さわや書店 おすすめ本

  • no.511
    2022/6/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    羊たちの沈黙 トマス・ハリス/新潮文庫

    原作と映画が双方共に傑作というのはかなりの奇跡だ。そんな名作だけを厳選した、さわや書店本店の「傑作映画&原作本」コーナー。その中でも、『ゴッドファーザー』と本書『羊たちの沈黙』は別格だと思う。どちらもその後のジャンルを決定的に確立させ、もう古典と言っていいだろう。原作の通りに作れば良いというわけでもなく、変えすぎると原作の良さが失われる。お互いのリスペクトと解釈が作品の深いところで共振して初めて、奇跡の一本が生まれるのだと思う。
    女性主人公FBI訓練生クラリス・スターリングの、上司でFBI行動科学課課長ジャック・クロフォードとの関係性、そして医学博士ハンニバル・レクターとの邂逅。仕事の枠を超えた師弟関係とも同志とも、恋愛感情とも受け取れるような微妙な心のつながり方が見事に表現されている。どこへ行っても女性FBI訓練生という目で見られる中で、レクター博士の見つめるまなざしだけは彼女の内面、本質へと向かう。映画でも原作でも中盤、クラリスとレクターが最後に面会をするシーン「さようなら、クラリス。子羊たちの悲鳴が止んだら教えてくれ」のあたりが、この物語全体の山場だ。