さわや書店 おすすめ本

  • no.268
    2018/8/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    QJKJQ 佐藤究/講談社

    「貨幣」や「国家」は、幻想だ。「貨幣」は確かに、物質として存在はするが、あの物質に「貨幣」としての価値があるわけではない。現にビットコインなどという、物質としての実体を持たないものもあるし、電子マネーなどは既に普通に受け入れられている。「国家」の場合も、土地という実体はあるが、土地があれば国家なわけではない。例えば、月にも土地はあるが、月に国家はないだろう。
    しかし、あまり突き詰めて考えなければ、「貨幣」や「国家」は存在しているように感じられる。それらはつまり、「僕らがあると思っているからある」という幻想でしかないのだ。
    「貨幣」や「国家」は、ほぼ全人類が抱いている幻想だからこそ成り立つのだ、と思う人もいるだろう。しかしそうではないケースもある。例えば僕らは、「原子や分子」を信じている。多くの人がそれらを直接見たことなどないはずなのに、である。何故か。それは、偉い科学者がそう言っているからだ。僕らは「原子や分子」を「ある」と思っているが、その根拠は、科学者がそう言っている、程度のものなのだ。
    だったら―僕らのごくごく個人的な日常も、誰かの幻想によって成り立っているのではないか…。
    本書は、その発想を究極的に突き詰めた、新人のデビュー作とは思えない怪作である。