さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.645
    2026/3/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ぼくたちはどう老いるか 高橋源一郎/朝日新書

    恐ろしい本だった。あまりにも切実で身につまされる。ただ、この世で唯一の確実なこと。エラくても真面目でも健康でも美しくても金持ちでも善人でも若くても全ての人に必ず「老い」て「死」を迎える日がやって来る。この本は若い人こそ読むべき本だと思う。核家族で老人がどういうものか知らずに、いきなり過酷な現実を突きつけられるよりは知っておいた方がいい。老いた家族に直面した時、恥ずかしくて人に言えないと思うかもしれないけれど、どんな人であれ大なり小なり同じだ。そしてそれは、自分の姿を見るようなものかもしれない。いずれ自分も必ず通る道。その時のことを想うといたたまれなく、人間とは本来、なんて哀しい存在なんだろうと思う。

  • no.644
    2026/3/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    落としの左平次 松下隆一/ハルキ文庫

    新米同心の清四郎と元凄腕同心の佐平次。年の離れた師弟関係を組んでいる。清四郎に物事を教えつつ事件を解決させてゆくが、この「落としの佐平次」がなかなかの曲者で、口が悪くどこか影があり一筋縄ではいかないところがある。清四郎は佐平次に大いに教えられ助けられながら成長するのだが、教える方と教わる方とはいったいどちらが学び助けられているのだろう。そして佐平次の凄さと危うさの奥にいったい何があるのか、後々に期待させる内容で、時代小説をあまり読まない人でもぐいぐい読ませるシリーズだ。
    全く関係ないが、映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』を思い出した。口の悪い盲目の元陸軍中佐と心清らかな学生によるロードムービー。一方的に人生を教える元陸軍中佐だったが、後半はその若い学生に命を救われたようなものだろう。ラスト、アル・パチーノの演説にはなんとも言えない魅力があり、いつ観ても素晴らしい。ジョン・ダニエルで乾杯したい。

  • no.643
    2026/2/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    過疎ビジネス 横山勲/集英社新書

    新書大賞2026の5位、河北新報社記者による本書を読んでみる。いつの時代でもグレーな部分を狙う人間はいる。許せないのは人の弱みに付け込んで私腹を肥やそうとする行為だ。東日本大震災の復興予算の時も、一定数そういう人間が紛れ込んでいただろう。本書では過疎地域の自治体に近づき、地方創生の美名のもとに自分たちの都合のいいようにビジネスを展開される様子が書かれている。ただし、国の制度設計、地方自治体の体質、地域住民の意識、人口減少の現実などを俯瞰的に見て、問題の根本を探り出す姿勢が、地方の現状をよく知る地元記者ならではの視点なのだと感じた。
    話は全く変わるが先日、映画『災 劇場版』を観てきた。やっぱり香川照之。前作『宮松と山下』同様に独壇場だ。中村アン、竹原ピストル、松田龍平、内田慈、安達祐実など他のキャストも光る。ただ、万人に薦められる映画ではないので注意されたし。
    “災い”は至る所に何気ない顔で突然やって来て、跡形もなく消える。まるで過疎ビジネスのように。

  • no.642
    2026/2/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    霞町物語 浅田次郎/講談社文庫

    いいなあ。かっこいい。特に祖父・祖母の話がなんとも言えず粋だ。今はもうこんな人もいないだろう。言葉にすることのできない、理屈じゃないこの良さは、大人が示すことでしか伝わらない種類のものだと思う。
    今の時代だとハラスメントだとかコンプライアンスだとかのルールのみに縛られて、本当に大事なことや、かっこいい大人の良し悪しが見えにくい世の中なんだと思う。それでも、不文律のかっこよさをこの物語から感じとれるというのは、ルール以上に大切なものを、心のどこかではみんな知っているからだ。幼い頃に感じる憧憬は、今も心に火を灯し続ける。

  • no.641
    2026/2/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    会えてよかった 安野光雅/中公文庫

    その絵を見るだけで人柄が伝わってくる。そんなイメージ通りのエッセイだった。話があっちこっちへ飛ぶのもまた、子ども心のような不思議な味わい深さがある。カッコつけたようなところがなく、あたたかさがにじみ出る。そんな著者だからこそ会う人もそんな感じになるのかなと感じた。
    本書は錚々たる著名人のエピソードだが、自分の身近な人でも会えてよかったと思える人が何人いるだろうか。多分それは自分次第なのだろう。少なくとも自分自身が、会えてよかったと人に言える人間でありたい。

  • no.640
    2026/1/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    クローム襲撃 ウィリアム・ギブスン/ハヤカワ文庫SF

    サイバーパンクというジャンルを確立させた著者。今でこそサイバースペースやらサイバー攻撃などで、なんとなくはイメージできるが当時はかなり尖ったものだっただろう。しかも、読者にまったく優しくない。優しくないどころか、理解してもらおうという気はさらさら無いように思う。読んでいて「いったい何を読んでるんだろう?」読み終わっても「これはいったい何だったのか?」と思わないでもない。ただ、それによってカルト的な人気があるのも理解できる。読後、名作の香りと茫然とする余韻だけが残っている。そんな短篇集だ。
    映画で例えるなら、『ブレードランナー』『AKIRA』『2001年宇宙の旅』『インセプション』『ファイト・クラブ』『マルホランド・ドライブ』などを観た時の感覚に近い。すぐに意味は分からなくとも、凄いということだけはすぐに分かり、その印象は永く残る。そして、人に薦めづらいのもカルトたる所以だ。

  • no.639
    2026/1/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    人生最高ごはん 秋谷りんこ/角川文庫

    人は食べたもので成り立っている。なんと言おうともこの事実は変わらず、生きることは食べることだ。高級かどうかではなく、同じものでもその場の空気感や相手によって味わい深くもなり、もしかすると吸収率まで変わってくるのかもしれない。人生最高ごはんだなと思える瞬間に、生きていく中であとどのぐらい出合えるだろうか。
    食べたもの、出会った人、読んだものや観た映像などで心と体は作られていくと思う。どうか今年もいい出合いがありますように。

  • no.638
    2025/12/30UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    風に吹きはらわれてしまわないように リチャード・ブローティガン/ちくま文庫

    よくわからない話なんだけれども何故か妙に引き込まれ、読後は不思議と温かな気持ちになる。40代半ばの主人公が12~13歳ぐらいの少年時代を平易な文章で回想する物語で、著者の自伝的要素が強いとされている。作家であり詩人である著者は本書を書き終えた後、銃で自殺をしているのでこれが遺作となった。
    最後のほうにこんな記述がある。
    ― あの時代、人は自分の想像力を自分でつくりあげていた。自分が食べるものを自分で料理するのと同じだ。 ― (本書より)
    今は何でも便利な世の中になって、創り出すよりもどこかにあるものを選び出す方が手っ取り早い。そして膨大な選択肢のなかからアルゴリズムにより最適な解答が提供される。これは人間が進化した結果だと言えるのか。

  • no.637
    2025/12/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    よくわかる一神教 佐藤賢一/集英社文庫

    先日、『プラハの春 不屈のラジオ報道』という映画を観た。検閲により、真実でない報道を流せと言われ、それを拒否するラジオ局の話。この映画、エンドロールの後に出てくるメッセージがいい。宗教とは関係ないが、政治思想もある意味、一神教と同じようなものかもしれない。
    本書を読むと、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が同じところから派生した宗教なのに、いかに統治に利用され、国境により分断され、政治的に利用されてどうにもならなくなってしまったのかがよくわかる。そして人々の宗教に対する真面目さも。
    ウクライナもイスラエルも歴史的に根深い問題が絡み合ってどうにもならない。AI時代にこのどうにもならなさ加減が人間というものの良さでもあり悪さでもあるのだと思う。この「悪さ」を消し去った場合は「良さ」も消えてAIと同化してしまうのだろう。それにしても、どうにかならないものか。
    そういえば北アイルランドのカトリックとプロテスタントの争いが出てくる『ベルファスト』も心に残るいい映画だった。

  • no.636
    2025/12/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    好日日記
    季節のように生きる 森下典子/新潮文庫

    冬至。寒い時にしか出ない美しさもある。本書はお茶の稽古に週一で通う著者が、季節の移ろいとその時々に感じたことを二十四節気の順に1年間書き記したエッセイだ。お茶のこと、和菓子のこと、花のこと、道具の意匠、陽射しの角度など季節ごとに変化する様が描かれ、たまに出てくる挿絵もまた素晴らしい。お茶や季節の話だけでなく、著者の個人的なエッセイの部分もあるので読みやすく、かつ奥深い。
    外に出た時に季節の空気や光の加減で、なんでもない見慣れたものでもふと予期せぬ美しさにやられる時がある。年々あっという間に1年が過ぎ去ってしまうが、季節の移ろいが胸に響く瞬間に、あと何度めぐり合えるだろう。まあ、こういうのもやはり一期一会なんだろうな。