さわや書店 おすすめ本

  • no.45
    2016/8/10UP

    フェザン店・長江 おすすめ!

    私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 島村英紀/講談社文庫

    地震学者である著者は、ある日逮捕される。逮捕から裁判の終結に至るまでの流れは非常に奇妙なものだった。業務上横領罪から詐欺罪への切り替え、検察が設定した被害者側から裁判で「被害はない」と証言されたこと、裁判史上類例のない判例など、著者は実に奇妙な形で有罪判決を受ける。
    しかし本書のメインは、それらの過程を描くことにはない。著者は殊更に、自らの無実を主張することもない。
    本書は、身柄を拘束されてから、一審の裁判が終結し保釈が認められるまでの拘置所内での生活を細かく記した作品だ。
    部屋の広さなど様々なサイズを計ったり、拘置所内の規則を把握したりと、研究者目線で拘置所内での生活を描いていく。世界各地の調査船に乗る機会のある著者は、調査船と比べれば拘置所は天国のようだと書く。接見禁止の措置や、望んだ本が読めない環境は辛かったようだが、そんな著者だからこそ描ける、湿っぽくない獄中記だ。