さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.333
    2019/6/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    許されようとは思いません 芦沢央/新潮文庫

    5つの短編の登場人物たちはみんな、法律上だけではなく人間の本能として、罪を十分に自覚している。だからこそこれほどまでに読んでいるのも辛く、畏ろしく、苦しく、時に妖しげな美しさをも纏う。そして表題作には一種の凛々しささえ感じさせる。それらのすべてを物語る本書のタイトルもまた、見事だ。

  • no.332
    2019/6/6UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    虎の道龍の門 今野敏/中公文庫

    上・下巻のボリュームだがすぐにその小説世界に入り込めて、あっという間に読み終えてしまった。このリアルさは著者自身の身体感覚的な思考と経験によるものなのだろう。圧倒的な説得力と緊迫感を持ってラストの頂上決戦まで展開していく。武道に関する技術的な面もさることながら、その思想的な高みに行き着くまでの道程がリアルだ。あらゆる格闘技小説の中でも異彩を放つ孤高の一冊である。

  • no.331
    2019/5/31UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    神奈備 馳星周/集英社文庫

    山岳信仰について考えさせられる。山の過酷さと美しさ、物理的な法則と奇跡の一瞬。単なる自然現象と視るか信仰の対象と視るのか。山では誰もが自分自身と対峙させられる。答えは自分の中にしかない。それらをどう捉え何を信じるか。
    山はただ、そこにあるだけである。

  • no.330
    2019/5/23UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか 矢部宏治/講談社+α文庫

    文庫化していたので改めて読んでみた。本書を読むと、現在抱えているあらゆる諸問題の根底には、戦争に負けたという事実がいまだに重くのしかかっているのがよくわかる。
    敗戦から経済大国へと歩んだ道のりは、綱渡りのようなギリギリの交渉の末にたどり着いた奇跡であり、当時を想えばそれは最善の道を経て今があるということに変わりはない。ただし、それを成し遂げるために多くの犠牲を払い、かなり特殊な条約やその他の条件を受け入れてきたのもまた事実だろう。
    誰がいいとか悪いとかイデオロギーとかには一切関わらずに、政治家・官僚・研究者・民間人など日本の頭脳を全て結集させて、歴史とその経緯を丹念にひも解き、ボタンをかけ直していく地道な作業が必要だと感じる。正直、難しいことはよく分からないが、特殊な経緯を辿ってきた日本だからこそ、平和への思索を、祈りを、その険しい道筋を、今の世界に示し続けるのは、重要な意味がある事のように思う。

  • no.329
    2019/5/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    夜の淵をひと廻り 真藤順丈/角川文庫

    善と悪、光と影は表裏一体だなと改めて思う。それぞれが独立して存在することはありえない。光が強ければ強いほどに漆黒の闇を創り、闇が深ければ深いほどに小さな光が燦然と輝きを増す。直木賞受賞で話題の著者によるダーク・ファンタジック・サイコ・ミステリー。
    悪党に心をかき乱されるのも、いい話に心を打たれるのと同じぐらい重要な視点だ。映画でも強烈な悪役がどこか妙に後々まで心に引っかかることがある。例えば『セブン』のジョン・ドゥ、『羊たちの沈黙』のレクター博士、『ノーカントリー』のシガー、『ダークナイト』のジョーカーのように。そういえば今年10月4日に映画『ジョーカー』が日米同時公開されるとの事。こちらも楽しみである。

  • no.328
    2019/5/13UP

    フェザン店・竹内おすすめ!

    もののふの国 天野純希/中央公論新社

    歴史小説大大大好きなんですが、そんな私が大満足の贅沢な一品。歴史絵巻をめくりまくるような俯瞰感にしびれ、たたみかけるようなクライマックスなシーンの連続に肩のちからを抜くすきもなく、大作を10冊は読んだかのようないい意味での爽やかな疲労感。いやあすごかった。

  • no.327
    2019/5/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    午前十時の映画祭10FINALプログラム キネマ旬報ムック/キネマ旬報社

    ついにFINALを迎えた「午前十時の映画祭」。悩める時も苦しい時も、さわや書店本店より徒歩1分の中劇へ足を運び、古いのに新鮮な感動を覚える名画に触れることで頭を切り替えることができる、自分にとっての貴重な時間であった。
    あと何回行けるかわからないが今年も何本かは必ず観る。『ゴッドファーザー』『ブルース・ブラザース』『ニュー・シネマ・パラダイス』『テルマ&ルイーズ』『レオン』『ショーシャンクの空に』など。そしてラストの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はいつ観ても楽しい。詳しくは過去の映画祭全作品リストも載っている本プログラムを参照。
    「午前十時の映画祭」が終了するのは非常に惜しいが、始まりがあれば必ず終わりがあるのでしょうがない。また終わる事で始まる何かも生まれてくるかもしれない。どういう形であれ新たな再会を期待したい。
    そして中劇。いつもお世話になってます。座席指定じゃなく場所の空気を吸ってから、その時の気分で好きなところに座るレトロ感が映画祭とマッチして、いい。

  • no.326
    2019/5/3UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ままならないから私とあなた 朝井リョウ/文春文庫

    「想像力は知識より重要である」―アインシュタイン―
    天才物理学者の言葉は時空を超えて、現代においてもなお至言だと感じる。
    本書2篇の物語はそのどちらも、現代感覚の研ぎ澄まされた合理性と、それにあてはまらないものとの対比で構成されている。そのどちらか一方が正しくてどちらかが誤りであるということではない。それらはどちらも手段であり、それ自体が目的ではないはずだからである。人間にとっての新たな価値を生み出すものとは、コンピューターの中にある膨大な知識の量にあるのではなく、それを使う人間の想像力の中にこそあるのだと思う。
    人間関係においても、想像力なくして他者を理解することは難しい。この2篇の物語はそんな他者を意識させるちょっとビターな、青春の終わりを告げる物語である。

  • no.325
    2019/4/29UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。 ヤニス・バルファキス/ダイヤモンド社

    経済という、極めて人間的な魔物について、平易な言葉でわかりやすく語られている。専門用語などを使わず子どもにもわかるように説明するのは、逆にその本質を深く理解していなければできることではないと思う。
    本書では映画『ブレードランナー』や『マトリックス』の例が多く出てきて、その考察がおもしろい。個人的には読んでいる間中、『コズモポリス』を思い出していた。単に娯楽でありフィクションであるはずの本や映画の中には、時として現実のかなり深い部分を表現しているものがある。

  • no.324
    2019/4/22UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ロベルトからの手紙 内田洋子/文春文庫

    さっぱりとして美しい文章の中に、場所と時間の蓄積を感じる。
    遠い異国に想いを馳せながら、足元に真実を見る。
    まさに上質。大人向けの味わい深いエッセイだ。