の生き様を描く6篇。特にこの短編集を総括するようなラストの表題作には、時代に対する著者の考え方が色濃く込められている。
    著者の幕末から明治の物語でどうしても思い出すのが映画化もされた『壬生義士伝』。そして本書の中では『柘榴坂の仇討』が映画化されている。映画も本当に傑作だった。

  • no.350
    2019/9/21UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    晩秋の陰画 山本一力/祥伝社文庫

    「晩秋の陰画」「秒読み」「冒険者たち」「内なる響き」どれも味わい深い大人の傑作短編集だ。その中でも映画『冒険者たち』へのオマージュには特別な想いが込められているように思う。
    時代小説ですでに確固たる地位を築き、多くのファンを獲得しているにもかかわらず現代小説を書いた理由。それはどんなに年齢を重ねても、どんなにベストセラーを出し評価を受けたとしても、著者自身が敬愛する映画『冒険者たち』の精神を忘れないという、意志の表れのようにも感じた。

  • no.349
    2019/9/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    死の淵を見た男 門田隆将/角川文庫

    『Fukushima50』――佐藤浩市、渡辺謙、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美、監督・若松節朗――2020年3月公開のこの映画は日本人として、当事者意識を持って、必ず観るべき映画と言っていいだろう。その原作がノンフィクションの本書である。
    原発に反対とか賛成とかイデオロギーとかには一切関係なく、あの時の壮絶な現場から見た事実、現実を記している。そこから何を読み取り、何を語り継ぐかは読者の判断によるところだ。テレビやネットなどのメディアは速報性と話題性が最も重要な媒体であるが故に、自分ではあまり深く考えることもなく流されてしまいがちになる。やはり物事をじっくり考え、永く自らの糧とするためには、本という媒体が一番適している。すべて実名で記載されている本書を、まずは映画の前に読んでおく事を強くお勧めしたい。
    映画にはエンターテイメント性だけでなく、読書に近い性質のものがある。この映画も間違いなくそういった種類の作品になるだろう。傑作の予感しかしない。

  • no.348
    2019/9/9UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ミスト スティーヴン・キング/文春文庫

    著者原作による数多くの有名な映画の中でも、『ミスト』は特に傑作だ。霧に包まれて見えない中で得体の知れないものが蠢いているという怖ろしさと、人間自体の怖ろしさとが同時に描かれている。怪物よりむしろ霧そのものが人間心理を狂わせる。限りなく絶望的な状況で、それでも微かな希望を求めて彷徨う様子は、コーマック・マッカーシーの名作『ザ・ロード』をも彷彿とさせる。
    それにしてもラストである。原作とは違う唖然、茫然とする映画のラスト。個人的な好みで言えば原作のラストの方がいいとは思うが、映画史に残る衝撃のラストシーンであることは間違いない。本書では表題作「霧」の他に4つの短編が収録されており、その中でも「ジョウント」がいい。
    なんかいつも後味の悪い映画ばかり紹介しているような気がするので、思いつくままに後味のいい映画を、何の関係もないが列挙しておく。『スモーク』『素晴らしき哉、人生!』『セント・オブ・ウーマン』『リトル・ミス・サンシャイン』『小説家を見つけたら』『8月のメモワール』『クリード』『ミッドナイト・ラン』『いまを生きる』…。私は決してヤバい人間ではありませんよという言い訳を勝手に押し付けて終える。