さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.634
    2025/11/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    虹の解体
    世界はなぜ美しいのか リチャード・ドーキンス/ハヤカワ文庫NF

    今日、久しぶりに虹が出ていた。今までにも何度見たことかわからないが、いつ見ても驚きと興奮を覚える。雨上がりに虹が出るという叙情的な美しさもあるものの、今回は本書の内容も相まっていつもとは違った見え方がした。
    光とは、色とは何か。風とは空気とは音とは、そして空を見上げ宇宙を思う。虹のプリズムから始まってそんなところまで思わせるのが本書の内容だ。科学は詩情を消し去るのではなく深めるのだと。科学と文学的な美が融合する時、確かに深みが生まれる。名作SFなどはその典型なのだろう。
    それにしても、虹はいつ見てもいい。
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  • no.633
    2025/10/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    死まで 吉村昭/河出書房新社

    著者の初期短編集14編。やっぱりすごい。かなり若い時に書かれた短編のはずだが、既に完全に完成されていると思う。
    あらすじと場面の描写だけ。その研ぎ澄まされた短い文章の中に、人間のすべてが凝縮されている。
    著者の本だと他に「星への旅」「羆嵐」がすごい。

  • no.632
    2025/9/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    珈琲が呼ぶ 片岡義男/光文社文庫

    とりとめのない音楽、映画の話に乗せて珈琲の香りが漂うエッセイ。年代も自分とは違うしあまり知らない話なのに、なぜだか妙に懐かしく、つまりいいエッセイだった。『コーヒー&シガレッツ』や『パルプ・フィクション』、『バグダット・カフェ』などの映画の話も出てくる。どの映画もあまり人には勧めにくいが、個人的には大好きな映画だ。
    珈琲は味や香りもさることながら、人、場所、空間が織りなす時間と空気感そのものの良さなのだと思う。こだわり豆だろうがインスタントだろうが、そこはあまり重要ではない。珈琲でも酒でも、その時代の、なんてことのないその空間が、かけがえのない美しさを放って思い出される時がある。
    カズオ・イシグロの「日の名残り」にはラストに、“夕方が一日で一番いい時間だ”というセリフがある。今のコスパやタイパを重視するような若い人でも、いずれはその美しさに胸を打ちのめされる時が必ず訪れる。

  • no.631
    2025/9/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    月の立つ林で 青山美智子/ポプラ文庫

    なぜだかふと月を見上げて、人は何を想う。誰を想う。月を愛でる秋、この季節にぴったりの一冊。読みやすい連作短編集。

  • no.630
    2025/7/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    脳は世界をどう見ているのか ジェフ・ホーキンス/ハヤカワ文庫NF

    読み進めると徐々にSFに近い話になってきて、ノンフィクションなのになんともわくわくするような内容だった。映画の世界だけの話だったものが、今後AIなどの進化しだいではちょっとわからなくなってきたという雰囲気がある。
    自分の中では『ブレードランナー』『インターステラー』『アンドリューNDR114』『her 世界でひとつの彼女』そして『2001年宇宙の旅』あたりが頭をよぎる。たまに強烈に観たくなる映画。
    人間、自分自身の事が一番よく分からない。AIもSFも、究極的には「人間とは何か」を知るためにあるような気がする。

  • no.629
    2025/7/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人間をみつめて 神谷美恵子/河出文庫

    「さわや夏文庫フェス2025」の中の一冊。
    これは薄い本だし誰にでも分かる言葉で書いてあるのですぐに読み終えることができるが、敢えてゆっくり、じっくり、何度でも読み返すのに値する本だと思う。生物とは、人間とは、いのちとは何か。当たり前のように暮らしている毎日の中で、時折立ち止まりふと考えてみる必要のあることだけが書いてある。夕暮れ時、美しいものを美しいと感じる意識。その存在そのものが既に奇跡である。
    マルクス・アウレリウス「自省録」(岩波文庫)、ミシェル・フーコー「臨床医学の誕生」(みすず書房)、ヴァージニア・ウルフ「ある作家の日記」(みすず書房)その他翻訳。精神科医。

  • no.628
    2025/6/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    三角でもなく四角でもなく六角精児 役者とギャンブル 六角精児/ちくま文庫

    なんか勇気をもらえる本。
    ダメな感じなんだけれども1本筋が通っている駄目さ加減というか、やっぱり何とも言えないコクがある。すべての経験は俳優という職業にプラスになっているのだろう。
    清廉潔白で心身ともに健康優良なんて人の話を誰が好き好んで聞くものか。浮いた話など一切ないなんていう俳優に人生のコクなど出せるものか。いろんなところでバッシングを受けておられる方々も逆手に取ってなんとか頑張ってほしいと思う。
    たまにやっている呑み鉄の旅も面白い。にわかではない年季の入った感じがひしひしと伝わってくる。

  • no.627
    2025/6/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ヨシモトオノ 吉本ばなな/文藝春秋

    ジャケ買いした一冊。怖くはない。絶妙なスパイスが少々効いているちょっといい話13話。
    この中の一話だけ大きくテイストの違う短編が入っている。「光」というタイトルで、この作品の冒頭には、短篇集全体の流れを壊してしまうかもしれないが、敢えてこれを書かずにはいられなかったという著者の思いが綴られていた。読んでみるとまさしく著者渾身の力作であり、他とは違う熱量を伴って真摯な考えが静かに語られていた。むしろこの作品を書くために他を書いたと言っても過言ではないぐらい秀逸な作品だと思う。そしてラストの「思い出の妙」もさりげなく全体としてのフィナーレ感を思わせるいい作品だった。
    表紙を見てピンときた場合、タイトルも著者名も内容すら全く気にせず、すぐに買って最後まで読んでみてほしい。もしかすると人それぞれかもしれないが、自分の場合を言えばほぼ当たる。映画と同じで期待値が少ない方が面白く感じるのか、何なのかはよく分からない。今回の場合は表紙の絵に語りかけられたような気がしている。

  • no.626
    2025/6/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    踊りつかれて 塩田武士/文藝春秋

    文春から出版されているのが面白い。週刊誌でスクープされた写真から、巧妙に人物の一面だけを切り取られストーリーを作られてしまう。そしてSNSによる匿名での執拗な個人攻撃による炎上。準公人なら何を言われても構わないのか、私人なら何を言っても許されるのか。そんな状況に一石を投じるブログ【宣戦布告】が公開される。
    本書には現代の、やりにくくなったお笑い芸人の現状と、昭和の歌姫の回想が交互に語られる。むやみやたらに「昔は良かった」などと言うつもりはないが、同じ理由で「昔はダメで今が良い」とも思えない。いつの時代でも光と影は均等にあり、結局その時代だけの価値観の中でただ流されるのではなく、どう生きるかということなのだろう。ひとつだけ確かなことは今の一瞬一瞬も確実に過ぎ去り、誰もが元に戻る事はできないという事実。今の人間も昔の人間と同じようにいずれ葛藤の道を歩むことになる。
    ちなみに映画『追憶』の原題で主題歌の「The way we were」が本書に何度か出てくる。この曲はメロディーラインだけで哀愁を強く感じさせる、映画音楽の中でも最もいい曲だと思う。映画音楽だと他には『ひまわり』の曲も良かったなぁ。『ゴッドファーザー』『戦場のメリークリスマス』『Wの悲劇』『キッズ・リターン』などなど、名作にはいつもいい曲が流れている。

  • no.625
    2025/5/30UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ジジイの片づけ 沢野ひとし/集英社文庫

    妙に納得させられるなぁ。断捨離とかシンプルなんとかとかいろいろもっともらしい考え方がある中で、本書の素朴な片づけ指南が一番腑に落ちた気がする。実行できるかどうかはまた別問題なのだが、少なくとも深く納得し身の周りはそうあるべきだと思った。まず、そう思ったというだけでも、片づけられない人間としてはかなり大きな一歩である。本書にはそう思わせるだけの魅力がある。そもそも文章がそれだけで面白く、またイラストに遊びがあり、関係あってもなくてもすごく味わい深い。これが技術的で実用的なだけの本だったら読む気がしないし、自己啓発風だったらもっとイヤだ。読めばわかる。これは極上のエッセイであり、人生が綴られているからこそ、腹に落とすことができるのだ。