さわや書店 おすすめ本

  • no.230
    2018/4/17UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    王とサーカス 米澤穂信/東京創元社

    大刀洗万智は、些細な出来事をきっかけに、6年勤めた新聞社を退職した。フリーの記者として生きていくことを決め、ある雑誌の記事のために、万智はネパールのカトマンズに向かった。とはいえ、雑誌の特集までにはまだ時間がある。気分転換の旅行も兼ねているつもりだった。
    特に目的もなくカトマンズをうろうろしている時、それは起こった。
    王宮での大事件。皇太子が親族の夕食会で銃を乱射。国王や王妃を含む多数の人間が死亡するという痛ましい事件が起こったのだ。
    万智は、クライアントである雑誌社と連絡を取り合い、この事件の取材を手掛けることになった。長く記者を続けてきたが、外国での取材は初めてだ。なかなか勝手が分からず、しかも情報も制限され、カメラの機能も十分ではない。しかし、やるしかない…。
    本格ミステリの枠組みを使って、著者は価値観の転換を鮮やかに見せる。事件は最終的に解決を見るが、しかしそれは新しい始まりでもある。事件の陰に隠れていた価値観が主人公を揺さぶり、自問へと誘っていく。見えていたけど見えていなかったもの。知らされていたけど理解していなかったこと。この反転が、見事だ。