さわや書店 おすすめ本

  • no.299
    2019/1/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    雨やどり 半村良 集英社文庫

    平成ももうすぐ終わり、また新たな時代に変わろうとしている。昭和を古くさくてどうしようもないと思っていた年代の人も、すぐに自分たちがそう思われる順番である。しかし時代によって形式的にはどう変わろうとも、人々の営みや心のありようは基本的に同じじゃないかと思う。
    本書は夜の街、新宿を舞台に昭和を色濃く感じさせる連作短編集だ。どの短編も水商売のリアリティと人間の心の機微を感じさせる。中でも秀逸なのが最後の『愚者の街』。――「上ならいいのか。下じゃいけねえのか。ほんとにそうか」――
    自らの愚かさには目を背け、世の中を利口そうに眺める、はたしてそれを利口と言えるのか。愛すべき愚者たちの葛藤の中から己の人生を考えさせられる。
    自分の意見を誰でも簡単に主張でき、善し悪しをはっきりと区別される世の中で、単純に割り切れないものに対する遊びの幅が年々狭くなっているような気がする。いつの時代でも損得や馬鹿利口では割り切れない部分を埋めるのが大人の了見なのだと思う。今ではあまり聞こえなくなった、そんな大人を感じさせる物語である。