さわや書店 おすすめ本

  • no.244
    2018/6/5UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    重力波は歌う ジャンナ・レヴィン/ハヤカワ文庫NF

    重力波は、「アインシュタインの最後の宿題」とも呼ばれる、物理学の世界では聖杯の一つと数えられるほどの存在だ。アインシュタインは、自身が生み出した相対性理論の帰結として「重力波」を予言したが、しかし、あまりにも小さすぎて検出出来ないだろう、とも語っていた。「太陽10億個分の一兆倍を上回る」ほどのエネルギーが放出されても、発生する「重力波」は「陽子の大きさの一万分の一の距離の差」程度にしか観測できない。どれほど観測が困難であるのか、なんとなくイメージしてもらえるだろう。
    本書は、そんな「重力波」を検出するための果てしなく壮大なプロジェクトが、生まれてから成果として結実するまでのドラマを、人間模様を中心に描き出す作品だ。
    少し前であれば、科学系の研究は、個人でも出来た。もちろん今でも、個人単位で出来る研究はたくさんある。しかし現代において、学問的に重要度の高い研究をやろうとしたら、大規模なプロジェクトにならざるを得ない。そこには様々な人間が関わり、様々な主張や価値観が行き交い、すれ違いや誤解や混沌が生み出されることになる。
    「重力波」の検出の陰にも、様々な人間の無念と諦念がある。その人間ドラマを読んでほしい。