さわや書店 おすすめ本

  • no.269
    2018/9/4UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    Ank:a mirroring ape 佐藤究/講談社

    「何故人類は言語を獲得したか?」という問いは、魅力的だ。人類ほど高度で多岐にわたる言語体系を獲得した種は、恐らく存在しない。しかし、何故人類だけが言語を獲得できたのかは分からない。僕にとっての謎はこうだ。言語は当初、思考のためというよりコミュニケーションのために生まれたはずだ。しかしそう考えると、二人以上の人類が同時に言語を獲得する、という状況を想像しなければならない。この点がどうにも自然な状況とは思えず、そこから先に思考を進めることが出来ないでいた。
    また、本書を読んで初めて知ったが、「ホモ・サピエンス」という人類の種には、他にもいくつか解明されていない謎がある。そして本書は、「何故人類は言語を獲得したか?」という謎も含め、それらの疑問に解を与えるミステリとなっている。
    チンパンジーの研究を行う鈴木望の物語と、京都で発生した謎の大暴動。2つの物語が結びつき、重なる時、「人類」の存在に内包された謎を解き明かす鍵が導かれる。本書で提示される仮説は、そのまま論文に出来るのではないかと思わせるほどの説得力を持つ、世界レベルの傑作だ。