さわや書店 おすすめ本

  • no.586
    2024/4/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    通り過ぎゆく者 コーマック・マッカーシー/早川書房

    安易にお勧めできる作家ではない。昨年亡くなられた現代アメリカ文学を代表するひとりの、遺作となった作品だ。厳密には「ステラ・マリス」が最後の作品になるのだが、ひとつの作品として考えればこちらがメインストーリーになる。ミステリーやサスペンスなどではなく、あくまでも純文学なので評価には時間がかかる種類の作家だと思う。
    著者の本では「すべての美しい馬」「越境」「平原の町」「ノー・カントリ―・フォー・オールド・メン」「ザ・ロード」など。映画では『ノーカントリ―』『ザ・ロード』『悪の法則』など。本書も含めて時代背景や設定はそれぞれ違えども、表現するのはいつも生きるリアリズムに貫かれているように思う。
    どの作品も全体像が掴みにくい。細かいところを確認すれば全体を想像できなくもないが、敢えて分からないように作ってあるのだと思う。主人公は何が起きているのかよく分からないままに次の行動を迫られる。その選択は理屈ではなく無意識による個人の人間性でしかないのだろう。それでも何かを選択しており、その結果起こる事は決して無かった事にはできない。時に受け入れ難い現実を受け止め、取り戻すことのできない人生を誰もが送っている。その切実さにようやく気が付く時はいつも、後からなのだ。