さわや書店 おすすめ本

  • no.208
    2018/1/23UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    電車屋赤城 山田深夜/角川文庫

    赤城という車両整備の職人との関わりを通じて、様々な人間の人生を切り取る物語だ。引きこもりの少年、子どもを失った親、二代目としての自信のない社長、鼻つまみ者のダメ社員など様々な人間が、赤城という無骨で物静かな職人と関わることで何かしらの新しい道筋を開くことが出来るようになる。
    赤城は、愛想はないし人付き合いは悪いしで、深く関わらないで遠くから見ている分にはすごく悪い人間に見える。けど、近づいて見れば見るほどその良さが分かる。口にしなくても伝わる言葉があり、視線を合わせなくても伝わる気持ちがある。そのさりげない好意に非常に好感が持てる。不器用な男だが、赤城と関わった様々な人間がみな、赤城を慕い赤城のために何か出来る事はないかと模索してしまうのも分かる。
    自分の正しさを信じているがために上とは衝突するし、正しいことをしてもそれを明かさない。言い訳もしないし何かに従属することもないまさに一匹狼で、組織には馴染まない男だ。そんな人間を中心に据え、1000形という廃棄寸前の車両を取り巻く人々を描き出す、見事な作品だ。