さわや書店 おすすめ本

  • no.491
    2022/1/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    身内のよんどころない事情により ペーター・テリン/新潮社

    作中作とメタフィクションが複雑に絡み合い、かなりトリッキーな小説になっている。こういう難解作品は、その構造やら全体像やらを把握することにのみ注意が向けられがちだが、そんな事とは無関係に意外と第一印象が全てだと思う。著者の意図がどうであれ、内容をどう解釈するかは読者の自由なのだから。
    映画で例えるならばデヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』に近いような気がする。こちらもパラレルワールドがメタ的に入り混じることで、初見では訳が分からず気持ちが悪いのに、なぜか強烈に惹きつけられる。つまり、わかるかわからないかではなく、好きか嫌いかがこの手の作品の全てだと思う。
    本書は著者の考え方や独特な世界観が面白く、唯一娘への愛情だけは非常にリアルだった。これを全体としてどう解釈するかは読む人の判断に委ねられる。