さわや書店 おすすめ本

  • no.400
    2020/5/30UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    逃亡者 中村文則/幻冬舎

    冒頭の、疾走する緊迫のサスペンスを追いかけるうちに、潜伏キリシタンの時代から現代までを貫く壮大な物語へと引き込まれる。それぞれの土地に染み込んだ記憶の重み、背負ってきた歴史の連なりの上に現在が存在している事を改めて想わせる。そしてジャーナリズムと正義感、戦争と人間、信仰と愛についてなど、時代の中において表面上ではない人間の本質が描かれている。
    作中、妙に印象的に登場するのが、関わってはいけないとされる“B”という男。死神のような恐ろしくも魅力ある謎の人物で、この存在にはいろいろな解釈があると思う。誰にでも起こりうる、踏み込んではいけない、引き返せない領域を象徴的に示しているのかもしれない。
    それにしても、長崎。一度は行ってみたい土地である。