さわや書店 おすすめ本

  • no.240
    2018/5/23UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    開幕ベルは華やかに 有吉佐和子/文春文庫

    人気俳優・女優が主演する舞台の会期中、劇場に「二億円用意しろ。でないと大詰めで女優を殺す」という脅迫電話が届く…という脅迫事件が物語の核にある。そういう意味で、本書はもちろんミステリであり、ミステリ的な部分も面白い。
    しかし、本書で最も面白いのは、決してそのミステリ的な部分ではない。脚本家・演出家・役者を巻き込んだ、演劇の舞台裏のドタバタこそが、本書の主役である。
    かつて演劇の脚本を書いていたが、色々あって演劇界から離れて推理小説家になった渡紳一郎。その渡の元妻である小野寺ハルが、常軌を逸した依頼を受けた。演劇界にその名を馳せる加藤梅三という脚本家が、松宝の看板である八重垣光子と中村勘十郎を東竹が借りて行う演劇の開幕1ヶ月前に降りてしまった。その脚本を引き受けてもらえないか、と依頼された小野寺は、演出を渡が担当するなら引き受けると返事をしたというのだ。
    演劇的ではないイカれた脚本を上げてくる元妻に憤りつつ、なんとか劇として成り立たせようと奮闘する渡。しかし、我の強い役者である八重垣光子と中村勘十郎の二人の、お互いの我を主張するような演技にも手を焼かされる。しかもその裏で、女優の命を狙うと予告する脅迫事件が起きるのだ。
    この収拾のつかない事態をどう取り仕切り、どう物語として着地させるのか―。有吉佐和子の手腕に驚いて欲しい。