さわや書店 おすすめ本

  • no.529
    2022/12/15UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    罪の轍 奥田英朗/新潮文庫

    携帯もパソコンもない戦後復興の時代、昭和の香りが色濃く漂う下町を舞台に誘拐事件が起こる。警察と犯人と被害者家族、その周辺の人々と一般大衆の反応をも含め、重厚に描き出す群像劇だ。すべてが過剰で濃厚な登場人物が多い中、山谷の簡易宿泊施設の娘、ミキ子の視点だけは非常にニュートラルで現代の感覚にも添うものと思う。固定電話やテレビがやっと普及し始めたという当時の物語なのに、どこか今の社会にも通じているような、問題の起点を感じさせる。
    本書は実際にあった「吉展ちゃん事件」という誘拐事件をモデルにしているそうだ。個人的には読みながら、盛岡で昔あったと聞いたことがある「角田屋事件」を思い出していた。盛岡市内の商家の子どもが誘拐され、犯人は東京で捕まったという事件。さわやの昔の地図のブックカバーには、さわや書店の二軒隣に角田屋がある。