さわや書店 おすすめ本

  • no.291
    2018/12/4UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    蜜蜂と遠雷 恩田陸/幻冬舎

    何かを「批判」したり「評価」したりするためには、「これが良い」という「基準」や「枠」が必要となる。「批判」や「評価」は、「何に対して」という「軸」なしには出来ないことだからだ。
    「天才」と呼ばれる人には様々なタイプがいる。中には、既存の「基準」や「枠」の縁ギリギリにまで辿り着ける、というタイプもいるだろう。しかし中には、「基準」や「枠」の存在など知らず、そんなものとは無縁の場所で圧倒的な何かを放出する、というタイプもいるだろう。
    そういう「天才」は、どのように「批評」や「評価」がされるべきだろうか?
    『そして、審査員たちも薄々気付いている。
    ホフマンの罠の狡猾さと恐ろしさに。
    風間塵を本選に残せるか否かが、自分の音楽家としての立ち位置を示すことになるのだということを。』
    ピアノコンクールを舞台に、出場者たちの来歴や才能や背景を濃密に描き出す本作は、文字の羅列でしかない小説という形態でありながら、音楽の「基準」や「枠」を飛び越える瞬間を読者に感じさせてくれる一冊だ。