さわや書店 おすすめ本

  • no.406
    2020/7/6UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    海の見える理髪店 荻原浩/集英社文庫

    全6編の短編集。主人公たちは皆、順調とは言えない人生を送っている。それを口にすることはなく、事態が好転する話でもないのに、読後くすぐったいような気持ちになる。それはラストにごくさりげなく、どこか著者の優しさや希望が伝わって来るからだ。
    本書を読んでいて思い出した映画がある。それはイランの映画で、子供心はどんな国でも共通なんだと感じた『運動靴と赤い金魚』。大人が観ても切実に胸に迫るのは、誰でも必ず子供時代という経験をしているからなのだろう。決して思い通りの結末ではないのに、言葉のないラストシーンで思わずニヤついてしまう。それは本書同様、非常にさりげない形で未来に対する希望と優しさが、画面に捉えられているからである。