さわや書店 おすすめ本

  • no.236
    2018/5/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    紙つなげ!
    彼らが本の紙を造っている 佐々涼子/ハヤカワ文庫NF

    東日本大震災で壊滅的な被害に遭った、石巻の日本製紙の工場再建を描いた作品だ。
    本書の冒頭でも、著者と編集者の会話の中で触れられていることだが、僕も、書店という紙を扱う現場で働いていながら、紙がどう作られ、そこにどれほどの叡智と労力が注ぎ込まれているのか知らなかった。なんとなれば紙なんて、工場見学で良く見かける工業製品と同じように、材料をセットしてラインに載せたら完成するんでしょ、ぐらいに思っていた。
    本書を読んで、そのイメージがガラリと変わった。
    各工場には、紙を作るための「レシピ」が存在するが、「レシピ」だけでは紙は完成させられないという。技術者たちの微調整によって、完璧な紙が出来上がるのだ。また、石巻工場で最初に再建された、通称「8マシン」と呼ばれる8号抄紙機(主に出版系で使われる紙を製造している)のリーダーは、『「8マシン」にはクセがあるから、本屋に並んでいる本を見れば、「8マシン」で作ったかどうかすぐ分かる』という。
    つまり紙というのは、工業製品というよりもむしろ、職人工芸と言えるのだろう。
    そんな紙を製造するための、日本国内における主力と言える石巻工場が壊滅的な被害を受けた。誰もが、日本製紙は石巻工場を見捨てると思ったほどの惨状だった。しかし、『8号が止まるときは、この国の出版が倒れる時です』というほど、8号でしか作れない紙がある。この国の出版を支えてきたという自負と共に、凄まじい状況に立ち向かった者たちの壮絶な奮闘記だ。