さわや書店 おすすめ本

  • no.179
    2017/10/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    逆襲される文明
    日本人へⅣ 塩野七生/文春新書

    「民主政が危機におちいるのは、独裁者が台頭してきたからではない。民主主義そのものに内包された欠陥が、表面に出てきたときなのである。」(本文より)
    上記の文を読んで、全く関係ない話で恐縮だがポール・トーマス・アンダーソン監督、トマス・ピンチョン原作の映画『インヒアレント・ヴァイス』を思い出した。タイトルの意味が「内在する欠陥」(海上保険用語で本質的に避けられない危険のこと)である。映画はよくわからなかったものの、噛めば噛むほど味が出るスルメ系映画なのは間違いない。よくわからないついでにもう一本。デビッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』もよくわからないのになぜか心を掴んで離さない。こちらも何度観ても、違う見方があるのではないかと思わせる不思議な魅力溢れる映画である。よくわからないのに惹かれるのは、もしかして2本とも人間に内在する欠陥に触れる映画だからなのかもしれない。
    かなり横道に逸れてしまったが、本書は現代の危機に対する著者のコラムである。「危機」(クライシス)という言葉を発明したのは古代ギリシャ人で、「蘇生」という意味も込めたのだそうだ。内包された欠陥のある人間を自覚するためにも、歴史に学ぶ意味は大きい。『ローマ人の物語』で有名な著者の本は、読んでおいて損はないと思う。