さわや書店 おすすめ本

  • no.503
    2022/5/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    越境 コーマック・マッカーシー/ハヤカワepi文庫

    著者の物語にはじめて触れたのはコーエン兄弟の映画『ノーカントリ―』だった。その年のアカデミー賞主要4部門を受賞し当時話題だったので映画館で観たのだが、強烈な印象を残しつつも何を言おうとしているのかが分からなかった。何だろうという思いはずっと心に燻り続けたままリドリー・スコット監督の『悪の法則』という映画を観る。これは著者が映画のために書き下ろした脚本でこれを観た時に、はっと気づく。その後、ピューリッツァー賞を受賞した『ザ・ロード』を読んで著者の一貫した文学性を確信する。次に『ブラッド・メリディアン』、そして全米批評家協会賞と全米図書賞を受賞した『すべての美しい馬』、『越境』『平原の町』と読み進めた。この三冊は「国境三部作」と呼ばれているが、単独で読んでも大きな問題はない。これらの本や映画の中でも最も著者の世界観が強く表れているのがこの、『越境』だと思う。
    感情や思考の説明的な文章が一切なく、突然の結果が淡々と示されていく。哲学的な考え方が垣間見られるのは、メインのストーリーとは関係のない登場人物たちとの会話の中だけだ。これをどう解釈するかは完全にこちら側の思考になる。
    個人的な解釈として最も単純化すれば、未来は誰にもわからず、過去は取り戻す事ができないという当たり前で厳粛な事実だ。唯一確かな事は、善人の上にも悪人の上にも太陽は昇り、全員に必ず死は訪れる。30年後であれ明日であれ。今この瞬間の行動について、その結果について、深く考えさせられる。但し極端にグロテスクな表現で示すので読む側にも相当なる覚悟が必要だ。

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