さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.640
    2026/1/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    クローム襲撃 ウィリアム・ギブスン/ハヤカワ文庫SF

    サイバーパンクというジャンルを確立させた著者。今でこそサイバースペースやらサイバー攻撃などで、なんとなくはイメージできるが当時はかなり尖ったものだっただろう。しかも、読者にまったく優しくない。優しくないどころか、理解してもらおうという気はさらさら無いように思う。読んでいて「いったい何を読んでるんだろう?」読み終わっても「これはいったい何だったのか?」と思わないでもない。ただ、それによってカルト的な人気があるのも理解できる。読後、名作の香りと茫然とする余韻だけが残っている。そんな短篇集だ。
    映画で例えるなら、『ブレードランナー』『AKIRA』『2001年宇宙の旅』『インセプション』『ファイト・クラブ』『マルホランド・ドライブ』などを観た時の感覚に近い。すぐに意味は分からなくとも、凄いということだけはすぐに分かり、その印象は永く残る。そして、人に薦めづらいのもカルトたる所以だ。

  • no.639
    2026/1/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人生最高ごはん 秋谷りんこ/角川文庫

    人は食べたもので成り立っている。なんと言おうともこの事実は変わらず、生きることは食べることだ。高級かどうかではなく、同じものでもその場の空気感や相手によって味わい深くもなり、もしかすると吸収率まで変わってくるのかもしれない。人生最高ごはんだなと思える瞬間に、生きていく中であとどのぐらい出合えるだろうか。
    食べたもの、出会った人、読んだものや観た映像などで心と体は作られていくと思う。どうか今年もいい出合いがありますように。

  • no.638
    2025/12/30UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    風に吹きはらわれてしまわないように リチャード・ブローティガン/ちくま文庫

    よくわからない話なんだけれども何故か妙に引き込まれ、読後は不思議と温かな気持ちになる。40代半ばの主人公が12~13歳ぐらいの少年時代を平易な文章で回想する物語で、著者の自伝的要素が強いとされている。作家であり詩人である著者は本書を書き終えた後、銃で自殺をしているのでこれが遺作となった。
    最後のほうにこんな記述がある。
    ― あの時代、人は自分の想像力を自分でつくりあげていた。自分が食べるものを自分で料理するのと同じだ。 ― (本書より)
    今は何でも便利な世の中になって、創り出すよりもどこかにあるものを選び出す方が手っ取り早い。そして膨大な選択肢のなかからアルゴリズムにより最適な解答が提供される。これは人間が進化した結果だと言えるのか。

  • no.637
    2025/12/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    よくわかる一神教 佐藤賢一/集英社文庫

    先日、『プラハの春 不屈のラジオ報道』という映画を観た。検閲により、真実でない報道を流せと言われ、それを拒否するラジオ局の話。この映画、エンドロールの後に出てくるメッセージがいい。宗教とは関係ないが、政治思想もある意味、一神教と同じようなものかもしれない。
    本書を読むと、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が同じところから派生した宗教なのに、いかに統治に利用され、国境により分断され、政治的に利用されてどうにもならなくなってしまったのかがよくわかる。そして人々の宗教に対する真面目さも。
    ウクライナもイスラエルも歴史的に根深い問題が絡み合ってどうにもならない。AI時代にこのどうにもならなさ加減が人間というものの良さでもあり悪さでもあるのだと思う。この「悪さ」を消し去った場合は「良さ」も消えてAIと同化してしまうのだろう。それにしても、どうにかならないものか。
    そういえば北アイルランドのカトリックとプロテスタントの争いが出てくる『ベルファスト』も心に残るいい映画だった。

  • no.636
    2025/12/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    好日日記
    季節のように生きる 森下典子/新潮文庫

    冬至。寒い時にしか出ない美しさもある。本書はお茶の稽古に週一で通う著者が、季節の移ろいとその時々に感じたことを二十四節気の順に1年間書き記したエッセイだ。お茶のこと、和菓子のこと、花のこと、道具の意匠、陽射しの角度など季節ごとに変化する様が描かれ、たまに出てくる挿絵もまた素晴らしい。お茶や季節の話だけでなく、著者の個人的なエッセイの部分もあるので読みやすく、かつ奥深い。
    外に出た時に季節の空気や光の加減で、なんでもない見慣れたものでもふと予期せぬ美しさにやられる時がある。年々あっという間に1年が過ぎ去ってしまうが、季節の移ろいが胸に響く瞬間に、あと何度めぐり合えるだろう。まあ、こういうのもやはり一期一会なんだろうな。

  • no.635
    2025/12/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    タタール人の砂漠 ディーノ・ブッツァーティ/岩波文庫

    全く接点のない話なのに、しみじみと納得させられる切ない物語。何が起こるわけでもなく、むしろ何も起こらないことがとても切なく胸に沁みる。
    実感として誰もが感じるものの中に、年代による時間の長さの違いがあると思う。若い時はゆっくり流れていて永遠に続くかのように思われていた時間が、年齢を重ねるにつれ加速度的に速くなってゆき、気付いた時には取り戻せない。人生の何かに期待や憧れ、神秘や畏れを抱きつつ、ほとんどの人間はそれらに触れることもなく離れていく。その上で、そんな人生とはいったい何だったのかを、切なくも美しく描き出している。ほとんどの人が経験することのない設定にも関わらずよく理解できるのは、誰もがふと感じる普遍的な思いが、読む者の心に深く刺さるからだと思う。

  • no.634
    2025/11/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    虹の解体
    世界はなぜ美しいのか リチャード・ドーキンス/ハヤカワ文庫NF

    今日、久しぶりに虹が出ていた。今までにも何度見たことかわからないが、いつ見ても驚きと興奮を覚える。雨上がりに虹が出るという叙情的な美しさもあるものの、今回は本書の内容も相まっていつもとは違った見え方がした。
    光とは、色とは何か。風とは空気とは音とは、そして空を見上げ宇宙を思う。虹のプリズムから始まってそんなところまで思わせるのが本書の内容だ。科学は詩情を消し去るのではなく深めるのだと。科学と文学的な美が融合する時、確かに深みが生まれる。名作SFなどはその典型なのだろう。
    それにしても、虹はいつ見てもいい。
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  • no.633
    2025/10/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    死まで 吉村昭/河出書房新社

    著者の初期短編集14編。やっぱりすごい。かなり若い時に書かれた短編のはずだが、既に完全に完成されていると思う。
    あらすじと場面の描写だけ。その研ぎ澄まされた短い文章の中に、人間のすべてが凝縮されている。
    著者の本だと他に「星への旅」「羆嵐」がすごい。

  • no.632
    2025/9/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    珈琲が呼ぶ 片岡義男/光文社文庫

    とりとめのない音楽、映画の話に乗せて珈琲の香りが漂うエッセイ。年代も自分とは違うしあまり知らない話なのに、なぜだか妙に懐かしく、つまりいいエッセイだった。『コーヒー&シガレッツ』や『パルプ・フィクション』、『バグダット・カフェ』などの映画の話も出てくる。どの映画もあまり人には勧めにくいが、個人的には大好きな映画だ。
    珈琲は味や香りもさることながら、人、場所、空間が織りなす時間と空気感そのものの良さなのだと思う。こだわり豆だろうがインスタントだろうが、そこはあまり重要ではない。珈琲でも酒でも、その時代の、なんてことのないその空間が、かけがえのない美しさを放って思い出される時がある。
    カズオ・イシグロの「日の名残り」にはラストに、“夕方が一日で一番いい時間だ”というセリフがある。今のコスパやタイパを重視するような若い人でも、いずれはその美しさに胸を打ちのめされる時が必ず訪れる。

  • no.631
    2025/9/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    月の立つ林で 青山美智子/ポプラ文庫

    なぜだかふと月を見上げて、人は何を想う。誰を想う。月を愛でる秋、この季節にぴったりの一冊。読みやすい連作短編集。