さわや書店 おすすめ本

  • no.166
    2017/8/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    火山のふもとで 松家仁之/新潮社

    舞台は、村井設計事務所という、こじんまりとした小所帯の設計事務所だ。フランク・ロイド・ライトの元で学んだことがある所長・村井俊輔を筆頭に、とても気持ちのよい雰囲気の中でみな仕事をしている。
    大きな仕事を請け負わず、個人の注文住宅を主な仕事にしていた村井俊輔は、世間で名の知れた建築家というわけではなかったが、しかしその設計に魅了された人からの注文は絶えなかった。同時に、村井俊輔に師事しようと、事務所の門を叩く者も多かったが、その道はほとんど閉ざされていると言ってよかった。その類まれな例外が、本書の主人公である坂西徹だ。とある事情で人手が必要になったのだ。それで、村井俊輔の姪である麻里子も、いつもより長く手伝いをすることになった。
    村井設計事務所は、夏になると、浅間山のふもとにある「夏の家」に事務所機能を移転する。そこで、何か不思議な演劇でも見ているかのように、ゆったりと麻里子との仲が深まっていく。
    デビュー作とは到底思えない、非常に重厚で手練た作品だ。とにかく雰囲気の良い小説で、どっぷりその世界に浸らせてくれる。ずっと読んでいたい小説だった。