さわや書店 おすすめ本

  • no.512
    2022/7/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    自省録 マルクス・アウレリウス/岩波文庫

    最近だと『ミステリと言う勿れ』で話題だそうだが、こちらの世代では『羊たちの沈黙』なのだ。レクター博士のセリフの中に、マルクス・アウレリウスが出てくる。この手の本は何かが降りてきてその気にならない限り読む機会はないので、Dr.レクターの勢いを借りて読んでみる。
    最初の「訳者序」にある通り、ローマ皇帝だった著者はこれを本にする気はなかったものと思う。自分自身に対する備忘録、あるいはメモだったのではないか。だがそれ故に、専門家が書いた綺麗でもっともらしい理論よりも入ってくるものがある。行動と共に悩み苦しみながら、自らの信じる哲学に照らして正しい理解を書き記したのだと想像する。だからこそ、2000年近く経った今でも深く響くのだ。物事のシンプルな根本に目を向ける。すると人間の行いは、善きも悪しきも大昔からほとんど変わらないことがわかる。
    『羊たちの沈黙』の原作には、あまり目立たない所でジェーン・オースティン著『分別と多感』もちらりと出てくる。この本は『いつか晴れた日に』というタイトルで映画にもなっていて、アン・リー監督のこの映画がまた素晴らしい。この監督は『ブロークバック・マウンテン』『ラスト、コーション』『ライフ・オブ・パイ』など際どい題材も見事な映画に昇華させている。『いつか晴れた日に』と『分別と多感』は『羊たちの沈黙』同様さわや書店本店の傑作映画&原作本コーナーにある。意外なものが意外なところでつながっている。