さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.6532026/6/3UP
本店・総務部Aおすすめ!
百冊で耕す 近藤康太郎/CEメディアハウス文庫
先生達の言う教科書的な読書のすすめではなく、やみくもに読書礼賛主義でもない所がいい。だいたい若い時に人から読めと強制される本ほど嫌なものはない。勉強しろと言われるほど勉強したくないのと一緒だ。
現在の圧倒的多数派は電車や喫茶店で読書などしないのだから、これほど反骨精神をくすぐられる時代もないだろう。若い人にはぜひ本書を読んでみてほしい。皆が巨大企業に多くの時間を提供しているこの時代に、ひとり背を向けて紙の本を読むなんて、なかなかにカッコイイじゃないか。この時代であればこそのダンディズムであり、ある意味ロックな生き方とも言える。
みんなと同じが嫌な時、生きるのがツラい時、孤独を感じる時、逆につながりが煩わしい時などには、それらのすべてを一旦頭から切断して、紙の本を読むのが効く。流行りに踊らされることなく本質を見抜く一生モノの習慣、読書。 -
no.6522026/5/30UP
本店・総務部Aおすすめ!
プラハの古本屋 千野栄一/中公文庫
表紙の絵が美しいチェコの首都、プラハの街並み。言語学者の著者が顔なじみの古本屋を巡り貴重な本を探しながら交流を深めていく。政治体制の変遷や戦争などにより稀覯本となってしまっている本を、なじみの客にだけ古本屋の裏からすっと出してくるなんぞ、なんとも粋だ。そしてビールも非常に旨そう。言語学の事はよくわからないが、その土地の言葉とはその土地の思考そのものなのだろう。様々な出会いを通じて書かれたエッセイに、プラハ周辺の空気を感じさせる。
全く関係ないが、映画『カミング・ホーム』を観てきた。宇宙人には言語という概念はそもそもないのかもしれない。言語学者が主人公のテッド・チャン原作『メッセージ』もファーストコンタクトものの中で秀逸だった。言葉でものを考えるのは人類だけの特徴だろう。
更に全く関係ないが、『カミング・ホーム』と同じ製作陣の『リトル・ミス・サンシャイン』は自分の中では非常に中毒性のある、ツボのコメディ映画だ。 -
no.6512026/5/23UP
本店・総務部Aおすすめ!
夜の酒場 萩原朔太郎/中公文庫
「日本近代詩の父」にして孤高の天才作家、萩原朔太郎。酒について、詩人について、孤独についての作品集。最後に収録されている短編小説「猫町」が本書全体の印象とも相まって、余韻が深く残る。
全く関係ないが、東北絆まつりで賑わう盛岡の中、映画『黒の牛』を観てきた。
静寂、突然の雨、呼吸音、牛の声。
『2001年宇宙の旅』を観た時の様なよく分からなさ加減と名作加減で、深遠過ぎて少し眠くなるところも同じ匂いがした。輪廻転生。自分の直感で解釈していい映画だろう。
外のざわめきを感じながら内なる静寂を楽しむ。本書のように孤独を愛する者としては、いい映画体験だった。 -
no.6502026/5/14UP
本店・総務部Aおすすめ!
オリーヴ・キタリッジの生活 エリザベス・ストラウト/ハヤカワepi文庫
タイトルになっているオリーヴ・キタリッジという女性はあまり出て来ない。その周りの人々を描くことで、人間の陰影も奥行きも立体感をもって浮かび上がらせる。そして、時間の経過は誰にも均等に残酷であったとしても、時に不思議な味わい深ささえ醸成される。オリーヴ・キタリッジという人はいい人でも幸福でもないのに、読後に感慨深い余韻が残る。名作群像劇とはそういうものなのだろう。
映画で言えば『スモーク』『マグノリア』『21グラム』『めぐりあう時間たち』『美しい人』などは名作群像劇だと思う。本書も含め、いわゆるいい話ではないので、良さが全く分からないという人もいるのは理解できる。ある程度の年齢を重ね、振り返って俯瞰してみた時にのみ、深く心に刺さるのだと思う。カズオ・イシグロの名作『日の名残り』の美しさのように。 -
no.6492026/5/9UP
本店・総務部Aおすすめ!
ハムレット ウィリアム・シェイクスピア/新潮文庫
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」
映画『ハムネット』を観てきた。もちろん観た人によっていろいろ感じ方はあると思うが、いい映画だった。本を知らなくても問題ないとは言え、知っておいた方がよりいいと思う。最後の演劇シーンで本と映画の内容がリンクし、見事な幕切れになる。アカデミー主演女優賞ジェシー・バックリー、さすがの名演だった。
シェイクスピアは戯曲なので、普通の小説を読む人にはもしかすると違和感を覚えてしまうかもしれない。しかしこれはあくまでも物語の骨子であって、これをどう演じどう解釈するかは読む側に委ねられている。あらゆる古典の名作は読む者に解釈の余地を残し、その奥深さを感じさせるところに名作としての妙味があるのだろう。本書を読み映画を観てそう感じた。 -
no.6482026/5/1UP
本店・総務部Aおすすめ!
死ぬまでに行きたい海 岸本佐知子/新潮文庫
記憶を旅するエッセイというべきか。この記憶を伴う著者の思考回路が常人とは違いかなり面白い。翻訳家である著者のエッセイはある意味、信頼できない語り手の上質な短編を読むような面白さがある。随所に掲載されている写真もかなり味わい深い。
アハハと笑いながら油断して読んでいると、世代も環境も違うのに自分の昔のことを思い出したりして、突然胸が締め付けられる。切なさ注意です。幼稚園の時の記憶など自分にはほとんどないと思っていたが、よくよく辿ってみると微かな断片のような記憶がいくつか残っている事に気付かされる。
最後に収録されている「経堂」は読み終わった後、ゾクッとした。本当にあった話なのか幻想なのか。幻想だとすると、いったいどこから幻想だったのか。まさか始めからか。何の説明もなくぷっつりと終わるので更に怖い。やられた。 -
no.6472026/4/23UP
本店・総務部Aおすすめ!
ロリータ ウラジーミル・ナボコフ/新潮文庫
さて、問題の「ロリータ」である。だいぶ前に一度読んだきりで、今回再読してみた。読んでみて改めて「テヘランでロリータを読む」の先生は見事な選書だったと感心する。
一人称での物語がいかに危うく、いかに信頼できない語り手か。そして、そんな中でもラストの描写にはいくらかの真実が含まれているのではないか。つまり、かつてのロリータでなくなった相手に対してなお愛を悟った時、初めて取り返しのつかない大罪を自覚したのではないか。H・Hはそんな最後の贖罪をするためだけに長々とこの物語を書いたのではないのか。そんな事を思う。再読してみると少し印象が変わったような気がする。
まあ他にもいろいろな解釈ができる物語なので、イスラム世界だろうがキリスト世界だろうが、どんな世界に属する人間であれ本書を題材にした場合、議論は尽きないだろう。題材は明らかにタブーだし、こんな物語は許せないという人もいるのは理解できる。ただし、人間を深く掘り下げた議論をするならば格好のテキストになり得るし、それこそが古典の名著たる所以なのだろう。倒錯した文章が魔術的で不思議と美しい。 -
no.6462026/4/8UP
本店・総務部Aおすすめ!
テヘランでロリータを読む アーザル・ナフィーシー/河出文庫
イランの一般市民は自国の事、他国の事を今どう思っているのだろうか。宗教が政治や権力と複雑に絡み合い出口の見えない不確かな状況の中、犠牲となるのはいつも一般の市民だ。
「テヘラン」と「ロリータ」という異質な組み合わせが興味深い。本書ではその他、「グレート・ギャツビー」「デイジー・ミラー」「高慢と偏見」などについて、イスラーム世界の中で語られる。文学は想像力の芸術だと思う。相手の一切を否定してしまうような単一的な想像力ではどうにもならない現実の問題を、文学の力で人間全般への理解に深めるべく、著者と女子学生たちが奮闘する。そしてそれは結局、自分自身への探求につながっていく。
人間の善悪や陰影は見る角度、立場によって本当に大きく変わってくる。例えば映画『セブン』では、犯人がもちろん悪人なのは間違いないとしても、登場人物で罪がないと言える人間が果たしてどのぐらいいるのか。ほぼ全員が大なり小なり悪の部分を持っている。その筆頭がブラッド・ピット演ずる刑事だろう。ラストの場面が仮に無かったとしても、最初のシーンからそこに至る最後まで全てのシーンにおいて、細かな伏線ともいうべき“罪”の演技が見事だ。
それにしても「ロリータ」とは。再読する価値があるかもしれない。 -
no.6452026/3/12UP
本店・総務部Aおすすめ!
ぼくたちはどう老いるか 高橋源一郎/朝日新書
恐ろしい本だった。あまりにも切実で身につまされる。ただ、この世で唯一の確実なこと。エラくても真面目でも健康でも美しくても金持ちでも善人でも若くても全ての人に必ず「老い」て「死」を迎える日がやって来る。この本は若い人こそ読むべき本だと思う。核家族で老人がどういうものか知らずに、いきなり過酷な現実を突きつけられるよりは知っておいた方がいい。老いた家族に直面した時、恥ずかしくて人に言えないと思うかもしれないけれど、どんな人であれ大なり小なり同じだ。そしてそれは、自分の姿を見るようなものかもしれない。いずれ自分も必ず通る道。その時のことを想うといたたまれなく、人間とは本来、なんて哀しい存在なんだろうと思う。
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no.6442026/3/11UP
本店・総務部Aおすすめ!
落としの左平次 松下隆一/ハルキ文庫
新米同心の清四郎と元凄腕同心の佐平次。年の離れた師弟関係を組んでいる。清四郎に物事を教えつつ事件を解決させてゆくが、この「落としの佐平次」がなかなかの曲者で、口が悪くどこか影があり一筋縄ではいかないところがある。清四郎は佐平次に大いに教えられ助けられながら成長するのだが、教える方と教わる方とはいったいどちらが学び助けられているのだろう。そして佐平次の凄さと危うさの奥にいったい何があるのか、後々に期待させる内容で、時代小説をあまり読まない人でもぐいぐい読ませるシリーズだ。
全く関係ないが、映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』を思い出した。口の悪い盲目の元陸軍中佐と心優しい学生によるロードムービー。一方的に人生を教える元陸軍中佐だったが、後半はその若い学生に命を救われたようなものだろう。ラスト、アル・パチーノの演説にはなんとも言えない魅力があり、いつ観ても素晴らしい。ジョン・ダニエルで乾杯したい。
